「ウィーンのルグリ」結実のひとつのかたち、ヌレエフ・ガラとルグリ版『海賊』~ウィーン国立バレエ団来日会見

レポート
クラシック
舞台
2018.5.9
 撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

画像を全て表示(8件)


マニュエル・ルグリ芸術監督が率いるウィーン国立バレエ団が来日し、5月9日から公演を行う。今回の演目は「ヌレエフ・ガラ」と『海賊』。「ヌレエフ・ガラ」はルグリがウィーンの芸術監督として構成したプログラム、『海賊』は初めて改訂・振付を行った全幕バレエだ。ルグリ監督は2020年で同バレエ団の芸術監督退任を表明しており、そういう意味では本公演は10年のかたちのひとつを目にする機会といえるかもしれない。

また今回の『海賊』公演にはマリインスキー・バレエ団のプリンシパル、キミン・キムがゲストとして参加する。このほどキムとルグリ監督による『海賊』の公開リハーサルが、引き続き今回の来日公演に向けて、ルグリ監督による記者会見が行われた。

■長身が躍動する、キムのコンラッド

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

リハーサルで行われたのは『海賊』のクライマックス。コンラッドがランケデムに誘拐されパシャのもとに連れ去られたメドーラを救出に行くシーンからクライマックスまでだ。コンラッドを演じるのが現在マリインスキー・バレエ団でプリンシパルを務めるキミン・キム。彼は2011年、韓国芸術総合学校在学時に『海賊』のアリ役でマリインスキーの舞台にデビュー。翌2012年に同バレエ団に外国人として初めてファースト・ソリストとして正式入団した。以後ローマ、ソウル、ヴァルナ、ペルミの国際バレエコンクールやユース・アメリカ・グランプリで1位あるいはグランプリを受賞。2015年にはプリンシパルに昇格し、パリ・オペラ座やアメリカン・バレエ・シアターなど世界トップクラスのバレエ団にゲスト出演している。

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

日本到着翌日のリハーサルは振り付けの確認が中心であったが、183センチという高身長のキムは立っているだけで存在感があり、2015年のマリインスキー・バレエ団来日時よりも貫禄が増したように見える。なにより動きの一つひとつがダイナミックで、跳躍の高さは迫力満点。その一方で丁寧なピルエットを見せ、大胆さと繊細さを併せ持つ。見せ場を心得え決めるべきところは決めるといった表現のわかりやすさは、日本人が慣れ親しんだ韓流にも通じるようだ。

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

ルグリ監督曰く、キムに振りを付けたのは3週間前のみで、「ほとんどすべて覚えている。彼は非常にクレバーだ」と。

ウィーンで好評を博しているルグリ版『海賊』が、監督が選んだゲストを得てどのような物語を醸すのか、俄然興味が湧くリハーサルであった。

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

■『海賊』はストーリーを整理し再構築した「3つの愛の物語」

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

リハーサル終了後、ルグリ監督のインタビューが行われた。

まず今回キムをゲストに選んだ理由として挙げたのは、キムのマリインスキー・バレエ団で培った知識と経験の量と高さだ。「音楽的センスもあり、女性をサポートする役割も完璧にこなす。一緒にリハーサルをしていて非常に気持ちがいい」と話す。

またこのルグリ版『海賊』は2016年にルグリ監督が初めて振付を手掛けた全幕バレエ。初演となる3月公演は全公演完売という成功を収め、ウィーン国立バレエ団の主要レパートリーとなった。『海賊』を振り付けるにあたり、見直したのはストーリー。ルグリ監督はこれを「3つの愛の物語とした」という。一般的に『海賊』の主要人物とされるアリを省き、メドーラとコンラッド、その部下のビルバントと恋人ズルメア、そしてパシャを物語の中心に据えて物語を展開させた、ストーリー展開に重視した内容となっており、ダンサーには踊りの技術だけではない、表現力も求められるプロダクションとなっている。その点でもルグリ監督はキムに対し「踊りのテクニックだけではない、物語を紡ぐ対応力も高い」と期待をにじませた。

■ヌレエフ生誕80周年に上演。バレエの現代と未来を

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

今回上演されるもう一つのプログラム「ヌレエフ・ガラ」はルグリ監督がウィーン国立バレエ団就任の2010年に、「自分らしさ」の出せる特徴的なプログラムを上演したいとし、ウィーンにゆかりの深いヌレエフ作品を中心に組み立てたものだ。これもまた成功を収め、以後繰り返し上演されるたびに必ずチケットは完売するという、バレエ団ならではのガラとなっている。今年はヌレエフ生誕80周年に当たり、日本では「ドン・キホーテ」をはじめ、ヌレエフ作品の数々はよく知られていることから、「日本のお客様に受け入れられる土壌も十分にあると信じている」と語る。

なお今回の「ヌレエフ・ガラ」ではスペイン系の踊りといったキャラクター的な特徴の強いもの、ノイマイヤーやバランシンといった現代の巨匠による作品、ヌレエフが振り付けた作品のヴァリエーションに加え、ウィーンで活躍する現代の振付家の作品も加えており、「バレエの現代から未来を感じていただける内容になっている」とも。さらにルグリ監督自身もノイマイヤー「シルヴィア」、プティ「ランデヴー」でダンサーとして登場する。こちらも楽しみだ。

■新たな経験値を得たウィーンでの10年間

先日ルグリ監督はウィーン国立バレエ団の芸術監督の任期は2020年までと発表した。「この決断は自分にとって非常に熟考した大きな決断だった。この10年は自分にとって非常に大切な時間だった」としたうえで2010年からこれまでを振り返り、今後の残りの2年間は「自分がしてきたことがどういう形で結ばれるかを、客観的に見ることになるだろう」と話す。

その後については「具体的なことは未定。非常に密に仕事をしてきたのでフリーランスとして活動しながら、充電期間にあてたい」という。またルグリ監督自身「自分には4つの可能性がある」と語る。1つは現役のダンサーとしての活動の継続、2つ目はウィーンで芸術監督という経験値を得たこと、3つ目は振付を行いさらに温めている作品もあり、4つ目は後進の教育であるという。

「日本との付き合いは長く、日本の皆様にも私の気持ちはわかってもらえるだろう」と語るルグリ監督。ウィーンでの任期はまだ2年を残しているが、マニュエル・ルグリという傑出した芸術家の、芸術監督としての結実の一片はぜひ目にしておきたい。

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

取材・文・撮影=西原朋未

公演情報

ウィーン国立バレエ団2018
 
●東京公演
「ヌレエフ・ガラ」
日程:5/9(水)18:30、5/10(木)14:00
会場:Bunkamuraオーチャードホール
『海賊』*日本初演
日程:5/12(土)12:30/18:30、5/13(日)14:00
会場:Bunkamuraオーチャードホール
出演:
5/12(土)12:30
ニーナ・ポラコワ(メドーラ)、デニス・チェリェヴィチコ(コンラッド)
5/12(土)18:30開演
マリア・ヤコヴレワ(メドーラ)、キミン・キム〈マリインスキー・バレエ団 プリンシパル〉(コンラッド)
5/13(日)14:00開演
オルガ・エシナ(メドーラ)、ウラジーミル・シショフ(コンラッド)
ウィーン国立バレエ団

 
●大阪公演
日時:5/15(火)19:00
会場:フェスティバルホール
演目:『海賊』
出演:リュドミラ・コノヴァロワ(メドーラ)、デニス・チェリェヴィチコ(コンラッド)

■公式サイト:http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/18_wiener/
シェア / 保存先を選択