短歌をモチーフに、原発の今を問いかける『挽歌』高橋長英 インタビュー

インタビュー
舞台
2016.11.21
高橋長英 (撮影/安川啓太)

高橋長英 (撮影/安川啓太)


晩秋の日本を、短歌をモチーフに、原発の今を問いかける舞台が巡る。

福島第一原発の地元、大熊町からの避難民が多く住む会津若松市。そこにある避難民を中心とした小さな短歌サークル、メンバーたちはお互いの短歌を通して心を寄せ合い、寄る辺ない気持ちを慰め合っていた。ある日、届いた一通の封書には、原発を詠んだ数首の短歌が刻まれていた。差出人は「ホームレス」。会員たちは驚きとともに、謎の歌人の正体に興味を持つ。東日本大震災から5年。原発を受け入れ。原発と共に生き。そして原発に故郷を追われた人々──。
劇団チョコレートケーキの古川健が書き下ろし、日澤雄介が演出するこの『挽歌』という舞台で、謎の歌人に扮する高橋長英に、作品への想いを聞いた。

過去ではなく今の日本の現実

──この作品へ参加しようと思った動機から話していただけますか?

チョコレートケーキのお2人とは、『スィートホーム』(15年2月)が初めてでしたが、また一緒に舞台をと思ってました。2人の作品は静かで、何かを大上段にふりかざすわけではないのですが、その時々の問題を提示してくる。今の日本は、原発、沖縄、安保、難民、そのほかにも毎日、新聞を見るのが憂鬱になるくらい問題が溢れている。なかでも原発は別個というか、解決方法が見えない取り返しのつかない問題で、子から孫、その先にまで負の遺産を残すわけです。この作品の中でも言ってますが、みんな流されて何も言わない。この『挽歌』で僕の演る役は、震災当時の発電所の当直長という、現場の役職にいた人で、原発事故の責任を感じホームレスにならざるをえなかった。

──その人が短歌を作っていて、そこから話が始まるのですね。

彼が短歌を投稿したサークルは、原発の地元、大熊町の人たちが中心となって作った会ですが、立場も違えば、原発への考え方もそれぞれで、僕の役は原発が着工するところから関わっている。でも生まれたときにすでにそこにあったという人たちもいる。ただ、帰れない故郷への思いは共通なわけです。生まれ育った場所をある日突然失った。僕自身生まれた横浜に帰れなくなったらと考えるとたまらないですから。

──メディアの扱いなどは減っていっている中で、こういう作品で改めて考えるきっかけになればいいですね。

台本には、2016年晩秋と書かれていて、ちょうど今、現在の福島とそこで生きる人たちの話ということです。つまりこれは過去ではなく、今の日本の現実を突きつけてくる。演じる僕らも、芝居としてどこまで観る人に届けられるか、責任は重大だと思っています。

社会と向き合うようなことを公私ともに続けたい

──チョコレートケーキの芝居は複眼的な論点で、問題点をわかりやすく提示してくれますね。ただ、古川さんの台詞は言葉の裏に別の感情があるので、演者としては大変なのかなと。

この前本人に「古川さんの台詞は覚えやすくていい」と言ってしまったんですが、とんでもなかった(笑)。思ってることと正反対のことを言ってる場合も多くて、今回は本音を言えない人間も出てくるし。僕とか安田(成美)さんの役は、まだ素直なほうなんですが、それでもとんでもないところから台詞が出てくるので、苦しんでいるところです。

──高橋さんの高い社会意識は、何がきっかけだったのですか?

若い時代はノンポリでしたよ。でも井上ひさしさんはじめ、色々な作家から教えられました。『かもめ来るころ』(09年)では、作家の松下竜一さんを演じましたが、自分も病気を抱えながら、公害をはじめあらゆる運動に加わっていった、そういう方がいたんだと、大きな何かを感じさせられました。

──『スィートホーム』では紀伊國屋演劇賞を受賞しました。また俳優としての意欲が増したのでは?

いや、欲はないんです。自分の好きな世界で食べていければいいので。こういう社会と向き合うようなことを公私ともに続けたいだけ。社会と関わることは人間と関わること、それをしながら生きていこうと思っているだけです。

たかはしちょうえい○神奈川県出身。俳優座養成所15期卒業。舞台で活躍後、68年『二人の恋人』で映画デビュー。以降、舞台、映画、テレビドラマで存在感ある脇役として活躍。悲劇的な善役から狂気的な悪役まで、幅広い演技力を活かして多彩な役柄を演じている。近年の舞台出演作に、『スィートホーム』『英国王のスピーチ』『子供騙し』『金閣寺』『かもめ来るころ』『錦繍』『骨唄』などがある。

【取材・文/吉田ユキ 撮影/安川啓太】

公演情報
トム・プロジェクトプロデュース『挽歌』

■作:古川健
■演出:日澤雄介
■出演:安田成美、鳥山昌克、岡本篤、浅井伸治、大鶴美仁音、高橋長英
■日程・会場:
11/30~12/4◎東京芸術劇場シアターイースト
11/18~12/20◎長野、北海道、群馬、山梨、東京、千葉、埼玉、神奈川、石川、福井、岐阜、長野、神奈川を巡演
■問い合わせ:トム・プロジェクト  03-5371-1153(平日10:00~18:00)
■公式サイト:http://www.tomproject.com/peformance/banka.html

演劇キック - 観劇予報
シェア / 保存先を選択