アンコールでGalileo Galileiの6年ぶりの始動も発表 尾崎雄貴の音楽の豊かさを証明したwarbearワンマン

レポート
音楽
2022.10.14
『warbear solo live "re:bear"』

『warbear solo live "re:bear"』

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warbear solo live "re:bear"
2022.10.11 SHIBUYA WWW

既報の通り、10月11日のwarbearのワンマンライブのアンコールで6年の時を経て、Galileo Galileiの始動が発表されたわけだが、思えば尾崎雄貴を軸に10代前半からスタートした彼らの音楽人生は地続きだ。因みにwarbearとしての前回のワンマンライブは2018年の10月の渋谷CLUB QUATTRO公演で、その際はGG結成メンバーによるBird Bear Hare and Fish始動のアナウンスが行われた。当時は各々のバンドやソロの違いが明言されていなかったが、今回のwarbearのライブにおいて、尾崎雄貴は表現者、そしてミュージシャンとして、なぜ複数のアウトプットを並行するのかについて明言した。このくもりのなさは、実はBBHFのツアーファイナルで、完全にインディペンデントなアーティストとして従来の「Ouchi Daisuki Club Records」、そして新たに立ち上げた「Suzume Studios」での制作を発表した時のバイブスと地続きに感じられた。責任を持って自由に活動すること。そのピースがバチッとハマったがゆえの清々しさが通底していたのだ。

『warbear solo live "re:bear"』

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WWWの扉が閉まらないほど満員のファンで埋められた場内。フルキャパシティで検温と手指消毒を済ませて入場できた頃にはライブはスタートしており、「Lights」の演奏が聴こえてきた。セットリストを見てもらえれば分かるが、前作から地続き感のある「車に乗って」でスタートしたようだ。前作から2曲終えたところで、雄貴は近距離にいるファンを前に「リラックスして行きましょう」と伝える。確かに曲をじっくり噛み締めるように見守るフロアを解す一言が必要だったのかもしれない。続く「ドク」は新しいアイディアを具現化するがゆえに、自分の痛みさえ利用してしまおうとする“ドク”と雄貴の共通項にリアリティを感じつつ、warbearのシグネチャーサウンドとも言えそうなサックスが、大人っぽいアレンジと相まって独自の感覚を呼び起こす。“ドク”と、虚空に放たれるような歌唱は生でも非常に印象的。パワフルだったり、技巧的であること以上に状態を描ける歌とはこういうことなんだな、と思う。ちなみにサックスの大久保淳也はex:森は生きているのメンバーで現在も同バンドの岡田拓郎のソロアルバムに参加するなど、先鋭的な表現でも存在感を示すプレーヤーだ。80年代感の漂う「メートル法」を経て、野球中継と遠くで聴こえる飛行機のSEが流れ、さらにシンセのサウンドが滑空する飛行機を思わせ、後半にプリミティブなビートを叩く尾崎和樹のアレンジも、まさに夏を立ち上がらせていた「夏の限りを尽くしたら」。スッキリと音源の尺で終わらせるのも、余韻が残っていい。

『warbear solo live "re:bear"』

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この後、和樹に促され予定していなかったMCをした雄貴。『Patch』が「Ouchi Daisuki Club Records」からの初リリースであること、コロナ禍もあり、自分は何も好きじゃないかもしれない気持ちに落ち込んだこと、そんな中で心に絆創膏を貼るみたいだなと思いながら、曲を書き溜めてまとめたことなどを話す。「音楽は物理的には治してくれないかもしれないけど、治癒力はあると思っているので、今日この風景を心に留めて、優しさを持って楽しみましょう」と述べ、大きな拍手が起きた。この語りから、USのキャリアの長いシンガーソングライターを思わせる神聖さに、シンセやサックスも自然と融合する「バブルガム」へ。続く「1991」での詩人の独白のような胸に迫る歌を聴いていると、前にも後ろにも動けないライブハウスにいることを一瞬忘れて、暗く広い空間で一人で聴いているような透徹した気持ちになる。これは尾崎雄貴の歌の中でもやはりwarbearならではの感覚で、ルーツミュージックに通じる音像がこんなにもパーソナルに響くこと自体が稀有なのだ。8ビートとコードストロークが加わり重層的になる中盤から、大人になることの痛みを吐き出すように歌ったあとはそれらが深海に沈んでいくようにシンセの音が揺蕩う。同世代に対する思いは次の「27」につながっていく。

『warbear solo live "re:bear"』

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会場全体が高い集中力を見せたブロックの後は「次の曲は楽しく行きましょう。すごく歌が早口でドキドキの曲なんですが、やります」と、90年代のJ-POPを換骨奪胎し、雄貴のトーキングボーカルでアップデートした感のある「気球だよ」を披露。歌メロで牽引して行き、エンディングでは思わず歓声が上がった。さらにアルバムの中でも最も柔らかな印象を残す「花びらのかたち」が音源よりAORフレーバーを増して演奏される。それでも特定の時代感を飛び越えて、今この時でしかない音像へと融合されるのは尾崎雄貴という人にしか書けないメロディのなせる技だろう。絶妙な抜き差しを聴かせてきた5人がロックバンド然としたプレイを聴かせた「やりたいこと」には、そのサウンドが必然だったように、無謀さや無邪気さを持っていたあの頃に見つけた“やりたいこと”の答えがあったように感じられたのは自分だけだろうか。率直にいうと、バンドということなのだが、痛快とか根拠なしとか、誰のためでもなく自分が楽しいと思えることは全て“やりたいこと”なのだろうと思う。フロアに正対して歌い続けてきた雄貴の堂々たる振る舞いに加えて、楽しそうな表情にこちらもつられてしまう。

『warbear solo live "re:bear"』

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「warbear、最後の曲です」とタイトルコールしたのはアルバム1曲目の「オフィーリア」。大人のロックンロールというと身も蓋もないけれど、洗練された音選びで、伝えたいことを説明すると消えてしまうという美しくも短い曲で、「re:bear」と題された、“闘う熊”の再生のライブは潔くエンディングを迎えた。

1時間も経過していない本編の終了に一瞬、間が空き、アンコールの拍手が起こる。それぐらい完成された物語でもあったのだ。さて、20時から配信スタートということはアンコールからは会場にいないファンもリアルタイム視聴できるわけだ。まず一人でステージに戻ってきた雄貴は「今日は素敵な素晴らしい日なので、ここからは撮影してもいいし、SNSで実況してもいいし、どんどん外に発信して行ってもらえれば」と、意外な提案にフロアが忙しくなる。そしてメンバーを呼び込むのだが、サックスの大久保以外の尾崎兄弟&岡崎真輝(Ba)、岩井郁人(Gt/Key/Syn)の4人。そして「今やるべきだと思った」という発言から、この4人バージョンの「汐」を披露。サビのエモーショナルな歌唱が明らかに演奏を牽引している。

『warbear solo live "re:bear"』

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そして「ずっと今日という日を待っていました。今から6……」と雄貴が言った瞬間に「ええ?」という察したファンの声がここで漏れ、「今からGalileo Galilei、始動します」の宣言に会場がどよめき大きな拍手が起きた。何か天変地異が起きたようなどよめきを久しぶりに体感した気分だ。そこからのなぜ、今、始動なのか?Galileo Galileiというバンドが自分にとってどんな存在なのか、BBHFやwarbearとどう違うのかという長いMCに全員が聴き入る。さまざまな理由の全てが外せないピースだが、おそらく最も大きな理由は何も知らずに衝動だけで始めた、その感覚を今また獲得できたということだと思う。今、ステージにいる4人で始動する新生GGで鳴らされた「Imaginary Friends」への反応の大きさは彼らの音楽がリスナーの深いところでずっと息をしていたことを証明していた。しかも今日のために大急ぎで作ったという、カントリーや流浪する音楽隊のようなニュアンスもある新曲も早速披露してくれた。後でわかったがタイトルは「4匹のくじら」だという。この音楽性が今後のGGの一部であるのか、軸なのかはわからない。ただ、無謀なまでに楽しいことしかやらないのだろうなという予感だけはたっぷり残った。

『warbear solo live "re:bear"』

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2023年の5〜6月には初のZeppツアーの開催も発表。「Galileo GalileiもBBHFもwarbearも生きてる間は終わらせません」と明言した尾崎雄貴。それは貪欲というより、もはや彼のスタンダードな人生のありようなのだと確信を持った。今から初夏が待ち遠しい。


文=石角友香 撮影=Hideyuki Seta

セットリスト

warbear solo live "re:bear"
2022.10.11 SHIBUYA WWW

1. 車に乗って
2. Lights
3. ドク
4. メートル法
5. 夏の限りを尽くしたら
6. バブルガム
7. 1991
8. 27
9. 気球だよ
10. 花びらのかたち
11. やりたいこと
12. オフィーリア
[ENCORE]
13. 汐(GG ver)
14. Imaginary Friends
15. 4匹のくじら
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