「本当に楽しい!」plenty、ツアー国内最終公演で魅せた”いのちのかたち”
plenty /撮影=柴田恵理
plenty ワンマンツアー “いのちのかたち” 2016.02.13.Sat EX THEATER ROPPONGI
「我々の弱点は、どんなにステージ上で楽しんでいても、それが全然楽しんでいるように見えないというところで(笑)。みなさん気を遣っているようでしたら、気を遣わずにね、好きなように楽しんでもらえればいいかなと思います!」(江沼郁弥/Vo,G)
昨年リリースした正真正銘の最高傑作『いのちのかたち』を掲げたワンマンツアーを行なったplenty。この後に台湾公演も控えているのだが、ツアー14本目となる国内での最終公演が、2月13日(土)、EX THEATER ROPPONGIで行なわれた。
オーディエンスの拍手に迎えられた3人は、ドラムセットの前で向かい合い、「心には風が吹き 新しい朝をみたんだ」からライヴをスタートさせた。軽やかに、それでいて熱をこめて音を重ねていき、続けて「プレイヤー」を披露。中村一太(Dr)の踏むバスドラムが、鼓動が脈打つように力強くフロアに響き渡れば、新田紀彰(B)は時折2人に目を配らせながら、俯きがちに黙々とプレイする。そして「こんばんは!」という江沼の一言の後、「シャララ」へ。心にふつふつと湧く、やりきれなくてもどかしい感情を、アウトロでは思いっきり吐き出すかのようにノイジーに叩きつけた。
plenty・江沼郁弥 /撮影=柴田恵理
曲を終えると「plentyです!」と江沼が一言、それを受け取って「ありがとうございます!」と中村が話し始めた。「楽しいです。今はただ曲を聴いてほしいという気持ちでいっぱいなので、楽しんでいってください」。そこから江沼が「行きます!」と強く宣言すると、観客全員が固唾を飲んでステージを見つめ始めたが「いや、リラックスしてていいんですよ、全然(笑)」とフロアに投げかけ、笑い声があがった。そこから「子どものように」を披露。以前行なったアルバムインタビューで、『いのちのかたち』はグルーヴがキーワードだったという話があったが、まさにアルバム制作で培ったものが発揮され、自然と身体が横に揺れる心地よいサウンドを届けていた。
また、最先端の照明設備が整っているEX THEATER ROPPONGIだが、ライティングはド派手にめまぐるしく動き回るということはあまりなく、かなりシンプルなものになっていた。しかし、スポットライトの当て方で独特な陰影をつけたり、たとえば、<まっかな血>という歌詞がある「口をむすんで」では深紅に、<カラフルな雨>と歌う「空が笑ってる」では虹色にと、綴られた言葉に合わせて会場を彩ったりと、曲の世界へより入り込める美しいものだった。
plenty /撮影=柴田恵理
そんな没入感は「よい朝を、いとしいひと」からさらに深いものになり、『いのちのかたち』で歌われている“愛”や“いのち”というテーマに、より肉薄していく。「スローモーションピクチャー」では、中村がドラムを叩かずにサンプラーと向き合ってミニマルなビートを紡ぎ、江沼がそこへギターを重ねて穏やかに歌うと、そのまま続けて「いつかのあした」へ。前述のインタビューで「Portisheadが〜」という話も出ていたが、原曲ではアコギ1本の弾き語りで構成されていたこの曲も、それこそトリップホップ的であり、ポスト・ダブステップ的なアプローチにアレンジされていて、こころの奥底までゆっくりと静かに潜って行くような音像に磨き上げられていた。そしてその最深部で柔らかに「あいという」を奏でると、江沼がギターを力強くかき鳴らし始め、「ドーナツの真ん中」「愛のかたち」と、外へ向かって強烈なエネルギーを一気に放出し始めた。
中でも「愛のかたち」では、サンドアートパフォーマンスグループ・SILTによるライヴドローイングが、ステージ背面に張られたスクリーンに照射された。4つの円から始まったそれらは、お互いを支え合って動く歯車になり、それが崩れて行った後にシャボン玉が現われ、ゆらゆらと空に昇っていくと、それらがはじけて消えた後に暗闇が訪れるものの、気づけばそこは宇宙空間で、遥か彼方の星雲に急接近して──といった具合にめまぐるしく形を変えて行き、最後には光り輝く惑星と、へその緒で繋がれた赤ん坊が映し出された。目に見えるわけではなく、言葉で言い表すのは難しい。でも、それは今ここに確かに存在していて、だけどそれもいつか消えてなくなってしまうことをわかっている。そんな“いのち”や、それを慈しむ“愛”を歌った『いのちのかたち』を象徴する1曲と、その場に形が残ることなく一瞬で移り変わって行く刹那的なものでありながら、そこに愛おしさを感じさせるサンドアートの融合は、本当にこれしかない!と断言できるほどのはまり具合で、本当に美しいパフォーマンスだった。
plenty /撮影=柴田恵理
そして「夜の雨」から、3人のアンサンブルがダイナミックに弾けはじめる。荒ぶりまくる新田のベースが牽引して行く「ACTOR」や、中村がトライバルなビートを躍動感たっぷりに叩き上げた「above」など、本編ラストの「さよならより、優しいことば」へ到達するころには、会場全体が多幸感に満ち溢れていた。そんなサウンドを放つ3人は、本当にいい笑顔を浮かべている。
plenty・新田紀彰 /撮影=柴田恵理
そう。この日のライヴは、アルバムの世界観にどっぷり浸れたという側面ともうひとつ、plentyの3人がとにかく楽しそうに演奏していたところが印象的だった。アンコールで再び姿を現した彼らは「東京」「体温」「人間そっくり」など、「やりたい曲をどんどんやっていきます」という発言通り、矢継ぎ早に曲を繰り出して行く。
「好きじゃないって言うとカドが立つけど、今まではライヴって、まぁ嫌いじゃないんだけど……っていう。でも、今回のツアーは楽しくてさ。まったく悪気はないんだけど、アンコールの曲がどんどん増えちゃって。“今回は二部構成だ”なんて言われたんだけど、まぁそれぐらい楽しいです(笑)」(江沼)
plenty・中村一太 /撮影=柴田恵理
レポートの冒頭に書いたのは、江沼がこの日のMCで話していた言葉なのだが、もちろん前半戦からその様子はあったものの、特に後半戦〜アンコールに関しては、「全然楽しんでいるように見えない」という雰囲気は、微塵もなかった。すさまじく跳ね上がるビートを叩く中村からも、フロアをじっくりと見渡す新田からも、頭を振り乱しながらギターをかきならす江沼からも、とにかく彼らが放つ一音一音、そして一挙手一投足から、音を重ね合わせる歓びがはっきりと伝わってきた。江沼にいたっては、曲を終えた後に「ははは」と堪え切れずに笑い声をあげる場面もあった。そんなエモーショナルな演奏を続ける3人に誘発されるように、オーディエンスの動きも徐々に大きくなり、「最近どうなの?」では、ステージ前に歩いてきた江沼の先導からシンガロングも発生! 「おもしろいこともあるもんですね!」と江沼は、満面の笑みで興奮気味に話し始める。
plenty・江沼郁弥 /撮影=柴田恵理
「本当に楽しい! なんか、どっかにボーン!ってすっ飛んでいきそう。なんかもうさ、音楽って本当にいいよね。音楽の未来は明るいと思うよ、俺は。また我々と遊んでください。ははは! それじゃまた、お元気で!」(江沼)
plenty /撮影=柴田恵理
これまでのplentyのライヴは、そこで鳴らされる音楽を、演者も観客も静かに噛み締めあって分かちあうような柔らかい空間が広がっていたし、もっと振り返れば、そもそも彼らはアンコールをやらないバンドだった。それがこの日は「蒼き日々」までアンコールで全9曲を披露するというまさに2部構成なライヴを繰り広げ、最後には「音楽の未来は明るい」という力強い発言まで飛び出している。今までの彼らを知っているリスナーからしたら相当驚く光景だろう。
ただ、その様子から今のplentyがかなりいい状態にいることがしっかりと伝わってきたし、そうなれたのは、きっと彼らが『いのちのかたち』という作品を作り上げることができたからではないだろうか。自分達が描きたかったテーマや音像をしっかりと形に落とし込み、それらを表現することで手にした演奏力から、過去に発表した楽曲にも新しいいのちを宿らせることができて、それを多くの人達と高い純度で共有することができた。どう考えても確実に新たなステージへと進むことができているのだ。ここから彼らは、自身が創りあげた、そしてこれから創りあげていく音楽で、リスナー達との新たなかたちを築いていくだろう。次のどんな作品が発表されるかはまだわからないが、音楽だけじゃなく、plentyの未来も間違いなく明るいことだけは、今はわかっている。
撮影=柴田恵理 文=山口哲生
plenty /撮影=柴田恵理
01. 心には風が吹き 新しい朝をみたんだ
02. プレイヤー
03. シャララ
04. 子どものように
05. 口をむすんで
06. 空が笑ってる
07. これから
08. よい朝を、いとしいひと
09. スローモーションピクチャー
10. いつかのあした
11. あいという
12. ドーナツの真ん中
13. 愛のかたち
14. 夜の雨
15. ACTOR
16. 砂のよう
17. above
18. さよならより、優しいことば
[ENCORE]
19. 東京
20. 体温
21. 人間そっくり
22. Laundry
23. 先生のススメ
24. 待ち合わせの途中
25. 枠
26. 最近どうなの?
27. 蒼き日々
"いのちのかたち(生命的形状)"
日時:2016年2月20日(土)OPEN/START 18:30/19:30
会場:台湾 高雄駁二 LIVE WAREHOUSE
料金:前売 NT$900/当日 NT$1,200
※オールスタンディング
一般発売日:2015.11.07 (土) 12:00〜 (日本時間 13:00〜)
問い合わせ:C10warehouse@gmail.com (日本語可)
livehouse HP: http://livewarehouse.tw/
会場: 静岡 Live House 浜松 窓枠
出演者:plenty / MAN WITH A MISSION
料金:スタンディング 前売 ¥4,300 (税込・ドリンク代別)
一般発売日:3月5日(土) AM10:00 ~