『ラ・マンチャの男』大阪公演初日をレポート!
誕生50年目を迎えてもなお響き続ける、生きる意味を問う舞台。
歌舞伎役者の松本幸四郎が、何と1969年から演じ続け、日本での通算上演回数が1,200回を超えたミュージカル『ラ・マンチャの男』。この作品がアメリカで誕生してから50年を迎えたメモリアルイヤーに、あの「憂い顔の騎士」が劇場に戻ってきた! ヒロイン・アルドンザ役の霧矢大夢などの一部のキャストを入れ替えた、2015年度版キャストによる公演が、9月2日から大阪・シアターBRAVA! で開幕した。
舞台となるのは、16世紀末のスペインの刑務所。教会を侮辱した罪で投獄された作家セルバンテスは、暇を持てあました囚人たちによって、模擬裁判にかけられてしまう。その自己弁護のために、セルバンテスは自分の作品『ドン・キホーテ』を彼らに聴かせることにする。自分は騎士だという妄想に取り憑かれ、ついにはドン・キホーテと名乗って悪を退治する旅に出る老人キハーナの珍道中を描いた風刺小説。セルバンテスは自らドン・キホーテを演じ、連れてきた従者や周りの囚人たちにも様々な役を与えて、次第に全員がこの奇妙な冒険の世界に取り込まれていく…。
というわけでこの物語は、セルバンテスとドン・キホーテの話が入れ替わり立ち替わり語られるという、やや複雑な構成となっている。しかしキャストたちの巧みな演じ分けと、何よりもスペインのフラメンコをフューチャーした、パワーと野性味にあふれた音楽&振付で、グイグイと観客たちを物語の世界に引っ張りこんでいく。
とにかく際立つのは、主演の松本幸四郎の圧倒的な存在感だ。彼が初めて「ドン・キホーテ」の名乗りを上げると、それだけで客席からは拍手が起こったほど、観客の心を瞬時に鷲づかみにする。とても御年73歳とは思えない…まるでどっしりと大地に横たわる巨石のような、重々しくも安定した歌とセリフ回し。それはどんなに周りにバカにされても「自分は騎士だ」と疑わず、崇高な騎士道精神を貫こうとするドン・キホーテの揺るぎない姿と、見事に重なりあう。
それとある意味で対照的なのが、アルドンザを演じた霧矢大夢だ。ドン・キホーテが由緒ある城と思い込んで泊まった宿屋で働く女だが、彼から高貴な姫君とカン違いされたことで、分不相応なほどうやうやしく扱われることに。登場した時は、手のつけられない野生馬のように猛々しかった女性が、生まれて初めて見返りを求めない愛を注がれることで少しずつ揺れ動いていく様を、繊細な演技と歌の変化であざやかに表現していく。
そしてこのミュージカルの人気を不動のものにしているのが、ドン・キホーテ&セルバンテスが発する名言の数々だろう。「事実とは、いつの時代も真実の敵だ」「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ」など、思わず自分の人生を省みてしまうような言葉が次々に出てくる。その「あるべき姿のために戦う」ことを高らかに歌い上げるナンバー『見果てぬ夢』での幸四郎の熱唱は特にすさまじく、歌い終えた瞬間に間違いなくその日一番大きな拍手が起こっていた。
ドン・キホーテに関わったがゆえにアルドンザは過酷な目に遭い、ドン・キホーテもまた、彼の財産を狙う博士の手で“正気”の世界に引き戻される…という所で、セルバンテスに本物の宗教裁判の呼び出しが。しかしすっかりこの物語に夢中になった囚人たちは、続きを演じるようセルバンテスをうながす。そして彼が語り始めたキハーナ=ドン・キホーテの旅の終わりと、セルバンテス自身の運命は…その行き先は、ぜひ劇場にてその目で確かめてみよう。
幸四郎がドン・キホーテの年頃に近づいたこともあり、まさに今熟成の極地に達しているようにも思えた『ラ・マンチャの男』。大阪公演の後は長野、東京でも上演されるので、ぜひこの遍歴の騎士の到来を万雷の拍手で出迎えて、その荒唐無稽な活躍ぶりを目に焼き付けて欲しい。
ミュージカル『ラ・マンチャの男』
(大阪)上演中~9月21日(月・祝)シアターBRAVA!
(長野)9月26日(土)~28日(月)まつもと市民芸術館
(東京)10月4日(日)~27日(火)帝国劇場
出演:松本幸四郎、霧矢大夢、駒田一、ラフルアー宮澤エマ、石鍋多加史、宮川浩、上條恒彦、他
公式サイト:http://www.tohostage.com/lamancha/