青木豪の新作『エジソン最後の発明』が開幕! 瀬奈じゅん・東山義久らによる“ささやかで壮大な”会話劇をレポート
(撮影:桜井隆幸)
2017年4月2日、三軒茶屋・シアタートラムにて、『エジソン最後の発明』が開幕した。青木豪が7年ぶりに、作と演出両方を手がける本作は、キャスト8名によって、巧みに組み上げられた、アンサンブルが光る、味わい深い会話劇となった。
物語の舞台は、東京の下町。その町には様々な部品をつくる小さな工場がいくつも並び、街角のどこからか、作業の音とともにラジオの音が流れてくる……。そんな変わらぬ同じ朝が、今日も始まる町。
町工場「糀谷工業」の社長の真一郎(小野武彦)は、息子夫婦と共に町工場を経営している。既に妻を亡くし、娘の深春(瀬奈じゅん)は、ラジオ局でパーソナリティをしている。
ある日深春は、ディレクター仲木戸(東山義久)と共に、実家の近所の町工場にロケ取材にやって来ることになった。取材先の油木製作所は、油木恒夫(八十田勇一)とその甥の博之(武谷公雄)が切り盛りをしている。工場主である今は亡き博之の父は、父の真一郎と旧き親友だった。恒夫は未婚で初老を迎え、博之はかつて医大を目指しながらも今は工場を継ぎ、少し暗い感じのする青年だった。収録現場には、真一郎や、深春の兄夫婦(岡部たかし、安田カナ)、深春の大ファンだという中学の後輩・麦子(まりゑ)等も集まってきていたが、深春は何だかぎこちない。
(撮影:桜井隆幸)
実は深春と仲木戸は恋人で、互いに結婚を考えているのだが仲木戸はバツイチ。深春は父の反対を恐れまだ仲木戸を紹介できずにいる。できればまだ二人を会わせたくなかった。そんな折に実家近くでロケをすることになってしまった。しかし真一郎は仲木戸が娘の恋人だとも知らず、ラジオの中継のシステムに興味を示し、仲木戸を質問攻めにしているうちに、二人は、量子論の話やトーマス・エジソンが最後に発明に没頭していたという“死者と話す通信機”の話で意気投合。真一郎はなんと自らその“死者と話す通信機”の発明に着手しているという。あまりの没頭ぶりに周りは心配をしているようだ。
(撮影:桜井隆幸)
慌ただしく中継は始まったが、博之は、番組の内容と関係ない自分の長年のわだかまりを生放送中に喋りだした。それは父の親友であったはずの糀谷真一郎への疑念。過去に何があったのか、深春と仲木戸の恋の行方は、そして真一郎はなぜ死者と話す通信機を作ろうとしているのか。2つの家族を巻き込みながら、工場の街角で繰り広げられる、“ささやかで壮大な”会話劇だ。
(撮影:桜井隆幸)
登場人物の誰もがどこか愛らしく、小気味良い密度の高い会話は、下町に根付くご近所関係を垣間見せる。作・演出の青木豪が、その声を聞き“ラジオパーソナリティ”という職業を着想したという魅力的な声を持つ、瀬奈じゅん演じる深春は、チャーミングで、元宝塚トップスターである一面とは、また全く異なり、働きながら結婚に悩む、現代的な女性をリアルに演じている。華麗で耽美的なダンスパフォーマンスの印象が強い東山義久も、今回踊りは封印。ラジオ局のディレクターでバツイチという、今までに無い役どころで新たな魅力を見せている。小野武彦演ずる真一郎は、技術系の少し偏屈だが温かみ溢れる父親で、この町の父親たちの象徴ともいえるような、空間全体を包み込む存在感を発揮している。
(撮影:桜井隆幸)
実力派俳優たちが演ずる登場人物それぞれのキャラクターは個性的で粒立ち、それぞれのバックグラウンドや人物、人間模様が丁寧に描かれている。会話の妙や予想外の展開に、見逃せないあっという間の1時間50分だ。桜咲く春にふさわしい情感溢れる珠玉の作品となった。
(撮影:桜井隆幸)
公演に向け、作・演出の青木豪は、「今、僕が出せる全てを出し切った作品です。素敵なキャスト・スタッフに恵まれ、とても良い作品になっていると思います。一度だけでなく2度3度と見ると、なおも深みを増す作品になっています。是非ご覧下さい」と述べた。また、瀬奈じゅんは「今日、とうとう皆様の前にお披露目できる事が凄く楽しみです。生の舞台はお客様が客席に入られる事で完成するものなので、私もどんな完成形が出来上がるのか、ワクワクしています。皆様も楽しみにしていて下さい。」と意気込みを述べた。
(撮影:桜井隆幸)
公演は4月2日(日)から23日(日)、三軒茶屋・シアタートラムにて、当日券は毎公演、開演1時間前より劇場にて販売される。その後、名古屋、大阪での公演も予定。
【名古屋公演】 2017年5月1日(月) 青少年文化センター アートピアホール
【大阪公演】 2017年5月2日(火)、3日(水) サンケイホールブリーゼ