神尾真由子(Vn)&ミロスラフ・クルティシェフ(Pf) パリで演奏したブラームスのソナタを、この秋にもう一度日本で

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インタビュー
クラシック
2016.7.25
神尾真由子(撮影:大野要介)

神尾真由子(撮影:大野要介)


パートナーとの濃密な音楽作りで、多くの人と感動を共有する 

コンサートであれCDであれ、気になる音楽家が次になにを聴かせてくれるのかは大いに気になるところ。神尾真由子の場合はどうだろうか。「チャイコフスキー国際コンクール」で優勝し、広く注目を集めたのが2007年6月。それ以降は、主にロマン派の作品を軸として活動を続けてきたという印象が強い。

そうした中、この10月から11月にかけて行われる日本ツアーでアナウンスされたのは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ(3曲)を軸としたプログラムだ。全国11カ所のうち、サントリーホール(東京)をはじめとする4カ所がブラームス3曲というプログラム。ほか7カ所ではブラームスやベートーヴェン、そして最新CD『ヴァイオリン・アンコール』に収録されている多彩な小品が演奏される。共演するピアニストは公私共にパートナーであるミロスラフ・クルティシェフ。神尾とは前記の「チャイコフスキー国際コンクール」で最高位(クルティシェフは1位なしの2位)を獲得したという共通点もある。このあたりの話を、神尾本人から聞いた。


――ブラームスのソナタを3曲というプログラムですが、CDではよくありますけれど、コンサートでは珍しいかもしれません。 

一度、パリで彼(クルティシェフ)と演奏したことがあり、その模様は『情熱大陸』(テレビ・ドキュメンタリー)でも放送されました。それ以降はチャンスに恵まれませんでしたが、彼たっての希望で今回やっと実現したのです。と言いましても実は、アファナシエフ(ロシア出身の個性派ピアニスト)の熱狂的なファンである彼がギドン・クレーメルと共演したCDに憧れ続けていて、どうしてもブラームス3曲をまたやってみたいと。でも最初のうちは練習をすると、ヴァイオリンのことなどお構いなしという具合にアファナシエフを意識し過ぎ、ものすごく遅いテンポで弾いたこともありましたから「さすがにそのテンポはちょっと待って」と言ったこともありました。どうやら彼は個性的な音楽家に憧れる傾向があるのですけれど、ブラームスの3曲に関しては秋までにまだ歩み寄りが必要だなと感じています。その過程があるからこそ、演奏が確かなものになっていくのでしょうね。

神尾真由子(撮影:大野要介)

神尾真由子(撮影:大野要介)

――神尾さんとしては今回、ご主人の悲願に相乗りしたという感じでしょうか。

私自身もブラームスの音楽とやや距離がありながら、どこか気になる存在ではありました。3番のソナタは子供の頃から弾いていますし、2番はレコーディングもしています。1番はまだステージで演奏した回数が少ないですから、他の2曲より新鮮な気持ちで取り組める作品でしょうね。ブラームスの音楽は、作品の魅力を引き出してお客様に「素晴らしいですね」と言っていただける演奏に組み立てるのが、とても難しいと感じています。じっくり時間をかけて作り上げないといけませんし、こういった機会が与えられたので理解を深めるチャンスだと思っています。

神尾真由子(撮影:大野要介)

神尾真由子(撮影:大野要介)

――ブラームスの音楽についてはどういう印象を抱いていますか。

基本的にメゾ・ピアノまたはメゾ・フォルテで演奏する部分が多く、ヴィルトゥオーゾ風に高度な演奏テクニックを披露することもありませんし、まるでブラームス自身がそうしたことを避けているかのようです。3番のソナタは各楽章に明確なキャラクターがありますけれど、1番と2番のソナタは基本的にまったりとしていますし、楽譜にも「non troppo(……し過ぎないように)」といった指定が多いですね。それも含めてブラームスの魅力なのでしょう。個人的には1番のソナタが好きですけれど、第1楽章が終わって第2楽章も第3楽章も「また同じような音楽なの? 3番のソナタみたいに活気のある楽章はないの?」と言いたくなることもありますよ。でも、まだ自分も理解できていない魅力があるでしょうから追究のしがいはありますね。19世紀の後半に書かれた音楽としては保守的ですし、時代に逆行しているようなところもありますから面白いなと思います。

神尾真由子(撮影:大野要介)

神尾真由子(撮影:大野要介)

――コンサート会場によってはブラームス(ソナタを1曲または2曲)に加え、チャイコフスキーやショスタコーヴィチ、ラフマニノフなどロシアの作曲家による小品が加わったプログラムもあります。

たくさんの方にコンサートを楽しんでいただける選曲だと思いますし、彼(クルティシェフ)はどんな曲でも弾いてくれますから安心して演奏できます。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第1番を弾くコンサートもありますが(5カ所)、以前より好きな曲でしたからぜひ加えたいと思いました。コンサートにいらっしゃる方がみんなブラームスやベートーヴェンを知っているというわけではないかもしれませんが、そういった方の意見もプログラムを組むときなどに役立ちます。私自身も、そういった方たちから好かれる音楽家になろうというのが原点にありますので、どのような曲であれ、お客様みんなに「いい曲ですね」と喜んでいただけるレヴェルの演奏をしたいと思っています。

神尾真由子(撮影:大野要介)

神尾真由子(撮影:大野要介)

これまではストラディヴァリウスやグァルネリ・デル・ジェスといった楽器を弾いてきたが、最近では祖父が彼女のために買ってくれた楽器を愛奏している。現在は弾きながら楽器のもつ音の可能性を探り当て、少しずつ広げているところらしい。ツアーの前にはサントリーホール(ブルーローズ)で、ジェルジ・リゲティ作曲のヴァイオリン協奏曲(難曲!)にチャレンジするというコンサートもある。大切な家族の思いが込められた楽器も、こうした活動の中で音が磨かれていくのだろう。  

せっかく買ってもらった楽器ですが,その半年ほど後にサントリーからストラディヴァリウスを貸していただけることになり、結局はほとんど使わずに「ごめんね」といって実家に置いたままでした。再び弾き始めてまだ1年もたっていませんから、十分に鳴るにはもう少し時間がかかると思いますけれど、私と家族にとっては大切な楽器ですからきちんと弾いて、たくさんの方に聴いていただきたいですね。

パリ(サル・ガヴォー)でのコンサートへ向けた2人の姿は2014年に『情熱大陸』で放送されたが、それを観たという方もいらっしゃるだろう。あれから2年半を経て、2人のブラームスはどのように熟しているのか、この秋のコンサートツアーでそれが証明される。

(取材・文=オヤマダアツシ、写真撮影=大野要介)

【SPICE SPECIAL動画】 SPICEのために演奏していただき、メッセージもいただきました↓
 
公演情報
神尾真由子(Vn)&ミロスラフ・クルティシェフ(Pf)デュオ・リサイタル・ツアー2016

■公式サイト:http://www.aspen.jp/artist/violin/mayuko-kamio/

<久留米>
■日時:2016年10月20日(木)19:00開演
■会場:石橋文化ホール
■曲目・演目:
J.ブラームス:
ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
ヴァイオリン・ソナタ第2番
ヴァイオリン・ソナタ第3番
■問い合わせ:石橋文化センター 0942-33-2271

<長野>
■日時:2016年10月22日(土)14:00開演
■会場:長野市芸術館
■曲目・演目:
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
■問い合わせ:NACAセンター 026-219-3191

<立川>
■日時:
2016年1023(日)15:00開演
■会場:たましんRISURUホール(立川市市民会館)大ホール (東京都)
■曲目:
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番 
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
※曲目・曲順は変更になる場合がございます。
■問い合わせ:042-526-1311


<東京>
■日時:
2016年1025(火)19:00開演
■会場:サントリーホール 大ホール (東京都)
■曲目:
J.ブラームス:
ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
ヴァイオリン・ソナタ第2番
ヴァイオリン・ソナタ第3番
■問い合わせ:アスペン 03-5467-0081


<宮崎>
■日時:2016年10月26日(水)19:00開演
■会場:宮崎市民プラザ オルブライトホール
■曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
■問い合わせ:宮崎市民プラザ 0985-24-1008

<草加>
■日時:
2016年1028(金) 19:00開演
■会場:草加市文化会館 (埼玉県)
■曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
※曲目は変更になる場合があります。
■問い合わせ:草加市文化会館 048-931-9977


<横須賀>
■日時:
2016年1029(土) 15:00開演
■会場:横須賀芸術劇場 (神奈川県)
■曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
※曲目は変更になる場合があります。
■問い合わせ:横須賀芸術劇場 046-828-1602


<所沢>
■日時:2016年10月30日(日)15:00開演
■会場:所沢市民文化センターミューズ アークホール
■曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
■問い合わせ:ミューズカウンタ- 04-2998-7777

<福井>
■日時:2016年11月1日(火)19:00開演
■会場:ハーモニーホールふくい
■曲目:
J.ブラームス:
ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
ヴァイオリン・ソナタ第2番
ヴァイオリン・ソナタ第3番
■問い合わせ:ハーモニーホールふくいセンター 0776-38-8282

<兵庫>
■日時:
2016年1103(木・祝) 14:00開演
■会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール (兵庫県)
■曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より10番・15番・16番・24番
チャイコフスキー:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」
チャイコフスキー:メロディ
プロコフィエフ:行進曲
ショスタコーヴィチ:ロマンス
ハチャトゥリアン:剣の舞
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
バッジーニ:妖精の踊り
※曲目は変更になる場合があります。

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