福士誠治が“凶犬”に変貌! 舞台『ホテル・カルフォリニア』稽古場レポート
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」 福士誠治 写真=鈴木久美子
ギャグありエロありバイオレンスあり! エネルギー全開の初通し稽古
福士誠治といえば、今最も注目を集める表現者だ。TVドラマ、映画と引く手あまたのなか、2015年は『スーパー歌舞伎II ワンピース』でエースを演じるなど、舞台に並々ならぬ熱意を注ぐ福士。その最新にして主演舞台が、『ホテル・カルフォリニア』。2月4日~14日まで紀伊国屋ホールにて幕を開ける。福士が演じるのは、手のつけられないヤクザ役。こんな福士誠治、観たことない! ――稽古場でも、ギラギラ鋭いオーラを放っていた。
写真=鈴木久美子
物語の舞台は、北海道の山奥。開業を間近に控えた「ホテル・カルフォリニア」(※カ「リ」フォ「ル」ニアではない)。土砂崩れにより、閉じ込められた従業員。権力を振りかざす上司・岩崎に反旗を翻し、自由どころか自暴自棄な行動に出る。そこへ、銃をぶっ放すヤクザ、クマ、なぜか鎧武者まで現れ……!? スピーディでエネルギッシュでとんでもない展開に、通し稽古でさえ圧倒され、ぐいぐい世界に巻き込まれていった。
取材当日は、初めての通し稽古の日。休憩中は、福士が隣に座る山田悠介と談笑したりと、ゆったりムード。しかし、いざ通しが始まると、顔つきとオーラが変わる。仮組のセットと本番の違いを念入りに確認する福士に、脚本・演出の大堀光威が「やりながらさぐっていきましょう」と応え、通し稽古スタート。
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」 写真=鈴木久美子
空気感はすでに、完璧に仕上がっていた。たとえば従業員役は、男3人女3人の6人組。男子コンビ・浜崎(町田水城)&竹田(山岸門人)が下世話に盛り上げ、ヘビメタ好きの後藤(中尾ちひろ)が強気でツッコミ、純情な太田(天乃舞衣子)がオドオド。天然小悪魔・伊藤(今野杏南)がほわんと癒したかと思えば、虹男(太田基裕)がコスプレ癖を開花させる……。
太田基裕は今回、多彩な女装を披露。写真を拝見したが、女性陣と並んでも違和感のなさすぎる美しさ(稽古でも観たかった!笑)。太田含め、かなり着替えの多い舞台なので、目が飽きることがなさそうだ。
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」今野杏南 写真=鈴木久美子
また、見どころの一つである「エロ」を体現するのが、伊藤役・今野杏南。男性全員から狙われ、「イヤン♪」とかわしつつ、フェロモンがダダ漏れ。稽古ではTシャツ姿で、裾から覗く腰の細さに、女の私でも「か、かわいい~」(心の声)。本番ではさらに露出の激しい衣装なので、ご堪能を!
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」(左)なだぎ武、(右)福士誠治 写真=鈴木久美子
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」山田悠介 写真=鈴木久美子
そして、もう一つの魅力である「バイオレンス」を担うのが、ヤクザ3人組。福士演じる篠崎哲也と、弟分の健二(山田悠介)、篠崎と犬猿の仲である池田(なだぎ武)だ。篠崎VS池田の険悪で粗暴なやりとりは、観ているこちらがハラハラするほど。一方で、「俺のポリシーのために死んでくれ!」と篠崎が叫び、健二が「アニキー!」と応える、ヤクザ的兄弟愛が印象的だった。
初めての通し稽古ということで、ハプニングはご愛嬌。アクション中に動きをしくじり、福士が「間違えた、ごめん!」と謝りながら強引に続けたり、なだぎがアドリブでごまかしたりして、笑いを起こす一幕も。緊張のなかの柔らかな空気が、ギャグ要素も強い本作には必須のものなのだろう。
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」(左)平田敦子、(右)吉増裕士 写真=鈴木久美子
舞台「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」 松尾伴内 写真=鈴木久美子
コミカルな芝居で笑いを誘う吉増裕士(岩崎役)や、その名も「おばちゃん」役で存在感たっぷりの平田敦子など、ベテラン勢が厚みを加える。金次郎役の松尾伴内のヘロヘロおじいちゃん芝居も、見事にハマっていた。
張りつめすぎない空気感は、演出・大堀の人となりが影響していると、あるスタッフは言う。大堀は、大人計画で演出助手を務めた才器。大人計画的なエッセンスも散りばめられているので、大人計画ファンにも足を運んで確かめていただきたい。
その大人計画の主宰・松尾スズキからは「すぎむらしんいち先生の幻の傑作! なぜ、今舞台化?」とのコメントが寄せられているが、大堀が熱烈な原作ファンで、実現したそうだ。原作漫画は、『ヤングマガジン』に連載された傑作クライムアクションギャグコミック。サブカル界に大きな影響を与えた鬼才・すぎむらしんいちの最高傑作の一つと称される。
とはいえ原作が発表されたのは、四半世紀程前。若い世代には知らない方もいると思うが、原作を知らなくても十分楽しめる。むしろ知らないからこそ、純粋に演劇として入り込むことができる。いわゆる2.5次元ファンの方にも、原作付舞台の新たな観方、演劇そのものの面白さを発見してもらえる舞台ではないだろうか。
原作ファンには、キーワードである「クマ」がどう描かれるのか、ご期待を。稽古でも、あ~んなクマや、こ~んなクマが登場!? ほかにも、本番までシークレットの要素がいくつもあるらしい。本番を待ち焦がれずにはいられない稽古場だった。
(取材・文=荒川陽子)
「ホテル・カルフォリニア~HOTEL CALFORINIA~」
日時:16/2/4(木)~16/2/14(日)
会場:紀伊國屋ホール (東京都)
原作:すぎむらしんいち
脚本・演出:大堀光威
出演
福士誠治
太田基裕
山田悠介
町田水城 (はえぎわ)
山岸門人
今野杏南
天乃舞衣子
中尾ちひろ
中西広和
井上 尚
菅原渉太
菊地英登
月田悠貴
平田敦子
吉増裕士 (ナイロン100℃・リボルブ方式)
なだぎ武
松尾伴内
公式サイト:http://www.nelke.co.jp/stage/HOTEL_CALFORINIA/