振付家・舞踊家の伊藤郁女と俳優・笈田ヨシによるダンス・シアター KAAT DANCE SERIES 2021『Le Tambour de soie 綾の鼓』上演決定
(C)Christophe Raynaud de Lage
2021年12月24日(金)~12月26日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉にて、KAAT DANCE DERIES 2021『Le Tambour de soie 綾の鼓 』(あやのつづみ)の上演が決定した。
今回上演されるのは、国際的に活躍する振付家・舞踊家伊藤郁女とピーター・ブルックと共に創作活動を行ってきた伝説の俳優笈田ヨシがフランスで創作した“ダンス・シアター”。この作品は、コロナ禍のフランスで、2020年10月に開催されたアヴィニョン芸術週間(UNE SEMAINE D'ART EN AVIGNON)で世界初演され、大変話題となった。
アヴィニョン芸術週間での初演時 (2020年10月) (C) Christophe Raynaud de Lage
物語は、劇場の舞台を掃除している老人が舞台でリハーサルをしているダンサーに恋するが、思いが成就しない悲劇を描いている。能の曲目「綾鼓」と三島由紀夫が翻案した「近代能楽集」の一作「綾の鼓」からインスピレーションを受けたジャン=クロード・カリエールのテキスト(物語)が才能あふれる二人の日本人アーティストの身体を通して語り始め、矢吹誠の打楽器の音色と混ざり合い、かなわぬ恋の物語を観客に伝えていく。
伊藤郁女 コメント
伊藤郁女 (C) Christophe Raynaud de Lage
私は10年ほど前にパリでヨシさんに出会いました。私は異国の地で「完全に自由で解放された日本人」に初めて出会いました。彼は常に私に刺激を与えてくれる先生であり、親友です。
彼は戦前、戦後、そしてiPhoneの時代に生きています。彼はピーター・ブルックの伝説的な俳優の一人であり、自分の夢を実現し続けています。私は、能の作品「松風」にインスパイアされた「夢」という作品を彼と一緒に創作しました。彼は今88歳ですが、非常に健康で、精力的に行動し、多くのことを学び続けています。私は彼から人生、仕事、そして日本について多くを学びました。
私たちは、舞台上でともに創作した作品を発表したいという共通の思いがあります。この企画は、多分一緒に創作できる最後の冒険になるでしょう。
この企画は能楽に触発されています。老人が宮殿の庭を掃除し、お姫様に恋をしたという話です。お姫様は彼に鼓を渡し、「あなたがそれを鳴らすことができれば、私はあなたのものです」というメッセージを彼に送ります。彼は鼓をたたきますが、鼓の表面が絹に置き換えられているため、鳴りません。男は自殺し、幽霊となってお姫様に会いに再び戻ってきます。
私たちは、ジャン=クロード・カリエールと一緒に三島由紀夫の物語からインスピレーションを受けて新しい作品を創作しました。三島由紀夫はヨシさんの親友でしたし、ジャン=クロードにとってもこの作品が最後となりました。彼が書いた「綾の鼓」では、女性は最後に「彼がもう一度打ったら聞こえただろう」と夢うつつに言って終わります。
この作品で私たちが興味を持っているのは、若いままでいたいため、老人の愛を受け入れることができない女性と、恋をすることで若くなっていく老人との間に起きる物語です。
笈田ヨシ コメント
笈田ヨシ (C)Christophe Raynaud de Lage
三島由紀夫さんは日本演劇の古典を大事にされていました。
1950年代には数々の能楽の作品を元にして、近代能楽集をお書きになり、それは今でもヨーロッパのあちこちで上演されています。それからもう70年が過ぎました。僕は先生にちなんで近代能楽集ならぬモダン能を21世紀のお客様にお見せしたいと思いました。この作者不明の古典からはいろいろの意味を引き出すことが出来るでしょう。僕はここで女性が自分の起こした罪によっておきた罪悪感、そしてそこから解放される道のり、そんなものを表現してみたいと思いました。
罪にはいろいろな種類があります。宗教的観念による持って生まれた肉体の罪、直接他人を傷つける罪、そして直接他人には危険を与えないけれども結果的にはその人を傷つけてしまう罪。女性は冗談半分に自分の美貌で年取った老人を誘惑します。貧しい老人が彼女と深い関係になれると信じ込ませてしまうのです。勿論それは本気ではなかったけれども、老人が本当に信じこんでしまったのを見て彼女は恐ろしい罪悪感に襲われます。彼女はどうやってそこから解放されるのでしょうか?弄ばれた老人はそれをどう受け止めるのでしょうか?