立川志の太郎に聞く『第二回 立川志の太郎 配信落語会』への意気込み

インタビュー
舞台
2020.8.14
立川志の太郎

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落語家・立川志の輔の六番弟子、立川志の太郎が、2020年8月23日(日)にオンライン独演会『第二回 立川志の太郎 配信落語会』を開催する。イープラスのStreaming+による配信で、アーカイブ視聴は3日間。演目は「唐茄子屋政談」他1席を予定している。志の太郎は、2010年に立川志の輔に入門し、今年で落語家生活10周年を迎える二つ目落語家だ。涼しげな面立ちで、高座にあがればパッと明るく華がある。そんな志の太郎に、オンラインによる落語配信への思い、大看板中の大看板、師匠・志の輔への思いを聞いた。

完全無欠の陽キャラ、第一回配信に登場

ーー6月に開催された「第一回配信落語会」では『紺屋高尾』をじっくり聞かせていただきました。その会の1席目『湯屋番』は、道楽者の若旦那の晴れ晴れとした変態ぶりが印象に残りました。生で聞いたときと同じくらい笑いました。

よかったです。『湯屋番』は、後半、特に気合いを入れています。落語には、この若旦那のように、妄想の中で一人で暴走しはじめるキャラクターがしばしば登場します。一般的な登場人物の感情表現を0から100の範囲でやるとしたら、この若旦那の妄想は200を出さないと伝わらないと、師匠の志の輔(以下、師匠)より習いました。試行錯誤したのですが、台詞の言い回しだけで200は出ないんです。演者が恥ずかしがっていてもお客さんは笑えない。ある時、家でお酒を飲んで酔った勢いでやったところ「これなら200を出せる」というやり方を見つけました。​

ーー自分の殻を破ることや恥ずかしさとの葛藤もあったのでしょうか。

それは問題ありませんでした。あれを見られることが、一種の快感になっています!

ーー多くの方に見ていただけるといいですね(笑)。古典落語をアレンジする時、どのような点を意識しますか?

古典落語には、先人達が磨いてきた名作をやらせていただくという思いがあります。でも時代が変われば、現代のお客さんに伝わりにくいことも出てきます。たとえば古典の『湯屋番』には歌舞伎にちなんだ台詞が出てきますが、今のお客さんには伝わらないことが多い。僕自身「どういうこと?」となりました。そういった部分を、登場人物の設定上で想像を巡らせ、台詞を考えます。その意味では、わざと現代のはやりの言葉などを入れて笑いをとる演出は、僕は極力しないようにしています。

立川志の太郎

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ーーオリジナルの演出でありつつ、志の太郎さんの若旦那が古典の延長線上にいると感じられたのは、そのおかげかもしれません。

自分でいうのも恐縮ですが、僕の『湯屋番』の若旦那は、先人達の若旦那がそうであったように「最強にウザい、完全無欠の陽キャラ、妄想激しめな若旦那」です。そこは古典のまま楽しんでいただけると思っています。逆に古典のままでは伝わりにくいところを、古典の延長線上の台詞で分かりやすくして、初めて聞く人の「?(はてな)」を極力消していきたいです。「?」が頭をよぎった方々を、おいてけぼりにしたくない。これは師匠から学んだ「お客さんファースト」へのこだわりと繋がっているように思います。

カメラの向こう側とこちら側

ーー現在、落語会を開こうにも、通常より少ない客席数でしかお客さんを迎えることができません。そこでお客さんを入れながら、同時にオンライン配信を行う落語会も増えています。しかし志の太郎さんの第一回配信落語会は、お客さんをいれない、無観客配信のスタイルでした。

8月23日(第二回)もその予定です。正直、演者としては目の前にお客さんがいた方が楽しいですし、ギアも一段あがります。お客さんを前に10年落語をやってきたので当然ですよね。でも目の前のお客さんに向けて話すのと、カメラの向こう側に向けて話すのとでは、勝手がまるで違います。生の落語会ではお客さんの反応を受けながら、お客さんと僕が同じ空間にひとつの円を作るような感覚でした。オンライン配信の落語は、僕からAさん……僕からBさん……と画面越しのお一人おひとりに語りかけるようにやります。枝を伸ばすような感覚です。

目の前と、画面越しの両方にお客さんがいたら、客席とカメラの両方を意識しながらやりはじめても、熱が入ってきた時に、僕はきっと生の客席に向けた話し方になってしまいます。

立川志の太郎

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僕、もともと音楽が好きでフェスやライブの映像をよく見るんです。どんなに好きなミュージシャンのライブ映像も、ミュージシャンは会場の何千人何万人に向けてやっていて、画面のこちら側は外野だなと感じてしまう。生の空気、あちら側の空気を知っているからなおさら。落語は芸能ですから、正解も不正解もありません。ただ僕個人の考え方として、カメラの向こうの方々に「外野だ」と感じさせたくありません。そこで、はじめからカメラの向こうのお客さんだけに向けてやることにしました。

とにかくもっと、気に入られたい

ーー10年を振り返り、ご苦労はありましたか? 過去のインタビューでは、兄弟子の志の八師匠と志の春師匠が「志の太郎は師匠の寵愛を受けている」とおっしゃっていました。

苦労ありますあります! 入門したころは毎日怒られていました! 右も左も着物の畳み方さえ分からなかったんですから。そんな奴が常にそばをウロウロしていて、師匠は本当に大変だったと思います(苦笑)。

——志の太郎さんはたまたまジャケ買いしたCDで、志の輔師匠を知り、すっかり魅了されたそうですね。

CDで落語を知り、志の輔を知り、落語会に足を運ぶようになり、PARCO劇場で『中村仲蔵』を聞き、衝撃を受けました。手に取ったのが別の師匠のCDだったら、落語家にはなっていなかった可能性もありますから、導かれるような経験です。

立川志の太郎

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ーーそんな師匠との距離に変化があったのは、いつのことでしょうか。ジョークでも「寵愛を受けている」と言われているのは、やはり気になります。

寵愛ですか(笑)。きっかけは、入門翌年に師匠がiPhoneを購入したことでしょうか。「使い方を調べてくれ」と託され、都度、対応する中で、入門以来ひとつも得られていなかった師匠からの信頼を、少しずつ積み重ねられるようになりました。地方公演にも必ずついていくようになったんです。僕が師匠のiPhoneを握っていたこともあり(笑)。そのうちに師匠から「太郎はどう思う?」みたいに話しかけてくださる機会が増えました。時には僕の答えに笑ってくれたりもして。これは考えられないくらいうれしいことです。

修行中は、師匠を快適にすることがすべての軸。そのためのアプローチは色々あると思いますが、僕は師匠にもっと近づき、師匠がふと楽になれる存在を目指そうと決めました。何よりとにかくもっと師匠に気に入られたかった。だって師匠は、僕の人生に衝撃を与えてくれた憧れの存在ですから。まるで……恋人の話ですね(笑)

立川志の太郎

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ーーのろけ話でしたね(笑)。師匠のどのような点に「凄さ」を感じますか?

徹底したお客さんファーストと、そのためのトータルプロデュース力は圧倒的です。でも落語の凄さは肌で感じるもので、言葉にまとめるのは正直難しいです。どの世界にも「説明不要のとにかくすごい存在」がいますが、師匠はそれ。今でも師匠の落語を生で聞くと、舞台袖で鳥肌がおさまらなくなります。

ーーそんな師匠から言われて、特にうれしかった言葉を教えてください。

2017年、弟弟子の志の麿の二つ目昇進披露の落語会の時です。僕は開口一番に『つる』をやりました。師匠から最初に教わったネタです。その後に師匠の楽屋へ挨拶に伺うと「お前本当にうまくなったな」って。さらに志の麿との口上でも「最初に上がったのが志の太郎と言うんですがね。本当にがんばれば、ちゃんとなるんだなと思いましたよ」って! 落語で褒められることは、なかなかありません。あの時は、驚いて「あざす」と頭を下げるのが精一杯でした。

ーーまた、「お客さんファースト」についてもお聞きしていいですか?

師匠はお客さんに楽しんでいただくために、会場づくりから徹底的にこだわります。高座の高さ、照明、音響……。あらゆる要素を、会場の客席で確認しながら微調整を重ねて。それは兄弟弟子も同じです。

これもお客さんファーストだと感じたのは、『転失気(てんしき)』をやった時のことです。和尚さんが「転失気」の意味(おならのこと)を知ったかぶりして色々なことが起こる噺です。でも落語の中で「転失気」の意味が明かされるのは最後の最後。それについて師匠がおっしゃいました。

「お客さんはテンシキって何だ? と思いながら12分楽しめるのか? 先に言葉の意味を説明したほうが楽しめるんじゃないか?」

お客さんの疑問を極力なくし、より楽しみやすくする。これもお客さんファーストです。それ以来、落語に馴染みのない方が多い会では、マクラで転失気の説明をするようになりました。

たしかにある、配信で伝わる落語の魅力

ーー先を見通しづらい今ですが、10周年の節目にあたり、今後の展望をお聞かせください。

この10年で、大小あわせると、落語だけでなく演劇、ミュージカル、ドラマ、ナレーション、CM、ミュージシャンの方とのコラボライブに短編映画など、様々なメディアのお仕事をいただいてきました。この経験は財産です。今後は、その仕事を一つひとつステップアップしていけたらいいですね。お芝居なら前より一個でも台詞の多い役へ。あとはミュージシャンになりたいです。僕はいまでもミュージシャンになりたいんです!(笑)

ーー噺家としての展望はいかがでしょうか?(笑)

実は30代のうちに真打に……と目標はあったんです。でも今は先を考えないようにしています。3、4月に半年先まで仕事が一気に飛び、さすがにその時は「できることが何もない」と思いました。でもYouTubeの企画に声をかけていただき参加するうちに、「コロナだから動けない」、「パフォーマンスを提示できない」と思うのは違っていた。やり方はいくつかあると気づきました。今はこの状況でやれることをやり、いただけるお仕事を一生懸命やります。嘆いても仕方ないですよね。こればかりは自分が生きたタイミングですから。

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ーー最後にStreaming+での配信落語会に向け、一言お願いします。

幸か不幸か、オンラインで落語を聞くチャンスに恵まれた時代です。落語の魅力は画面越しでは伝わらないと思っていました。今でも生の落語の魅力をオンラインでそのまま届けられるとは思いません。でも、真面目にやっていることは伝わりますし、感動の要素は色々あります。映像や音で伝わることも確かにあると考えています。そう断言できるのは、僕自身がCDの音で師匠・立川志の輔を知り、ハマり、いま落語家になっているからです。配信落語会をきっかけに、「コロナが収まったら志の太郎のライブに行ってみよう」と思ってもらえたら嬉しいです。

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配信情報

『第二回 立川志の太郎 配信落語会』​
 
日程:2020年8月23日(水)
時間: 13:25開場 13:30開演 14:30終演予定
 
出演者:立川志の太郎
 
演目:「唐茄子屋政談」 他一席
※演目は変更になる場合もございます。
 
金額:1,300円(税込)
 
配信作:イープラス Streaming+
視聴可能期間:8月23日(日)13:30~8月26日(水)23:59まで
※視聴は8月26日(水)22:00まで購入可能
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