独創的なスタイルで人気を博す、ベルギーのダンスカンパニー「ピーピング・トム」 6年ぶりの来日公演『マザー』を上演
『マザー』過去公演舞台写真 (C)HermanSorgeloos
2023年2月6日(月)~2月8日(水)世田谷パブリックシアターにて、ピーピング・トム『マザー』が上演される。
ピーピング・トムは、驚愕のテクニックと独創的なスタイルで数々の衝撃作を生み出し、世界中に熱狂的なファンを持つ、ベルギーのダンスカンパニー。
『マザー』過去公演舞台写真 (C)OlegDegtiarov
『マザー』過去公演舞台写真 (C)OlegDegtiarov
現代社会の抱える闇へと果敢に切り込み、過酷な場面でさえ美しさとユーモア、愛に満ちたパラドクサル(逆説的)でスリリングな演出で描き出す彼らは、英・ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀ダンス作品賞をはじめ、受賞歴も多数。カンパニーの活動以外にも、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)やリヨン・オペラ座、ヨーテボリ・バレエ、マルセイユ・バレエなどへの作品提供や、オペラの演出など幅広く活躍している。
『マザー』過去公演舞台写真 (C)OlegDegtiarov
世田谷パブリックシアターは、人間技とは信じがたいオリジナルなムーブメント、他の追従を許さない独創的なスタイルから多くの支持を集めている彼らを日本に初めて紹介し、『Le Sous Sol/土の下』(2009年)、 『ヴァンデンブランデン通り 32番地』(10年)、『A Louer/フォー・レント』(14年)、『ファーザー』(17年)と継続的に公演を行ってきた。今回、前作から6年ぶり、コロナ禍の延期を経て待望の来日を果たす。
『マザー』は、前作『ファーザー』、2019年に初演された『チャイルド』と並ぶ “家族3部作”の2作目。本作では、愛情や欲望、恐れ、苦悩、時には激しさを伴う「母性」にまつわる複数のイメージ、意識的または無意識的な記憶やエピソードを描く。美術館を思わせる無機質な空間が、私邸の客間、病院の待合室、火葬場などさまざまに変化して私たちを煙に巻く、独特な舞台美術にも注目したい。また、卓越した身体能力を持つダンサーたちの目を疑うようなステージは、ダンスや演劇といったジャンルを超越し、これまでにないスリリングな感動を呼び覚ます。
『マザー』過去公演舞台写真 (C)Danilo Moroni
なお、ピーピング・トムの舞台に欠かせないのが、上演する各劇場で募る「現地 特別キャスト」の存在。前作『ファーザー』を始めとする数々の作品でも、現地キャストとダイナミックでオリジナルな舞台を創り上げてきた。今回も『マザー』に出演する「シニアキャスト」(60代以上) を一般公募する。詳細は劇場公式HPにて。
母の葬儀が行われる町外れのとある建物。ありふれた絵画が無造作にかけられた室内は、以前に訪れたことがあるような、どこかの美術館、または知人の屋敷、もしかしたら病院の待合室に似ている。おぼろげな記憶をたぐりよせる。
輝かしい過去、忘れ難いメモリー、忘れていたはずのあの感覚。見知らぬ他人の思い出話が、いつしかワタシの物語へとすり替わる。
果てしなく交差する妄想と現実、狂気と秩序をつなぐ一本の糸が、ワタシたちを新たな神話の世界へと誘う――
振付・演出 ガブリエラ・カリーソ(ピーピング・トム) コメント
『マザー』は、記憶にまつわる物語であり、欲望、恐れ、苦しみ、または暴力性といったさまざまな母親像についての探求です。日本の観客のみなさまを、この潜在意識をめぐる旅へとお連れするのが待ち遠しくてなりません。ピーピング・トム結成初期から、日本のみなさまは私たちを温かく迎え入れてくださり、私たちにとって特別な存在であり続けてきました。パンデミックにより、私たちの逸る気持ちは少々おあずけとなりましたが、ついにようやく日本に戻ることが叶い、愛する日本の観客のみなさまと心を交わせることにワクワクしています。
世田谷パブリックシアター芸術監督:白井晃 推薦文
社会を切り取る身体
部屋の中になだれ込んだ土砂。土の中から現れる人。静かに意味を提示してくる部屋。
そして、無言で繰り広げられる悲喜交々なドラマ。『土の下』を最初に観た時、これはダンスなのか?いや、ダンスではない、言葉を排した演劇ではないか! そう心の中で叫んでいた。ピナ・バウシュが初めて日本で上演した『カフェ・ミュラー』『春の祭典』以来の衝撃を受けた。ピナの作品を観た時、ダンスと演劇の境界線を越えた表現(タンツテアター)に猛烈な刺激を受けた。言葉がなくても身体が物語るドラマがあったからだ。
ベルギーのカンパニー、ピーピング・トムが表現しようするものは、さらに鋭角的だった。
ピナの作品群が、個人の中にある記憶や感情からドラマが立ち上がるのに比して、ピーピング・トムの表現には私たちが生きる社会、環境が登場人物たちに内包されている。この姿勢は作品が進むに連れて加速しているように思える。
『ファーザー』では、街の片隅にある老人ホームが舞台となっている。緩やかにうごめく老人たちの記憶と、訪問する家族葛藤が厳しく鋭く表現される。目を疑うようなアクロバティックな身体表現は、ダンスの枠組みを超えた強度で私たちを圧倒し、何もかもが舞台表現の常識を覆す。
今回上演される『マザー』は、この『ファーザー』と連作的な意味合いを持っているようだ。ひとりの母親の死。病院の待合室のような空間の中で、家族が晒される現実と幻想が錯綜していく。ここにもまた、私たち現代人が抱える医療や家族の問題が、痛みや悶えを伴って鋭く表現される。そして、私たちを襲ったパンデミックは、この作品を持つ意味をさらに強く訴えることになるだろう。
もはや、ダンスなのか、演劇なのかという問いは不要だ。確かに言えるのは、社会の歪みを覗き見る、舞台表現の前線がそこにあるということだ。
3年前に上演予定だったこの作品が、こうして来日公演が可能になったことを素直に喜びたいと思う。
公演情報
【会場】世田谷パブリックシアター
【ドラマトゥルグ・演出補佐】フランク・シャルティエ
【出演】ユルディケ・デ・ブール/マリア・カロリナ・ヴィエイラ/
マリー・ジーゼルブレヒト/ブランドン・ラガール/フンモク・チョン/
イーチュン・リュー/シモン・ヴェルスネル/シャルロット・クラモンス ほか
※ほか高校生以下、U24 など各種割引あり
【ツアー公演】
兵庫公演 2月12日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
高知公演 2月18日(土)高知県立美術館ホール
愛知公演 2月23日(木)穂の国豊橋芸術劇場 PLAT
世田谷パブリックシアター[ダンス・フィジカル]@DanceSetagayaPT
世田谷パブリックシアター @SetagayaTheatre
【主催】公益財団法人せたがや文化財団 【企画制作】 世田谷パブリックシアター
【後援】ベルギー王国大使館/世田谷区 【助成】一般財団法人地域創造
【協賛】東邦ホールディングス株式会社/TOYOTA 自動車株式会社/Bloomberg 【協力】東急電鉄株式会社
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
・ビデオ上映会&トーク
前作『ファーザー』、本作『マザー』ツアーを追ったドキュメンタリー「サード・アクト」の他、過去の舞台映像作品などを交えてカンパニーを紹介します。
【詳細・お問合せ】
座・高円寺公式 HP<ビデオ上映会&トークのご案内> https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=2814
座・高円寺 03-3223-7500 https://za-koenji.jp/home/index.php
アーティストの新たな側面や、作品の源に触れられるパフォーマンスワークショップを開催いたします。
【詳細・お問い合わせ】
劇場公式 HP<ワークショップのご案内> https://setagaya-pt.jp/workshop_lecture/202302moederws.html
世田谷パブリックシアター 03-5432-1526