大衆演劇の入り口から[其之二十二]「“ブレない強さ”を持っておきたい」26歳、龍新座長のチャレンジ(劇団新)
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龍新座長
“芝居クリエイター”と言えるのではないだろうか。
今、波に乗っている若手座長は? もし大衆演劇ファンに聞いてみたら、答えは色々あれど…昨年12月に大阪公演を成功させたばかりの「劇団新(あらた)」龍新(りゅう・あらた) 座長の名前はかなり挙がりそうだ。
端正な容貌、役幅の広い演技力。そして特筆すべきは“劇Ara芝居”=劇団新オリジナル芝居だ。斬新な演出が散りばめられ、定番のお芝居がこんな風に生まれ変わるんだ!大衆演劇ってこういうのもアリなんだ!と、新しい世界を見せてくれる。
あるファンは『平成に現れた森の石松』(※)を絶賛し、「森の石松っていうキャラクターへの愛にあふれてる。古典が新さんの手で現代にイキイキよみがえってくるの」と語った。
※『平成に現れた森の石松』…劇Ara芝居の一つ。幕末のやくざ・森の石松が現代にタイムスリップする物語。劇中劇など大衆演劇では珍しい手法が使われている。
3/14(火)、川崎・大島劇場の終演後の舞台をお借りして新座長に話を伺うことにした。
「僕、口下手なんですが、よろしくお願いします」
爽やかな笑顔で現れた座長を迎えて、インタビューが始まった。
「自分が飽きたら、お客さんは絶対飽きるだろうなと思うんで」
――今回、インタビューをお願いしたのは、多くの芝居の作り手としての新さんのお話を伺いたいと思ったからです。まず、18歳で座長になる前から、オリジナル芝居を作ってみたいっていう気持ちはあったんですか?
ありました。うちにあるお芝居だと、このセリフ言いたいなと思っても言えなかったり、こういう場面をやりたいなと思っても付け加えられなかったりで。じゃあもう、このシーンをやるためには芝居作ろうと思って。
――最初に作ったお芝居はどんなものだったんでしょうか。
最初はオリジナルではなくて、昔からあるようなお芝居を、自分でセリフをちょっと変えたりしたものだったんです。『浪人血風伝』っていう芝居です。でも当初はあんまり、お客さんからの評判も良くなくて。やりたいことを全部詰め込みすぎたら、どこを見せ場にしていいのか、わかんなくなっちゃって…(笑) でも、これは作り続ければそのうちに何かわかるかな!って思いました。
――お芝居を作るときは、最初に具体的な場面を思い描いてるんですか?
そうです、頭の中に場面がぼわぁーっと出てきて。で、最初と最後の場面だけ出来て、あとは間を埋めていくっていう。ほかの皆さんはわからないですけど、僕はいつも、あらすじ、流れを一回全部書くんですよ。序幕はこういうことがあって、これがキーポイントで、次の幕になって、実はこっちが恋敵でっていうのを。それを書いて2~3枚にまとめたら、あとはセリフ考えるんです。
――この場面をやりたいっていうアイディアは、どういったところが源泉になるんですか?
これ、ほんといつもわかんないんですけど…お芝居やってるときに思いついたり、ゲームやってるときに思いついたり、お風呂入ってるときに思いついたりとか。ふっとしたときに出てきます。
――3/12(日)・3/13(月)は新さんのお誕生日公演でしたね。12日の夜の部の芝居『坂本龍馬』が印象的だったんですが、あれもここをやろう!っていう場面が先にあったんですか?
あれは暗殺の場面の前の、新選組に向かって龍馬がぶわーっとセリフを言うところです。僕の中では一番好きな場面ですね。『坂本龍馬』は、武田鉄矢さんが原作の『お〜い!竜馬』っていう漫画を見てやりたい!と思ったんです。あれを全部買って見て、作ったお芝居です。
――劇Ara芝居の『坂本龍馬』は龍馬像としてすごく新鮮でした。龍馬ってあけっぴろげで明るくて愛されキャラっていうのが定番なんですけど。新さんの龍馬は孤独で、人がだんだん離れていくところが描かれる。そういった、ちょっと暗いサイドに着目しようと思われたんですか?
僕のイメージがそっちだったんですよね。『お〜い!竜馬』の龍馬もけっこう明るいんですけど、読んだ後、自分なりに色んなことを調べていって。そしたら『やりすぎ都市伝説』っていうテレビ番組に龍馬のことが出てたんですよ。龍馬はほんとは暗殺されてないとか、実は影武者だったとか、ほんとはグラバー邸に龍馬は隠れてたとか。じゃあ龍馬って多分、すっごく頭良くて、色んなことを考えてたんだろなと…。そしたらそういう、暗い場面もあったらどうかなと思って。
3/12(日)・3/13(月)に行われた新座長誕生日公演。ファンから多くのお祝いが届けられた。
――あの、『新 河内十人切り』(※)について気になっていることがあるんです。これも新さん独自のやり方でやってらっしゃいますよね。
はい。
※『河内十人斬(切)り』はもともと大衆演劇の人気演目の一つ。明治時代に実際に大阪で起きた殺人事件をモチーフにしている。物語の中心になる熊太郎・弥五郎の兄弟分を、劇団新では龍錦(りゅう・にしき)若座長・新座長が演じている。
――昨年11月に和歌山・夢芝居で上演されたとき、関西の友人が観てきて、ラストシーンが印象的だったと言うんです。お墓のそばに熊太郎と弥五郎が食べたご飯の桶が置いてあるというシーン。そしたら、先日大島劇場で観た友人は、いや幕切れが変わっていた、小龍優(こりゅう・ゆう)さんの役が仇を討って、花道をはけていって幕だったと。このように、上演するたびにラストが変わりうるんですか?
変わりますね~。一回やると、けっこう変わる場合が多いですね。ずっとやるのもあるんですけど。新作狂言は絶対録画してるんですが、自分で『新 河内十人切り』のビデオを見たときに、最初のやり方だと多分お客さんの余韻には残んないだろうなって思ったんです。そしたら、あそこは情景がふわーっと浮かぶよりも、優が演じてる役、一人だけの視点で入ったほうが良いなぁって。新作狂言は終わったら必ず自分一人で見て反省会をするんです(笑)
――個人反省会の結果の変更なんですね(笑) それでは、いっぱい作られた芝居の中で特に思い入れの深い作品はありますか?
『平成に現れた森の石松』は自分が初めてオリジナルで作ったお芝居なんで、けっこう思い入れがありますね。
――『平成に現れた森の石松』や『俺は…太郎』、これらのオリジナル芝居は大衆演劇の一種のパロディみたいだなぁと感じました。新さんは大衆演劇以外のものにもかなり触れてらっしゃるんでしょうか?
僕は舞台はそんなに観てないんですよね。劇団☆新感線とかは好きなんですけど、買って観てないっていうのが多くて、3本くらいしかまだ観てないんです。
――そうなんですか! 自分たちが普段やってることを外から見る視点があるなぁ、と思ったので。
自分たちの劇団の舞台をビデオで撮ったやつは見てます。これで果たして本当に自分が飽きないかとか考えながら。自分が飽きたら、お客さんは絶対飽きるだろうなと思うんで…。最近ちょっとわかってきたことなんですが、やってるうちから飽きてきちゃうお芝居っていうのがあるんですよ。稽古して、音作って、舞台作って、お客さんの前でやりだして、でもなんか違うなって感じる。うちの色じゃないなっていうのを。
――じゃあ一回きりのお披露目になっちゃった芝居とかも…
そういうのもありますね。
女形ではキュートな表情を見せる。
トムとジェリー、トイストーリー…映画をヒントに
――映画、特に洋画がお好きと聞くんですが、映画からアイディアを得たりすることもありますか?
ありますね。たとえば設定とか、キャラクター像とかは映画からの影響が多いですね。
――特にこの一本はっていう新さんのおススメはありますか?
観ると3日ぐらいトラウマになるんですけど…『グリーンマイル』はほんとに大好きな映画ですね。
――『グリーンマイル』を何かお芝居に活かされたりも…?
それはなかったですね、あれは僕の中ではほんとに落ち込む作品なので(笑) でも、主演のトム・ハンクスの演技がすごい好きなんです。父(龍児太夫元)の影響もありますね。うちの父も映画が大好きなので。太夫元が買って、けっこう開けてないのも多いんですけど、それを勝手に持ってって自分で観たりとかしてます。
太夫元の龍児(りゅうじ)さん。新座長の父。芝居を引き締める存在だ。半田なか子さん撮影
――お父さんと映画談義とかするんですか?
お酒飲んだりすると、映画から入って芝居の話に行きますね。父とはなんかいつも順番があるんですよね。ふざけた話になって、映画の話になって、芝居の話になって、ゲームの話になって、結局またふざけた話に戻る(笑)
――座長さんって皆さんすごくお忙しくて、なかなか公演以外の時間を確保するのは大変かなって思うんですけど、いつ観てらっしゃるんですか?
僕は大体いつも夜、寝る前ですね。稽古終わって、ゲームやりながら映画観たりとかしてます。
――同時にできるんですか?!
映画は音を聞きながら。で、ああ今のセリフいいなと思ったら止めて、巻き戻したりとか。流し見も多いですね。
――そういったところからまた劇Ara芝居ができてるのかもしれませんね。これからこういう芝居をやってみたいって考えられてるのはありますか?
シリーズものをやりたいんですよね。今、トムとジェリーから思いついて『猫とネズミ』という芝居をやってるんです。『猫とネズミ』は僕が鼠小僧で、猫は堅物の侍で、これをうちの若(龍錦若座長)がやるんです。この芝居の2と3を作りたくて。2はけっこうファンタジー系に作って、3では仲違いみたいなのがあって…って考えてます。
――シリーズものっていう発想はどこから出てきたんですか?
トイ・ストーリー3(※)を観たときに、あ、3をやりたい!と思ったんです。
※トイ・ストーリー…ディズニーの人気アニメ映画。少年アンディの部屋のおもちゃたちを主役にした物語。カウボーイ人形のウッディは中心キャラクターの一人。
トイ・ストーリー3の中でウッディが「これからもずっと友達―♪」って言ったら、音がぷつっと切れるんですよ。その次のシーンではもうアンディが大人になっちゃってる…っていうのを観て、『猫とネズミ』は必ず同じ始まり方をするけど、3だけは途中でぷつっと切れて、もう3は全然違うんだ、みたいな風にしたくて。だから3はシリアス系で作りたいなーと思って。
――じゃあ、3を前提にしてるゆえの1・2があるんですね。
そうです!
弟・妹を演技者として語る
若座長・龍錦さん。新座長の弟。真面目で優しい人柄が芸にも現れる。
花形・小龍優さん。新座長の妹。独自の世界を切り開いている。
――新さんのオリジナル芝居を観てると、弟の錦さんや妹の優さんへの役の当て方がうまいなって思います。特に錦さんですね。
そうですか?
――『もう一つの瞼の母』は錦さんの優しい要素が全面に出た役でしたし、『黄昏空の下で』もピュアな少年みたいな役でした。これは、新さんが脚本を書いて役を作る時点で、錦さんだったらこう、優さんだったらこうっていう風に当て書きされているんでしょうか?
そうですね、もう芝居を作りながら出てきますね。たまに、あっこれ合わなかったなって失敗するときもあるんですけどね(笑) あと、こういう風にやってほしいっていうお芝居はキャラ設定を伝えます。弟や妹にもこういう風にやってって言いますし、他のみんなにもけっこう言います。
――新さんから見て、演技者として錦さん・優さんそれぞれのカラーってどんなものですか?
錦は…勝手なイメージなんですけど、真面目なんですよ、あいつ。錦のやる三枚目みたいなのは、なんて言うんですかね、真面目なお調子者というか、俺と優にはない面白さがあるんですよね。それが武器になりつつあるんじゃないかなって。僕はどっちかっていうとバーッと動き回るほうじゃないので…でも錦は“動”っていうイメージなんですよね。
――そうなると、新さんと優さんは“静”のほうなんでしょうか。
(優さんのタペストリーを指して)こいつはどっちも行けると思います、優は。多分、僕と錦ができないこともできますね。一番オールマイティーなのは妹ですね、おそらく。
――それ、優ちゃんに言ってあげたことありますか? すごい褒め言葉だと思うんですが。
いやもう、言わないです、言わないです(笑)
――じゃあ、ご自分の演技者としてのカラーっていうのはどんな風に見てらっしゃいますか?
僕のカラー…難しいですね。う~ん…
――ご自分のが一番わからないかもしれませんね…(笑) 役柄が広そうだなっていうのは一観客として思います。『下積みの石』の万ちゃんみたいな、温かい、柔らかい役も合って、『坂本龍馬』みたいな硬質な役もできて。ご自分で演じていてしっくりくる役というのはありますか?
僕、ぶっちゃけ、どの役もしっくりこないんですよね。
――えっ。
だからいつも終わった後、あぁもう全然ダメだなと思うんです。もうちょい、あそこは、ああやれば良かったなぁとか。頭でイメージしてることが舞台に出るとできないんですよ。演じてて、あー違う違う違う、とか思いながらやってるときもあります。ここ増やしたほうがいいなとか、このセリフ言わなきゃ後が引き立たないなとか。
――演じながらもずっと考えられてるんですね。
だから携帯のメモ機能に全部書きます。次はこれを言おうとか。そのメモ自体忘れちゃうときもあるんですけどね(笑)
息の合った群舞。座長は舞台を務めながらも、同時にもっと良い見せ方を模索しているという。
大阪公演の挑戦「涙出そうになりました」
――交友関係では橘龍丸さん(2015年まで「橘小竜丸劇団」座長。今は大衆演劇界を出て俳優として活躍)や、荒城勘太郎さん(「劇団荒城」若座長)と非常に仲が良いと聞きます。これからこういう芝居やっていきたいよねってお話されることもあるんでしょうか。
ありますね。今、たっつんとはなかなか会う機会がないんですが、前は3人で会うと必ず芝居の話になって刺激を受けました。よし、帰ってから作ろう、みたいな。
――龍丸さんは今、大衆演劇の外の世界に出られてますが、新さんも外の世界に挑戦してみたいなって思われたこともあったんでしょうか?
僕はなかったですね。この仕事が最初っからけっこう好きだったんで。大衆演劇って結局は何でもありだと思うんですよね。昔からあるお芝居でも自分たちの色を加えたり、現代的な曲をかけても、ちゃんとそれが合ってれば良い。そういうところも好きですね。
――それが一つ、演劇としての大衆演劇の強みでもありますよね。
だと思います。18で座長になる前は、板前とかも良いな、歌手にもなりたいなと思ったんですけど。板前は鉢巻きしてる姿が好きで、風貌がカッコいいなぁと思ってました。でも結局は、やっぱ俺、これが一番良いなぁって。
――新さん、一心太助(芝居に登場する魚屋)がとても似合うと思うんですが、板前志望だったせいもありますかね(笑)
どうでしょう、そこがもしかしたらルーツになってるのかなとか(笑)
――むしろ、大衆演劇界のここは変えたいっていうところもありますか?
いやいや、僕みたいな者が変えるほどのことは…(笑) でも、これはあまのじゃく的な発言になっちゃうかもしれないんですけど、僕はあんまり流行りには流されたくないですね。観てて時々思うんですけど、役者の中でも、なんか同じような踊りだなーって…そういう流行りみたいなのがあるじゃないですか。そこには行きたくないなあって。“ブレない強さ”っていうのは持っておきたいですね。うちの劇団はブレずに行こうっていう。
――そうですね…大衆演劇もショー中心になる傾向があるように思います。
ああ、芝居っていうところはブレたくないですね! 昨年12月に大阪・鈴成り座で公演させてもらったときも、お客様から「もうちょい明るいほうが良い」とか「盛り上がる舞踊をやってほしい」とかいう声もあったんですけど。「笑いのお芝居じゃないと来たくない」とか「明日喜劇?」とか聞かれたり。だから最初「変えたら?」って言われたんですけど…そこを変えると、関東から行ったっていう意味がなくなるような気がして。そこはもう全部ブレずに行ったら、それがけっこう受けて、後半は盛り上がってきてくれたんで。
――鈴成り座のにぃに(※)も言ってました。お客さんが右肩上がりに増えていったって。
ほんっとに良かったです。
※にぃに…鈴成り座の名物従業員さん。関連記事:みんな大好き! 大阪・鈴成り座のたこ焼きのヒミツ
――やっぱり劇団新の芝居好きだよっていうお客さんが増えたんですよね。
これはもう賭けでしたけどね。受けなかったら、ほんと恥さらしになって帰ることになったんで(笑) 段々、予約席が増えてきて、お客さんが増えてきたときは、受け入れてもらったんだなって思いましたね。もうめちゃめちゃ嬉しかったです。千秋楽がほとんど予約で埋まったときは、ほんと涙出そうになりましたね。あの数を見たときは。
――大阪の友人・知人も初めて劇団新を観るっていう人が多かったんですけど、みんなすごく良かったと言ってました。
良かった~…。
――また大阪公演もこの調子だとありそうですよね。鈴成り座でも待ってるって言ってました。
にぃにがいてくれるんで。知らない間にお父さんが友達になってました(笑) 大阪でも、もう一回勝負したいですね。
――お忙しい中、ありがとうございました!
インタビューの日は雨で、地元のお客さんを中心にのんびりした客席だった。前日までの2日連続誕生日公演という大イベントを終えた直後でもあるし、舞台もまったりした雰囲気――になるかと思いきや。
「いつも100%でやっていますが、こういうときこそ120%でやります!」
新座長の口上通り、錦若座長、優花形、メンバー全員が力一杯の芝居・舞踊を見せた。3月、大島劇場には若い笑顔が弾けている。
昔ながらのお芝居に、平成生まれの感性が新しく吹き込まれていくのだろう。「新」の名前の通り。驚きとロマンに満ちた幕は、まだ開いたばかり。
期間:3/1(水)~3/29(水)夜の部まで
休演日:3/30(木)・3/31(金)
会場:大島劇場 公式サイト
日程:土・日・祝祭日は昼夜2回公演 平日は夜の部のみ
時間:昼の部13:00~16:00 夜の部:18:00~21:30
料金:大人1600円 小人900円
座布団1枚100円 座椅子1台100円
問い合わせ先:044-222-8809
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