「SLOW MOVEMENTで大勢の障がい者が出演するイベント、パフォーマーを支え、育てる活動を」栗栖良依&金井ケイスケ
The Eternal Symphony 1st mov. in 青山
年齢、性別、国籍、障がいなどの有無などを越えて集結した人々が、街中でパフォーマンスを繰り広げることで<多様性と調和>のメッセージを広めることを目指す、SLOW MOVEMENT。昨秋のリオ・パラリンピックの閉会式に出演者として、支える側として彼らが参加し、一躍注目を集めた。2月には新作も上演される。代表の栗栖良依、パフォーミングディレクターの金井ケイスケに話を聞いた。
栗栖良依(右)と金井ケイスケ
--SLOW MOVEMENTを立ち上げた理由から教えていただけますか。
栗栖 2014年に障がい者とプロフェッショナルによる現代アートの国際展ヨコハマ・パラトリエンナーレを立ち上げました。東京でのオリンピック・パラリンピック開催も見据えてパラトリエンナーレではパフォーマンスもやりました。ロンドン・パラリンピックの開会式の振付、出演もしていたカンドゥーコ・ダンスカンパニーのディレクターのワークショップもやりました。そんなにすごい人が来るのだから参加者もたくさん集まると思っていたんです。ところが障がいのない方はたくさん来てくれたんですけど、障がいのある方々の申し込みがなかった。金井さんともパラトリエンナーレのためにワークショップを繰り返し行ったんですけど、なかなか参加してくれない。来てくれないなら行っちゃえと市内の施設に出向いたらすごく楽しんでくれる。歌うこと、踊ることが好きという人はいっぱいいるんですけど、そこにはアクセシビリティの課題と心理的なバリアがあったんです。バリアとは成長過程で私には無理、あなたには無理と植えつけられていると、「どなたでも参加できる」と書かれていても自分がその対象に入っていないと思い込んでしまうということ。福祉的な環境の中ではともかく、障がいのない人たちと一緒のアート活動となると遠慮してしまう。そして情報宣伝も、私たちは普通にインターネットやメールを使っているけれど、見えない人、聞こえない人、知的障がいの人、それぞれに翻訳を入れないと一つの情報手段では届かないんです。
栗栖良依
The Eternal Symphony 1st mov. in 青山
The Eternal Symphony 1st mov. in 青山
--やっていくうちにさまざまな課題が見えてきたと。
栗栖 そうです。これらを解決し、環境を整えないことには障がいのある方には参加してもらえない、クオリティの高いものはつくれないと気づいて、新たにSLOW MOVEMENTを立ち上げました。最大の特徴はアクセスコーディネーター、アカンパニストという役割です。アクセスコーディネーターは会場に来るまでのアクセスの問題に対応したり、情報を届けるとか、自分にはできないと思っている心理的な部分をフォローする専門家です。アカンパニストはステージで障がいのある人たちをサポートします。ここから登場し、ここに帰る、この位置に立つということが覚えられない人もいるので一緒に動いたり、足腰が弱くてよろめく人たちを支えながら踊ったり。その二つの役割をつくることでステージを成立させるんです。
--障がいのある方を中心にした演劇、ダンスのカンパニーはいくつもありますが、そこまで徹底できているのはSLOW MOVEMENTならではかもしれませんね。
栗栖 そう、かもしれませんね。そうこうしているうちに2020年の東京オリ・パラリンピックが決まったので、それを意識しながら、特に2012年ロンドンでのパラリンピックの開会式のようにたくさんの障がいのある方が出演するイベントを日本でもやりたい、だったら開会式に立てる障がいのあるパフォーマーを支え、育てる活動をしたいと思ったわけです。
--金井さんは障がいのある方と活動を重ねるなかで学んできたことはありますか?
金井 そもそも僕が好きな現代サーカスにはいろんな専門性をもった人がいます。フランスのサーカス学校では子供からお年寄りまでチャレンジ精神、遊びたい気持ちさえあれば、一緒に練習もするし作品発表もする。別にすごいことをしてなくても、みんなでつくるという感動がある。ヨーロッパでそういう経験をして、日本でもできないかなと思い、子供や家族が一緒に参加できるワークショップをやったり、海外や日本のアーティストの橋渡しをするような活動をしてきました。だから栗栖さんから声をかけてもらったときに、ぜひやってみたいと思ったんです。最初はホント手探りでしたね。障害のある人たちをどうやって見せればいいんだろう、どうしたら一緒に感動できるんだろうということは特に悩みましたね。でも結局は自分が一緒にやっていて感動できることが見ている人の感動にもつながる、それがすごくポイントでした。パラトリエンナーレのときに一般参加の人たちに混じってダウン症の子たちもいっぱい参加してくれて、感動するような体験をしたんです。そこからいろんな障がいを持つ人たちとかかわる中で、だんだんと「こういうことが面白いのかな」「こういう見せ方もあるかな」と気づいていきました。みんなが自由に表現できる場をつくることで彼らの天真爛漫な部分が出せるとすごく面白くなるんです。
栗栖 そういう意味では参加していただくアーティストは表現者であると同時に、人として、コミットできるかどうか、コミュニケーション能力や柔軟性が必要なんです。本当に予測不能な現場なんですよ。どれだけリハーサルをしようが、当日に雨が降ったからと来られなくなる人もいれば、気圧の変化で踊れなくなる人もいる。そういう中でなんとか成立させなければいけないのでプロ側にすごく柔軟性が求められるんです。それに耐えうる人であり、機転が利く人でないと難しい。そういう意味で金井さんは真面目じゃないからいいんですよ。
金井 僕は真面目ですよ(笑)。
栗栖 フフフ。ガチガチの完璧主義ではダメなんです。大らかに受け入れられる人がいいんです。
金井 人それぞれの作品のつくり方があると思うんですけど、抜けているくらいがちょうどいいというか。プロであっても一般市民であっても障がいのある人であっても、その人を信頼するということですね。それぞれ違う面白さがあるんだから。
金井ケイスケ
SLOW MOVEMENT -The Eternal Symphony 六本木アートナイト スペシャルバージョン-
SLOW MOVEMENT -The Eternal Symphony 六本木アートナイト スペシャルバージョン-
SLOW MOVEMENT -The Eternal Symphony 六本木アートナイト スペシャルバージョン-
--SLOW MOVEMENTにおいて、栗栖さんの役割、金井さんの役割というのは?
栗栖 私はプロデューサー的な役割もあり、もっと大きなところ、先を見ている感じです。このプロジェクトを通じて、障がい者の舞台芸術における環境整備や人材育成、ノウハウを築く仕組みをデザインしています。このプロジェクトはステークホルダー、スポンサーさんなどいろんな方が携わってくださっていますが、皆さんとやりとりするのは私で、ニーズを受け取りながらそれらを程よくまとめて、今回はこういう会場でこういう作品をやりたいという方向性を決めて、アーティストをセレクトしています。その段階で作品の方向性や人材育成の側面からチャレンジすべきことなどについて金井さんと打ち合わせを始めます。SLOW LABEL(国内外で活躍するアーティストやデザイナーと企業や福祉施設などをつなげ、特色を生かした新しい「モノづくり」と「コトづくり」に取り組んでいる)を立ち上げるにいたった多様性と調和という大きなテーマと、そのテーマに基づくストーリーのイメージを詩人・三角みづ紀さんに伝えて詩にしていただいており、その詩から各アーティストがインスパイアを受けてシーンをつくっていくんです。そういうつくり方も珍しいですよね。そこからいろんなやりとりして、稽古場に入ってからは金井さんが中心になって進めてくださっています。
金井 僕はサーカス出身ですから、いつもより少し高いテクニックを使ってみようとか、こういう障がいの方ならこれはできそうかな、こういう道具が使えるんじゃないかとか提案するんです。それをまた栗栖さんと練って、ほかのアーティストさんに渡すという感じです。
新豊洲 Brilliaランニングスタジアムがトレーニングの拠点に
--昨年12月9日には、東京豊洲に、新豊洲 Brilliaランニングスタジアム(館長:為末大)がオープンしました。
栗栖 ここが私たちのトレーニングの拠点になるんです。トンネルのような空間に陸上のトラックや義足を調節するラボが入っているんですよ。そして私たちはここで障がいのあるパフォーマーのトレーニングをします。ロンドン・パラリンピックの開会式でも採用された障がいのある人がトレーニングに使えるエアリアル(空中パフォーマンス)の設備もついてます。
『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』のオープニングレセプションより
『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』のオープニングレセプションより
『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』のオープニングレセプションより
『新豊洲Brilliaランニングスタジアム』のオープニングレセプションより
--2月のパフォーマンスはどんなふうになりそうですか。
栗栖 今、3本の新作を創っています。11日は、演出・振付に森山開次さんをお迎えし、一般公募で選ばれた市民パフォーマーによるThe Eternal Symphonyの第二楽章を新豊洲Brilliaランニングスタジアムで発表します。12日は、プロとして活躍している障がいのあるダンサーらによるショウケースで、金井さんが演出する現代サーカス作品と、ダンス劇作家の熊谷拓明さんが演出するダンス劇です。
※当公演の参加申し込みは終了しました。
《栗栖良依》 7歳より創作ダンスを始める。高校生の時にリレハンメル・オリンピックの開会式に感銘を受け、卒業後は東京造形大学に進学。在学中から大手イベント会社に所属し、スポーツの国際大会や各種文化イベントで運営や舞台制作の実務を学び、長野五輪では選手村内の式典交流班として運営に携わる。2006~07年、イタリアのドムスアカデミーに留学、ビジネスデザイン修士号取得。帰国後、東京とミラノを拠点に世界各地を旅しながら、各分野の専門家や地域をつなげ、商品やイベント、市民参加型エンターテイメント作品のプロデュースを手がける。2010年、骨肉腫を発病し右下肢機能全廃。翌年、右脚に障がいを抱えながら社会復帰を果たし、国内外で活躍するアーティストと障がい者をつなげた市民参加型ものづくり「スローレーベル」を設立。14年「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」総合ディレクター。第65回横浜文化賞文化・芸術奨励賞。タイムアウト東京 Face of Tokyo 2016受賞。
《金井ケイスケ》 中学時代に新宿で大道芸を始める。1999年文化庁海外派遣研修員として、日本人で初めてフランス国立サーカス大(CNAC)へ留学。卒業後フィリップ・デュクフレ演出のサーカス『CYRK13』で2年間のヨーロッパツアーに参加。その後、フランス現代サーカスカンパニー「OKIHAIKUDAN」を立ち上げ、ヨーロッパを巡演し、フランス外務省派遣カンパニーとして中東やアフリカで公演、劇場文化のない都市、紛争地域で人種や宗教を超えたワークショップや発表を行う。2009年帰国。パフォーマンスグループ「くるくるシルクDX」に参加。現在は松本を拠点に活躍。
取材・文:いまいこういち