キミョかわいいだけじゃない 個性的なはみだしものたちに勇気をくれる『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン”第十九回
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『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』 (C) 2016 Twentieth Century Fox
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
私は子どもの頃、ガイコツのジャックが主人公のアニメ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)を観て、原作と製作を務めていたティム・バートンの名前を知った。そしてバートン監督作品を追いかけていく内に、あの幻想的な世界にどっぷりハマってしまったのだ。よく地上波で放送もされている『チャーリーとチョコレート工場』(05)や『アリス・イン・ワンダーランド』(10)など、皆さんも触れたことのある作品も多いのではないだろうか。そんなティム・バートン監督の、誰よりも私が待望していた最新作『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を今回は紹介する。
フロリダで生まれ育ったジェイクは、周囲に馴染めず友だちもいない少年。唯一の理解者は、幼い頃から冒険話を聞かせてくれた祖父だったのだが、ある日祖父は謎めいた死を遂げてしまう。彼の最期の言葉に従い、イギリスはウェールズの小さな島・ケルン島を訪れたジェイクは、森の奥で古めかしい屋敷を発見する。そこには女主人・ミス・ペレグリンと、不思議な力を持つ子どもたちが住んでいた。彼らと心を通わせていくジェイクは、やがて屋敷に迫る脅威に立ち向かうことになるのだった。
古い写真から生まれた奇妙なキャラクターたち
『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』 (C) 2016 Twentieth Century Fox
本作は、2011年に出版されたランサム・リグズの小説『ハヤブサが守る家』が原作となっている。
リグズはフリーマーケットなどで古い写真を収集するのが趣味だったそうで、そこで集めた写真をもとに、奇妙な子どもたちのキャラクターを作り上げたという。空気より軽く、鉛の靴を履いていないと浮いてしまう少女・エマや、透明人間の少年・ミラードなど、子どもたちの持つ能力は様々。中でも私は、最年長の少年・イーノックが持つ、無生物に一時的な命を吹き込むことが出来る力が気に入りだ。ギョロッとした目玉の薄気味悪い自作人形たちは心臓を与えられると、途端に戦い出すのだが、その様はさながらチェコアニメの第一人者、ヤン・シュヴァンクマイエルのアニメーションだ。宣伝でやたらと押し出されている“キミョかわいい”感覚は、この辺でも感じてもらえるはず。
そしてエヴァ・グリーン演じる、ミス・ペレグリン。彼女はハヤブサに変身することができ、子どもたちを守る役目を担った女性だ。そのポジションから心優しいお母さん的な存在なのかと思いきや、実はそんなこともない。カラスの濡れ羽色の髪に吸血鬼のようなピシッとしたスーツをまとったペレグリンは、見た目通り厳しく、クールな女性なのだ。しかし、子どもたちを守るためならば戦士のようにも振る舞うタフなペレグリンからは、“キミョカッコいい”印象を受けるだろう。
個性的なはみ出し者に勇気をくれる王道ファンタジー
『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』 (C) 2016 Twentieth Century Fox
バートン監督は今までの作品でも、アウトサイダーの孤独を数多く描いてきた。特殊な能力や個性を持っていることで疎外されている者の悲しみを。けれど監督は、そういった要素に惹かれているからこそ、彼らを孤独のままで終わらせることはない。本作のキャラクターたちも同じだ。持て余していた能力を戦いの中で使うことで、子どもたちは自信を取り戻し、絆を深めてゆく。クライマックスで、子どもならではのものを使って見えない敵を暴くシーンには、観ているこちらも思わずガッツポーズをしたくなるような正義がある。はみ出し者が一致団結して悪者に勝つというのは熱血漫画のように王道なストーリーだが、そこにヘンテコでオシャレなビジュアルが乗っかることにより、バートン監督らしく、かつ今までになく大衆受けする冒険譚に昇華されたように思えることだろう。
そして悪役・バロンを演じるサミュエル・L.ジャクソンは、シニカルな表情とオーバーアクションで、子どもたちと真剣に渡り合う。デフォルメされたキャラクターのバロンの存在は、本作にちょっとシュールなエッセンスをプラスしてくれている。
子どものころと違い様々な映画を観るようになった最近は、ビジュアル特化にステータス振りをしたバートン監督作品に、少々物足りなさを感じるようになってきてしまっていた。本作もインパクトのあるキービジュアルと“キミョかわいい”という言葉が目立つきらいはあるが、しかしそれ以上に“励まされる”作品だと私は思う。自分では好きになれない個性も、彼らと一緒ならポジティブなものに変えることができるかもしれない。
『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は2月3日(金)全国ロードショー。
(C) 2016 Twentieth Century Fox
監督:ティム・バートン
出演:エヴァ・グリーン、エイサ・バターフィールド、サミュエル・L.ジャクソン、エラ・パーネル、ジュディ・デンチ、テレンス・スタンプ
配給:20世紀フォックス映画
(C) 2016 Twentieth Century Fox