『レディ・プレイヤー1』森崎ウィンインタビュー スピルバーグ作品への参加が促した"役者"としての日常の変化、アクションへの想い
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
『レディ・プレイヤー1』は、アーネスト・クライン原作のベストセラーSF小説『ゲームウォーズ』を、スティーブン・スピルバーグ監督が映像化したSF超大作だ。西暦2045年を舞台に、オタクの高校生ウェイド(タイ・シェリダン)が仲間たちとともに、仮想ネットワークシステム“OASIS(オアシス)”に隠された謎を解き明かそうとする姿をアクションたっぷりに描く。アバターとして、自分の望むものならどんな姿にもなれ、どんな願いも叶うオアシスの世界には、『機動戦士ガンダム』のRX-78-2ガンダムや、『AKIRA』の金田バイク、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンなど、80年代を彩った実在するポップカルチャーのさまざまなアイコンたちが登場。劇場公開時には、過去10年間のスピルバーグ監督作品史上NO.1 のヒットを記録し、日本でも25億円を超える興行収入を上げるに至っている。
そんな『レディ・プレイヤー1』への出演をオーディションで勝ち取った森崎ウィンは、メインキャラクターのひとりであり、唯一の日本人キャラクター・トシロウを演じている。劇中では、スピルバーグ監督が敬愛してやまない俳優・三船敏郎をイメージした"侍"像を求められ、ハリウッドデビュー作にして大役を担うことに。劇場公開後、俳優として一躍注目を集めることとなった現在、何を思うのか? ダンス&ボーカルユニット・PrizmaXで作詞・作曲も手がける森崎ならではの、同作の“80年代ポップカルチャー”の魅力や、愛してやまないというアクションについて、そして続編への想いまで、インタビューでじっくりと語ってもらった。
スピルバーグ作品を経て変化した意識
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
――ハリウッドの超大作、しかもスピルバーグ監督作に主要キャストのひとりとして出演されました。映画公開後、お仕事に何か変化はありましたか?
映画が公開されて、色んな番組に出演させていただくようになりました。以前にくらべると露出が増えたので、仕事の面ではスケジュールが埋まって、忙しくさせていただいているのですごく嬉しいです。ぼくを知っていただける機会が増えたことも、本当にありがたい気持ちでいっぱいですね。
――私生活は、いかがでしょう?
プライベートの面は相変わらず地味で、何も変わらずです。外を歩いていても、誰にも声をかけられないですし(笑)。本当にそういうことがなくて、たまに寂しくなったりします。「結構出てるのにな」とか思いながら……まあ、それはいいんですけど(笑)。そういうこともあって、ハリウッド映画に出たからといって、浮ついた気持ちにはなっていないです。
――あまり手応えみたいなものはないんですね。
むしろ、もっと出たいという気持ちです。欲が出ているというか、「絶対、アカデミー賞を獲ってやる」という気持ちになっているので、調子に乗れないと言いますか。今はやらなきゃいけないことが沢山ありすぎるので、それをやるので精一杯です。
――「やらなければいけないこと」とは、何か目標があるのでしょうか?
単純に、日々の仕事をしていく上で勉強しなければいけないこと……例えば、次の作品の準備も含めて、やることは多いんですけど。今後の目標としては、「オスカーを獲る」です。言葉にすると、「ああ……」とリアクションされるような内容ですけど。でも、そんなリアクションをされても、それはどうでもよくて。先輩とかから学んだことなんですけど、3年、4年計画を立てることで、今やらなきゃいけないことが見えてくるんです。これは、大谷翔平選手(米メジャーリーグ/ロサンゼルス・エンゼルス)も高校時代にやっていたことなんですよね。ぼく(の計画)は10年。なぜそんなことを言うかというと、ドルビー・シアターで(ワールドプレミアの)舞台挨拶をしたときに、「あ!これ(アカデミー賞の授賞式でもまた)立てるな」と、思ったからなんです。
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
――すごいですね。
辻一弘さんがメイクアップ賞でオスカーを獲られたじゃないですか。そのときの映像を家で観ていて、「俺はタキシードを着て、ギャグか何か言ってるんだろうな」って、想像できたんです。「東洋人でも立てるじゃん」って。業種は違うんですけど、辻さんがある意味ひっぱってくださった部分もあります。そういうこともあって、「これは(オスカーを獲るまでに)10年かかるな」と、(授賞式のある)ドルビー・シアターに立ったときに感じました。
――具体的には、日常的にどういうことを実践していらっしゃるのですか?
例えばピアノなら、指の体操で「ハノン」(※編註:ピアノ中級者向け難易度の楽曲)をちゃんとできるようになろう、とかありますよね。でも、役者だとそういうものがないので、日々生きているなかでアンテナを張ろうと思いました。芝居に関するものだったら、どんどん飛び込んでいこうと思っています。例えば、知り合いに「小さいけど、ワークショップやるよ。来る?」って言われたら、今までだったら、正直、前日のスケジュールを見て、「行かなくていいや」と思っていたのが、「行ってみよう」と思えるようになりました。その日は翌朝5時までロケをして、夕方からまた仕事だったんです。寝ようと思えば寝られるんですが、3時間くらいの睡眠をとって(ワークショップに)行きました。自分でも変わったな、とすごく思います。そういうことをやるようになったのは、それだけ自分が求めているからなんだな、と。そういうかたちでアンテナを張るのが、今のぼくにとっての具体的なことです。
――一つひとつの行動に変化が現れているんですね。
何かを積み重ねることは時間がかかるものですし、現場を踏まなきゃわからないことも沢山あります。だからといって、忙しければいいってものでもないので、難しいんですけど。そこは、自分との戦いですね。
――森崎さんが演じられたトシロウは、原作と扱いが大きく異なっています。役作りやキャラクターの背景など、意識されたことを教えてください。
原作を読むと、トシロウは映画よりも暗めのオタクだったんです。でも、作品はエンタメなので、「もっとポップにしてもいいんだよ」ということは、監督がおっしゃっていて。そんなにバックボーンの見えるキャラクターでもなかったので、そんなに作り込みすぎる必要もなかったです。ただ、ぼくとしては、どうすれば「アジア」だったり、「和」というものを見せられるのか、ということはすごく考えました。監督からは、「三船敏郎さんのようにやってくれ」と言われていました。撮影はイギリスだったので、映画を観る時間があまりなくて、動画配信サービスなんかで三船敏郎さんの演技や、黒澤映画を観て、そこから研究しました。トシロウはおじぎをするシーンが多いですが、そういう行動で見せていくと伝わるんじゃないかな、と。立ち居振る舞いなど、ひとりだけ日本から来た人がいるということが見えるように、ということは心掛けました。
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
――三船敏郎さんの演技や動きそのものをキャラクターに取り入れてらっしゃるんですか?
監督は「三船さんみたいに」とおっしゃいましたけど、それは流石に無理なので(笑)。真田広之さんのような方だったら、完璧な侍をやってくださると思いますけど。でも、ぼくに求められたのはそうではなくて、「三船さんから侍の“生き様”を学んでくれ」ということだと思いました。
――この作品では、登場するキャラクターや音楽など、80年代のものがフィーチャーされています。事前のリサーチや本編であらためて80年代のカルチャーに触れてみて、いかがでしたか?
結構、派手に感じましたね。これはぼくが感じたことなんですけど、色合いがくすんでいるんですけど、ちゃんと抜けてくるというか。ぼくは90年代生まれなんですけど、(80年代の作品が)身近になかったわけじゃなくて。ただ、なんとなく視点を向けることはなかったんです。そこに目を向けたときに、すごく新しく感じました。アニメも好きなので、『AKIRA』を観たときの衝撃といいますか、「あの時に、こんな内容の作品があったんだ」と思いました。最近観ている『A.I.C.O. Incarnation』(※編註:ボンズ原作・アニメーション制作/村田和也監督)という作品も、(80年代のものに)似ていて。関連付けられる作品がすでに80年代にあったんですよね。あの頃の作品に刺激されて、今のアニメがあるんだな、と思います。
『A.I.C.O. Incarnation』予告
――なるほど。
それと、一番影響を受けたのが音楽についてです。リマスターされたものは、もちろん今のぼくらもスッと受け入れやすいものなんですが。リマスターされる前の音を聴いて、「80年代って、こんなにカッコいい音を使ってたの!?」とか、「どこのシンセサイザー?」とか、すごく細かく気になるくらい、色々なことを感じました。プレイリストを作って80年代の曲を聴いていたんですけど、ダリル・ホール&ジョン・オーツの「You Make My Dreams」なんかは、単純に「トラックがカッコいいな!」と思いましたね。普通に好きで聴いていたんですけど、まさかこの映画で使われるとは思わなくて、エンドロールで流れたときはひとりで興奮しましたよ。「うわー!ですよねー!」って思いました(笑)。(80年代については)まだまだ、探り切れていないものも沢山あるので、もっと探っていきたいです。
『S.W.A.T.』や『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』が好き!アクションへの想い
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
――森崎さんご自身が「俺はガンダムで行く」というセリフを考えられたことが、日本のファンの間でも高く評価されています。その反応を受けて、いかがですか?
安心というか、安堵しています。ガンダムファンの皆さんの反応が怖かったので。「これは一歩間違えるとヤバそうだ」とか、「『アムロ、いきます!』のほうが成立するのかな?」とか、「『ガンダムでいく』じゃなくて、『ガンダムでいこう』かな」とか、本当に悩んだセリフなんです。演出上では“戦いに出る侍”ということで、「本当に命を落とすかもしれない侍の気持ちでいて欲しい」と、監督に言われていました。セリフの最後には、「!」を付けたいとか、言い切るとか、音の響きとか、色々と考えましたね。
――ガンダムファンへの配慮以外にも、悩まれたんですね。
トシロウはオタクじゃないですか。なので、(間違えると)トシロウにも失礼になってしまうし、役の中でも筋が通らなくなる。じゃあ、何がベストなんだろう、と。最初は、(台本に)英語で「(Japanese)」と書かれていただけで、後は「考えといてね」ということだったんです。「あっさり来たな!」と思いましたけど(笑)。ただ、その時は最初のモーションキャプチャーをやっていた段階だったんです。ライブアクション(実写)はあとあとの撮影でまだ時間があったから、その間にガンダムを勉強しておこうと思っていました。通訳さんもいるし、軽い気持ちで考えていたんですけど……途中で通訳さんが、違う仕事でいなくなっちゃったので、どうしようかと思いました(笑)。現場に日本語がわかる人が、ぼくしかいなかったんです。そこから急に考えて、悩んで、結局「これでいかせてください」って言ったら、「OKです」って(笑)。正直、めちゃめちゃ怖かったですよ。どう編集されるかもわからないわけですから。
――アクションについても聞かせてください。どの程度まで、森崎さんご自身で演じられたのでしょうか?
実写のシーン、例えば車の中で戦うシーンがありますが、あそこは全部俳優本人がフリを覚えているんですよ。基本は本人がフルでやって、同じシーンをスタントダブルでも撮っています。普通はスタントマンがいれば、ある程度お任せすると思っていたので、「ぼくらもフルでやるんだ?」と驚きました。
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
――俳優本人がアクションをやるのは、監督の方針だったんですか?
どうでしょう。そこまで深くお話しはしていなくて、「アクションやるから、練習しといて」くらいだったので。ただ、ぼくはアクション映画が好きなので、自分でやりたかったです。
――撮影に備えて、何か事前のトレーニングはされたのでしょうか?
刀のアクションについては、オーディションを終えてLAから帰ってきて、(合否を)キープすると言われていたときに、(周りから)「学んでいけ」と言われたのがきっかけで初めて習いました。先生にも、「のみ込みが早いね」と言っていただけましたし。ちょっとしばらく通えてないのですが、今後も続けていきたいです。
――洋画のアクションがお好きなんですか?
そうですね。特にガンアクションが好きです。『S.W.A.T.』(03年)とか、ああいう映画が大好きなので、ハンドサインとかすごくやりたいんですよ。ただ、ああいう作品の警官役をアジア人が演じられる機会はそれほど多くないので、ハードルは高いと思います。自分でもアクションのセンスはあると思うので、出られる作品があるならどんどん提案していきたいです。
――日本の映画・ドラマでも、最近アクション作品が増えていますよね。
小栗旬さん、西島秀俊さんが出演されているドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』みたいな作品に出たいですね! 特に、西島さんのアクションって、すごいじゃないですか。
――ゴリゴリの実戦的な格闘アクションをやりたいんですね。話は変わりますが、『レディ・プレイヤー1』の続編製作を期待するファンも多いと思います。森崎さんはどう思われますか?
アーネスト・クラインさんが、原作の『ゲームウォーズ』の続編(小説)を書いていらっしゃるじゃないですか。ぼくが演じたトシロウは、(原作の1作目で)死んでいるので、それがどうなるかですよね。映画でぼく(の演じたトシロウ)を生かしてくれたのは、スティーブン・スピルバーグ監督ならではの、ある種のハッピーエンドだと思います。
森崎ウィン 撮影=岩間辰徳
――もし続編があるとして、トシロウにどんな活躍をしてほしいですか?
トシロウに、(主人公のウェイドたちを)裏切って欲しいですね。悪に回ってほしい。あれだけ活躍しておいて、悪になるってめちゃめちゃ怖いですよね。ちょっと、原作に近づく部分もありますし。そういう設定が来たら、マジで燃えますね! 「おっしゃあー!」って。今、話しているだけでワクワクしてきました(笑)。
――現場では、続編について話されましたか?
「続編で会おうね」みたいなことは、みんな言っていました。監督も、ジャパンプレミアが終わって帰る日に「これでサヨナラを言いたくないんだ。この作品が終わっただけ。次でね」って。スティーブンは一度会った役者を何回も使うので、アジア人が必要になったら絶対にぼくに声かけると思います。年齢設定が50代の役とかは流石に無理ですけど。でも、それまでには勉強しておかないと。
――スピルバーグ監督に呼ばれたら、どこへでも行きたいですよね。
そうですね。でも、そのときには、「スケジュールのここだけは空けてください。ライブで日本に帰りたいんで」とか、言いたいですね(笑)。それくらいになっていたら、カッコいいなと思います。
――俳優以外にも、PrizmaXなどで音楽活動も継続していかれると思います。俳優でアカデミー賞を目指すのでしたら、音楽ではグラミー賞を目指すのでしょうか?
グラミー賞は、狙っていないです。正直、グラミー賞は無理だと思います。ビルボード1位とかなら、いけなくもないとは思いますけど。BTS(防弾少年団)が、アジア人で1位を獲っているので。ただ、ぼくの目標はそれよりも、アジアツアーをやりたいんです。ぼくはミャンマー出身で、アジアである日本に移住している。だから、アジアを代表するグループの一つになれたらいいな、って。グループでアジアを回って、ソロでも回れたら、ぼくはそれ以上何もいらないです。ライブがすべてなので。
『レディ・プレイヤー1』は2018年7月25日(水)デジタル先行配信開始、2018年8月22日(水)ブルーレイ&DVDリリース。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=岩間辰徳
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