【動画あり】新国立劇場オペラ『ルチア』開幕~オペラ・セリアの真髄! オルガ・ペレチャッコ=マリオッティが圧巻の「狂乱」

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2017.3.14
新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより


3月14日(火)から開幕した新国立劇場オペラ『ルチア』。同劇場では2002年に上演し、今回15年ぶりに新制作で上演される。演出は今回共同制作したモンテカルロ歌劇場総監督でもあるジャン=ルイ・グリンダ、指揮はベルカント・オペラに定評のあるジャンパオロ・ビザンティ。ルチア役には今世界的に注目を浴びているオルガ・ペレチャッコ=マリオッティ、恋人エドガルド役にはイスマエル・ジョルディ、ルチアの兄エンリーコにはアルトゥール・ルチンスキーという、名だたる歌手を揃えた。開幕に先立ち、この話題作のゲネプロ(総通し稽古)が3月11日に行われた。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロ ダイジェスト動画↓


その出来栄えは「この舞台は期待を裏切らない」と確信させられた圧巻のクオリティ。これぞオペラ・セリアの真骨頂だと唸らされる内容であった。全容はぜひ劇場でご覧いただくとして、ここでは見逃せないポイントをご紹介しよう。

■自然のなかの小さな個々が繰り広げる心理劇

『ルチア』は17世紀スコットランドを舞台にした物語で、スコットランド版「ロミオとジュリエット」とでもいうべきだろうか、敵対する2つの家の男女の悲恋である。恋仲にあるルチアとエドガルドだが、ルチアの兄エンリーコは没落に瀕した家運を賭け、ルチアをアルトゥーロに強引に嫁がせる。しかしエドガルドを忘れられず、愛の誓いを破った罪にさいなまされるルチアは錯乱状態に陥り、アルトゥーロを殺してしまうのだ。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

演出のグリンダは舞台をドニゼッティがこの作品を発表した1835年、ロマン主義の時代とし、「その時代を象徴するテーマの一つである、自然への恐怖、畏怖などを反映した雰囲気としている」と会見で語ったが、その言葉通り、幕が開くとまず目に飛び込んでくるのは荒々しい断崖と打ち寄せる波。そこにエンリーコはじめ男たちが集まり、合唱が始まるのである。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

その後も舞台には随所に自然や「見えないものの力」が感じられ、歌手たちはそのなかで繊細に、丁寧に、弱くもろく儚い人間の心理劇を綴っていく。ビザンティの指揮により朗々と、滑らかに流れるように歌い上げられる音楽は静かに、時には高らかに心に響く。ベルカント・オペラの醍醐味は十分すぎるほどに堪能できるだろう。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

■抗うルチアと「狂乱」と、弱き人の心

圧巻はやはり3幕のルチアの「狂乱」のシーンである。この点に関してはとにかく多くは語らないでおこう。言えるとすればペレチャッコ=マリオッティは来たるべき公演でも、存分にその力量を披露してくれるに違いない、ということだ。

ただ、他にも注目したい点はいくつかある。まずはルチアが男装で登場するということだ。しかしルチアの男装はフェミニストというよりは、両家の対立など、困難な状況にありながらもエドガルドへの愛を貫こうとする「鎧」のようにも思える。そしてその「鎧」はエドガルドとの恋を失った絶望や、自ら愛の誓いを破ったという罪の意識でもろくも崩れ去る。アルトゥーロとの結婚のため男性の衣装を脱がされ、白いドレスを着せられるシーンなどは「狂乱」へ向けての重要なポイントとなろう。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

さらにもうひとつ、たびたび話題になっていた「狂乱」のシーンで使われるグラスハーモニカもまた、哀しいまでに効果的に、狂乱の心情に深みを与えている。グラスハーモニカの音色は円盤型のアンティークオルゴールをさらに透明に響かせた感じ……とでもいうのだろうか。狂気をさまようペレチャッコ=マリオッティの歌とシンクロし、時には呼応し合いながら崩れゆく儚い心を表現している。この音色もしっかり聞こえるので、聞き逃すことはない。オーケストラ・ピットに入るので、ぜひ覗いていただきたい。

オーケストラ・ピット内に置かれたグラスハーモニカ

オーケストラ・ピット内に置かれたグラスハーモニカ

『ルチア』ゲネプロより 左下でグラスハーモニカが演奏されている

『ルチア』ゲネプロより 左下でグラスハーモニカが演奏されている

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

そしてこのプロダクションでは、ヒロインの狂乱と共にエドガルド、エンリーコの心の弱き部分もまた丁寧に歌われ、演じられる。猜疑心に敗れる心、名誉のために他者の人生を踏みにじる心など、人間の心の弱き部分をきめ細やかに表現する歌手たちの演技にも注目だ。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

この「ルチア」は新国立劇場で上演されたのち、2019年11月、モナコのモンテカルロ歌劇場で建国記念日に上演されることが決まっている。日本が世界へ発信するオペラは、やはりぜひ見ておきたい。

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

新国立劇場オペラ『ルチア』ゲネプロより

取材・文=西原朋未  写真撮影=安藤光夫  動画撮影=登坂義之

公演情報
新国立劇場 オペラ 『ルチア』/ガエターノ・ドニゼッティ​
全2部3幕 / イタリア語上演 日本語字幕付
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■会場:新国立劇場 オペラパレス
■日程:
3月14日(火)18:30 
3月18日(土)14:00 
3月20日(月・祝)14:00 
3月23日(木)14:00 
3月26日(日)14:00 

■指揮:ジャンパオロ・ビザンティ
■演出:ジャン=ルイ・グリンダ
■キャスト:
ルチア:オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ
エドガルド:イスマエル・ジョルディ
エンリーコ:アルトゥール・ルチンスキー
ライモンド:妻屋秀和
アルトゥーロ:小原啓楼
アリーサ:小林由佳
ノルマンノ:菅野敦
■合唱指揮:三澤洋史
■合唱:新国立劇場合唱団
■管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団 
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