新日本プロレス「L・I・J」から学ぶ、野球WBCの楽しみ方

コラム
イベント/レジャー
2017.2.15
撮影=プロ野球死亡遊戯

撮影=プロ野球死亡遊戯

新日本プロレスの「神ってる」男たち

1年前に誰がこんな光景を想像しただろうか?

超満員のエディオンアリーナ大阪の客席から、周りを見渡すと「L・I・J」と書かれた黒いTシャツやパーカー姿の人たちがガッツポーズをかましていた。隣の席の黒いキャップを被った大学生風のおネエちゃんは、恍惚の表情でミラーレス一眼カメラを構えリングを激写し続けている。凄いものを見てしまった。みんなその余韻で腹一杯だ。

いつの時代も、プロレスとはお好み焼きみたいなものである。作り方は人それぞれ。ソースの味も具の種類もレスラーのユニットも組み合わせは無限。鉄板というリングの上でスイングして、いかにお客を満足させるか。正解はあるようでない。そらそうよ。

2月11日、新日本プロレスのエディオンアリーナ大阪大会の前売り券は全席種完売。満員御礼の会場でメインイベントはL・I・Jのリーダー内藤哲也 VS マイケル・エルガンのIWGPインターコンチネンタル戦。セミファイナルでは、巨大風船が飛び交うなか華やかに入場したIWGPジュニアヘビー級王者・高橋ヒロムがドラゴン・リー相手に初防衛戦を行った。

ちなみに、この内藤や高橋が所属する「L・I・J」とは、「LOS INGOBERNABLES de JAPON(ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン)」というユニットの略だ。スペイン語で「日本の制御不能な奴ら」を意味する彼らのグッズ売上げは現在、新日本プロレスでぶっちぎりトップ。ついでに内藤は大の広島カープファン。あえて少し前の流行語を使うとロスインゴは「神ってる」男たちの集まりである。リング上ではチャンピオンベルトを放り投げ、対戦相手にツバを吐く。事実上、悪役(ヒール)的立ち位置なのに大人気。大げさではなく、彼らは新日の救世主だと思う。

 

看板選手の相次ぐ退団……
ピンチをチャンスに変えたのは?

約1年前、中邑真輔、飯伏幸太、AJスタイルズ、カール・アンダーソン、ドク・ギャローズといった新日本プロレスの看板選手達が相次いで退団。海外の人気団体「WWE」に新天地を求めるレスラーが続出した。プロ野球チームで言えば、まるで主力の先発ローテ投手が5人一気にメジャー移籍するレベルの危機が到来したのである。一部では「新日本プロレスの快進撃もこれで終わり」なんてディスるファンすらいたほどだ。ゴメン、正直俺も少しそう思った。おいおい大丈夫かよ新日、と。“カネの雨”は止んでしまうのか?

だけど、残された選手たちが踏ん張った。先月の東京ドームでオカダ・カズチカと死闘を繰り広げたケニー・オメガはAJの穴を埋め、長年ブーイングを浴び続けてきた内藤哲也はベビーとヒールの狭間で生まれ変わり……と言うか開き直り、中邑の不在を完全に過去のものにしてくれた。プロの世界はチームのピンチが選手にとってはチャンスなのである。だって、誰かがいなくなれば自動的にポジションが空くわけだから。「それを狙わない奴はプロレスをやめたほうがいい」と吼えたのは、確か“ザ・レスラー”柴田勝頼だった気がする。

それにしても、今はベビーフェイス(善玉役として振舞うプロレスラー)には厳しい時代だ。求められるのはファンタジーよりも、リアリティ。いかに人間の持つ感情をリアルに表現してみせるか。観客が求めるのは愛よりも、炎上だ。新日本プロレスでも本隊の棚橋弘至やKUSHIDAといったいわゆる“正統派ヒーロー”キャラは最近影が薄い。目立つのは、派手に暴れ回るL・I・Jやバレット・クラブのメンバーたちだし、ミラ・ジョボビッチとのCM共演が話題の現IWGPヘビー級王者オカダ・カズチカも12年の凱旋帰国後は、太々しいヒールとして成り上がった。

 

かつての新日にそっくり
どうなる? “大谷不在”の侍ジャパン

そんなベビーフェイス冬の時代。2017年、日本スポーツ界で最高のベビーフェイスも苦戦している。みんな大好き大谷翔平(日本ハム)が右足首の故障でWBC不参加を表明。いわば興行の最大の目玉でもあった二刀流が戦う前から消えちまった。ただでさえ、ダルビッシュ有、田中将大、前田健太、岩隈久志といった日本のエース級の投手たちが相次いで出場辞退。チームを取り巻く「先発誰もいないじゃん」「これヤバくね?」的な寒々しい雰囲気……ってあれ? この状況なにかデジャヴ感があるな。そう、今の侍ジャパンは1年前の新日本プロレスとそっくりなのである。

会場人気No.1の中邑や天才AJといった、メインをを張れるレスラーが続々と姿を消したあの頃の新日。同じく最も客を呼べる大谷の不在は、侍ジャパンから「主役」がいなくなったということだ。ある意味、他の選手からしたら野球人生最大の見せ場でもある。代表チームでは、同い年の大谷の影に隠れがちだった94年組の鈴木誠也(広島)や藤浪晋太郎(阪神)は、ここで活躍したらスーパースター大谷との差を一気に縮めることも可能だろう。

大谷とはプロ入り同期の菅野智之(巨人)も、ドラフト時のゴタゴタで悪役の宿命を背負ったが、このビッグイベントで絶対的エースの働きを見せれば己の運命を変えることができるはずだ。ピンチこそチャンス。俺はおまえのかませ犬じゃないぞ的な新ストーリー。今こそ、野球日本代表には逆境でこそ光り、対戦相手を手の平で転がして翻弄する内藤哲也的な選手が必要だ。そんなニューヒーロー、いやニューヒールの出現を期待しつつ、東京ドームへWBCを観に行こうと思う。

そして、まだ22歳。故障からの完全復活を目指す大谷翔平にはこの言葉を送りたい。

「トランキーロ、あっせんなよ」

イベント情報
World Baseball Classic 2017(ワールドベースボールクラシック2017)

WBC強化試合
開催日:2017年3月3日(金)~3月6日(月)
会場:京セラドーム大阪

WBC 1次ラウンド
開催日:2017年3月7日(火)~3月11日(土)
会場:東京ドーム

WBC 2次ラウンド
開催日:2017年3月12日(日)~3月16日(木)
会場:東京ドーム

 

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