イタリアのおじさんヒーローが世界を救う!? 『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第二十七回
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『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 (C)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 (C)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
日本のアニメーションや漫画が海外にも広がり、今や日本を代表するカルチャーのひとつとなったことはいうまでもない。イタリアでは1980年代に日本アニメの放送が全盛期をむかえていた。中でも永井豪先生原作の『鋼鉄ジーグ』は、今も「ジグロボ」として愛され続け、2015年に映画化されているのだ!今回紹介する『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』がその作品だが、実はアニメの実写化作品というわけではなく、あくまで『鋼鉄ジーグ』をモチーフにしたノワール・エンタテインメントである。
テロや暴力がはびこる、イタリア・ローマ郊外。殺伐とした街で盗みを繰り返すチンピラの男・エンツォは、偶然の出来事から超人的な身体能力を得てしまう。エンツォはその能力でさらに盗みを働くが、ある時麻薬取引の最中に死んでしまったギャングの娘・アレッシアのピンチを救ってしまい、面倒を見る羽目に。アレッシアは『鋼鉄ジーグ』の大ファンで、助けてくれたエンツォを主人公の司馬宙(しば ひろし)と同一視し、「ヒロ」と呼んで慕うようになる。やがて、エンツォとアレッシア、どちらも孤独な二人は徐々に心を開き、互いに特別な存在になってゆく。そんな二人の前に、ギャングのボス・ジンガロが立ちはだかるのだった。
『鋼鉄ジーグ』と本編のマッチング
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 (C)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
本作は、ヒロインのアレッシアが大の『鋼鉄ジーグ』好きということ以外でアニメの内容や設定に触れることはほぼないので、『鋼鉄ジーグ』を知らない世代でも楽しめるはず。私も『鋼鉄ジーグ』を観たことはないのだが、本作の存在を知った時からビビッときていた。なぜかというと、昨年観たスペイン映画『マジカル・ガール』(14)と同じ雰囲気を感じていたからだ。こちらは、架空の日本の魔法少女アニメに憧れる、白血病の少女を取り巻く人間模様を描いたフィルム・ノワール。人が何人も死んでゆく暗いストーリーの中で、日本の演歌歌手・長山洋子さんのデビュー曲(デビュー当時はアイドル歌手だった)「春はSA-RA SA-RA」が軽快に流れる衝撃的な作品で、しばらく私の頭から離れなかった。
どちらも“日本のアニメ”というポップなキーワードと、ギャングや殺人といったヘビーな要素を両立させた作品だ。本作は『マジカル・ガール』ほどウェットではなく、チンピラだった主人公がヒーローに変わってゆくという、希望があるストーリーになっているものの、その途中で描かれるのは人間同士のバトルやギャングの抗争など、やはりなかなかにダーティである。一見すると重い本編が、元々は子ども向けのアニメだった『鋼鉄ジーグ』の世界観と見事にマッチしているのは、永井豪先生の作品が持つダークな雰囲気のなせる技なのかもしれない。
邪道に見えて王道なおじさんヒーロー
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 (C)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
最近はアメコミ映画化作品が次々と公開され、『デッドプール』(15)のようにギャグを飛ばし、観客に語りかける一風変わったヒーローも登場している。本作の主人公・エンツォは、そんなデップーちゃんよりもさらにヒーローらしくない。なにしろ、もともとが生活のために盗みを繰り返し、ヨーグルトを食べながらアダルトビデオを観るのが日課で、彼女はおろか友達すらいない、ただの寂しいおじさんなのだ。無精ヒゲでお腹もぽっちゃり。マーク・ラファロを汚くしたようなエンツォを見ていても、「カッコイイ!」とはこれっぽっちも思えない。ヒーローなのにダサいとは残念すぎる!
そしてヒロインのアレッシアも、心のバランスを崩し、子どものようにアニメの世界に浸っている。ギャーギャーうるさいし、ものすごく美人というわけでもないので(失礼!)、こちらも理想のヒロイン像からはかなりかけ離れている。それなのにこの二人のやり取りを見ていると、段々あたたかい気持ちになってくるのが不思議だ。盗んだ金で買ったホームスクリーンで、二人が『鋼鉄ジーグ』を観ながらヨーグルトを食べるシーンで、つまみ食いしようとする無垢なアレッシアに、童貞をこじらせたエンツォがドギマギする姿はちょっと可愛く見える。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 (C)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
主人公がヒロインに恋して成長するというのは、ヒーローモノのお約束でもある。エンツォはアレッシアへの想いを自覚してから盗みを止め、彼女の思い描くヒーローになろうと人助けに尽力することになる。炎上する車から子どもを助け出し、背中越しに「ヒロシ、シバ」と名乗る姿は、もうすっかりダサおじさんを脱皮して、一人前のヒーローの顔になっていた。(この時の、エンツォ役・クラウディオ・サンタマリアの顔つきの変わりっぷりには目を見張るものがあるので、お楽しみに! )チンピラおじさんとちょっと変わった女の子というイビツな組み合わせだが、愛する人の期待に応えるため奔走する姿にはグッとくるものがある。本作はバイオレントな雰囲気をまとった王道ヒーローモノなのだ。
私も、うっかり超人的な能力を手に入れて、誰かのヒーローになってみたい!
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は5月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
(2015/イタリア/カラー/119分)
監督・音楽・製作:ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、
イレニア・パストレッリ、ステファノ・アンブロジ
原題:Lo chiamavano Jeeg Robot
日本語字幕:岡本太郎
提供:ザジフィルムズ/朝日新聞社
配給:ザジフィルムズ
特別協力:イタリア文化会館 PG-12
(C)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
公式サイト:www.zaziefilms.com/jeegmovie/