実咲凜音『屋根の上のヴァイオリン弾き』インタビュー~お客様のためにも、新たな挑戦を楽しみたい
実咲凜音(撮影:荒川潤)
愛され続けて、ついに日本初演50周年。帝政ロシア時代の寒村に暮らすユダヤ人一家の愛と旅立ちを描くミュージカル、『屋根の上のヴァイオリン弾き』が4年ぶりに帰ってくる。市村正親&鳳蘭のゴールデンコンビは前回のままに、夫妻の娘たちとその相手役にはフレッシュな顔ぶれが揃った。長女ツァイテルに扮するのは、宝塚歌劇退団後初のミュージカル出演となる、元宙組トップ娘役の実咲凜音。製作発表を終えた実咲に、現在の心境を聞いた。
娘役から一転、“男勝り”な役に挑戦
――宝塚退団後初のミュージカルということで、まずはご出演を決められた心境からお聞かせいただければと思います。
退団する時までは、目の前のことに没頭していたので、今後自分が何をしていくのかまだ決められていなかったんです。でもこのお話をいただいて映画版を観た時に、ユダヤ人の歴史を背景にした重厚感がありながら、その中で普遍的な家族愛が笑いを交えて描かれているところにすごく心を動かされて。ツァイテル役は今まで元男役の方が演じられていたということで、「私が歴史を覆してしまっていいんですか?」という気持ちもあったのですが(笑)、私で良ければぜひ挑戦させていただきたいと思ってお受けしました。退団後初のミュージカルのお仕事がこの作品というのは、本当にラッキーで光栄でうれしいことですね。
――映画版をご覧になった印象を、もう少し詳しくお伺いできればと思います。お話がきてから観たとなると、やはりツァイテル目線で?
そうですね、やはりツァイテルに感情移入しながら拝見しました。でもツァイテル以外にも、現代を生きる私たちにも共感できる部分がたくさんある作品だと思いましたね。愛する人と一緒になりたい、それをお父さんにも認めてもらいたい、という気持ちは時代を問わないもの。この作品に登場する三姉妹は、キャラクターと好きになる相手はそれぞれですが、みんな同じ気持ちを抱えています。その中でもツァイテルはしっかり者の長女なので、私自身はちっともしっかり者じゃないんですが(笑)、そう見えるように頑張ろうと思いました。
――しっかり者ではないとのことですが(笑)、ツァイテルとご自身が似ていると思われる部分はありますか?
演出の寺﨑(秀臣)さんから、男勝りな部分が合うと思った、と言っていただきました。竹を割ったような性格だって、よくみんなからも言われるんです(笑)。私は役を演じる際は、自分との共通点を見つけることから始めることが多いので、そこはひとつ良かったなと。でも一方で、作品ごとに違うキャラクターになりたいという思いもあるので、自分に寄せ過ぎないことも意識したいですね。それに、作っていく過程では、共通点だけでは足りない部分が必ず出てきます。そこを稽古場で補いながら、そして本番を重ねる中でも追求し続けられたらと思っています。よく「100回の稽古より1回の舞台」と言いますが、本当にその通りだと思います。
――こんなに“女子力”が高そうな印象なのに、竹を割ったような性格でいらしたとは。
そんなふうに見ていただいて、ありがとうございます(笑)! 宝塚では女性の方が男性役を演じるので、娘役はより女性らしくしないといけないんです。お芝居で女性らしい表現ができるように、普段から追求していましたし、素の自分とのギャップを楽しんでいる部分もありました。でも今では、素の私の中にも女性らしさはあると思いますよ(笑)!
培ってきたことを、正解と思わないように
――今回、特に新たな挑戦だと思っているのはどんな部分ですか?
今までは、カンパニーのメンバーは変わらず、作品が替わっていくのが当たり前という環境にいました。メンバーが変わらない分、自分が作品ごとに違う面を見せていかないとお客様を楽しませられないので、それはそれで難しかったんですが、家族のような信頼関係の中で作ることができていたので、安心できていた部分も多く。なので、今回初共演の方々と一緒に作品を作るというのは大きな挑戦ですね。全く異なる環境に身を置くことになりますので、今まで培ってきたことを正解と思わないことを、肝に銘じてお稽古に入りたいと思っています。今は楽しみと不安が半々くらいという感じですが、今までの経験では、苦しんで作った役よりも楽しんで作った役のほうが、より多くのお客様から良かったと言っていただけたんですよね。お客様に楽しんでいただくために、新しい環境の中でも、まずは自分が楽しみたいと思っています。
――その初共演の皆さんの印象をお聞かせください。まずは妹役の神田沙也加さん、唯月ふうかさんから。
歌稽古で初めてお会いした時に、もう「なんて可愛いんだ!」って(笑)。お二人とも、本当にお人形さんみたいなんですよ。実年齢では私のほうが神田さんより下になるんですが、お二人の持っていらっしゃる魅力が、自然と私を姉にしてくれる感覚がありました。初めて会った時の感覚ってすごく大切だと思うので、そんなお二人が妹役で本当に良かったです。それにお二人とも、色んなお仕事を経験されている方々。そういう方と血のつながった役として、一緒に舞台を作っていけると思うと、すごく楽しみですね。
――相手役の入野自由さんについてはいかがですか? 実は先にお話を伺ったのですが、呼び方の話が途中になってしまったと(笑)。
そうなんです!「自由くんでいいよ」と言っていただいて、「OK、OK!私のことは……」って言ったところで終わってしまって(笑)。今までは「ミリオン」と呼んでいただくことが多かったんですが、呼びにくかったら本名の「クミちゃん」でもいいですし、相談して決められたらと思いますね。入野さんはさわやかで気さくな方という印象を受けたので、役作りについても、話し合いながら進めていけそうな気がしています。
――では、両親役にあたる市村正親さんと鳳蘭さんについては?
市村さんは、初めてご挨拶した時に「何組なの?」と聞いてくださって、私が「宙組です」とお答えしたら「僕はね、夢組なんだよ!」と(笑)。こちらを萎縮させないユーモアが、本当にありがたかったですね。鳳さんは宝塚の大・大・大先輩ですが、出身地が同じというお話をさせていただいたら、「何も心配せんでええで」って関西弁で言ってくださって。お二方とも優しくて大きくて、そんなお二人の“娘”になれることが本当にうれしいです。
泣いて笑って、舞台と客席が一体になる作品
――今後、どういう女優さんになっていきたいというビジョンはありますか?
退団して何がしたいんだろうと考えた時に、やっぱり私にできることって歌って踊ってお芝居をすることなんだな、というところにたどり着いたんですよね。だからそういう意味では、在団中と変わっていなくて、どんな役にも染まれる役者というのが私の目標です。映像も含めて色んな役に挑戦したい思いは強くありますが、どんな女優さんというのは、最終的に「こんな女優さんになれた」みたいな感覚でいいんじゃないのかな、と今は思っています(笑)。
――最後に、今の実咲さんが思うこの作品の魅力についてお聞かせください。
さまざまな年齢層のお客様が共感できるストーリーや、曲の素晴らしさなど、ミュージカルに必要な要素が詰まっていることだと思います。泣いて笑って、私たちとお客様が一体化できる作品だから50年も続いてきたと思うので、ぜひ多くの方に体感していただきたいですね。100年続けていけるくらいの素晴らしい作品に携われる幸せを感じながら、今の私にできる最高のツァイテルを皆様にお届けしたいと思っています。
取材・文=町田麻子 写真撮影=荒川潤
■音楽:ジェリー・ボック
■作詞:シェルドン・ハーニック
■オリジナルプロダクション演出・振付:ジェローム・ロビンス
■日本版振付:真島茂樹
■日本版演出:寺崎秀臣
■日程:2017年12月5日(火)~12月29日(金)
■会場:日生劇場
■日程:2018年1月3日(水)~8日(月・祝)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
■日程:2018年1月13日(土)~14日(日)
■会場:静岡市清水文化会館(マリナート)
■日程:2018年1月19日(金)~21日(日)
■会場:愛知県芸術劇場大ホール
■日程:2018年1月24日(水)~28日(日)
■会場:博多座
■日程:2018年2月10日(土)~12日(月・祝)
■会場:ウェスタ川越大ホール