少年王者舘『思い出し未来』名古屋公演レポート

レポート
舞台
2016.2.23
少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

“時間”という感覚をいじり倒す「すごいモノをはらんだ」世界。

いつの間にか“私”がこの世界に生まれた驚きと、いつかこの世界からいなくなる時の切なさ。そんな「知らないけれど知っている」ような感情と、その時に見るかもしれない風景を演劇で幻視させる。…そんなことできるの? と思われそうな世界だけど、それを30年以上に渡って実現してきたのが、名古屋の奇才・天野天街が主宰する劇団「少年王者舘」だ。「自分を極限まで無意識に近づける」という聞くからに困難な作劇法を取っているため、最近は新作上演が途絶えていたけど、ついに6年ぶりの新作『思い出し未来』が名古屋で幕を開けた。

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

廃墟のような世界で、妖精や魑魅魍魎の類のような人々が、笑ったり怒ったり踊ったり倒れ伏したりする…というのが王者舘のフォーマットのようになっているけど、今回もそのような世界。少年アシタ(夕沈)を中心に、かしましい少女たちや怪しげな男たちなどの集団が、スラップスティックかつ意味ありげなやり取りを交わしていく。それぞれの台詞が尻取りの要領で延々とつながったり、「うった」という一言から、麻薬(打った)→バクチ(打った)→工場売却(売った)→ピストル自殺(撃った)とエピソードが連鎖していくなど、エキセントリックなほどの言語遊戯の妙が冴え渡る。

また名物となっている無機質的な集団ダンスやノスタルジックな音楽、プロジェクションマッピング(王者舘では「同ポジ」と呼んでいるけど)による空間の変化など、無心に観ていても充分に刺激的なシーンがてんこ盛り状態。特にオープニングで、バラバラの位置にいる役者たちに次々とスポットを当てる照明効果は、実は相当荒技なテクニックを使ってるそうだ。照明家の労力に報いるという意味も込めて、今後舞台を観る人は特に注目しておいてほしい。

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

そして今回のテーマとなっている「未来を思い出す」という感覚。過去~現代~未来へと流れていくしかないと思われる“時間”の感覚を徹底的に疑い、物語の中で時間軸をグチャグチャに入れ替えてみせるのが天野天街の常とう手段ではあるが、今回は特にその一点に焦点を絞ってみせたという印象だ。タイムリープや量子力学などのSF的・物理学的観点から時間のゆがみを表現したかと思うと、これから起こる出来事=“未来”が誰かの“過去”に影響を与えるという、仏教の「因果応報」の教えを逆転させたような一コマを見せたり。あるいは日替わりゲストを唐突に投入するという、劇中時間と現実時間を衝突させたその効果を楽しむような試みも。とはいえ通常の王者舘に比べると、登場人物が最小限ということもあって人間&背後関係が比較的わかりやすく、天野が宣言した通り「シンプルだけど(←あくまでも“通常の王者舘に比べると”であり、他の舞台に比べると充分複雑だ)すごいモノをはらんだ世界」になっていたと思う。

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

少年王者舘『思い出し未来』 撮影:羽鳥直志

最近物理学の世界で、宇宙の謎を解く大きな鍵となる「重力波」の初観測に成功したことが大きなニュースとなったけど、ある意味そのタイミングで上演されるのが、実にタイムリーだとも言える怪作だった。ただ名古屋公演では、もはや劇団名物にすらなっている天野の脚本の大幅な遅れのために、まだ盤石とは言えないような印象も正直あり。しかしこの後の兵庫&東京公演では、まさに本領発揮と言える舞台となっているに違いない(というかそう願いたい)。時間とは、宇宙とは、そして「今ここにいる“私”とは?」について、回答…とまではいかないけど、身体のどこかで了解するような感覚を得られるかもしれない世界に、立ち会ってみてはいかがだろうか。

イベント情報
少年王者舘 第38回本公演『思い出し未来』

《兵庫公演》
■日時:2月26日(金)~28日(日) 26日=19:30~、27日=14:00~/19:30~、28日=14:00~
■場所:アイホール(伊丹市立演劇ホール)
■料金:前売=一般3,000円 学生2,000円 当日=各500円増
 
《東京公演》
■日時:3月3日(木)~8日(火) 19:30~ ※5・7日=14:00~/19:30~、6日=18:00~、8日=14:00~
■場所:ザ・スズナリ
■料金:前売=一般3,500円 学生2,500円 当日=各500円増
 
<ゲスト出演予定>
【伊丹公演】
2月26日(金)19:30 サカエミホ
2月27日(土)14:00 サカエミホ/19:30 サムソン熊田
2月28日(日)14:00 月宵水
【東京公演】
公式サイト及びツイッターで確認を。
※ゲスト出演がない場合あり。

■公式サイト:http://www.oujakan.jp/

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