『サクラパパオー』 稽古場レポ+大人たちの座談会 (中屋敷法仁、伊藤正之、広岡由里子、木村靖司、市川しんぺー、片桐仁)
(左から)市川しんぺー、木村靖司、片桐仁、中屋敷法仁、広岡由里子、伊藤正之
ラッパ屋主宰の鈴木聡脚本、柿喰う客主宰の中屋敷法仁演出で生まれ変わる、話題のコメディ『サクラパパオー』が、いよいよ4月26日 (水)彩の国さいたま芸術劇場を皮切りに埼玉・東京・仙台・愛知・大阪で上演される。A.B.C-Zの塚田僚一を初め、年齢、キャリア、ジャンルも異なる役者が集まったこの舞台、初日を目前にしたとある夕刻、稽古場にお邪魔する機会をいただいた。
柵に囲まれた小高い円形のステージとそれを取り囲む芝のコース。パドッグ(レース前に馬の下見ができる場所)にも本馬場(レースをする場所)にも見える。さらに上手には馬券売り場、下手には売店が設置されており、この狭い空間の中に競馬場で必要なものがほぼすべて収まっている、といったところ。お馬好きな方にとっては心が沸き立つステージ!?
この日見学したのは後半の場面。ゆえに詳しい話は割愛するが、ステージ上を役者たちが上手から下手、ステージ奥から舞台前まで激しく動きまわる。その姿はまるで役者自身が競走馬のよう。まだ稽古段階だというのに、本番を見ているかのように目や胸が熱くなることも。一瞬にして人の心を掴む鈴木作品の力を感じた瞬間だった。
さて、稽古が終わり、演出の中屋敷と、キャストの伊藤正之、広岡由里子、木村靖司、市川しんぺー、片桐仁という「大人チーム」の皆さんに話を伺った。この組み合わせでの座談会は初とのこと。さて、「大人らしい」話となるだろうか。
■まずは、稽古場の様子から
――まもなく本番ですが、稽古の仕上がりは何%くらいですか?
片桐 ここはやはり中屋敷さんに語ってもらわないと。
広岡 98%くらい?
中屋敷 (笑)実は今から1週間くらい前には100%になっていて…。
広岡 やったー!明日から(稽古)休みだ!!(笑)
中屋敷 で、そこから味付けをどうしようかな、俳優さんたちの変なシーン、クセのある絡みなどを見たいなって思っていて。だからまずはフォーマットを作り、試行錯誤する時間、トライ&エラーをする時間を増やそうとしていたんです。
片桐 クセとかありすぎでしょう、この方々は。クセというかもう臭いというか(笑)
市川 自分だってそうでしょうよ!?
片桐 いや僕は役ですから!!皆さんですってば!!
市川 クセというか…普通のことができないんです(笑)
伊藤 演出受けたことをメモしてないと全く思い出せないし、あげくにはメモすることすら忘れたり(笑)
木村 やっぱり老化現象だねえ(笑)
片桐 木村さんに関してはどんどんできなくなっている!最初は完璧だなって思っていたのに、日を追うごとに壊れていく(笑)
木村 忘れるんだわさ!ひとつできると安心して…「あ、さっき言われたのに!」ってなるの。それが積み重なって壊れていく。
全員 (笑)
中屋敷 ……逆にここにいない塚ちゃんとか(黒川)智花ちゃんのクセを強くしようって思っていて。今はもっと深い味を出す段階かなって思っています。
片桐 競馬場の雰囲気を登場人物の一人ずつが担っているんですよ。それがすごいなって思いますね。特にお二人(木村・市川)のシーンの空気感は完璧ですから!
――過去2度、劇団ラッパ屋で本作を上演したときは、木村さんが今回片桐さんが演じる「的場」役を演じていました。役こそ変わりますが、今回の稽古中に初演、再演のときの感覚って思いだす事ってありますか?
木村 瞬間瞬間のシーンでね。誰かのセリフを聴いているときとか。特にレースを見ているときかな。「あ、この芝居の空気ってこうだったよな」って。
広岡 舞台セットは(当時と)全然違うの?
木村 全然違う。あのときはシアタートップス(かつて新宿にあった劇場。座席数150人)でやっていて。
片桐 結構小さいところでやっていたんですね。
――中屋敷さんは過去の『サクラパパオー』の舞台映像は結局ご覧になりましたか?
中屋敷 観ていないんです。鈴木聡さんのいろんな戯曲とラッパ屋の俳優を研究して、「この俳優にあててこう書いたんだろうな」と裏読みして演出プランを考えました。「ラッパ屋だったらこうやるんだろうな、だからこういうセリフなんだろうな」ってワクワクしながら読みといてましたね。本物の映像を観てしまうと越えられなくなりそうなので。台本は過去最高に読み込んでいると思いますよ。
広岡 回数も?
中屋敷 回数も。あと口に出して読んでいたり。あ、これは絶対おかやま(はじめ)さん、これは福本(伸一)さんにあてて書いたんだろうなって。…脚本にすごい個性が出ているんです。ラッパ屋メンバーにあてたラブレターみたいです。
広岡 稽古場でもセリフを一緒に言っていることがありますよね(笑)
――もう役が乗り移っているのかという……
片桐 しかも全役ね。
市川 この前、僕がセリフを言っている時に、中屋敷さんも同じセリフを言っているからうっかり止まっちゃった(笑)
中屋敷 本当にすみません。しかもちょっと先に言い出しちゃって。
片桐 超マニアックなお客さんだよね。「毎日観に来てるだろ?」って。
――稽古場ではとにかく皆さんが右に左に走り回っていたので、皆さんが出走馬みたいに見えていました。
広岡 ステージに出てくるときもね。あーそう見えているのか。今気が付いた!
木村 ステージ上の坂道を上がっていくシーンなんて、自分では結構速く走っているつもりなんだけど、結構ドタドタと走ってて(笑)悔しい!こんな姿のはずじゃない!って。
広岡 ドタドタと音がうるさいのはしんぺーさんでしょ?
市川 以前、栗山(民也)さんに「ドタドタ歩くとセリフが聴こえないからやめてくれ」って言われたんですよねー。
全員 (笑)
■座長・塚田僚一vs伊藤正之!?
――主演・塚田さんの稽古場での様子も教えてください。
伊藤 あっかるいですよ!ポジティブでねー。
広岡 ニコニコしていますね。
伊藤 楽しんでるなーって。人のセリフも一生懸命聴いているし。
広岡 日に日に演技が変わっていくので、「誰か、入れ知恵しているのかな?」って
片桐 演出!演出!入れ知恵って(笑)
広岡 これカットしておいて。
市川 僕らは稽古が終わるとすぐ着替えちゃうんですけど、塚ちゃんは残ってまだ練習していますよ。
広岡 え?終わってから?
市川 全然見ていないんですね!塚ちゃんとお二人さん(中島亜梨沙、黒川智花)は稽古場に残って役の話とかをしているんですよ。
広岡 そっかー!道理で女性用のロッカールームは私一人だと思った!大人はすぐお酒を飲みにいっちゃうからね(笑)
片桐 ……しましょうか?僕らもそういう役の話とか。
中屋敷 塚田くんは座長っぽいことをしているという訳ではなく、この現場を楽しんでいるんだと思う。舞台に出るだけでもとっても楽しそうで。その姿が競馬場に遊びに来ている田原の役と重なるなぁと思います。あと、塚田くんは先輩方について、お芝居ではもちろんリスペクトしているんですけど、あのとおり身体がものすごく動く人なので、どんどん動き回って皆さんを挑発しているんじゃないかなって。伊藤さんも塚田くんとのシーンでは彼のものすごい勢いに押されてません?塚田くんがぴょんぴょん飛んだり跳ねたりしているから…最近そういうシーンが増えているし。
伊藤 俺、塚ちゃんを超えちゃあマズイなあってセーブしていて!!
全員 あはははは!!嘘だろ!
伊藤 まるわかりの嘘だよ!
広岡 鉄板のジョークだから!
伊藤 アクロバティックなことは全然ダメです。
市川 うん、わかってます(笑)
中屋敷 そういう違うセッションみたいなコラボが観ていておもしろいなって。皆さん、劇団もホームも違う方々なので、他流試合みたいなのがおもしろいんです。
■ほぼ競馬初心者だったのに、こんなに詳しくなりました!
――ご自身を競走馬に例えるとどんな馬ですか?「先行逃げ切り」とか「追い込み型」とか悪天候に強いとか……
片桐 芝がいいとか
広岡 ダート(土)がいいとかね。
伊藤 僕はかっこよくゴール前で差したいけれど、差せずにビリッケツのほうになるタイプ。かといって先行…もできないタイプ。
広岡 最初にばーっと走っていくのはこの人(市川)とかでしょ。
市川 僕も先行逃げ切りにしたいけど、途中息切れするタイプ。でも「アイツ、がんばってたなあ」って思ってもらえる馬でいたいですね。最後にお客さんに「よくやった」って拍手されながらゴールに迎えられる馬みたいな。
広岡 今日は出走取消になりそうな感じだったよね、稽古場で!
市川 僕はトラブルが起きるとワクワクするんですよねー!
片桐 あれ、屈辱ですけどね(笑)ただ遅いだけだろ!って。
広岡 私は絶対3位には入らないタイプですね。最初から後ろを走ってて最後まで後ろを走っているタイプ。で、なかなかゲートインしないの。落ち着かなくて。
片桐 それ、わかる!俺、開場時間に会場に入りたいくらいだもん。しないけど。で、フラフラしていて落ち着きないタイプ。
市川 今、塚ちゃんとかが稽古終盤になってきてガーッと伸びてきているでしょ?あれ、すごいですよね。
広岡 差し馬ですよね。塚ちゃんは。
木村:私は斜行して他の馬の進路妨害をして、降着になる馬じゃないかなあ(笑)
全員 (笑)
市川 大迷惑な(笑)
木村 自分勝手に走って、騎手が「こっちだ」って言っているのに、後ろの馬の邪魔をして結局ビリッカスになるタイプね。
片桐 ネガティブな事ばかり言ってるじゃないですか!
木村 今日の稽古でもそうでしょ?後半いきなり調子悪くなって人の邪魔ばっかりしてたし。
中屋敷 僕は、ジョッキーの気持ちになってました。ジョッキーって乗る馬を変えられるじゃないですか。この馬が好きなのに別の馬に乗せられるとか、相性のいい馬に当たらなかったり、相性悪い馬ばかりきたり…演出家と俳優もそうかなって。
広岡 え?じゃ今の現場も相性がよくないとか言う?(笑)
中屋敷 いや、そういう意味じゃなくて!
片桐 ハッキリ言え、ハッキリ!(笑)
中屋敷 面白いレースって相性が悪い馬に乗せられたときにどんな走りを見せるか、なんじゃないかなって。相性がいい馬に乗るとお客さん的にもどうでもよくなるんじゃないかな?あまりおもしろくないというか。こんなに若い馬にこんなベテランが乗るのか、とかおもしろいと思う。だから僕はベテランの馬に若いジョッキーが乗っている気持ちでいます。…鞭叩かせていただきます(笑)
広岡 常に鞭入れている感じよね。
伊藤 「休んでいるな」と思ったらやさしく鞭入れてる感じね。
中屋敷 塚田くんへの鞭と皆さんへの鞭はやっぱり違いますよ。やはり新馬ですから。
広岡 彼らは3歳未満のレースですからね!
■僕たち、アレだけはやめられないんです……
――競馬など賭け事にのめりこみすぎて怒られる、でもやめられない…って人は世の中にもたくさんいますが、皆さんの場合、怒られるくらい夢中になってしまうものってありますか?
木村 ……お酒だなあ。
広岡 私も……。
伊藤 俺も……。
木村 お酒からはどうしても逃げられない…。毎回反省するのに毎回同じことをやってしまう。
広岡 二度と飲まない、って思うんですけどね。外が暗くなってくると……。
市川 この現場、仁さんはあまり飲めないんですけど、それ以外はすごい飲みますよね。
片桐 塚ちゃんも飲める方だしね。
木村 特にこの演出家がすごい。青森の人だからか、お酒強いよねえー。
中屋敷 競馬もそうですけど、お酒ってだんだんそれをやる(飲む)ために生まれてきたんだなーって錯覚に陥りますね。
片桐 お酒「だけ」が飲みたいんですもんね。飯食わないんですよね。お医者さんにも「お酒が飲みたいんです」って聴いたんですよね?
中屋敷 ならば下手なものを食べないほうがいいって言われて(笑)
――では、皆さんで飲みに行く機会も多いんですか?
市川 結構行ってますね。で、毎回誘うのも何かなーと思っていると、伊藤さんが「今日は飲みにいかないの?」ってアイコンタクトを取ってくるんです(笑)
伊藤 「おい、行くぞ!」っていうタイプじゃないんですよ。(笑)
市川 そのタイプはこの現場にはいないんです。
広岡 誰かが声をかけてくれるのを待ってるタイプばかりで。
市川 ちょっと着替えが遅いな……って。
伊藤 あはははは。リュックを一つ一つゆっくり床に置いて声かけられるのを待ってるの。
片桐 だいたい必ず3、4人が飲みに行ってますよね。
市川 稽古場にYES/NO枕が欲しいですね。今日は帰りに飲みたいときは「YES」にしておくとか。
広岡 最近飲みに行かない現場が多いんですけど、ここは本当に飲みますねえ。
片桐 普通、顔合わせが終わったらそのまま飲みに行くものかと思っていたんですが。
市川 だから顔合わせのあと、時間を空けているんですが、最近ないですね。
片桐 それに行けると「あ、仲良くなれたかな?」って思うじゃないですか。
――飲んでいるときは、芝居の話をしますか?あえてしない役者さんもいると聞きますが。
片桐 そういう話をしていなくても、ふいに芝居の話になったりしますね。
市川 まあ次の日忘れてますけどね(笑)
木村 逆に芝居の話ばかりしている人もいるけど、ここの現場はほどよいよね。
伊藤 この前飲みに行ったときも芝居の話、全然覚えてないねー。くさやの話は覚えているんですけど。このくさや、あんまり臭いがないなーって(笑)
■全員笑いっぱなしの座談会。最後にシメるのはこの方!
――この舞台、埼玉楽日は天皇賞(春)、東京楽日はヴィクトリアマイルというGIレースと重なっているんですよね。舞台が終わる頃にレースが始まるくらいの時間になりそうですね。
市川 じゃ、芝居をマキましょうか(笑)この舞台だけは許されますからね! この前、なかなか結果が出なかった桜花賞のときは、休憩中だったんだけど、なかなか稽古再開にならなくて(笑)
――『サクラパパオー』きっかけで、競馬に興味を持つ方も増えそうですね。とはいえ競馬にどハマリさせてしまうのは悩ましいところですが。
市川 競馬場にお金だけじゃなくロマンを買いにきていただければ。だから馬券を買わなくても「この馬が勝ってくれたら……」という夢だけを乗せてね……。こんなうまいまとめでどうですか?
全員 (笑)
■演出:中屋敷法仁
■出演:
塚田僚一(A.B.C-Z)
黒川智花
伊藤正之
広岡由里子
木村靖司
市川しんぺー
永島敬三
■会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
■問合せ:パルコステージ 03-3477-5858
(月~土 11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)
■日程:2017年5月10日 (水) ~2017年5月14日 (日)
■会場:東京国際フォーラム ホールC
■問合せ:パルコステージ 03-3477-5858
(月~土 11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)
■日程:2017年5月16日(火) 19:00開演
■会場:電力ホール
■主催=仙台放送/ぴあ
■問合せ=仙台放送 022-268-2174(平日9:30-17:30)
■日程:2017年5月19日(金) 16:00開演
■会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホール
■主催=キョードー東海
■問合せ=キョードー東海 052-972-7466