白井晃と多部未華子が語る『オーランドー』 作品の魅力は未知数、だから面白い
舞台『オーランドー』 演出家:白井晃×オーランド―役:多部未華子
この秋、ヴァージニア・ウルフ原作、サラ・ルール翻案・脚本の舞台『オーランドー』が日本で初演される。本作は、16世紀のイングランドに生まれた少年貴族オーランドーが男女の性を超え、16世紀から21世紀までの時をも超えて生きていく姿を描いた奇想天外な物語。KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督である白井晃が演出を務め、オーランドー役には多部未華子が挑戦する。作品のカギを握るであろう二人に、作品への思いやその魅力について聞いてみた。
お互いにとって念願の初タッグ
――今回、『オーランドー』という作品を選ばれたのはなぜですか?
白井:KAATの芸術監督を務める中で、近代戯曲や近代小説などを題材にやろうという狙いがあり、これまでも『夢の劇』や『マハゴニー市の興亡』、『春のめざめ』と上演してきました。そのシリーズの中で、19世紀後半から20世紀初頭に書かれたものをもう一度掘り起こしてやりたいなと思っていたんです。何となく、100年前の世界の様相と現代は相似形をなしているような感じがしていて、その頃に書かれたものや当時の人々の心のありさまから、我々現代の人間たちが学びとることもあるなと思っていて。そんな中で、サラ・ルールという劇作家が気になっていたんですね。すごく演劇的な戯曲を書く方で、仕掛けが面白い。そのサラ・ルールが戯曲化した『オーランドー』を読んでみたら、やっぱり演劇ならではの書き方をしていたので、上演してみたいと思った次第です。
――多部さんはオファーがあった時、どう思われましたか?
多部:話がすごく難しい……。でも、それは置いておいて(笑)。白井さんといつかご一緒してみたいとおもっていたので、その気持ちの方が強かったです。5、6年くらい前から山本耕史さんに「絶対一緒にやった方がいい」と、ずっと言われていて。
白井:そうなんですか。いいとこありますね(笑)。
多部:昨日も「すごく稽古時間が長い(笑)、だけど学べることが多い」とメールをいただきました。
白井:耕史くんがそんな風に言ってくれていたのはすごく嬉しいですね。逆に、僕も「『オーランドー』の主人公になぜ多部さんを起用したんですか?」って絶対聞かれると思うんですけど、正直、別に『オーランドー』じゃなくてもよかったんです(笑)。僕もいつかお仕事を一緒にしてみたいとずっと思っていたので、今回快く引き受けていただいて、「本当ですか!?」という気分です。
「稽古時間が長い」と噂の白井作品
――多部さんは、念願叶っていかがですか?
多部:そうですね。でも、稽古時間が長いというのを他の役者さんからも聞いているので、どんなに長いのか気になってはいます(笑)。
白井:どんなにって! 僕より長い人もいますよ。
オーランド―役:多部未華子
――実際の稽古時間はどれくらいのものなんですか?
白井:いや、普通に8時間。でも最近は6時間くらいですかね。
多部:え? 本当ですか?
白井:はい(笑)。本当はやりたいんですけどね。ほっといたら休憩もとらずにやっちゃうタイプなんですけど、最近はみんなが考える時間だとか、スタッフとの打ち合わせ時間をとった方がいいだろうということで。でも、やっぱり稽古はいいですよ。稽古はやっただけいいものになるって、やっぱり思うんですよね。
演出家:白井晃
――とのことですが、多部さんの心構えは?
多部:実はディスカッションをすることが苦手で、自分の意見や台本を読んでどう思ったとか、どうしたいとか、そういうのもいつもあんまりなくて。ディスカッションが飛び交う稽古場に自分も入っていけるようになりたいなと常々思っては、常々できずに終わってしまう。でも、今回は小日向さんやイケテツ(池田鉄洋)さんといった、ご一緒したことがある方が多いので、作品やキャラクター、動きについてなど話せたらいいなと思っています。
白井:なるほどねえ。今のお話を聞いて、すごく腑に落ちました。演劇的な言い方になっちゃうんですけど、多部さんって役を説明しないんですよね。自分の中に内包しているものと役柄を照らし合わせて、自分との接点を探しながら演じているなと思っていて。要するに、表層をつくらない。多部さんという人が見える感じがするから、それが魅力だなと思っています。
演劇のつくり方って色々あって、ディスカッションしながら「ああでもない」「こうでもない」っていうやり方もあるとは思うんですけど、僕自身も俳優でやる時は寡黙になってしまうタイプ。だから、シンパシーを感じますね。まあ、でも今回は、賑やかなおじさんたちの現場になるとは思います。(小日向さんのものまね声で)「あのさー、白井ちゃんさー」って、小日向さんが一番真ん中でワーワー言っていると思いますね。
多部:(笑)。
オーランド―役:多部未華子、演出家:白井晃
作品の魅力は未知数
――作品の魅力について教えてください。
白井:本当に不思議な話。ヴァージニア・ウルフが同性の恋人をイメージして書いた作品ですけど、20世紀初頭という同性愛が許されない時代にそれでも結びつく感覚や人とのつながりを感じる思いを、こういう仕掛けの作品にしたと思うんです。同時に詩というものが作品に出てきていて、人が言葉を紡いでいること、思いを言葉として伝えていくことの大切さをオーランドーという人物に預けたんじゃないかな。
物語が大きく展開して大団円を迎えるってことはないんですが、魂あるいは言霊は永遠に続いていくものかもしれない、そういう命に対する希望みたいなものを感じられる作品にできたらいいなと思っています。
多部:私の中ではちょっと難しくて、まだ全然話がわかっていないんです(苦笑)。でも、オーランドー自身も人間だから、そこに自分の思いをリンクできればと思っています。
この作品に限らず、自分が出演した舞台は、いつも千秋楽ぐらいにやっと話がわかってくるんです。だから、今回は稽古中にわかってくれば私の中で合格点です。
オーランド―役:多部未華子
白井:僕自身も『オーランドー』の魅力やその真髄をどこまで本当に掴んでいるのか、わかりません。実際、役者さんと一緒にやる中で見えてくることがありますね。だから、それを今回の6人の出演者たちと一緒に探っていけたらいいと思っています。正直言って、この作品の最後にどういう感覚が起こるのか、僕も見えていないんですよね。でも、だから面白いのかもしれない。
演出家:白井晃
演劇的な仕掛けが面白い
――セリフというよりは、語りが多い演劇的な面白さもある作品ですよね。
白井:これは本当に演劇ならではのやり方だと思います。「この6人の役者で演じます」という前提がありながらも、「(観客の)あなたが演じてもいいのよ」という開きがある。でも、それって、僕たちの人生と同じなんですよね。例えば、演出家だったら演出家、俳優だったら俳優っていう役をどこかで演じているところもあるんだと思うんです。
おそらく全員が出ずっぱりの舞台で、大道具や小道具も役者が動かしたり、書割を下ろして場面転換したりすることもあるかもしれません。今、演劇の世界がリアリズム傾向にいっていて、このやり方は新しいものではないんですけど、それを改めてここでやってみるということはすごく面白いと思うんです。「いかにも芝居です」っていう行為を見せて、芝居を見ているという構図を明確にしておきながらも、一人一人の人物がすごく生身のリアルなものに見えてくる瞬間があるはず。僕はそれを多部さんに期待しているんだろうなと思いますよ。
――多部さんは演劇的な見せ方をどう思いますか?
多部:きっと、先輩方の方が視覚的に強烈だったりする中で、オーランドーという人物って、内面や生まれ持ったものを前に出すのがすごく難しい。前にばかり出る時だけが目立つわけじゃなくて、一歩引いている姿が一番際立つ場合もあると思うんです。同じ板の上に立っていても、登場人物のそれぞれの色を上手く出せれば面白いだろうけど、まだ話もわかっていないので(笑)。白井さんに託して稽古に臨みたいと思います。
舞台『オーランドー』 演出家:白井晃×オーランド―役:多部未華子
◆衣装(多部未華子)
PERMANENT MODERN
Sretsis
JILLSTUART
GUSUCUMA
取材・文=岩本恵美 撮影=中田智章
『オーランドー』
◆KAAT公演:2017年9月23日(土・祝)~10月9日(月・祝)
KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
◆東京公演:2017年10月26日(木)~29日(日)
新国立劇場 中劇場
◆松本公演:2017年10月18日(水)
まつもと市民芸術館 主ホール
◆兵庫公演:2017年10月21日(土)~22日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
◆翻案・脚本:サラ・ルール
◆翻訳:小田島恒志/小田島則子
◆演出:白井晃
かながわ 0570-015-415 (10:00~18:00)
http://www.kaat.jp
パルコステージ 03-3477-5858 (月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
http://www.parco-play.com/