上演間近! 南河内万歳一座『守護神』内藤裕敬に話を聞く

2017.5.19
インタビュー
舞台

内藤裕敬(南河内万歳一座) [撮影]吉永美和子


「ここから4年間は、万歳一座にとって大事な4年間になると思います」

今年で結成37年目を迎える大阪の劇団「南河内万歳一座」が、座長・内藤裕敬の新作『守護神』を、大阪・東京の二都市で上演。現代社会にはびこる不安や不条理を、ダイナミックな演技と舞台美術で巧みにカリカチュアライズしてみせる万歳一座が、今回テーマとするのは「根拠のない守護神信奉」だという。その気になる内容について、内藤裕敬が記者会見で語ってくれた。


内藤は今回の舞台について、昨今いろんなケースで「自分たちを守ってくれるのは誰か」という不安や不満が蔓延しているように感じたことが、創作のきっかけになったと言う。

震災や原発事故、あるいは会社の中でも、今まで頼りになるという態度を取っていた人が、いざという時に頼りにならなかったら、その落差も恨みも大きくなる…劇団の座長もそうで、僕もよく怒られますけど(笑)。あるいは(相手から)攻められないと守れないという発想の集団的自衛権があって、でもその反対派も“殺されるのも殺すのも嫌ならどうやって守るんだ?”という疑問に、具体的な方法は出せないという。そんなことを考えると、僕らは漠然と“いざとなったら何とかなる。どこかの誰かが何とかしてくれる”と思ってるんじゃないかと。昔だったらそれは、鎮守様やご先祖様とかの宗教的な色合いが強かったけど、最近は“結局誰も助けてくれないんじゃないか?”というのが、現実として見えていると思う。その不安をあおる昨今になってるからこそ、逆に何かにすがりたいという気持ちも強くなってるんじゃないかな。そんな根拠のない守護神信奉を、遊んでやろうと思いました

南河内万歳一座『滅裂博士』より(2016年)

気になるストーリーについては、会見の時点では稽古に入る前ということもあり「一枚も書けてない」(笑)という状態。まだ構想段階ではあるけれど、守ることと守られることというテーマの他に、記憶中枢の錯覚の話も絡めていきたいという。

契約者を守るという役割を持つ保険会社と、“いつかどこかで見たことがある”というデジャブとは逆の“いつかどこかでこんなことが起こると思っていた”という記憶の錯覚が、物語のキーになると思います。全体的にはバカバカしいけど、あながち観ている人のリアリティからは乖離(はくり)しない、何かこの時代を映すような話にしたい。あと最近、(万歳の売りである)大規模な舞台転換が一周回って新鮮になって来たので、ちょっと変な舞台転換も入れようと考えています

昔は新作上演を何度かすっ飛ばすなど、遅筆武勇伝には事欠かなかった内藤だが、最近は「憑き物が落ちたように、台本を書くのが楽になった」とも言う。

阪神・淡路大震災以降はしばらく“長期的な展望や夢など持たない方がいい”という気分になっていて。それが作品にも反映して、いろんなことをやっても結局台なしになるという所に落ち着いてしまう芝居が多かった。これこそがリアルで、それを世間に突きつけることができるのが演劇だと思ってたんだね。でもそういう芝居をやると劇団員も稽古が辛そうだし、お客さんも減っていくし、僕も息苦しくなっていった。それでこんなことは止めて、もっと明るくてバカバカしいことをやろうと開き直りだしたんです。希望に満ちてはいないけど、それでも取りあえず明日があるなら生きていかなきゃいかんというエンディングを最低限書くようになったと。そうすると僕も楽になったし、俳優も楽しそうになりました。今回もモチーフはシビアですが、なるべくバカバカしく展開し、バカバカしく締めくくりたい。それが笑えるものになるかどうかはわからないけど、刹那的、絶望的な演劇にはならないと思います

記者たちの質問に答える内藤裕敬(南河内万歳一座)。 [撮影]吉永美和子

南河内万歳一座は、2020年でちょうど40周年を迎えることになるが、今からその時の戦略を練っているとも、内藤は言う。

30周年の時は“さすがに40周年までやってんのかなあ?”と思ったけど、もう恐らくやってる気がしてるんですよ(笑)。そうなると40周年の時はちょうど東京オリンピックで、それに(話題が)押し流されてしまうので、41年目(2021年)に“40周年を終えました”という形で何かやりたい。そこに向けて、今までやってきたことをちゃんともう一回発表していくことに、いつもより力を注いでいこうと。いろんな企画をやりながら、万歳一座が40年続いてきたという、一つの証明みたいなものをしっかりしなきゃいけない。ここから4年間は万歳一座にとって、大事な4年間だなあと思っています

40周年に向けて守りに入るのではなく、積極的に攻めていくことを宣言した南河内万歳一座。どんなに時代を経ても「攻撃こそ最大の防御」精神で関西の演劇シーンの“守護神”であり続けた彼らの、バカバカしくも大真面目、エネルギッシュだけど叙情的な世界に飛び込んでみよう。

南河内万歳一座『守護神』公演チラシ [宣伝美術]長谷川義史

取材・文・撮影(人物)=吉永美和子

公演情報
南河内万歳一座『守護神』
 
《大阪公演》
■日程:2017年5月24日(水)~29日(月)
■会場:一心寺シアター倶楽

 
《東京公演》
■日程:2017年6月7日(水)~11日(日)
■会場:ザ・スズナリ

 
■料金(二都市共通):前売=一般3,500円、学生・65歳以上3,000円、青春18歳差切符(年齢差18歳以上のペア)5,500円 当日=各500円増
■作・演出・出演:内藤裕敬
■出演:鴨鈴女、荒谷清水、木村基秀、福重友、皆川あゆみ、鈴村貴彦、松浦絵里、市橋若奈、寒川晃/や乃えいじ(PM/飛ぶ教室)、南川泰規(空晴)、ことえ(空間悠々劇的)/有田達哉(劇団摂河泉)、こんどうちひろ、園木愛、深谷みのり、万姫
■公式サイト:http://www.banzai1za.jp/shugoshin/top.html