風光る最高の天候の下、胃も心も満たされた”カレーと音楽の祭典”をレポート

2017.4.15
レポート
音楽
イベント/レジャー

『ボタとサーカス』 撮影=EL CURI-NHO

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少し肌寒いものの陽光の踊るような明るさの下、カレーの匂いが立ち込めるイベント『ボタとサーカス』が4月2日(日)に名村造船所跡地で開催された。イベントタイトルである『ボタとサーカス』は、空前のカレーブームとも言える大阪のカレーシーンで15年もの長きに渡り営業を続けているカレー屋のButtah(以下、ボタ)と、確かなブッキングセンスによって全国的に信頼を得ている大阪・アメリカ村のクラブであるCIRCUS(サーカス)のコラボを表している。今回はボタ以外にも、4店舗のカレー屋台が出店。今や押しも押されぬ超人気店となったデッカオ、谷口カレー、かれーちゃん家の3店に加え、Mr.SAMOSAという神出鬼没な移動サモサ屋だ。そしてtofubeats、鎮座DOPENESS、呂布カルマなど今をときめく16組のアーティストが集結。そんな”カレーと音楽の祭典”をレポートする。

オープン待ちの行列 撮影=EL CURI-NHO

14時のオープンを待ちきれない人たちが既にエントランスに群がり、イベント前の独特のワクワク感とソワソワ感が入り混じった、なんとも言えない緊張感が漂っている。そんな中、DONUTS DISCO DELUXEのANI fromスチャダラパー、AFRA、ロボ宙の3人は、”カレー屋台村”と名付けられた野外スペースの一角で、自らが物販コーナーに待機しつつ会場の雰囲気を楽しんでいた。カレー屋台は準備に余念がない。カレー屋台以外にもステンシル作品を販売するアーティストMASAGONのブースとレジャーブランドAllstimeの展示ブースも出店していた。そしてオープンするやいなやカレー屋台には早くも列が出来始めている。早速カレーをゲットしたお客さんが選んでいたのは、かれーちゃん家の”新じゃがのキーマカレーとキノコとチキンのカレーの2種盛”と谷口カレーの”アサリのシーフードカレー”だ。

かれーちゃん家「新じゃがのキーマカレーとキノコとチキンのカレーの2種盛」(写真左)と谷口カレー「アサリのシーフードカレー」(写真右) 撮影=senda

かれーちゃん家の”キノコとチキンのカレーの2種盛”は今回30食分限定ということでこの日一番最初に売り切れたカレーだ。まったりとした中に力強さのある味で、”新じゃがのキーマカレー”のキリッとした味わいのカレーとのコントラストが秀逸な一皿。谷口カレーの”アサリのシーフードカレー”も、魚介の旨味が凝縮された濃厚な味わいでスプーンが止まらなかった。

ボタのツナとほうれん草カリー(写真左)とバターチキンカリー(写真右)をゲットした2人 撮影=senda

こちらは15周年を迎えるボタの”ツナとほうれん草カリー”と”バターチキンカリー”をゲットした2人組。どちらのカレーも実店舗でも人気のカレーだ。辛過ぎることもなくちょうどいい美味しさのインドカレーで、15年もの長きに渡って、大阪のカレーシーンを引っ張ってきたことも頷ける。

カレー屋台の行列 撮影=EL CURI-NHO

オープンから30分も経った頃にはカレーを求めて大行列が出来ていた。カレー屋台村と題された野外ブースではDJごはん、メインステージではYOTTUがDJで会場を盛り上げる。YOTTUのグルーヴであたたまったフロアは、最初にライブアクトとしてチプルソが登場した段階でほぼ満員になっていた。チプルソの好演の後、QUESTAのDJタイムを挟んで登場したのがあっこゴリラだ。

あっこゴリラ 撮影=EL CURI-NHO

”女の子らしさよりもゴリラらしさ”を追求してるというあっこゴリラ。「カレーのつけあわせ、デザートはバナナだよね」と、のっけからバナナをフロアに投げるパフォーマンスを披露。ゴリラとバナナとイエローモンキーとドンキーコングがテーマの彼女の楽曲には、ジャングルやトロピカルな要素が散りばめられている。野口英世をフィーチャーした「黄熱病」では、観客に千円札を掲げさせる演出も。最初から最後まであっこゴリラらしい、力に満ち溢れた、はしゃぎまくるステージングで観客を魅了した。

呂布カルマ 撮影=EL CURI-NHO

あっこゴリラが残していった熱気を、大人の落ち着きと独特の雰囲気でガラッと一変させた呂布カルマ。「カレーの上にのってる納豆のつもりで聞いてくれ」や「昼間には合わないけどカレーには合うぜ俺のヒップホップは」と嘯きつつライブは進んでいく。本人の言葉通り、決してノリのいいトラックが多いわけではない。どちらかと言えば緩いトラックにのせて、ねちっこく歌うのが彼の持ち味。執拗に韻を踏むMCではなく、優しく観客に語りかけるようなメッセージ性の強いヒップホップMCだ。変に韻を踏まないことで、言葉のもつ強さをより際立たせていた。

DJ AGEISHI 撮影=EL CURI-NHO

その頃カレー屋台村では、DJ AGEISHIによるワールドミュージックセットで極上の時間が流れていた。AGEISHIの紡ぎ出す音楽に身を揺らしながらカレーを待つ者、ようやく手にしたカレーを仲間同士シェアして各店の味の違いを楽しんでいる者、楽しみ方は自由だ。そんな中、17時を前に谷口カレーが用意したカレーが全て売り切れた。

Vidhya Liquid 撮影=EL CURI-NHO

続いてカレー屋台村では石濱匡雄率いるVidhya LiquidのシタールLIVEが始まった。シタールが奏でる幻想的な音色にカレーが進まずにはいられない。ライブ中に「ボタでカレー購入のお客様にはCDをプレゼントします」と石濱氏。ボタの15周年をお祝いする嬉しい特典を用意してくれたものだから更に行列が伸びていた。行列の中にはステージを終えたばかりの呂布カルマあっこゴリラ、DJ AGEISHIの姿もあった。

環ROY 撮影=EL CURI-NHO

メインステージでは、呂布カルマの独特の空気感から引き続き、こちらも独自の世界観を持つ環ROYが登場。観客に喋っているのか、はたまた独り言を呟いているのかと思って聴いていると、それ自体がラップになっていて自然に次の曲に繋がっていく。曲と曲の切れ目のないステージングは、環ROYの独特な”感覚と間隔”で演劇的とも言える。また、イケメンMCとして女性ファンも多い彼だけに、今回の出演者の中でも一際女性ファンの黄色い声援が多い印象だ。急に歌いだし、黙りこみ、叫ぶ。彼のステージは次に何が起こるのかまったく予測できず一時も目が離せなかった。

鎮座DOOPNESS 撮影=EL CURI-NHO

環ROYの後に登場した鎮座DOPENESS。環ROYの独特な世界観にひけをとることのない、まさに唯一無二な鎮座DOPENESSワールドを展開してくれた。ステージ中は彼にしか出せないフレーバーがちりばめられており、個性の強さとサンプリングの完成度の高さが際立つ中、観客に喋りかけてステージを降りてしまう演出も。ヒップホップMCの中でも非常に歌唱力が高いと言われている鎮座DOPENESS。どんなに早いフロウでもすんなり耳に入ってくる“言葉”に聴き惚れた。そして最後は何の前触れもなく「はい、終わりまーす」で終わってしまう潔ぎよさ。観客を最後まで「あっ」と裏切ってくれた。

田我流 撮影=EL CURI-NHO

のっけからフルスロットルで登場した田我流。テンションの高いステージが続く。そして「俺を呼んだってことはこう言うことだよな!」と叫んで始めた、田我流 feat.stillichimiya名義の楽曲「やべ~勢いですげー盛り上がる」で会場のボルテージはマックスに。

ダイブ! 撮影=EL CURI-NHO

そしてダイブ! 熱狂のフロアからステージに戻った田我流が次に披露したのが「ゆれる」だ。さっきまでの狂乱はどこへやら、しっかり聴かせる一面を見せつけた。静と動の緩急を見事につけたステージングで実力の高さが伺えるステージだった。

デッカオのチキンカレーを食べる男性 撮影=senda

日が落ち始めた野外スペースでは既にかれーちゃん家、Mr.SAMOSAのカレーとサモサが完売していた。ボタもバターチキンの方は売り切れていたようだった。写真の男性と共になんとか手に入れたデッカオのチキンカレーがとにかく美味い。チキンカレーにトマトサラダとナスの炒め物を混ぜて食べるスリランカカレーで、混ぜれば混ぜるほどに旨味が増すから不思議だ。そんな中、カレー屋台村にECD×DJ Mitsu the Beatsの「君といつまでも」が響き渡る。本当に幸せな時間だ。

DONUTS DISCO DELUXE 撮影=EL CURI-NHO

DONUTS DISCO DELUXEはANI fromスチャダラパー、AFRA、ロボ宙の3人が、DJとライブを自在に行き来するパーティースタイルユニットだ。DJクール・ハークが発明したブレイクビーツについての説明をした後にインクレディブル・ボンゴ・バンドの「APACHE」をスピン。そこに声を被せていきそのままライブへと流れていく様は、DONUTS DISCO DELUXEの3人自体がサウンドシステム、言わば移動ディスコといった感じだ。初期のヒップホップの雑でザラついた感覚に近い。要所要所で挟み込まれるAFRAによる高度すぎるビートボックスにも魅了される。最後に「GET UP AND DANCE」でANIの「ニンニキニキニキ」で最高潮へ。飄々としながらもベテランの余裕で完全にフロアを一体にするステージングはまさにパーティーそのものだった。そして今回登場した出演者の中で最もボタ15周年への敬意を忘れなかったのもDONUTS DISCO DELUXEの3人だったように感じた。

カレー屋台村の様子 撮影=EL CURI-NHO

5店舗で用意した合計700食分のカレーが全て完売したにも関わらず、完全に日が落ちた後もカレー屋台村の熱気は一向に冷めることがない。DJ AGEISHI、ALTZ、MONGOOSEの3人による三つ巴のバックトゥーバックがカレー屋台村を盛り上げる。3人のレコード職人たちが、日が落ちた後の4月にしては少し寒すぎる会場を熱く優しいグルーヴ感で包み込んでいた。

tofubeats 撮影=EL CURI-NHO

今回の『ボタとサーカス』において、tofubeatsのLIVE SETを楽しみにしていたお客さんはやはり多かった。ヒットメーカーとなった彼だけに当然とも言える。定刻よりも少し遅れてのスタートだったが、始まってみればポップなtofubeats節が炸裂。「水星」に「丸の内サディスティック」を混ぜるなどフロアを楽しませながら、ヒット曲を連発。抜群の安定感だ。途中ラップトップから離れステージ最前列に出てきてのパフォーマンスも秀逸。「ライトがこんなに当たって恥ずかしい」と言いつつも余裕のステージングを披露する。5月24日(水)発売予定のメジャー3rdアルバム『FANTASY CLUB』から、新曲「BABY」も披露するなど大判振る舞いな内容だった。

PUNCH&MIGHTY&鎮座DOPENESS 撮影=EL CURI-NHO

トリを務めたのはキーボーディスト、メロディカ奏者のMichael☆PunchとDJ Mighty Marsによるユニット・PUNCH&MIGHTYだ。途中ロボ宙が登場し、スペシャルセッションが始まった。余裕のステージングをこなし退場したかと思うと鎮座DOPENESSが「ギャーテーギャーテー」を、続いて田我流が登場し「今日は休みだ」を客演。「まるでEVISBEATSナイトじゃないか!」と田我流。最後はPUNCH&MIGHTYの2人による「Midnight Chain Gang feat. Tony the Weed」でしめた。

PUNCH&MIGHTY 撮影=EL CURI-NHO

ステージを去る際に「夜風に吹かれて」を少し小さめの音量でかけて、最後まで楽しんだお客さんを送り出した。帰路につくお客さんたちは皆満足気だった。身も心も……いや、胃も心も満たされているようだ。

ボタ川崎さんとサーカス小林さん 撮影=senda

長丁場のイベントだったにも関わらず、ボタの川崎さんとサーカスの小林さんは共にいい笑顔をしていた。それは『ボタとサーカス』の大成功を意味していた。そしてなによりもこのイベントにかける2人の情熱が1000人もの来場客の心と胃袋をつかむことに成功し、最高の休日を演出したのだ。ちなみに今回はカレーと音楽のコラボだったが「今後も様々な異業種コラボを検討している」というサーカスの小林さん。もちろん『ボタとサーカス』の今後の展開にも期待していいようだ。
 

取材・文=senda 撮影=EL CURI-NHO

イベント情報
『ボタとサーカス』
日時:2017年4月2日(日)
会場:名村造船所跡地
出演者:
【メインステージ】
LIVE:tofubeats / 田我流  / 環ROY / 鎮座DOPENESS / DONUTS DISCO DELUXE / 呂布カルマ / チプルソ / PUNCH&MIGHTY / あっこゴリラ DJ:QUESTA / YOTTU 
【カレー屋台村】
シタールLIVE:Vidhya Liquid(石濱匡雄)DJ:ALTZ / DJ AGEISHI-World music set- / MANGOOSE / DJごはん Sound:yoko△uchuu 
カレー屋台
Buttah / デッカオ / 谷口カレー / カレーちゃん家 / Mr.SAMOSA
  • イープラス
  • 環ROY
  • 風光る最高の天候の下、胃も心も満たされた”カレーと音楽の祭典”をレポート