『魁!! 男塾』の宮下あきら、初期の名作! 『激!! 極虎一家』に見る‟なめんなよ”の精神
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『マンガを掘りつくせ!Manga Diggin’ 』の第5回を担当させていただくのは、Reader Storeのサブカル担当・野本です。同僚が流行りのマンガを丁寧に説明しているなか、あえて‟男”の道を突き進ませていただきます。娘を持つ世の中のお父さんに訴えたい。娘の彼氏が、婿が、ナヨナヨしていてもいいんですか? ‟ヘタレ男子”なんて、オレは絶対に認めない!
宮下あきらの‟男”が花開く
拳で語らう、虎と政の熱き死闘に釘付け!
1980年代初頭、‟なめ猫”こと「全日本暴猫連合 なめんなよ」の大ブームが巻き起こるなか、‟なめんなよ”の精神を掲げて少年ジャンプに登場した『激!! 極虎一家(げき ごくとらいっか)』。著者は宮下あきら。そう、あの『魁!! 男塾』で一世を風靡し、ジャンプ黄金期の支柱となった御大だ。
実はこの宮下先生、けっこうな苦労人なのである。デビュー作『私立極道高校(しりつきわめみちこうこう)』が諸般の事情で打ち切りとなってしまい、充電期間を置いてから本作で再スタートを切ることになったのだ。そんな背景があってか否か、本作には‟マンガ執筆に飢えた野獣の咆哮”がごとき、熱いメッセージが随所に刻み込まれている。「日本男児たちよ、刮目せよ」と言わんばかりに。
決して、宮下先生が勢いでポルシェを買っちゃったからローン返済が大変だった……という理由で魂を込めて書いたわけではないのだ(……そうですよね、先生?)。
主人公の虎は、超ド田舎の農村に暮らす中学生。中学生といっても2年留年しているから、もうすぐ18歳になるんだとか。剛毅な性格で怖いもの知らずの虎は、修学旅行先の東京でひょんなことから大立ち回りを繰り広げる。麦わら帽子を被った田舎もんを馬鹿にすると怖い……というのは、もはやジャンプではお馴染みとなったフラグだ。都会にいるモヤシっ子とは育ちが違うんだもの、そりゃもう喧嘩が強いったらない。あまりの強さに目を付けた東京中のヤクザ屋さんが彼のスカウトに訪れるほどだ。神田・集英一家に、音羽・高談会……。「あれ? どっかで聞いたことある名前だぞ?」なんて読者が思っているなか、虎は唯一スカウトに来なかった「極政一家」に興味を抱く。
「極政一家」のボスは、前作『私立極道高校』の主人公・学帽政(がくぼうまさ)。クールで口数は少ないが、決めるときはばっちり決める。そして、誰よりも強い‟男の中の男”。男塾の剣桃太郎のベースのようなキャラクターだ。
極政一家に押し掛けた虎は、政とタイマン勝負をすることになり、そこで人生初の敗北を味わう。「おれの負けじゃぁ~~~っ。くそったれ~っ」と涙を流しながら倒れる虎。意識を失う虎を見て、「こいつ大きくなるぜ」と笑顔を見せる政。男たちは拳を通して互いを認め合うのであった。思いあがった虎に、お灸を据えるような政からの「なめんなよ」が炸裂! のちに日本の極道のトップに立つ2人の男たちの激闘は、この出会いから幕を開ける――。
刑務所よりもドープな‟極等少年院”
宮下ワールド全開のサブキャラクターが躍動!
敗北のショックに打ちひしがれる虎だったが、極政一家の面々が事件を起こして「網走極等少年院」に収監されることを知る。極等少年院とは、‟不良の中の不良”が集まる全国の少年院のトップに位置する架空の施設。刑期も無ければ、五体満足で戻ってきた者もいない……。「入り口はあっても出口なし」といわれる、この世の地獄だ。しかし、自ら入りたがる者などいない極等少年院に収監されることは、虎にとってエリートコースに進むことに等しい。あの手この手で極等少年院入りを目指し、ついにはヤクザの息子の身代わりとして、虎は極等少年院の門をくぐることに成功する。
極等少年院の中は、「強いヤツが正義」という弱肉強食のルール以外は一切通用しない無法地帯。弱い者は宴会芸に磨きをかけたり、女役になって身を守ったりと苦労が多い。虎や政のように‟強い男”はもちろんカッコいいけど、弱いけれども‟妙に愛嬌がある”サブキャラクターたちが魅力的なのも宮下作品の醍醐味だ。
なかでも、もっとも衝撃を受けたのは、著者の分身ともいえる「宮蔦あきら」というキャラクター。食うに食えない若手マンガ家だった彼は、原稿料の値下げと連載打ち切りの2択を迫った編集者を殺傷し、ダイナマイトを抱えて出版社に……というのが入所の経緯(笑)。もうめちゃくちゃなのである。宮蔦は、「人気投票のアンケートに〇印を3つもつけられるのに、ひとつもわしにつけなかったやつ。夜道をひとりであるく時にゃあ気ィつけえよ~」と読者に迫る。これは本作の読者に対しての先生からの‟愛のなめんなよ”なんだな、きっと。
そんな無茶苦茶な監獄生活の中にあっても、圧倒的なケンカの強さを見せる虎はぐんぐんとのし上がり、瞬く間にエリート不良たちの中で頭角を現していく。政たち極政一家とも再会を果たし、日本男児の在り方を見せつけるべく、“なめんなよ”の精神で巨大な権力と闘っていくことになる――。
さて、本作の魅力は宮下先生の描く男らしい絵があってこそなので、ストーリーの紹介はこの辺でとどめておこう。この後は、現代のメディアではとても書けないような、香ばしいニオイがぷんぷんする展開が続く。気になる方はぜひ本編で楽しんでいただきたい。