【SPICE単独連載】「プロ野球死亡遊戯」の中溝康隆がWBCを語る<第2回WBCの2009年日本代表チームを振り返る>
WBC第2回大会
第2回WBCの2009年日本代表チームを振り返る【バック・トゥ・ザ・WBC 第2話】
90年代、最も注目を集めた野球の試合が、プロ野球中継史上最高の視聴率48.8%を記録した94年中日vs巨人の同率優勝決定戦「10.8決戦」ならば、00年代最高に盛り上がった試合は2009年3月23日、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムで行われた第2回WBC決勝戦の日本vs韓国ではないだろうか。平日昼間にもかかわらず、テレビ視聴率は最高で45.6%まで跳ね上がり、日本列島を熱狂の渦に巻き込んだ。
当時勤務していた会社でも、日頃はプロ野球にほとんど関心を示さない人たちが、この日ばかりは社内でそれぞれ携帯電話のワンセグ片手に野球観戦。普段なら「就業中のケータイ使用禁止」なんつって叱り役の上司も一球ごとに声を上げて声援を送る風景。3対3の同点で迎えた延長10回表二死1、3塁でイチローがセンター前2点タイムリーを放った瞬間は、部署の垣根を越えフロア全体から拍手と歓声が鳴り響く。その時、心から思った。「開催前は色々言われたけど、WBCという大会があって良かったな」と。
開催期間中は東京での第1ラウンド、サンディエゴの第2ラウンド、そして決勝ラウンドと全9戦中5試合で日本代表と韓国代表が対戦する大会システムが物議を醸したが、戦前は監督問題も二転三転。イチローの「(WBCは)北京五輪のリベンジの場ではない」という発言がマスコミを賑わし、有力視された前年開催の北京五輪代表監督・星野仙一ではなく、原辰徳(当時巨人監督)が就任。そして、前回大会に続きニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜が代表を辞退。最終メンバー選考を代表合宿最終日まで引き延ばし、結果的に合宿参加選手5名が落選。少なからずそのギリギリまで迷った選考方法がチーム内に動揺を走らせた。さらに解説者・野村克也が正捕手・城島健司のリードを結果論で事あるごとにボヤきディスりまくり、これに対して城島も第2ラウンド初戦のキューバ戦で完封勝ちを飾った直後に「今日の勝利は『野村ノート』のおかげです。僕は買ってませんけど」とやり返し、場外乱闘もヒートアップ。
この城島がベンチに座る阿部慎之助や石原慶幸ら控え捕手たちのアドバイスも聞き入れ、懸命にリードした日本代表の投手13名中メジャーリーガーは、2大会連続MVPに輝くこととなる松坂大輔ひとりのみ。岩隈久志やダルビッシュもまだメジャー移籍前で、当時20歳の田中将大はチーム最年少メンバーだった。WBC翌年に発売された原監督の著書『原点 勝ち続ける組織作り』(中央公論新社)によると、決勝ラウンド進出が決まり、あと2試合勝てば世界一という状況で、山田久志投手コーチと相談し「松坂、岩隈、ダルビッシュ、杉内俊哉の4人で勝負をかけましょう」と決めていた。ちなみにこの時、ダルビッシュ本人にも決勝ラウンドでのクローザー起用を伝えたという。
投手陣のエースが当時28歳の松坂ならば、野手の中心はやはり35歳と脂の乗り切っていたイチローだ。しかしファイナルの韓国戦前まで打率.211と低迷する51番は苦悩の日々を送っていた。それでも代表最年長の稲葉篤紀が後方からチームを支え、打率.324を残した青木宣親、チーム最多の2本塁打を放った村田修一(第2ラウンド韓国戦で左太もも裏肉離れを発症し離脱)が打線を牽引。二遊間を組んだ岩村明憲と中島裕之、決勝戦で3安打を放ちレフト守備でも超美技を披露した内川聖一らも存在感を発揮し、土壇場のイチロー決勝打の大団円へと繋がった。
イチローは決勝戦の大一番で4安打を固め打ちして、最終的にはチーム最多タイの12安打を記録。さすが51番と日本の野球ファンを熱狂させるも、大会終了後、所属のシアトル・マリナーズに合流すると胃潰瘍でメジャー移籍後初の故障者リスト入りとなった。あの天才イチローがここまで苦しんでいたのか……。これまで圧倒的な数字を残し続けてきたイチローだが、NPB時代から当時のセ・パの露出格差もあり、人気面では常に1つ年下のスーパースター松井秀喜に先を行かれていた印象があった。しかし、日本中の注目を集めた06年と09年のWBC二連覇を境にイチロー人気はゴジラを超えたと言っても過言ではないだろう。今振り返ると、甲子園5打席連続敬遠の伝説、長嶋茂雄との師弟関係、伝統の巨人4番打者、ニューヨーク・ヤンキースでワールドシリーズMVP……なんでもある松井秀喜のキャリアに唯一足りないものが「ジャパンの松井」としての活躍だったように思う。
そして、その身を削り日本代表をど真ん中で支え続けたイチローも、第3回大会前に代表辞退を表明。侍ジャパンは大黒柱を失ったまま、2013年のWBCに臨むことになる。
to be continued……
(参考資料)
『原点 勝ち続ける組織作り』(原辰徳/中央公論新社)
『週刊プロ野球 セ・パ誕生60年 2008-09』(ベースボール・マガジン社)
Number726 日本野球連覇への軌跡。(文藝春秋)
WBC強化試合
開催日:2017年3月3日(金)~3月6日(月)
会場:京セラドーム大阪
WBC 1次ラウンド
開催日:2017年3月7日(火)~3月11日(土)
会場:東京ドーム
WBC 2次ラウンド
開催日:2017年3月12日(日)~3月16日(木)
会場:東京ドーム
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。
デザイナーとして活動する傍ら、2010年よりブログ「プロ野球死亡遊戯」を開始。累計6900万PVを記録し話題に。
昨年は初の単行本「プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき」(ユーキャン)を上梓。
3月25日には著書「プロ野球死亡遊戯 さらば昭和のプロ野球」(ユーキャン)と「隣のアイツは年俸1億 巨人2軍のリアル」(白泉社)が2冊同時発売された。
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ほぼ日刊イトイ新聞主催「野球で遊ぼう。」にライターとして参加。