篠崎史紀(ヴァイオリン) 規格外の“巨大な室内楽”で、愉しきモーツァルト三昧

インタビュー
クラシック
2016.4.22
篠崎史紀

篠崎史紀

 “MARO(マロ)”ことNHK交響楽団第1コンサートマスターの篠崎史紀。来る5月、彼のもとに集まったスーパーオーケストラ(Meister Art Romantiker Orchester/頭文字を並べるとMARO。通称:マロオケ)が、モーツァルトの6大交響曲を一挙に演奏する。これは、2009年にマロの出身地の北九州音楽祭でデビューし、当地や大分、熊本で魅了してきた同オーケストラの東京初ライヴ。メンバーは、コンサートマスター8名をはじめ国内オーケストラの首席級が居並ぶ超豪華版だが、単なるオールスターオケではない。
「2004年から続く王子ホールの“MAROワールド”で07年に組んだ“MAROカンパニー”が元々の発想。バッハなどを演奏しているこのグループを拡大した“巨大な室内楽グループ”がマロオケです。メンバーは、私が電話で『九州にラーメン食べに来ない?』ときいて『行く!』と応えた人たち。気の合う仲間の集まりで、肩書きは関係ありません。立ち上げ当初のMAROカンパニーのメンバーは、大半が学生や留学帰りばかりだったのです。でも今では、主要オケの重要なポジションに就いている人たちがとても多いですね」

男だけで真剣に“遊ぶ”

 しかも全員が男性だ。
「女性はあまりに完璧すぎて…。学校でも自習時間で騒ぐ男子を注意するのが大体女性の学級委員長。男だけだとそういう歯止めをかける人がいないから、思うところに飛んでいけるし、そもそも女性に電話して『ラーメン食べに来る?』とは言えない。それにマロオケは、音楽に対して自由に遊べる人の集まり。ここでいう“遊ぶ”は、日本語よりもドイツ語の“spielen”で、お仕事ではなく『音楽で真剣に遊ぼう』ということです」

 それゆえ指揮者は置いていない。
「マロオケのレパートリーは基本的に古典派。その当時、指揮者という職業はなく、室内楽的な形でやっていたので、本来の姿に戻したいなと。室内楽は、その場で起きるイレギュラーな表現やハプニングに皆で合わせていくのが面白い。だからリハーサルも室内楽と同じで、意見を言い合います。でもお互いの呼吸はわかっているし、何より自分たちが楽しいから、聴く人も楽しいだろうと思っています」

モーツァルトは宇宙人!

 マロにとってモーツァルトは「超特別」だという。
「天才は他にいても彼だけは宇宙人! 最大の魅力は、溢れ出るメロディと不可思議なハーモニーでしょう。ハイドンの模倣をしても中身は全部新しく、どの時代においても色褪せない。しかも明るいし元気になれる。多分モーツァルトが嫌いな人はいないですよね」

 “6大交響曲”だが、今回は第25番と最後の5曲を披露する。
「25番のシンコペーションで始まるのがいい。まあ今回は演奏時間が普通のコンサートの倍もありますし、技術的にも精神的にも大変だけど、それを面白がって集まるのがマロオケの凄いところ。それに私は、古典にこそオーケストラ本来の魅力があり、モーツァルトを再認識すべきだと思っています。でも最近は古楽器演奏が主流なので、モダンオケで6曲並べて聴くのは面白いのではないでしょうか」

 最も好きなのは第41番「ジュピター」で、「理解できないから好き。マテリアルは明解なのに、不思議な世界に持っていかれる」との由。ピリオド奏法についての興味深い話もあったが、とても書き切れないので、結論だけ記すと「全て古楽器を使い、サロンのような所でやらないと意味がない」
「それよりも、“今、この瞬間、ここにしか存在しないもの”をやることに意味がある。これは奏者全員アドリブも可能な演奏会。“日本最大の室内楽合奏団”の公演に皆遊びに来てくれるといいですね」

 GWの午後、愉しくモーツァルトに浸ろう。

取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)


篠崎史紀のモーツァルト6大交響曲演奏会 マロオケ2016
5/5(木・祝)13:30
サントリーホール
問合せ:結美堂03-3564-6335
http://maro-oke.tokyo
WEBぶらあぼ
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