香港公演から半年、劇団B級遊撃隊が『朝顔』凱旋公演を上演! 佃典彦・神谷尚吾に聞く
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2014年11月『朝顔』初演より 撮影:佐藤元紀(ACLOS)
香港の観客も絶賛! 2014年初演の衝撃作が再び名古屋で
男が半年の出張から帰宅すると、マンションはもぬけの殻だった。
妻とは昨夜も電話で話したが、携帯電話でのこと。
この部屋から掛けていると男が勝手に思っていただけである。
妻と娘の姿はなく、テーブルと椅子だけが残されたリビングには
朝顔のツルがビッシリと巻き付き、壁や天井にまで密生している。
まるで何年も空室になっていたみたいに…。
2014年に佃典彦が書き下ろし神谷尚吾が演出を担当、劇団B級遊撃隊のアトリエ公演として上演された『朝顔』。3人芝居のシンプルな構造ながら、佃カラー満載の不条理にサスペンス要素が絶妙に加わった本作は、昨年11月、香港の劇団・香港話劇團が主催する演劇フェスティバル《國際黑盒劇場節(International Black Box Festival)2016》に招聘され香港で上演。今回はその凱旋公演として、5月10日(水)から5日間に渡り名古屋の「ナビロフト」で公演を行うのだ。
香港話劇團とB級遊撃隊との出会いは、遡ること6年前。佃典彦の岸田戯曲賞受賞作『ぬけがら』を香港話劇團が2011年に香港で上演し、この作品で彼らは現地の演劇賞主要7部門を独占受賞している。その後2014年には、劇団B級遊撃隊プロデュース『ぬけがら』+香港話劇團『脱皮爸爸(だっぴパパ)』として愛知の「長久手市文化の家」で連続上演を行い、こちらも好評を博した。
こうした縁でフェスティバルへの参加依頼を受けたB級遊撃隊は、『朝顔』を引っ提げ、いざ香港へ。本作は現地でいったいどのように上演され、どんな反応を得たのか。また凱旋公演の内容について佃と神谷に話を伺うべく、稽古場を訪ねた。
前列左から・山口未知、佃典彦、吉村公佑 後列中央・神谷尚吾
── 香港公演はいかがでしたか?
佃 満席でしたよ、全ステージ。
── 今回、香港公演を行うことになった経緯を教えてください。
佃 そもそもは、香港話劇團が『ぬけがら』を初演した時アフタートークに呼ばれて、音響のKANS君と二人で香港に行ってきたんですけど、香港話劇團って香港の中でも結構大きい劇団で、ビルの5階か6階が全部劇団のフロアで、その中に「ブラックボックス」っていう劇場があるんです。最初に行った時にそこを気に入って「ここいいなぁ」っていう話をしていたら、「演劇フェスティバルをやります」って。隔年で開催してるんですけど、1回目は日本から青年団が行ってて、去年は僕らが行って『朝顔』を上演させてもらったんです。
神谷 イギリスとか韓国からも来てたり、香港と日本の合同とかいろんな国から。本当に国際演劇祭っていうか。僕たちの一週前がイギリスのカンパニーの公演で、そこの作家と演出の人も『朝顔』を観てくれたんですよ。
── 香港ではかなり有名な劇団なんですね。
佃 ちょうどね、日本でいうと文学座みたいな感じ。
──『朝顔』を持って行ったというのは?
佃 それ用に創ったんですよ。フェスティバルに参加することが随分前に決まってたので。役者3人以内で1時間15分くらいっていう決まりで。台湾とか近くは結構大人数もあるんだけど、イギリスは一人芝居とかで。
── 名古屋での初演の時は、既に香港公演を行うことが決まっていたんですね。
佃 まだ本決まりではなかったけど、口約束みたいなことを言う現地スタッフがいたんですよ、マーブルっていう。「OK! OK! モウマンタイ(無問題)」って、本当に大丈夫なの?って(笑)。でも、マーブルがOKって言ったことは大概大丈夫になった。
稽古風景より
── 日本と香港で上演することを想定して書かれたということですね。本作の発想はどこから?
佃 まず、セットが少ないっていうことですね。じゃあ、まぁ空き部屋かなぁっていう。そういう物理的なことでシチュエーションが決まってくことも多いじゃない。空き部屋で、ちょっとサスペンスっぽいものの方がわかりやすいかなぁと思って。
── 今回の作品はナレーションが多いですが、香港ではどのように?
神谷 字幕です。
── セリフも全部?
佃 2行、3行で出してもらって。
神谷 苦労してやってもらったので、すごく有り難かったですね。
── 香港バージョンと凱旋公演バージョンの演出は変わったりしているんでしょうか。稽古を拝見させていただいた印象では、セリフのニュアンスなど細かく指示されていましたが。
神谷 香港から帰って来て時間が経ったらみんな忘れてたの、芝居を。ここまで忘れるか、っていうぐらい忘れてたので(笑)。当たり前の話だけど、やっぱり芝居が動いていくのかなぁ。名古屋の初演からキャストも一部変わったりして、香港用に創っていってもやっぱりやる度に変わっていくし、役者も時間と共にいろんなものが変わってきてるので、それに合わせてというところはあったりする。一応、香港で撮った舞台映像も観ながら確認はするんだけど、役者が今やってる演技に合わせた方が良いし、何か感じてると思うので。そういう創り方が一番良いんだろうなと。毎回新作をポンポンやるよりもひとつの作品に向き合うっていうのは、すごく良い経験をしてるような気がしますね。
稽古風景より
── 香港で上演してみた結果から変えようということではなくて、純粋に作品自体や役者と向き合った結果、変わってきたということですね。
神谷 そうですね。役者3人によって行われていることをこっちから見てて、何か引っかかってるんだろうな、とかそういうところを生かしていった方が良いんではないかなと思ってる。
佃 香港バージョンという意味では、背景に映像がいろいろ入るんだけど、それが香港向けになってる。初演の時は「ヒヒヒヒ」って笑い声をカタカナで壁に映し出したんだけど、それを広東語の漢字で出したり。
神谷 それを観て笑いが起こったのはビックリしたけどね。
佃 そうそう。
── 香港の観客の方は、リアクションが大きいですよね。以前、KUDAN Projectの台北・香港公演を拝見した時に、観客が日本よりビビッドに芝居に反応されていたのにとても驚きました。
佃 ものすごい早い段階から笑ったりするよね。青年団を香港で観たんですけど、その時もそうだったもん。もう爆笑になってる!って。青年団の芝居って、そんなに笑いを取る感じでもないじゃない。それでもおかしい状況がちょっとでもあると反応がいいなと思って。
神谷 僕も観てて、すごく理解したリアクションであったと思いますね。日本で字幕付きの公演を見ると、ん?と思う時があったけど、そういう感じじゃなくて。今回の訳し方が良かったのかもしれないけど。
佃 ちょっと舞台上で起こってることが見えないと、みんな立つって言ってたもん。ワーッて。
佃・神谷 (声を揃えて)そんなことは、日本では無い(笑)。
神谷 何が起こったんだ? と思って見ると、あぁそうか、って。2回目からは「早く字幕を出さないとみんな立ち上がるから先に出して」と。それが香港向けの演出かもしれない(笑)。
佃 みんな楽しみに来てて、楽しんで帰るっていう感じはした。
稽古風景より
── 日本よりも演劇が身近な娯楽として受け止められているんですかね。
神谷 難しい芝居もあるけど、よく観られてるような気もする。
佃 だってさ、開場から開演までが15分間なんですよ。日本だと30分でしょ。おまけに300人ぐらいの会場が自由席なの。だけど15分ぐらいで綺麗に入ってたもん。どこに座ろうかウロウロしてる人もいないし、お客さんも慣れてるんじゃないのかな。
神谷 アフタートークも積極的で。
佃 意見が出たね、手上げて。
── 具体的な質問が日本よりも出ますよね。何か気になった意見などはありましたか?
神谷 初演の時のお客さんの疑問とあまり変わらないところがあって、芝居を観慣れた人が劇場に来てるような。実際、フェスティバルの演目にも結構難しい現代劇もあるみたいなので。最初僕は『ぬけがら』を上演した香港話劇團の(コミカルな)イメージでいたので、そういうものばっかりやってるところだと思ってたら全然違って、もっといろんな前衛的なものをどんどんやってて。
佃 そうそう、その感じも文学座っぽいよね。別役(実)さんの作品も上演してるしね。
神谷 スタッフの中にも『寿歌』を観たとか寺山を観たとか言ってた。
── 今後も香港で上演したいと。
佃 まぁ機会があればね。
神谷 違う土地で上演すると、なんか変わった感じがしますよね。外へ出て行くのは辛いところもいっぱいありますけど、いいなぁと。初めて香港でやって、初めて演出をやっていけると思ったもん。スタッフの人たちに「good job!」とか言われると単純に嬉しかったですね。
稽古風景より
── 今回の凱旋公演で、初演の時と違っていることは何でしょう。
佃 一番大きいのは長嶋(【女】を演じた女優)が(山口)未知さんに変わったことと、それに伴って若干台本も変えて、映像で広東語のお遊びみたいなことが入ってて。
── 音響や照明などは?
神谷 変えました。音響は大きく変わってます。初演の時は曲が1曲もなかったので。今回はKANS君が持ってきたものを稽古で合わせたりとかして。香港の劇場に入って出した音もあるんですけどね。
── 今回は曲があった方が良いと思われたのは?
神谷 初演の時は頑なに使わないと決めてて。アトリエ公演で狭い空間だったというのもあるんですけど。(当時は)密閉感みたいなのを出したかったのかもしれない。香港の時は改めて稽古に入ったらそういう思いが無くなってました。実際、KANS君が出してくれた音で芝居自体が膨らんだりとか、映像も変わったことで初演とは違うことがやれたので、その時にSEみたいなものがあった方が良いんじゃないかと。
── 前回はアトリエ公演でしたが、今回「ナビロフト」で上演するというのは?
佃 香港の劇場のサイズと「ナビロフト」がちょうど同じサイズなので。
── 「ナビロフト」での公演は初めてですよね。
佃 初めてなのよ。楽しみですね。
── 初演の時と結構見え方が変わるのかなと。
神谷 だいぶ変わると思いますよ。タッパがぜんぜん違うし。
日常であった場に生じた歪みと徐々に浮き彫りにされていく痛ましい人間関係、そこに不気味な要素やビジュアルが加わり、観る者の心に強烈な印象を刻む本作。香港公演という経験を経て、初演のアトリエよりも広い空間でどんな作品世界を見せてくれるのか、開幕がとても楽しみだ。
劇団B級遊撃隊『朝顔』チラシ表
■作:佃典彦
■演出:神谷尚吾
■出演:佃典彦、山口未知、吉村公佑
■日時:2017年5月10日(水)19:30、11日(木)19:30、12日(金)14:00・19:30、13日(土)14:00、14日(日)14:00
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-0-902)
■料金:前売2,800円、当日3,000円 ※25歳以下はユース割引あり(受付にて500円キャッシュバック、当日年齢を確認できるものを提示)
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、1番出口から徒歩8分
■問い合わせ:劇団B級遊撃隊 052-752-6556 bkyuyugekitai@nifty.com
■公式サイト:http://bkyuyugekitai.wixsite.com/