大衆演劇の入り口から[其之二十四] 大川良太郎座長の語る今と未来「すべては大衆演劇を広めるため!」

2017.5.22
インタビュー
舞台

大川良太郎座長


「歌舞伎の市川海老蔵さんに言われたことがあるんですよ。“歌舞伎は日本の文化として知られてるけど、実際に観ようかって人は10人いたら4人だよ。でも、君たち大衆演劇は2人か1人だよ”」

三吉演芸場の高い天井に大川良太郎(おおかわ・りょうたろう)座長の声が静かに響く。

「“それだけ大衆演劇は知られてない世界だから、もっと頑張らないと、もっと広めないと”って励ましてくれたんです。ああ、ほんとにそうやなぁ~って思いました」

良太郎座長にこれを聞きたい

122。旅芝居専門誌『カンゲキ』に掲載されている、全国の大衆演劇の公演箇所数だ。興行として一大ジャンルであるにも関わらず、存在すら知らない人がまだまだ多い。たしかに知る“きっかけ”がないのだ…。筆者が一ファンとしてもどかしく思っていたところ、先月、Twitterの大衆演劇ファンの間でこんなハッシュタグが流行した。

#あなたの大衆演劇はどこから(作成者:るーいちさん@hyde95ryuich22)

大衆演劇を知ったきっかけを語るツイートが次々投稿された。うち、あるツイートが目に飛び込んできた。

≪2013年大阪プロレスのリングにあがった大川良太郎座長が初見☆ 大衆演劇の梅田呉服座がプロレスのナスキーホールの下階にでき、座長がリングで踊り、レスラーが呉服座の舞台にあがるという絡みがあって。それから毎月観るようになり、大衆演劇のエンターテインメント性に取り憑かれた。≫(蛙子さん@kaebullet) ※元のツイートを一部補足しています。

大川良太郎座長・女形

劇団九州男(くすお)の大川良太郎座長は、他のエンタメとのコラボイベントや商業演劇にも幅広く出演することで、大衆演劇の認知度を高めてきた。そうだ! 良太郎座長なら大衆演劇の外の世界も知った上で、現状と未来への突破口について語ってもらえるのじゃないだろうか? 5/11(木)、横浜・三吉演芸場へ。終演後の舞台で話を伺った。

「大衆演劇を知らない人、めっちゃいっぱいいます」

――この連載ではこれまで色んな座長さんにインタビューさせていただいたんですけど、誰より大衆演劇を外に発信してきたのは良太郎さんだと思って、発信者としてのお話を伺いに来ました。

そうですね、僕も色んなことをやらせてもらってます。違うジャンルとコラボさせてもらったり。というのは大衆演劇の小屋だけで活動してたら、やっぱり一般的に知られないままで、一般の人がまったく観てない状態で終わっていくと思うんで…。ちょっとでも違うジャンルのファンを増やしたいなと思って。

――特にインパクトが大きかったのが2015年の「関西コレクション」への出演ですね。すごい反響があったんじゃないでしょうか?

あった、あった。そのときのブログアクセスはすごかったですね。僕、平均で4万アクセスくらいあるんですけど、あのときは16万とか17万とか。

――すごいですね…! それだけ興味を持たれたっていうことですよね。

そうそう、やっぱりあれは出て良かったなぁと思います。そもそも4万人の前で踊るなんてことはなかなかできないことやから。素晴らしい経験やったと思う。観客4万人って異次元の世界ですよ、気持ちいいもん。僕のことを全然知らん人もすっごい盛り上がってくれて。

――4月に関コレ「SPRING & SUMMER」に出た後、9月の「AUTUMN&WINTER」も出られましたね。

それは最初に関コレに出る話をいただいたときから決めてたんです。あえて2回出るって。1回きりだと出ただけで終わってしまって、意味がないと思ったんですよ。2回出ることで、この人は関コレに出る人なんやっていうイメージを持ってほしくて。

――一方で今年4/9(日)には、兵庫県川西市の「源氏まつり」に出演されてましたね。お一人で20分も持ち時間があったそうですが…。

源氏まつり 提供:旅芝居専門誌「カンゲキ」

源氏まつり 提供:旅芝居専門誌「カンゲキ」

大変ですよ、20分、一人で踊れっていうのは。いじめですよ(笑) だって一人の人を20分って観ないと思うんですよ。こういうとこに出させていただくと、自分を知らない方がたくさんいてて、お前誰やねんって観てるわけですし。だからなるべく飽きないようにテンポを良くしたり、早替わりをやったり、目を離させないような演出を考えますね。この「源氏まつり」のときも3回衣装を着替えてます。

――知らない人の前で踊ることで、初めて知ってくれる人がいるっていう手ごたえはありますか?

すぐに結果が跳ね返ってくるかっていうのは難しい問題なんです。ほんとはこういうイベントで観てくれて、良かった、じゃあ大衆演劇の劇場にも観に行こうかーって調べて来てくれるのが一番ありがたいんですけど…やっぱね、なかなか跳ね返ってくるのは遅いんですよね。良かったよーって思いながらも、そこで終わるんですよね。これ観た人があのときの人や、観たいなと思ってくれるのは1年後かもしれんし。

――ただ、こういう世界があるんだってことを知ってもらう効果はありますよね。

そう、決して損ではない。僕はそう思って出てるんですよ。大衆演劇を知る機会自体、なかなかないと思うんで。

――ほんとに、大衆演劇の存在を知らないって人がまだ多いですもんね。

めっちゃ、いっぱいいます。ほんまに知られてない。この横浜公演も非常に厳しいですしね。今日も昼の部は大入りいただいたけど、夜の部の入りは50人弱かな? 考えたら、50人しか集められないっていうのはつらいですよね。やっぱり大衆演劇って弱いよなぁって思いますよね…。大衆演劇もね、歴史が長いのに、文化に入れてもらえないのが寂しいですね。歌舞伎とか、お相撲さんとか、日本の文化じゃないですか。

――本当はそういうところに入ってもいいですよね。

一時、「大衆演劇」っていう名前がダサいせいで、広まりにくいんじゃないかって思ったんです。「歌舞伎」ってカッコいい名前じゃないですか、それに対して…。だから新しい名前考えようって思ったんですけど、結局俺が言ってもなーって…(笑)

和やかな雰囲気の口上挨拶。ファンからの差し入れを傍らに。

――テレビや雑誌にもかなり出られてると思うんですが、メディアの切り取り方って難しいですね。限られたページや限られた尺の中だと、イケメンで親しみやすくてっていう、どうしても“アイドル”的な切り口になりがちだと思います。

そうですね、そういうのが多いです。でも芝居にこだわってるっていうのはお客さんが実際に観ないとわからないし、多分、発信としてはそれでいいんだと思います。実際、テレビの力はすごいなと思いますね。昔、綾小路きみまろさんの「ごきげん歌謡笑劇団」(※)っていう番組にレギュラーとして出てたんですよ。そのときは必ず放送のあったあくる日から一週間ぐらい、すごくお客さんが入ったんです。あのときはフィーバーでしたね。何もせんでもお客さん来る、みたいな(笑)

※「きみまろフルコース ごきげん歌謡笑劇団」…NHKで放送されていたバラエティ番組。良太郎座長は2010年~2012年にかけて出演した。

――今度、CSでも劇団九州男の放映がありますね。

うんうん、ああいうのも、本当にありがたいと思うんですよ。

※6/24(土)、テレビ朝日CS放送の大衆演劇シリーズで劇団九州男の舞台が放映される。番組の特設ページ

劇団九州男 群舞

商業演劇に出てみて思うこと

――大衆演劇以外の商業演劇にもたくさん出演されています。

30歳~33歳近くまで、劇団を離れて商業のほうに行かせてもらうことも多かったですね。他のジャンルの演劇に出ることで、初めて僕を観る人が、あぁこんな役者がいるんだって思ってくれて、大衆演劇の小屋に足運んでくれたらいいなと思って行ったんですけどね。でも、現実はなかなか難しかったです。結局、稽古のために、自分の劇団をひと月半とか離れるんで…。だんだんファンの中からも、最初の1年くらいは応援するみたいな形やったんが、やっぱ2年3年になってくると、大衆演劇を忘れたんやとか、もうそっちに行きたいんやろとか…そういうお言葉をいただくようになってしまって。実際、30歳のときはほんとに大衆演劇を辞めたかったんですよ。一回、大衆演劇にまったく興味なくなったんです。外に挑戦したいって思ったきっかけはそれもあったんで。

――じゃあ、もしかして他の演劇に出られ始めたときは、そのまま商業に行くかもしれなかったんですね。

ありえましたね。ただ、守るものもいっぱいありますし、劇団のメンバーもこれだけ僕について来てくれてて、家族もメンバーも捨てることになってしまうんで…やっぱり考え直しました。それに商業を経験したことで、大衆演劇には商業にはない楽しさもあるなって思いました。商業ってそれこそ、立ち位置はこうですよ、セリフはああですよ、アドリブは絶対無理ですよ、みたいに決められてます。それは面白くないなぁって。

――大衆演劇だと自分で変えていけますもんね。

でしょ? その日の気分、お客さんの雰囲気見て、すぐアドリブで変えられる。俺はやっぱりそっちのほうが好きかなぁって思ったんですよね。毎日やることが変わっていくほうが。ひと月近く稽古でずっと同じことをするっていうのは、俺にはちょっと長いなって。劇団☆新感線さんには憧れてて、出たい気持ちもあるんですけどね。

――5/8に劇団☆新感線の『髑髏城の七人』を観に行かれたんですよね? 当日付のブログに書かれていました。

行きましたよ! 観るのは好きですね、やっぱりすごいなって。ああいう舞台を観ると、“環境”ってありがたいなって思います。『髑髏城の七人』も360度回転する劇場で演じてるわけじゃないですか。それって同じ内容やってても、まったく雰囲気変わるわけですよ。僕ら大衆演劇って、いつも同じ小屋、照明はない、必要なものは自分らで作る、自分らで買うみたいな…。環境が与えてくれるものがどうしても少ないんで。たとえばもしここにスッポンがあったり、宙づりができるんだったら、また違う幅が広がるじゃないですか。

――ブログに書かれていた「何かしら変えていきたい」っていうのはそういう部分でしょうか。

そうですね、変えていきたいんですけど…。大衆演劇の小屋って、唯一、(トントンと舞台を叩いて)この板があるだけなんですよ。板があるから踊ってください、芝居してくださいっていう状況でしょ。だから変えようもないし、広げるのも難しくて。

――お芝居を観てても、劇団側が演出とか凝って、ここを見せたいっていう気持ちと、そこに環境が追いついてないだろうなっていうギャップを感じますね…。

うん、まったく追いついてないですね。もちろん劇場さんも頑張ってくれてるんですけど、どうしても…。

芝居の一シーン。立ち回りの速さに場内が沸く。

悩みは、どうしたら客席がもっと盛り上がるのか

――いずれ商業演劇みたいな完璧な環境で演技したいなっていう気持ちはありますか?

したいですね。ちょっと前までは自分の小屋を持とうと思ってて。うちはブラックステージっていうのを使ってるけど、持ち歩くと壊れることもあるし、もし劇場を持ったら備え付けたいなって。自分がやりたいこと、すべてが揃ってる舞台が欲しいなっていう気持ちがあったんやけどね…今はもう、ないな。

――ないんですか?

それをしたところで、と思う。してもお客さんが喜ぶかどうか…

――舞台内容が客席に響いていないってことでしょうか。

そんな気がするな。やらんうちから言ってるのはあかんけどね…。今、大衆演劇の一部のお客さんが芝居を観るより、なんか“アイドルに会いに来てる”風なんですよね。僕はもうアイドルっていう歳でもないですけど(笑)

――良太郎さんが10代・20代の頃と比べると、だいぶ変わりました?

変わりましたね。昔って本当に、お客さんが役者を育ててくれたんですよ。芝居にしても踊りにしても、良い踊りを踊ったら応援するよっていう。僕の場合は10代のとき初めて贔屓さんができて、着物や鬘を買ってくれたりしたのが嬉しかったです。それでまた頑張ろうと思うじゃないですか。もっともっと上達しようってなるし、そういう環境がいっぱいありましたね。今はもちろん全員じゃないですけど、わざわざ好きでお金払って観に来て、なのに前列で楽しくなさそうな表情で観られたりすると、何でやろ…?って。横浜だけじゃなくて、大阪帰っても最近そういう流れが多いなぁ…。

――客席を観ていて、良太郎さんが出てらっしゃると「キャー!」って歓声が上がるのはすごいなと思うんですが…。

それが普通やと思うんですよ。コンサート行ってるのと一緒やないですか。お金出して好きな人を観に行って、好きな人が舞台に出てきてるのに、無反応でいる顔が俺にはわかんないんです。誰、観に来たんやろ?って。っていうのを俺は最近ずっと言ってますね、ほんまにしつこいぐらい(笑) だから悩んでます。僕ら、役者友達と喋ったり飲んだりするやないですか。けっこうみんな同じ悩みなんですよ。なんか客席が盛り上がらへんし、冷たいしっていう。もっと一緒に盛り上がっていけたらと思ってます。

――業界全体としてお客さんのパイって増えてると思いますか?

そこは現状維持でいってるんじゃないですかね。今、大衆演劇の弱いところは、昔ほどお客さんに元気がなくなったってことだと思います。昔って、朝日劇場にしても浪速クラブにしても(※)皆勤して昼の部・夜の部どっちも観るぞみたいなお客さん、むちゃくちゃおったんですよ! でも今は、毎日観に来るっていう人はほとんどいないんです。

※朝日劇場・浪速クラブ…どちらも大阪市浪速区にある大衆演劇の劇場。

――不況ですし、お金の問題でしょうか…。

昔からのお客さんが高齢化していってるし、お金のこともあるかもしれないですね。だから大衆人口が増えてない中で、さらに一人の観る回数が減ってる状態なんですよね。

――80年代に梅沢富美男さんが出たとき業界全体にブームが来て、2007年頃から早乙女太一さんをきっかけにまたブームが来てっていう、歴史的な山があると思うんです。そうしたら今は、早乙女太一さんの山を越えて、平行線っていう感じですか?

そうですね、ただ大衆演劇ってずっと無くならへんと思うんですよ。ずーっとやってるんやけど、それがどの流れで行けるかっていうことやと思うんですよね。今はちょっと厳しい流れなんやと思う。

――今回のインタビューは「SPICE」という総合エンタメ情報サイトに掲載させていただきます。ほかの映画とか音楽の情報を求めてきた人の目にも、留めてほしいと思っています。初めての人にメッセージをお願いします。

初めての人にも、日本の文化にこういうのもあるんだっていう衝撃は絶対感じてもらえるはずなんですよね。芝居・ショーは老若男女楽しめる内容ですし、ぜひ観てほしいなと思います。それから大衆演劇を観ることで色んな世界が広がると思うんですよ。たとえば音楽好きの人だったら…大衆演劇のショーではたくさん演歌が使われてます。それを聴いて演歌好きになった人っていっぱいいるんです。そんな色々な楽しみ方ができると思いますね。

インタビュー中。

「大衆演劇ってほんとに知らない人が多すぎるんで、ファンが増えたらいいですよね、うん」

最後に良太郎座長はそう結んだ。今、この記事を読んでくれているあなたが興味を持ってくれたのなら、これも何かのご縁。千秋楽5/28(日)までに三吉演芸場を訪れてみませんか?

JR横浜駅からブルーラインで9分、市営地下鉄の「阪東橋」駅。1番出口を出ると、ほどなく「よこはまばし」の看板があるので右折する。

「横浜橋通商店街」を通り抜けて、横断歩道を渡る。

左手に現れるのが三吉演芸場だ(公演詳細は記事末尾)。

“良ちゃん” “良様” “皇子”…良太郎座長にはファンの親しみをこめた呼び名が複数ある。中でも、“スター”という愛称はよく生まれたものだと思う。良太郎座長が舞台袖から現れると、開いていくまぶしいものが確かにある。持ち前の引力で大衆演劇を発信し続けてきた。

悩みはずっと尽きないですね

苦笑いしつつ、インタビューが終了するとすぐ稽古へ向かった。

たくさんの荷を背負って。なおきらめく人を、スターという。

公演情報
三吉演芸場5月公演 劇団九州男
期間:5/1(月)~5/28(日)夜の部まで
休演日:5/8(月)・5/15(月)・5/22(月)
大川良太郎座長不在日:5/25(木)夜の部・5/26(金)昼夜

会場:三吉演芸場 公式サイト
日程:月曜日を除く毎日昼夜2回公演
時間:昼の部13:00~16:00  夜の部:18:00~21:00
料金:大人2200円
指定席予約料金: 300円
※予約なしにフラッと行っても観られるのが大衆演劇の魅力の一つ。だが前方の席で観たい・友人と並んで席を取りたいという場合には予約しておくと確実だ。 

 
問い合わせ先:045-231-7633 
神奈川県横浜市南区万世町2-37
●横浜市営地下鉄「阪東橋駅」より徒歩10分
●横羽線「横浜公園出口IC」より5分、または東名高速「横浜町田IC」より30分
地図はこちら(googleマップ)

 
【劇団九州男 今後の公演先】
6月 八尾グランドホテル(大阪府)
7月 堺東羅い舞座(大阪府)
8月 梅南座(大阪府)
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