「稲垣吾郎さんはどこか松田優作さんを思わせる」と記者からの指摘も 映画『ばるぼら』手塚眞監督が日本外国特派員協会で会見

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2020.11.18
映画『ばるぼら』手塚眞監督  日本外国特派員協会にて

映画『ばるぼら』手塚眞監督  日本外国特派員協会にて

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11月17日(火)、映画『ばるぼら』の手塚眞監督が日本外国特派員協会での同作上映Q&Aに登壇した。また、会場では同作がイタリアのファンタ系映画祭『ファンタ・フェスティバル』にて最優秀作品賞を受賞したことも発表されている。

『ばるぼら』は、1970年代に『ビッグコミック』(小学館)に連載されていた手塚治虫の漫画。愛とミステリー、芸術とエロス、スキャンダル、オカルティズムなどを描き、手塚作品の中でも大人向けの問題作とされてきたタイトルだ。手塚治虫生誕90周年を記念し、初めて実写映像化される。劇中では、耽美派の小説家・美倉洋介が自堕落な生活を送る少女・ばるぼらと出会い、彼女をミューズとして新たな作品を生み出しながら、堕ちていく姿を描く。メガホンをとったのは、原作者・手塚治虫の実子でもある手塚眞監督。撮影監督を、『ブエノスアイレス』などのウォン・カーウァイ作品で知られるクリストファー・ドイルが務めている。また、異常性欲に悩まされる小説家・美倉洋介を稲垣吾郎が、美倉のミューズとなるばるぼらを二階堂ふみがそれぞれ演じている。

 

 

手塚眞監督Q&A

映画『ばるぼら』手塚眞監督  日本外国特派員協会にて

映画『ばるぼら』手塚眞監督  日本外国特派員協会にて

今日は私の新作映画『ばるぼら』を観に来てくださりありがとうございます。ファンタ・フェスティバルで最優秀作品賞をいただきました。この作品にとって最初の賞で、それがイタリアの、しかもファンタスティック系の映画祭だということが、大変嬉しいです。なぜなら、『白痴』という私の過去の作品もヴェネチアの映画祭に招待され、その後たくさんのイタリアの映画祭に招待されているという思い入れがあります。イタリアにはフェリーニ監督を始め、非常にアーティスティックな美学をもった監督がたくさんいらっしゃるところで、そういう監督の美学で学んで育ってきた人が日本の私の作品に同じような美学を感じてくださっていることが、とても嬉しいです。今日観ていただいたこの作品は非常にファンタスティックな内容を持った作品です。それがこうしたファンタスティック系の映画祭で目の肥えた方々に選ばれたことがまた嬉しいです。やはり受賞というのは、とても励みになりますので、今後の作品作りを頑張っていきたいと思います。

――ビジュアルについての質問ですが、1960年代的なヌーヴェルヴァーグ的な感じがしましたし、主演の稲垣吾郎さんはどこか松田優作さんを思わせる感じがしたのですが、ビジュアルや美術について教えてください。

原作は1970年代の初頭に描かれた私の父親の漫画をもとにしています。しかし、この70年代をリアルに再現することは最初から考えていませんでした。これはもっと普遍的な内容を扱っていますので、いつの時代であっても良いような時代を考えました。ただ、恐らく漫画の持っているレトロチックなイメージは、この作品の中でも大きい要素だど思いましたので、少し前の時代に戻ったイメージがあっても良いのではないかと思いました。映っているのは現代の東京の姿ですが、その味付けとして時代を超えたような、時代を戻ったような味付けをしていることは事実です。特にそれを感じられるのは音楽の使い方ではないかと思います。50年代から60年代あたりのジャズの音楽のニュアンスをたくさん取り入れましたので、デジャブな感覚のする作品になっていると思います。私が映画の勉強をしてきたのが、60年代から80年代の時代なので、その時代で観た映画の印象や得られた知識が自然にこの映画の中で表現されていると思います。

出演者している俳優に関して言えば、彼らの出演作を見て、自分が合う演技のスタイルを持った俳優たちだと思い彼らに頼みました。

――今回の作品が海外向けという印象で、カメラワークのディテールやジャズの挿入の仕方も世界受けする感じがしました。手塚治虫のもともと和風で日本的であった原作をどのようにアレンジし解釈したのか教えてください。

私は手塚治虫の漫画を熟知していると思っていますが、手塚治虫の漫画そのものは日本が舞台になっていたとしても、非常にインターナショナルな漫画だと思っています。手塚治虫の漫画はいつどこの国で映画になってもおかしくないと思いますが、逆に私自身は日本の表現、日本の映画ということにこだわりを持っています。もちろん、私は日本で生まれて日本で育ったので、自分が表現していることが自然に日本の表現になっていると良いと思いますが、この映画を企画したときに海外で映画にしませんかというアイディアもいただきました。例えばプラハあたりを舞台にしてやると良いのではという話もありましたが、逆に私は東京の新宿で撮る方が面白いのではないかと思いました。そうすることによって、普段日本人である私たちが気づいていない東京の面白さが表現できると思いましたし、ストーリーや登場人物の行動に関係する日本人的な考え方が、外国で作るのとは違う内容で作れるのではないかと思いましたので、日本で撮影しました。海外のカメラマンを起用したのは、日本を表現しながら、日本人が気づいていない良さを出そうと思ったからです。

――作品を観て破壊と再生のテーマを受け取りました。この映画を撮っていた時と、今の世界の状況はだいぶ異なりますが、コロナで世界が変わっていく、誰もが先の見えないこの時代においてこの映画を上映していくことに込める思いや願いがあれば教えてください。

この映画を最初に考えたときに、これは「関係性」の映画だと考えました。例えば、人間同士や人間と街、人間とその行いという関係です。その関係性の中で私が一番強く表現したかったのは「エロティシズム」です。それは、二人の人物が直接肌を触れ合う、肌と肌で接し合うというような関係性で、それは言葉や理屈を超えた人間の関係性だと考えています。図らずも今世界中にコロナの影響でそういった関係性が崩れています。人間同士が直接触れ合うということが困難な時代になりつつありますが、だからこそそういった関係性が大事なんだということを持ち続けていたいと思っています。

そして、今全てがデジタル化されていて、コンビューターやネットワークを通じてのみ人と会うということが進んでいる現状にささやかな抵抗をしたいと思いました。

――お父様の作品を映画化したわけですが、どれくらい忠実に、あるいは反抗して描かれたのか、そのバランスや意図について教えてください。(脚本家の)黒沢久子さんと、再創造するにあたってどうアプローチしたのか教えてください。

原作は何十回も読んでいますし、ほとんどの内容を記憶しています。その上で、あまり原作を気にしないで自然に作ってみようと思いました。そして、元々の漫画の中にもファンタスティックな場面がありますが、自分が好きな場面が多いので、そこは作っていてとても楽しかったです。この映画に参加した出演者やスタッフたちも漫画が大好きでした。あまりはっきりとしたビジョンを決めてしまうのではなく、彼らに仕事を任せてみようと思いました。彼らがどのように演じたり、また作っていくかということに興味があったからです。見ていたら面白い方向に皆さんが仕事をしていたので、あとは私がまとめるだけで良かったということです。

――日本映画を意識して作られたとおっしゃいましたが、とはいえ原作までは遡ると、『ホフマン物語』からのインスピレーションやニーチェの言葉の引用など、世界的な要素が含まれるものだと思います。こういった作家性の強い作品を日本で作るにあたり、ドイツやイギリスの会社との国際共同制作でないと難しいという現状があるのでしょうか。

もちろん現状、日本でもインディペンデントな映画は作られていますが、日本人はもっと海外の才能と組んで作品を作るべきだと思っています。映画はインターナショナルなものですし、いろいろな要素が混ざっていくということは映画にとって大事なことだと思っています。歴史的に言っても、日本は世界中の色んな文化が融合して出来上がっています。海外の要素が組み合わさるということは逆に日本的なことなのではないかと思います。そうして考えられている私たちの文化をさらに世界の人たちによりよく見て知っていただくには、海外の方にサポートしていただくことも大事なことだと思っています。

これからも海外の素晴らしい映画業界の方々と一緒に「日本の映画」を作っていくことになると思います。

 

『ばるぼら』は11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開。

作品情報

映画『ばるぼら』
(2019年/100分/カラー)
稲垣吾郎 二階堂ふみ
渋川清彦 石橋静河 美波 大谷亮介 ISSAY  片山萌美 / 渡辺えり
監督・編集:手塚眞
撮影監督:クリストファー・ドイル/蔡高比
原作:手塚治虫 脚本:黒沢久子 プロデュース:古賀俊輔 プロデューサー:アダム・トレル 姫田伸也 
美術統括:磯見俊裕 扮装統括:柘植伊佐夫 
制作プロダクション:ザフール 
配給:イオンエンターテイメント
映倫区分:R15+  
(C)2019『ばるぼら』製作委員会
 
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