上方の文楽×能×講談をオムニバス上演する4Days! 「上方伝統芸能DE歴塾 サムライ篇」会見レポート
左上より時計回りに、旭堂南海(講談)、山本章弘(能楽)、豊竹咲甫太夫(文楽)、竹澤宗助(文楽)<撮影/石橋法子>
大河ドラマで歴史に興味を持った初心者も大歓迎!
人気武将の物語で、伝統芸能をグッと身近に感じる4日間
今春、初心者でも楽しめる「上方伝統芸能DE歴塾 サムライ篇」全4公演が、山本能楽堂で上演される。大阪が誇る『文楽(ユネスコ無形文化遺産)』を中心に、『能』、『講談』の3つの異なる伝統芸能を幅広く一般の方に親しんでもらおうという企画。公演ごとに同じサムライ(武将)が登場する演目を取り上げ、3つの芸能をオムニバス上演する。それぞれ芸の見所や要点をまとめた”良いとこ取り”の内容で、同じサムライを主題にしながらも、捉えられ方は「全く異なる」という。各芸能の魅力や違いがより際立つ構成になっている。企画・製作・出演する能楽師の山本章弘さん、来年1月の初春公演で六代目竹本織太夫の襲名を発表した人形浄瑠璃文楽太夫の豊竹咲甫太夫さんら、出演者が大阪で取材会を開き見所を語った。
家康に死を覚悟させた男・真田幸村ほか、人気武将が日替わりで登場!
能楽師の山本章弘さんは、「能も文楽も、舞台と客席との対話がない芸能でして、それを(旭堂)南海さんに講談で補ってもらおうという試みです。講談で分かりやすく解説していただくことで、非常に内容が楽しめるようになる。観てくださる方にも『なるほどな』と思っていただけると思います」<山本>
能
主題となる4人のサムライは、3つの芸能すべてに登場する人物から選りすぐった。
「とはいえ、お能は室町時代以前の作品しかありませんので、『真田幸村』は新作能として昨年1月に作ったものです。NHKの大河ドラマ人気にもあやかり、その後は大阪城の本丸前、大阪証券取引所と春から秋にかけて色んな場所で上演させていただきました。最初だけですね、お舞台の上でやらせてもらったのは(笑)。作品がないのなら作れば良いと言うのは、平成21年に「水都大阪2009」の最終日を彩るイベントとして新作能『水の輪』を制作し、自分でも今までにないページを作れたという実感があったから。こういうことはやっていけばいいんじゃないか、という可能性を感じたということですよね」<山本>
他方、観客には伝統芸能の”旨味”を味わってほしいと話す、文楽の豊竹咲甫太夫さん。
「国立文楽劇場では50周年ということで、最近は通し狂言が大変おおございまして、初めてのお客様には大変敷居が高く設定されています。ですから、今回のようにひとつが15分程度で終わる演目もあるような公演は、とても良い。甘いものから辛いものまで伝統芸能の美味しいところが、センスよく詰め込まれております。ここで初めて文楽に触れた方が、文楽劇場にまで来ていただけるような公演をしたいなと思っております」<咲甫太夫>
文楽
さらに、山本能楽堂には本拠地では味わえない魅力があるとも。
「文楽は500席ぐらいで観るのが良いとも言われています。山本能楽堂さんは(舞台上に)手すりがなく、舞台の2面が客席に面しているので、左遣い(左手担当)さんや足遣い(両足担当)さんの動きを横からも観ることができます。客席にも近いですから、人形をグッと持ち上げたときの主遣い(首と右手担当)さんの息遣いまで感じられると思います。何より音響が特別に良いと思いますので、私たちも声を出すのが嬉しくもあり、お能の本拠地で文楽の義太夫をやることへのプレッシャーもあります(笑)」<咲甫太夫>
文楽
同じく文楽の三味線弾き竹澤宗助さんは、見所のひとつに各芸能の違いを挙げる。
「能はわりと史実に基づいてやるわけですが、文楽は史実に基づくんですが、『じつは誰々だった……』という趣向があるんですね。例えば『一谷嫩軍記熊谷陣屋の段より』ですと、熊谷が殺したのは敦盛ではなくじつは自分の息子だった、『義経千本桜 渡海里・大物浦の段より』では、忠信がじつは狐だったとか。そうした能の史実を踏まえたところを、文楽は趣向で楽しませ、さらに講談はどうみせるのか。それぞれ展開の仕方が違っているところを楽しんでいただければと思います」<宗助>
そんな宗助さんの言葉に同調する、講談の旭堂南海さん。
「中でも講談は一番シンプルで原初的な形を元にその後、軍記ものを手本としてきた語りものです。事実ですよというのを建前上うたっているのが我々の芸でして、『見てきたように嘘をつき』という(笑)。それが当時の人たちの生き方や死に様をお伝えする、解説のような一面を担った芸能でございます。お能、講談は実名を使いますが、文楽は趣向だらけのところがありまして、なかなか一筋縄ではいかない。そこを今回は目障りにならないような形で聞き所、見所などをご紹介させていただく。講談を加えることでよりいっそう、それぞれの芸能を楽しめる4日間にする予定です」<南海>
講談の旭堂南海
終演後は近くのBarやレストランで特典あり&役者に会えるかも!
尚、当日は大阪歴史博物館の大澤研一さんが、各武将の魅力を解説した公演資料を会場内で無料配布する。公演の前日には専門家による演目の解説講座、<能活特別篇>「滅んで名を潰した武者たち」も開催。また、公演期間中は終演後のアフタートークに、の半券を提示すれば、会場周辺の飲食店12箇所でお得なサービスが受けられるクーポン企画もあり! これは「山本能楽堂を地域のランドマークにする」ため、山本さんが以前から取り組んでいる企画のひとつだ。
「学生時代からジャズが好きでして、初めての海外公演で本場NYのジャズクラブを訪れた時に、『これが本当やな』と思いました。それは観客との距離感で、能も文楽も講談も2,000人収容のホールではなく、昔の芝居小屋ぐらいのキャパシティでやるのが本当なんだなと。加えて、終演後に近くのレストランやバーでジャズメンがお客さんと会話を楽しむんですよね。すっごい有名な方なんですけど、日本から来ましたといったら『良く来たね』とフランクに話してもらえた。それに感激して、同じことを自分たちの地域で再現できたらなと発案しました。手前みそですけど、さっきまで舞台で観ていた能の役者や文楽の人たちと、本当にどこかのお店で再会して会話ができたら、それは自慢話になると思うんですよね。そういうことがファンの拡大に繋がればと思います。とことんお客様と会話できる4日間にしたいですね」<山本>
山本能楽堂で開かれた『上方伝統芸能 DE 歴塾 サムライ篇』取材会にて
『上方伝統芸能DE歴塾~サムライ篇』
◎2017年3月12日(日)10:30~11:30※上演演目のレクチャーをする関連イベント
<能活特別篇>
「滅んで名を潰した武者たち」
講師:林本大、前田和子
会場:山本能楽堂
◎【1】2017年3月13日(月)19:00~20:30
<一ノ谷之巻>
■半能「敦盛」/出演:林本大(敦盛の霊)、福王知登(蓮生法師)ほか
■文楽「一谷嫩軍記熊谷陣屋の段より」/出演:豊竹咲甫太夫(浄瑠璃)、竹澤宗助(三味線)、吉田幸助(人形)ほか
■講談「敦盛の最期」/出演:旭堂南海
会場:山本能楽堂
◎【2】2017年3月14日(火)19:00~20:30
<吉野之巻>
■半能「忠信」/出演:山本麗晃(忠信)、上野朝彦(法師武者)、笠田祐樹(法師武者)ほか
■文楽「義経千本桜 河蓮法眼館の段より」/出演:豊竹咲甫太夫(浄瑠璃)、竹澤宗助(三味線)、吉田幸助(人形)ほか
■講談「義経吉野落ち」/出演:旭堂南海
会場:山本能楽堂
◎【3】2017年3月15日(水)19:00~20:30
<大物の浦之巻>
■半能「船弁慶」/出演:山本章弘(知盛の霊)、福王知登(弁慶)、吉井晟朝(義経)、善竹隆平(船頭)ほか
■文楽「義経千本桜 渡海里・大物浦の段より」/出演:豊竹咲甫太夫(浄瑠璃)、竹澤宗助(三味線)、吉田幸助(人形)ほか
■講談「平知盛の最期」/出演:旭堂南海
会場:山本能楽堂
◎【4】2017年3月16日(木)19:00~20:30
<真田山之巻>
■半能「真田幸村」
■文楽「鎌倉三代記 絹川村の段より高綱物語」/出演:豊竹咲甫太夫(浄瑠璃)、竹澤宗助(三味線)、吉田幸助(人形)ほか
■講談「真田幸村薩摩落ち」/出演:旭堂南海
会場:山本能楽堂