白い糸で紡がれた150隻の船が、パリの百貨店に！？　塩田千春『どこへ向かって』特別展をレポ―ト

今回の展示で塩田千春さんは、人の命と旅の類似点を作り出しています。「命は行き先のない旅」という観点から、私たちの命を「旅」に例えているのです。私たちはそれぞれ見知らぬ目的地へ向かって、船に乗り込み大洋を渡るように、出会いにより感情と思い出が生まれ、経験を重ねていきます。大小様々な150隻の雪のように白い糸で紡がれた船は、過去から現在、そして未来に向かう私たちの命そのものなのかもしれません。

塩田千春は、1972年大阪生まれのベルリンを拠点に活動するアーティスト。彼女のパフォーマンスとインスタレーションは人間関係と身体、アイデンティティーについて問いかけます。2015年第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で日本館にて出品。また、パリではギャラリートンプロン（Galerie Tempon）で作品を発表しています。

筆者がル・ボン・マルシェ・リーブ・ゴーシュに到着したとき、一番始めに目にしたのは、入口のショーウインドーのインスタレーションでした。これは展示のイントロダクションのために設けられたものです。羅針盤や地図、望遠鏡など今回のテーマ「旅」に関するものが使われていました。

塩田千春さんは1月6日から、展示初日に向けて作業を始めていたそう。何もない空間は、まるで白いカンバス。筆をとり、描いていくように塩田さんは白い糸を編んでいき、繊細な立体空間を作り出していきます。

インスタレーション作品『Where are we going？』は、船をモチーフにした作品。塩田千春さんが子供の頃に、大阪から高知県にいくために家族でフェリーに乗った時に感じた新しい世界や新しい海にインスパイアされています。

展示には、グッズの販売もありました。他にも予約制ですが無料で作品案内があったり、6歳から11歳までの子供向けのワークショップもありました。フランスのパリで日本人女性が紹介され、深く理解され、作品のもつ質と量に圧倒されている姿を見ることは、一人の日本人として嬉しく思いました。

文・一部写真＝矢内美春
写真提供＝ル・ボン・マルシェ・リーブ・ゴーシュ (©Gabriel de la Chapelle)