公演間近! ITOプロジェクト『高丘親王航海記』初の通し稽古をレポート【スペシャル連載Vol.3】

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2018.4.3
ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。 [撮影]吉永美和子(このページすべて)

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糸あやつりの特性と原作の世界観が、お互いを高め合った傑作……の予感大!

4月5日に初演の幕を開ける、ITOプロジェクト(以下ITO)の糸あやつり人形芝居の新作『高丘親王航海記(以下高丘)』。SPICEではこの公演を猛プッシュすべく、全3回の連載を企画した。脚本・演出の天野天街少年王者舘)&人形製作・出演の山田俊彦(人形劇団ココン)にインタビューした第1回、ITO中心メンバーの飯室康一(糸あやつり人形劇団みのむし)&山田の声を交えて糸あやつりの裏側に迫った第2回に続けて、第3回では初の通し稽古の様子を紹介。澁澤龍彦の集大成と言える幻想小説を、天野がその世界観を生かしながら脚本化&破天荒な人形劇のアイディアを生み出し、ITOメンバーが高い技術力によって見事に立体化する。そのコラボレーションが完成に近づきつつある現場を、いち早く目撃してきた。


今回ITOが稽古をしていたのは、大阪府摂津市にある[旧一津屋公会堂]。大正2年に建てられた芝居小屋で、市の有形文化財に指定されている貴重な建物だ。趣は十分すぎるほどあるが、空調システムがないため、正直冬の稽古は大変厳しい環境だった。が、通し稽古の日はかなり過ごしやすい気候で、建物横の桜の木も満開となっていた。

『高丘親王航海記』の稽古場となった[旧一津屋公会堂]。

『高丘親王航海記』の稽古場となった[旧一津屋公会堂]。

とはいえその桜以上に見応えがあったのは、当然ながらようやく全貌を表した『高丘』の舞台の方だ。この芝居が「糸の付いた人形」によって演じられるということを痛烈に印象づけてくる幕開きからラストまで、初めてノンストップで芝居が進んでいく。

幼い頃、親王の世話をしていた藤原薬子に天竺の話を聞かされ「やがてみこ(親王)はそこへ行く」という予言と、「次は卵から生まれようと思う」という言葉を遺された高丘親王。やがて出家した親王は60歳を過ぎてから、薬子の言葉通り天竺をめざして、アジアの海へと航海に乗り出す……という導入部だけでも、様々なからくり人形と、人形劇ではちょっと見たことがない可動式の舞台を使った場面転換が次々に登場。もうこのプロローグだけでも、胸を躍らさずにはいられないという状態だ。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

天野が原作物を手がける場合、彼のすべての作品に共通するテーマ「私とは何か?」を明確にするため、大胆な脚色を入れることが多い。ただ今回の『高丘』は原作自体に、これに通じる会話や出来事がもともと散りばめられているので、物語の時間軸を歪めたり重ねたりしながら、その部分を上手くダイジェストにしたという感じだ。なので全体的には、原作に割と忠実な内容となっていた。

アンチポデスや存在論について語るオオアリクイや、親王の夢を食らう漠、さらにその肉を食らって気鬱の病を治そうとするパタリヤ・パタタ姫……いずれのキャラクターも「自分がここにいる」「あなたがここにいる」という、当たり前に思える現象を劇的に揺るがしてくる。と同時に、各人形に仕掛けられたからくりや、アイディア満載の舞台装置が、単純に見た目的にも、驚かせたり楽しませたりしてくれる。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

本番では、客席からほとんど見えることはないだろうが、舞台の上方にいる人形遣いたちの動きが、はた目にも大変そうながらなかなか興味深い。人形が舞台上で移動する時は、当然人形遣いもその方向へと動くわけだが、ほかの人形遣いたちの邪魔にならないようにしながら、狭い空間を移っていかなければならない。その配慮をしつつ、舞台の上で彼らが動き回っている姿は、ちょっとしたダンスのフォーメーションを見ているようだ。

やがて親王一行は、半人半犬の商人(このからくりは笑わずにいられない!)に、船に乗る条件として、万能薬になるという特別な人間の屍体「蜜人」を取ってくるように言われる。好奇心からそれを引き受けた親王は、蜜人を探しに砂漠へと向かっていく。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

この蜜人のシーンは、恐らく本作の最大の見せ場と言ってもいいだろう。フリーキーな外見の蜜人が次々に現れては、その身体性を生かした技を見せて去っていく。前回の連載で、山田俊彦が「異形の物が動くのはCGでは当たり前になっているけど、実際に自分がいる空間で、異形の物が目の前で動いているのを見るのは、CGと違う驚きと発見があるのでは」というようなことを言っていたが、まさにそれを実感する風景だ。画像はあえて掲載しないので、ぜひ劇場で体感してもらえればと思う。

この蜜人と、それに続く思いがけない出会いの連続を境に、物語のトーンは微妙に変化していく。特に天野が連載第一回で語った「同じ人が同じ場面に出てくるなんてことは、人形劇じゃないとできない」という特性を生かしたあるシーンでは、ちょっと適切な言葉が浮かばないような心のザワつきを感じた。やがて旅を続けるのが危うくなってきた親王は、旅先で再会したパタタ姫から助言を得て、予想外の方法で天竺に向かうことを決意する……という展開になるのだが、この辺りの詳細は、原作を読まずに本作を見る人のためにも、今は口を閉ざすことにしておこう。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

そしてこの連載を読んできた読者の中には、これまでの記事の中に一切、高丘親王の人形の顔がはっきり写った画像がないことに気づいた方がいるかもしれない。というのも高丘親王の顔形は、かつて天野が演出した野外劇版『高丘親王航海記』で主役の親王を演じたこともある、維新派の松本雄吉をモデルにしているのだ。これは松本を「永遠の師匠」と仰ぐ、天野たっての希望で実現したそう。

少年王者舘番外公演『高丘親王航海記』より


今回の『高丘』のPVで、松本の写真を見ながら人形の製作をする山田の姿が紹介されてはいたが、いざ実物を目にすると、本当に生き写しと言ってもいいほどのレベルだ。さらに親王を担当する飯室康一の操作によって、ちょっと手持ちぶさたな時の手の仕草など、要所要所での動きが非常にナチュラルで人間くさいこともあり、松本を知っている人なら、最初は心穏やかではいられなくなるかもしれない。

とはいえ芝居が進むうちにそれも忘れて、単に“高丘親王”という一つのキャラクターとして観られるようになるのも、今や親王のキャラクター=親王ならではの動きをつかみつつある、飯室の匠の技があってこそだろう。そして原作にはない、舞台オリジナルの高丘親王の最期には「糸あやつりとしては前代未聞」(天野談)というセンセーショナルなからくりと、糸あやつり人形だからこその“昇天”の表現に、言葉通り前代未聞級の衝撃を受けるに違いない。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

ITOプロジェクト『高丘親王航海記』通し稽古より。

通し稽古終了後、飯室と天野はこのような感想とメッセージを寄せてくれた。

とにかく全部通せたことに、ホッとしています。後はもう何回も通して、完成させるだけでしょう。絶対面白くなりますので、ぜひ観に来てください」(飯室

大道具の使い方や段取りがまだゴタゴタはしていますが、一人ずつの役者……というか人形は、どんどんどんどん良くなってるんで、とても素晴らしいものになると思います。ぜひ観に来てください」(天野

カーリングの「もぐもぐタイム」を彷彿とさせる、通し稽古直後のミーティングの様子。

カーリングの「もぐもぐタイム」を彷彿とさせる、通し稽古直後のミーティングの様子。

通し稽古は、天野ワールドを彩ってきた珠水のノスタルジックな音楽と、知久寿焼による味わい深いナレーションが入っていたとはいえ、照明や映像は一切ない状態での鑑賞となった。本番ではこれらのスタッフワークがキッチリと加わるとともに、人形の操作と演技にさらに磨きがかかれば……と想像するだけで、本当に2人が言う通り「面白く、素晴らしい舞台」となるに違いない、という期待が高まった。

そして読者の方々には、なぜ連載形式にするほど、SPICEがこの舞台の紹介を特別扱いしたのか……という理由を、できる限りその目で確かめに行ってもらいたいと願っている。その処女航海に立ち会うことは、かなりの確率で、一生ものの衝撃と思い出になるに違いないと思えるのだから。

ITOプロジェクト新作『高丘親王航海記PV 稽古編』

【スペシャル連載Vol.1】天野天街&山田俊彦が語る、ITOプロジェクト『高丘親王航海記』
【スペシャル連載Vol.2】ITOプロジェクト『高丘親王航海記』、糸あやつり人形の創作と操作の秘密に迫る
【スペシャル連載Vol.3】公演直前! ITOプロジェクト『高丘親王航海記』初の通し稽古をレポート<

取材・文=吉永美和子

公演情報

ITOプロジェクト 糸あやつり人形芝居『高丘親王航海記』
 
〈東京公演〉
■日時:2018年4月5日(木)~10日(火)
■会場:ザ・スズナリ
※リピーター割引あり。半券提示で1,000円引(当日券のみ取扱)
※7日夜公演&9日昼公演終演後、ポストパフォーマンストーク開催。
7日ゲスト=巖谷國士(フランス文学者、『澁澤龍彦論コレクション』著者)
9日ゲスト=深沢拓朗(Puppet House店主)
 
〈兵庫公演〉
■日時:2018年4月20日(金)~22日(日)
■会場:アイホール(伊丹市立演劇ホール)
※21日夜公演終演後、ポストパフォーマンストーク開催。
ゲスト=上田誠(ヨーロッパ企画主宰、劇作家・演出家)
 
■原作:澁澤龍彦
■脚本・演出:天野天街(少年王者舘)
■出演:飯室康一(糸あやつり人形劇団みのむし)、植田八月(人形劇団おまけのおまけ)、竹之下和美(人形劇団おまけのおまけ)、永塚亜紀(人形劇団あっぷう)、阪東亜矢子(JIJO)、森田裕美(ダンク)、山田俊彦(人形劇団ココン)、よしだたけし(Puppeteer ポンコツワン)
■声の出演:知久寿焼
■問い合わせ:090-3673-4431(ITOプロジェクト事務局)
■公演サイト:http://itoayatsuri.com/news.html
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