能・落語・文楽の3種合同公演『流されて…』に出演する豊竹英太夫×桂南光×山本章弘が大阪で爆笑会見!
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能と落語と文楽と「流されて…」取材会より(撮影/石橋法子)
大阪の山本能楽堂で3月26日、一度に3つの古典芸能を楽しむ公演『能と落語と文楽と「流されて…」』が上演される。昨年の文楽と落語を楽しむ公演『山本能楽堂DEおはんちょう』が好評で、その日の楽屋で第2弾となる今回の公演が決定したという。出演には前回同様、豊竹英太夫と桂南光、さらに本作より能の山本章弘が加わる。4月に大名跡「豊竹呂太夫」襲名が発表された豊竹英太夫にとっては本作が、英太夫として最後の公演となる。伝統芸能は敷居が高い、難しいとの認識を覆す、爆笑会見の模様をお届けする。
「他ジャンルに触れると芸の幅が広がるので、噺家にも見てもらいたい」(南光)
そもそも南光が英太夫に義太夫を習うという”師弟関係”が縁で、昨年の公演が実現した。
南光 昨年の公演『山本能楽堂DEおはんちょう』では、有名な『桂川連理柵』のお半長の部分が落語にも出てきますので、お師匠(英太夫)さんにも語ってもらい、私も落語をさしてもらいました。お陰さまでたくさんの方が観に来てくださって、次も山本能楽堂さんでやるんだったら、今度は山本章弘さんにもお能で参加してもらおうとなったんです。
英太夫 最初は山本さんに『俊寛』をしてもらったらどうかなと思ったんですが、長くなってしまうんですよね。私の義太夫『平家女護島~鬼界が島の段~』も1時間のものを45分にまとめるぐらいですから。
南光 ただ落語に『俊寛』はないんですよ。だったら、「流される」をテーマにそれぞれ違う作品をしてはどうですかと、落語作家の小佐田定雄さんが提案されたわけです。あの方、歌舞伎の台本を書いたり、文楽や他の芸能にも詳しいので。
山本 最初は『俊寛』のどこかの謡いの部分だけをやりましょかと思ったんですが、違うものが良いと。南光師匠が『質屋蔵』をやるというので、では『雷電』でと思ったら、師匠から同じ(菅原道真)ものではなく、違う方が面白いんちゃいますかと言われて。このタイトルのように私の意見が流され、流され…、最後に『鵺(ぬえ)』に留まったということです。
南光 能楽のひとがオチつけんでもよろしいですやん(笑)!
能と落語と文楽と「流されて…」取材会
「能楽堂は足袋を穿いていただければ、どなたでも上がっていただけます」(山本)
南光 今回は「流される」をテーマに違うジャンルの芸能を見てもらったら面白いんじゃないかと。私は個人的に好きやから、お能は梅若玄祥先生にお謡いを習ったりしているんですが、噺家で他の芸能を本当に知っているひとが少なくて。他の芸能もちゃんと観れば、落語にも奥行きが出てきます。義太夫で言えば、発声が全然違うでしょ。習い始めてから落語でも声を出すのがすごく楽になりました。それに、鼻から抜いて語るとか落語にはないので、裏声とか表現の幅も意識せずとも広がりました。そういう意味では今回の公演も身内(噺家)にも観てもらいたいなという思いはありますね。ところで、お師匠(英太夫)は呂太夫襲名を控えたお忙しい時期ですが、これが英太夫として最後の舞台ですから、ちゃんとやってもらわな困りますよ。弟子やのにぼろかすいってますが(笑)。
能と落語と文楽と「流されて…」取材会
英太夫 (笑)。英太夫という名前が好きなので、非常に愛着があって寂しいんですけどね。呂太夫を名乗るのは、国立文楽劇場での襲名披露公演の初日、4月8日からです。前日には南光さんとトークイベントをやらせていただきます。襲名のときに前夜祭をやるなんて、今回が初めてです。劇場としてもすごく力を入れてもらっています。
南光 山本さんは、去年私ら2人が『山本能楽堂DEおはんちょう』をやったときは、「何勝手にやっとんねん」というお気持ちでした?
山本 去年はスケジュールの都合でご一緒できなかったのですが、能楽堂の前にポスターが張り出されると「南光さん来るんですか?」とみんなに言われたので、南光師匠は客寄せには非常にもってこいの方だなと(笑)。
南光 パンダやないねんから! でも、噺家みたいな軽いジャンルの人間が能舞台に上がることに対して、引っ掛かりとかはなかったですか。
山本 基本的には足袋を穿いていただければ、どなたでも上がっていただけます。落語の方も足袋を穿かれているのでセーフです(笑)。
英太夫 やっぱり能楽堂は神聖な気持ちになる場所ですよね。英太夫として最後にこの聖域で語らしてもらえるのは、非常に嬉しいことです。じつは、私の義太夫の弟子の発表会も山本能楽堂さんでやらせてもらってて、今年で12回目。そのうち4回は南光さんも出ておられる。
南光 ぼちぼち名前をいただいてもいいぐらいです(笑)。
今回は、冒頭で小佐田定雄による演目解説に始まり、能の仕舞『鵺(ぬえ)』、落語『質屋蔵』、義太夫『平家女護島~鬼界が島の段~』の順番で上演。その後、演者によるアフタートークも開催する。
山本 『鵺(ぬえ)』の上演時間は5分ぐらいで、これでも長い方です。
英太夫 そうなんですか。今回私が『平家女護島~鬼界が島の段~』を選んだのは、2月に国立劇場で語ったところでまだ覚えているから、というのは冗談ですが(笑)。過去に一度、東京の銕仙会で『平家女護島~鬼界が島の段~』をやらせてもらったことがあったので案外、能楽堂には合うんじゃないかなと。先日は、天皇陛下が国立劇場の開場50周年記念の文楽公演「近松名作集」で、『鬼界が島の段』だけを観にいらしてたでしょ。やっぱりね、近松の作品なので最初はオーバー気味で眠たくなる感じなんですけど(笑)、これが話が進むにつれてだんだんと分かりやすくなってくるんですよ。能舞台は軽く声を出しても伝わる、気張る必要がないからいいですよ。
能と落語と文楽と「流されて…」取材会
南光 床下に(音響効果のある)瓶が埋めてあって、下からも返りがあると言うかね。生の声でみんな伝わりますからね、僕はそれが大事なことやと思います。今回『質屋蔵』という噺には、最後の方で「流されて…」という言葉が出てくるんですが、これは菅原道真が讒言(ざんげん)によって大宰府へ左遷されたことにかけてある。これを今の人は知らないでしょ。質屋さんにしても、バックや時計やらを買い取ってくれる所やと思ってる。本当は物を預けて利子だけ払ってたら、ずっと品物を大事に置いておいてくれる金融機関なんですよ。ただ、利子が払えなくなると質屋さんの物になるので、それを「質流れ」という。若いひとはそのふたつのことを知らないひとが多いので、やるときはいつも枕でそれとなく両方の説明をするんです。
桂南光
英太夫 僕も昔、見台を質屋に預けてましたから。見台を運ぶのにタクシー代がかかるんですよ。それやったら、質屋で利子払う方が安いとなったので。店の主人も知り合いやし、質屋の方が安全で大事にしてくれるしね(笑)。
「好奇心が強いんかな。何か企画があると私の名前が挙がるんです(笑)」(英太夫)
本作に限らず、様々な芸能と垣根を越えた共演を果たしてきた英太夫。呂太夫襲名後も積極的に他ジャンルと交流を続けたいという。
英太夫 もう30年ぐらい前の話ですが、NHKの企画で『曽根崎心中』を現代の大阪弁で語る「現代大阪弁文楽」というのを一回やったんですよ。『生玉社前の段』でお初に「あんたな、どうする気?」とか言わして。結局、こんな企画やってくれる太夫は誰かとなったときに、私の名前が出るわけですよ(笑)。やっぱり好奇心が強いんかなと思いますね。当時はみんなやりたがりませんから。その後も、落語家の吉朝さん、五郎兵衛師匠、文紅さんにしろ、みんな先方から「一緒にしませんか」と来たんです。みんな落語に文楽のネタが多いから、義太夫の勉強に来てね。僕は「よっしゃ、やりましょ!」ということでやって来たんです。
豊竹英太夫
南光 いま一番楽しいのは、お師匠さんに稽古をつけてもらってる時なんですよ。ひとりで語っていてもどこが悪いか分からないですから、お師匠に「そこが、ようなってきたな」と言ってもらえるのが一番楽しいんです。発表会も最初はずっとお断りしてたんですが、1年たった翌年にも「一回だけ」と頼まれて、出たんですけど。やっぱり義太夫は聞くもんでなく、語るもんですね。それ以降、自分から進んで出るようになりました(笑)。
山本 今は文楽のお稽古といえば、後進の指導が主流ですが、昔は文楽もアマチュアのひとが習う習慣があったんですね。それが無くなったから、例えば落語の演目「軒付け(素人が浄瑠璃を語る噺)」なんか現代のひとが聞いてもピンと来ないと思うんですよ。
英太夫 文楽の師匠も、昔は素人のお弟子さんをいっぱい持ってました。
能と落語と文楽と「流されて…」取材会
南光 それが嗜みの一つであった時代の方が、ずっと文化的には豊かだったと思います。昔は能楽堂でもお稽古の後に、そのままここで宴会とかしてたんでしょ。先日、新聞記事で読んでびっくりしました、無茶するなって(笑)。
山本 そうそう、昔は発表会の後に仕出しを取って宴会が始まり、みんなで持ち芸を披露したり。また、「乱能」といって能のなかでパートをチェンジするのがあって、私(シテ方)が鼓打ってみたり、舞台の下でお酒飲みながらやってました。
能と落語と文楽と「流されて…」取材会
英太夫 案外、狂言方は、シテを舞われるのが上手いんですって。
南光 梅若玄祥先生が上七軒で「乱能」しはった時に、僕は『土蜘蛛』に出てくる沢蟹役で、普通は狂言の方がやる役なので、一回だけ茂山逸平くんに稽古をつけてもらって出たんですけど。本番ではずーっと蟹のかっこして腕曲げてなアカンから、めっちゃしんどかったんですよ(笑)。他にも茂山七五三さんはお能をやって、鳴り物も全員が入れ替わって、笛は鳴らんわ失敗はするわで、みんなやりながら必死で笑いこらえてて。あんなオモロイことを能の方がやるなんて、もっとちゃんとした方々やと思ってました(笑)。
山本章弘
山本 基本的に「乱能」は、稲荷祭りの出し物でやるものなんですよ。
英太夫 文楽にも同じようなものがあって、「天地会」という。僕もお染めの人形を持ちましたよ。人形遣いさんの太夫には大笑い。あれやるとお客さん入るんですよ、みんな下手くそやから(笑)。
南光 ぜひ次回は「天地乱能」やりましょ。老後はそれで楽しみます。
山本 芸能はまちづくりの一環でもあると思うので、そういう意味では、能だけではとてもまかなえない。特に能はお客様にお辞儀もしなければ、拍手されても無視して帰る、すごく感じの悪いひとたちだと思われているので(笑)。そこを色んなジャンルの方と共演させていただき、今回のようにアフタートークまでご一緒させていただくことで、「じつは能ってこういうものなんですよ」というのを知っていただけるのは、非常にありがたいチャンスやと思っています。今回もお二人が能の敷居の高さを少しずつ溶かしてくださると思うので、ありがたく乗っからしていただきます(笑)。
山本能楽堂
■会場:山本能楽堂(国登録有形文化財)
■問合せ:公益財団法人 山本能楽堂TEL.06-6943-9454
【1】前口上:小佐田定雄
【2】仕舞『鵺(ぬえ)』:山本章弘(シテ方)、大西礼久・林本大・山本麗晃(地謡)
【3】落語『質屋蔵』:桂南光
【4】義太夫『平家女護島~鬼界が島の段~』:豊竹英太夫(浄瑠璃)、鶴澤清友(三味線)
【5】アフタートーク