25回目を迎えた北海道の『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO』を振り返るーー「北の大地で永遠に継承されていく本気の祭だった」2日間・10万歩で観て回った実録レポ

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2025.9.22

『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO』8.16(SAT)北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

2日目・12:30。SUN STAGEのトップバッターを前にWESS 若林氏の開会宣言。大トリも含めて過去何度もバンドで出演していること、ソロとしては2019年に初出演するはずが台風で中止になったことを端的に話していく。

「熱い男です! みんな声出して行こう! エブリバディ! エブリバディ!」

本当にわかってらっしゃるなと思った、というのは業界の大先輩に対して失礼だが、あくまでイチファンとしての視点で、単なる仕事の関係ではなく、若林氏もイチファンなのだなと伝わったから。イチファン視点を忘れずに心から愛していないと、この言葉たちは選ばれない。期待に応えるかのように、黒スーツ・白シャツ・黒ネクタイのロックンロール正装で現れて、こう叫ぶ。

「『ライジング』ベイベー! ようこそ! エブリバディ!」

宮本浩次 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

宮本浩次 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

言うまでもなく、目の前に自分を愛してくれる観客たちがいてくれたら魂の叫びは出るに決まっているが、その前に若林氏が熱くて愛ある呼び込みをしたのは確実に大きい。そして、歌われたのは約30年前の楽曲ながら全く色褪せず、いつの時代にも、いつの人々にも寄り添って鼓舞してくれる大名曲「悲しみの果て」。言わずもがな宮本浩次の大登場。「悲しみの果て」は聴くだけで、どんな想いを抱えているのか歌詞から一瞬で理解できるし、何よりも奮い立たせてくれるメロディーに持っていかれる、いつ聴いても。最後まで観れるにこしたことはないが、こんなに熱いロックが初っ端から鳴り響くのならば、安心して次へ移動できる。今日も暑い、いや熱い1日になりそうである。

SCOOBIE DO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

SCOOBIE DO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

13:00・BOHEMIAN GARDENにて、SCOOBIE DO。宮本浩次は黒スーツだが、コヤマシュウは白スーツ。初日に偶然出逢えたドラムのMOBY、そしてギターのマツキタイジロウ・ベースのナガイケジョーもビシッとスーツを着ている。奇しくもコヤマも「ヘイ! エブリバディ!」と叫ぶ。ロックンローラーにスーツで「エブリバディ!」と問いかけられて、身震いしないロックンロールラバーはいない。『RSR』でスクービーを観るのは初めてだが、関係性が深いことは随分と前から知っていた。メンバーが北海道出身というわけでもないのに、事前の盛り上げトークイベントに出演したり、出番予定はないのに急遽入場口でウェルカムアクトとしてライブをしたりとさまざまな情報が入っていた。事務所もレーベルも自主のインディーズバンドだが、まず、そんなことは関係ないのだろう。

SCOOBIE DO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

SCOOBIE DO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

ライブが格好良いか格好良くないか、『RSR』を愛しているか愛していないか、そんな単純なことなのだろう。想像以上にスクービーと『RSR』の相性は抜群すぎたし、観客の入りも心配していたが完全な杞憂に終わった。昼イチであろうと、離れたステージであろうと、格好良かったら観に来るのだ。数字や規模という概念だけでは辿り着けないロックンロールの威力を知れた時間。

KALMA ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

KALMA ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

13:30過ぎ、def garageへと急ぐ。地元・北海道出身2000年生まれ3人によるKALMAが念願の初出場。彼らは高校生時代から実力を認められて、その頃からフェスへも出場していたが、『RSR』には出演が出来ていなかった。畑山悠月(Vo.Gt)とインタビューで逢う度に、彼が石狩出身で家から自転車でも行ける距離であることを聞いていたし、昨年の『RSR』では観に来ていた畑山にばったり出くわしたりもして、やはり自分が出たいという話も聞いていた。それだけに絶対に観なければいけないと思っていた。バンド10年やってきた中で一番夢見たことであり一番幸せなことだと話すが、ずっと悔しかったとも話す畑山。

「def garageに立ったからにはSUN STAGE立つまではバンド解散できない」

まずは小さなステージに立ち、次は大きなステージへという意気込みはよく聞くし、まっすぐなフェスドリームだと感じていた。が、畑山の解散という禁断の言葉を出してまでの想いは重い。その腹の括り具合には痺れてしまう。そこまでの重い想いの覚悟があるだけに、畑山と斉藤陸斗(Ba.Cho)の出身校である石狩翔陽高校・吹奏楽局の生徒たちを呼び込んでの「夏の奇跡」は爆発しまくっていった。そして、何よりも楽しそうで嬉しそうに希望に満ち溢れていた。重い想いを胸に秘めてるからこそ、キラキラと光り輝けるのだろう。本番後、BOHEMIAN GARDENで遭遇することができたが、今までの想いを全てぶつけることができたようで、すっきりとした表情をしていた。来年からもずっと出続けて欲しい。

KALMA ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

KALMA ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

私の『RSR』ライブレポートは地元・北海道出身、初年度から出演し続けているなどなど、『RSR』との深い関係性や濃い物語性を持っている方々について書くことが多い。今年は25回目ということもあり、EZOISTやKALMAなど、どうしても北海道出身に目がいってしまう。

柴田聡子(BAND SET) ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

柴田聡子(BAND SET) ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

14:30・BOHEMIAN GARDEN。柴田聡子。初日以上に暑いこともあり、音で浮遊して涼しく踊りたいなと観に行く。そうするとMCで「札幌から来ました」とひとこと。あっ、そうだ。北海道出身だった。北海道から修学旅行で京都に行って、わざわざ磔磔を観に行ったのだったと思い出すも、呼び寄せられる引き寄せられるということは、そういうことなのだろう。KALMAと柴田それぞれライブもMCもアプローチは全く違うが、北海道出身で『RSR』に出たかったという初出演という意味では同じだ。ジャンル関係なく気持ちは音にも表れる。

BEGIN ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

BEGIN ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

15:50・RED STAR FIELD。「FRIDAY NIGHT SESSION」出演者が大トリを務めた人ばかりであったように、過去に大トリを務めた人も気になる。BEGINは、2022年のコロナ禍中止を2年経ての大トリ。明るい楽しい雰囲気で和ませつつも、この国にとって『RSR』というフェスを開催することも大切だと真剣な表情でも話してくれた。今年は明るい昼下がり、「まぢで『ライジングサン』は素晴らしいよ」と、35周年企画として地元石垣島で海の家をやっていることも踏まえて笑顔で話す。誰かが誰かの為に楽しむ場を用意してくれているわけだし、それは平和だから可能なわけで。「オジー自慢のオリオンビール」で、何のレクチャーも無いのに自由にカチャーシーを踊っている多くの観客の姿は、これぞLOVE&PEACEであった。

ライブ終わり、そのままRED STAR FIELDに残り、『RSR』オフィシャルカフェ「RED STAR CAFE」の椅子に座る。昨日の深夜営業スナック「レッドスター」の喧騒を思い出していると、旧知のスタッフが寄ってきて、「こんなところレポートするところじゃないよ!」とジュークを飛ばされる。いやいや、こんなところと言われるところこそライブレポートするべきだし、PROVOもそうだが、大きなステージだけじゃなくて、端々隅々まで行き届いているのが、『RSR』の大きな魅力。16:45。SCOOBIE DOのベースマンことナガイケがベースに合わせて小言をつぶやいたり、寺田寅彦の文章を朗読していく。前衛的なのに大衆的な謎めいた魅了する力。よく考えたら、「RED STAR CAFE」の出し物全てに共通することでもある。後ろ髪をひかれながらも移動する。

サニーデイ・サービス ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

サニーデイ・サービス ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

17:30・BOHEMIAN GARDEN、サニーデイ・サービス。17:00過ぎからメンバー3人が緩やかにセッションをするかの如くサウンドチェックをする。時間になり、「サマーソルジャー」がゆっくりと鳴らされていく。サニーデイは1999年初年度の大トリであり、当時も演奏したナンバー。しかし、その時は終盤に演奏されたが、今年は1曲目。そこからは7月に発表されたばかりのニューアルバム「サニービート」から若々しく荒々しいナンバーが連発されていく。27年の月日を重ねているのに、当時よりフレッシュになっている気すらする。曽我部恵一(Vo.Gt)は絶叫して、ギターを激しく弾く度にゴツゴツとした音もする。

<そっちはどうだい うまくやってるかい こっちはこうさ どうにもならんよ 今んとこはまあ そんな感じなんだ>

1995年7月に発表されたシングル「青春狂走曲」。当時より荒々しく生々しく聴こえてくる歌詞。当時は当時の響き方があったが、30年後の現在にはまた違う響き方になる。昨夜のEZOISTでも感じたが、当時生まれていないロックキッズたちが踊り叫んでいる。最近は中国ツアーも成功させたサニーデイだが、『RSR』は海外からの観客も多く、観客エリアには、そんな人々の姿も。初日は、くるりの音楽マニアックさに惹かれたアメリカ人の青年の姿も見かけたが、自分が普通に20年や30年と聴いている音楽が海を越えて多くの人に聴かれているのは感慨深い。

サニーデイ・サービス ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

サニーデイ・サービス ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下聡一朗)

「逢えて最高! 言葉はないよ!」

曽我部の言葉通りである。ラストナンバー「セツナ」は後半延々とセッションが繰り広げられ、そのグッチャグッチャさに巻き込まれていく観客たち。ライブ後の曽我部に挨拶することができたが、唇を真っ青にしながらも終始笑顔だったし、「いききって終わり!」という言葉は潔すぎた。SCOOBIE DOのコヤマやマツキ、エレキコミック やついが興奮しきって曽我部を労う。何歳になっても本気でいききっている人には感激してしまう。

八田ケンジ ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=上野公人)

八田ケンジ ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=上野公人)

RED STAR FIELDへと戻り、再び「RED STAR CAFE」へ。18:30頃、八田ケンヂの弾き語りライブを覗く。北海道出身で1980年代からKENZI & THE TRIPSなどで活動する伝説のパンクロッカー。後ろでは中村達也がドラムを叩いている。スタッフに話を聴くと急遽飛び込みで参加したみたいであるし、大体のブッキングが2〜3日前に決まっているという。商業的大型フェス内にミニステージとはいえ、フリーキー過ぎる出し物が共存しているのは奇跡に近い。ザ・スターリンのパンクロックアレンジを彷彿とさせる「仰げば尊し」が聴けて、それだけでもめっけもんでドキドキする。ケンヂは61歳で達也は60歳の同学年。ロックンロールに年齢なんて関係ないって言いたくなってしまう。

ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理

ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理

19:10・RED STAR FIELD、ザ・クロマニヨンズ。1999年初年度には↑THE HIGH-LOWS↓として、甲本ヒロトと真島昌利が出演している。ヒロトは62歳、真島は63歳。八田ケンヂ中村達也からも思ったが、最早年齢なんて記号にしか過ぎない。現在、ヒロトは足を骨折しており、この日も松葉杖で登場したが、ピョンピョン跳ねていたし、上半身裸だし、赤いTシャツをパンツみたいに履いているし、もう存在自体がロックンロール。

撮影=柴田恵理

撮影=柴田恵理

「凄く幸せです! 昆虫大好きなので、たくさんお友達が来てくれて嬉しいです!」

「還暦を過ぎても無邪気」とメモに残したが、還暦とかどうでもよくて、無邪気な気持ちのままロックンロールしているだけ。松葉杖がないと歩けないわけだから、本来ならば威力はダウンするはずなのに、そんなの1ミリも感じない。動きだって限られているはずなのに、ただそこにいるだけで絵になり、輝きを放っている。たくさん人が集まり過ぎて、観客エリア後方にあるスクリーンの前にも体育座りをした観客で満杯。野外ライブもしているし、野外上映会もしているしみたいな二段構造だが、観ているものは一緒で、生で観ても映像で観てもエネルギーがガンガンに攻めてくる。どちらで観ても生音であることに変りもない。

撮影=柴田恵理

撮影=柴田恵理

「今年も来れて良かった。何年ぶりかはわからんけど楽しいな。独特の雰囲気を持ったフェスだと思います」

ヒロトは多くを語らない。全部ロックンロールで示してくれる。でも、たまに語った時は、どんな短い言葉でもびっくりするほど的を得ている。観ている時は、あの曲をこう書こう、この曲をああ書こうなどと一生懸命考えているくせに、いざ書くとどうでも良くなる。エイトビートのロックンロールがナンバーワン。それだけでいいじゃないか。

撮影=柴田恵理

撮影=柴田恵理

これまたRED STAR FIELDに居座り、「RED STAR CAFE」で怪談を聞くことにする。20時。そういや昔、『RSR』で稲川淳二さんが怪談を行なっていて、一度でいいから観たいと思っていた。結局、『RSR』では観ることができなかったが、こうやって下の世代が継承されている。やついも稲川について触れていて、その偉大さを重ねて感じる。やついは怪談だからって変に着飾ってオープニングトークをしたりせず、いつも通りバカみたいに大声で盛り上げている。突き抜けたロックンロールを浴びたばかりなので、突き抜けた芸人のバカバカしさを浴びて至福である。最初から怪談ムードよりも、最初バカバカムードだったのが怪談ムードへと急にスイッチが入っていくから、その緩急にヒヤッとしてしまうわけで。こうして本格的に真夜中の『RSR』がやってくる。

©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=上野公人)

©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=上野公人)

21:00の少し前。SUN STAGE近くにいるのに、EARTH TENTからキュウソネコカミの「イエイエイエ!!!」と、つまりは「家」がかなりの爆音で聴こえてくる。出番は21:00からなのにサウンドチェックから気合いが入りまくっているのがわかる。キュウソと言えば、フードエリアに「鉄板キュウソ野郎!」という屋台を出店していた。大阪は難波の打ち上げでもよく使われる「鉄板野郎」とのタッグで、極楽パイネ・浄土キーマカレーのメニューが並ぶ。

撮影=SPICE編集部

撮影=SPICE編集部

今までバンドカラーを打ち出した出店が無かったわけではないが、ここまでドカーンとバンドとのタッグ感を出すのは珍しい。名前貸し的なコラボメニューは一般的になってきたが、今後、バンドが地元の店などとタッグを組んで出店するのが一般化するかも知れない。そういう意味ではフェスにおける新たなバンドの魅せ方のひとつになった気がする。もちろん味も美味しゅう御座いました。さて、21:00。SUN STAGE。椎名林檎だが、キュウソと時間が丸被り……。だからこそ、あれだけサウンドチェックからブチかましていたのだなと納得する。

椎名林檎 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

椎名林檎 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

21:00・SUN STAGE、椎名林檎。静けさが漂うステージに着物姿で笠を被った林檎とバンドメンバーたちが登場。1曲目「丸の内サディスティック(EXPO Ver.)」。英語と日本語が入り混じり歌われる。原曲は1999年発表の大名盤『無罪モラトリアム』収録だが、その夏の『RSR』初年度に出演している。アレンジは変われど、相も変わらず格好良いナンバーだが、言い方を変えれば、同じ曲でも常に変化・進化を遂げて、その時代の今が一番格好良いというのは究極のあらまほしい姿。誰もができることじゃないし、そう考えると『RSR』1999初年度の面子は凄まじすぎるし、その面子が今も最新最高の姿で出続けているのは奇跡的とも言える。

椎名林檎 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

椎名林檎 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

椎名林檎の世界に夢中になり魅了されっぱなし。涼し気であり、とても良いメロディーで聴き入る「ありあまる富」。曲が終わりかけで、たっぷりたくさん聴けているな、そろそろラストナンバー近いかなと思うやいなや、言うまでもなく良い意味での事件が起きた。

「この世は無常!」

曲が終わった途端、獣のような野太い叫び声。宮本浩次、大登場! 昼間と同じく黒のスーツ・白いシャツ・黒いネクタイ姿。大登場した瞬間の大歓声はとんでもなかった。地響きとでも言おうか、とにかくド迫力……。特に何も知らされてなくての突然なだけに、その衝撃は驚異的であった。林檎と宮本が対峙するだけで絵になりすぎる。お互い名前も呼び合い、それだけで気持ちが高まりまくる。髪の毛グッシャグッシャにして、ジャケットを脱いでブンブン振り回しまくり、舞台に転げまわりそうな勢い。ついつい林檎も笑みを浮かべているようにすら見える。「獣ゆく細道」、こんな全てをひっくり返すような激烈猛烈なコラボレーションは世にも稀なこと。ええもん観させてもらいました……。

椎名林檎 x 宮本浩次 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

椎名林檎 x 宮本浩次 ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

全てが終わり、呆然とSUN STAGEの近くで立ち尽くしていると「イエイエイエ!!!」と1時間近く前に聴いた爆音が耳に突き刺さってくる。キュウソ、まだやってんだ!という驚きと「家」を何回やっているんだという大驚きで思いがけず笑ってしまう。ジャンルに捉われない多種多様な音楽が広大な大地で共存共栄しているのは『RSR』ならではである。

キュウソネコカミ ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=藤川正典)

キュウソネコカミ ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=藤川正典)

23:50・def garage。DYGL。秋山信樹・下中洋介・嘉本康平・加地洋太朗というトリプルギターとベースの4人が前方に並ぶ。世界各国でも音を鳴らしてきたこともあって、どこで鳴らしても強い。サポートドラムである鈴木健人(never young beach)のドラムも爆裂している。この時点で8月13日にリリースされたばかりのニューアルバムから全部やっているのも粋である。威風堂々とした5人の佇まいは、ずっと観ていたくなる。ここでふと秋山が言う。

「今年は戦後80年です。戦後100年も200年も武器の替わりに楽器を弾いていたらいいなと思います」

DYGL ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=佐藤健太郎)

DYGL ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=佐藤健太郎)

戦後200年は生きていないかと笑っていたが、佐野元春もそうであった、こういうことを何気なくさらっと言えるのが良い。そして、驚嘆の次のアルバムからの新曲へ。無論のこと何も次のアルバムについては発表されていないので、3日前にニューアルバムがリリースされたばかりで次のアルバムの話をしていること自体が信じられないし、未発表でありながら、ぶっ飛んだ強度の曲であることに度肝を抜かれる。ラストナンバーではベースの加地がサックスを吹き鳴らしていて、それも鮮烈であった。あっという間に時間は過ぎ去る。もっと観ていたかったロックンロールライブ。

NOT WONK ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

NOT WONK ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

DYGLの次にNOT WONKが同じ舞台に上がるだなんて、この流れを考えた人は天才すぎるし、何よりも深夜だというのが尚更最高である。加藤修平はサウンドチェックで松山千春「長い夜」を歌うが、昨夜の「EZOIST」の記憶が蘇ってくる。そして、速いパンクチューンもぶちかます。深夜1:00からの本番では静かに攻める感じで入り、でも、しっかりと大爆発もして、地鳴りが起きている様にすら感じる。音の凄みに知らず知らずの内に笑ってしまう。数々のバンドで活躍する本村拓磨のベースは百戦錬磨であり、とにかくアグレッシブで、コーラスでも叫びまくっている。

「かっこいいね! 最近想ったけど、一番かっこいいかも!」

加藤の言葉にも如実に出ている、その自信が。遠くで歩いている観客にも「早くこっちに来てみなよ!」と喋りかけていたが、この気合いが入りまくったライブは観ないとほんまに損だと私も心から思っていた。9月23日(火祝)に地元・苫小牧の市民会館で開催する『FAHDAY 2025』についても話す。

NOT WONK ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

NOT WONK ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=山下恭子)

「祭やるんですけど来てください。本気でふざけるんで。真面目にめちゃくちゃふざけるんで」

本気で真面目にふざけることは何事においても大事であり、その核となる精神を直接訴えかける。そして、こう続けた。

「昭和から残ってるもので遊ぶのが嫌で。自分で作りたくて。全部壊して自分で作り直したら愛着を持てるから、そういうことしよう」

町興し村興しというよりは町自体村自体をゼロから作る感覚に近いし、そんな大変なことに不敵な笑みを浮かべながら淡々飄々と立ち向かっていく姿は頼もしすぎる。最後の曲が終わった途端、加藤は『FAHDAY 2025』のポスターを貼り付けたリュックを背負って観客フロアへと降りていき、深夜2:10からDJをする場所であるgreentopeへと向かう。観客をかき分けて、かき分けられた観客はそのまま加藤の後ろへとついていく。もれなく私もその内のひとりとしてgreentopeまでお供する。観客と語らい乾杯をして、時間がきたらDJブースへ。単に観客との距離が近いというのではなく、観客を巻き込んで多くの人と一緒に広げていくという確固たる心構えだと受け取れた。

東京スカパラダイスオーケストラ ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

東京スカパラダイスオーケストラ ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

同じ時間帯、RED STAR FIELDからは東京スカパラダイスオーケストラのホーンの音が響き渡ってきていた。駆けつけた編集者から聞くところによると、昼夜だけでなく深夜にも宮本浩次が大登場して、その上、ムロツヨシまで大登場したという。そういえば、去年は菅田将暉も大登場していた。いつだってスカパラは、まだ見ぬ多くの人々と『RSR』との懸け橋の役割を果たしている。来年は誰を連れてきてくれるのか。その時は、この目で必ずや目撃したい。にしても、メジャーで活躍するベテランとインディーズで爆走する若手を同じ時間帯にブッキングする『RSR』は、加藤の言葉を借りるならば本気で真面目にふざけている。

©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=かわどう)

明け方4:00前。いよいよSUN STAGE大トリの時間が迫ってくる。宮崎朝子(Vo.Gt)と松岡彩(Ba)はサウンドチェックへ。ふたりのギターとベースがより際立つドカドカしたロックンロールドラムが聴こえてくる。ふと見るとthe dadadadysのyucco(Dr)がサポートドラムで入っていた。彼女は北海道出身である。ライブ終わりに話すことができたが、北海道出身バンドマンにとって『RSR』大トリの舞台に上がれることがどれだけ特別かが伝わった。メンバーとサポートメンバーの三人一丸となって臨んでいる。まだ始まってもいないのに、胸にくるものがある。

1曲目「恋する」からギターカッティング&うなるベース&叩き込まれるドラムと三位一体感がたまんない。宮崎がギターを持ったまま右手で鍵盤を可愛く弾いて、気がつきゃ怒涛の勢いで突っ走る「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」。後、この日は「君と夏フェス」「夏の恋人」「夏恋注意報」と夏歌が聴けたのも嬉しかったが、SHSHAMOの夏歌は明るく楽しいだけではなく哀愁や気怠さもあるからこそ、リアリティーがあるのだなと振り返れた。

「頼まれた時は日和ったよ」

「歴史あるフェス、歴史あるもの。生半可な気持ちで立ってはいけないステージ」

怖さや不安を隠さず打ち明けて、それでも観客みんなと朝を観れるのが嬉しいと語りかける。その実直な繊細さはスローバラード「ハッピーエンド」からも感じた。スクリーンには、ざらつきのある画質でひまわりが映し出されて、センチメンタルでありノスタルジックでもある。憂いある感情を歌という真っ向勝負で届けていく。

SHISHAMO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=堤 瑛史)

SHISHAMO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=堤 瑛史)

明け方4:30。すっかり周囲は明るい。宮崎いうところの「『ライジングサン』状態!?」。何度体験しても、こんな景色とこんな時間はほかにはない。特別なフェスである。そんな特別で歴史あるフェスは25回目にして、女性のみのバンドが初めて大トリを務める。「女のバンドは初らしいです。ちょっと嬉しくない?」という宮崎の表現も小粋であった。普段は女も男も気にしていないこと、ガールズバンドと名乗らないのも反抗とかではなくて、ボーイズバンドとは呼ばないからという至ってシンプルなものと話す。

「私たちがどうかというより、意味がある感じがして」

嬉しさを表しながらも、自分が言いたいことが、ちゃんと観客にも理解してもらっているかも丁寧に確認する。特別な感情を普通に落ち着いて伝えてくれるから、我々は共有・共感できるし、より好きになっていく。SHISHAMOが大トリを務めることは、極めて意義があると噛みしめる。

個人的には「いろんな世界がある いろんな今日がある」と歌い出される「カラフル」が心に残った。

<色とりどりのウィークエンド 今日がどんな色をしてても 僕らこの惑星で一緒に朝を迎える>

こんなに今という時間を切り取れる歌詞があるだろうか。カラフルな光に照らされたステージを観ながら夢心地になる。

夜が明けた。素晴らしい時間は瞬く間に終わっていく。

「次が最後の曲になります。次の曲が終われば、また来年の『ライジング』に向けて新しい1日が始まります。続くことを願ってスペシャルゲスト!」

或る意味、Mr.RISINGであるスカパラホーンズが呼び込まれる! 華に華が加わって、ますます華やかになる。谷中の「やりましょう!」という渋い声を皮切りに「明日も」へ。朝5:00で疲労もたまってきているはずなのに、7人のエネルギッシュなライブで気分爽快、元気いっぱいになれる。アンコールはなく、この曲で終わったのも誠に清爽な気持ちになった。

28年目、26回目を迎える『RISING SUN ROCK FESTIVAL』は、2026年8月14日(金)・15日(土)に開催される。その魂は北の大地で永遠に継承され続けるだろう。

SHISHAMO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=堤 瑛史)

SHISHAMO ©️RISING SUN ROCK FESTIVAL(撮影=堤 瑛史)

取材・文=鈴木淳史


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RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO【After Movie】アフタームービー

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