東京バレエ団がローラン・プティの名作『アルルの女』他 20世紀の傑作を披露!
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(写真左より)柄本弾、川島麻実子、上野水香、ルイジ・ボニーノ、斎藤友佳理、ジリアン・ウィッティンガム (C)Kiyonori Hasegawa
東京バレエ団が9月8日(金)から10日(日)まで〈20世紀の傑作バレエ〉プティ-ベジャール-キリアンを上演する。ローラン・プティの『アルルの女』(バレエ団初演)、モーリス・ベジャールの『春の祭典』、イリ・キリアンの『小さな死』(バレエ団初演)を上演する傑作集で、世界のバレエ界と渡り合う東京バレエ団ならではのラインナップといえよう。
注目は、バレエ団としてプティ作品に初めて挑むこと。アルルの闘牛場で見かけた女性の幻影の虜になる青年フレデリと、その婚約者ヴィヴェットの悲劇を捉えた『アルルの女』(1973年制作)は、ドーデの小説・戯曲に基づきビゼーが作曲した同題の2つの組曲に振り付けられている。パリ・オペラ座等世界の著名バレエ団で上演され、ガラ公演でも数々のスターたちが名演を残している傑作だ。
5月下旬、公開リハーサルと出演者、芸術監督、振付指導者が出席した記者懇親会が行われた。
初のプティ作品上演に向けて万全の布陣
公開リハーサルの様子 (C)Kiyonori Hasegawa
今回はフレデリとヴィヴェットをそれぞれロベルト・ボッレ&上野水香(9月8日、10日)、柄本弾&川島麻実子(9月9日)が踊る2組での上演を予定している。公開リハーサルには、柄本と川島、上野とゲストのボッレの代わりに入った秋元康臣と組んだペアが登場し、コール・ド・バレエ(群舞)も加わって通しで行われた。
指導体制は、2011年に逝去したプティを長年にわたって支えてきたルイジ・ボニーノが主役を指導し、コール・ド・バレエをミラノ・スカラ座バレエ団出身で近年ボニーノと協働するジリアン・ウィッティンガムが束ねる布陣。この日の通し稽古ではボニーノが全体を統括し、細かく指示を出していく。何度かストップをかけ、リフトなどダンサー同士が触れ合う場面について、気持ちを込めて強くするようにと助言していた。
公開リハーサルの様子 (C)Kiyonori Hasegawa
東京バレエ団がプティ作品に挑むのは初めてとはいえボニーノと上野は旧知の間柄だ。上野は東京バレエ団入団(2004年)の前に在籍していた牧阿佐美バレヱ団時代にプティの薫陶を受けて『ノートルダム・ド・パリ』『シャブリエ・ダンス』等を踊りボニーノに指導されているし、ガラ公演で共演したこともある。フランス語でもコミュニケーションが取れる二人のやり取りからは厚い信頼関係が伝わってきた。柄本&川島もプティの指示に真摯に耳を傾け、自然に役を生きるべくリハーサルの場に身を置いている。終幕のファランドールにのせたフレデリのソロでは、柄本が何かに憑かれたかのように激しく踊り「あちら側」へと誘われていく。
公開リハーサルの様子 (C)Kiyonori Hasegawa
ディープで深く、人生・愛を表した不朽の名作
機知に富み、才気にあふれたプティ作品は、フランス人の精神を豊かに体現しており、軽妙洒脱な作品も数多い。だがボニーノは『アルルの女』に関して「ディープで深いもので、人生・愛を表している。感情をこめなければいけない」と話す。たしかに青年画家が死神に誘惑され死を迎える初期の代表作『若者と死』からしても分かるように、プティは愛と死の極北において破滅する男を描かせても天下一品である。
ルイジ・ボニーノ (C)Kiyonori Hasegawa
ボニーノはプティと35年間活動を共にした経験を踏まえ「プティの求めていたそのものを忠実にやろうと思う」と述べた。また上野の相手役であるボッレについて「きれいでビッグ・スターだけれどもスターぶらない、良いダンサー」と評する。ボニーノを補佐するウィッティンガムは東京バレエ団の印象を「皆が受け入れる体制があるのでやりやすいカンパニー」と語った。
ジリアン・ウィッティンガム (C)Kiyonori Hasegawa
ボニーノから「東京バレエ団のダンサーは本当にハッピーです。友佳理さんのような監督がいることは素晴らしい!」と絶賛された芸術監督の斎藤友佳理が『アルルの女』の上演を考えたのは、2015年に上野がモスクワで行われたガラ公演でボッレとともに抜粋を踊るためのリハーサルを観たからだという。ポイントは「ドラマ」があること。「ルイジさんが一番求めているのは99%が内面・心理のこと」と語り、「いまこの時期に内面を通して演技して変わってほしい」とダンサーたちを叱咤激励する。斎藤のダンサーたちへの熱い思いの底に、先々のことも考えて冷静に目配りしながら芸術面を差配する視野の広さを感じた。
斎藤友佳理 (C)Kiyonori Hasegawa
心から、内面から表現することによって物語を伝える
斎藤に「女優になってほしい」とエールを贈られたのが上野。プティとは18歳のときに出会い、コール・ド・バレエのなかから引き上げられた。「いろいろな作品で私を活かし、育ててくださったという思いがあります」。このたび『アルルの女』の全幕上演に挑むに際しては「心の表現というものをできるダンサーに変わっていかなければいけない時期」にいると話し「新鮮な気持ち」で取り組んでいきたいと抱負を述べた。
上野水香 (C)Kiyonori Hasegawa
昨年プリンシパルに昇格した川島は、どん欲に役柄の幅を広げている。「男性のイメージが強い作品だったのですが、女性の感情的な役割が大きいと感じています。どんな作品をやるときも友佳理さんに『形じゃない』と言われます。自分の現実や自分自身の気持ちを出し切れず、今はもがいているというか、苦しいというか……。でも苦しいけれど、もっと知りたくて、踊りたくて。9月までに自分自身を掘り下げ、問いかけて、どう打ち破っていけるかが課題だと思っています」と胸の内を明かした。
川島麻実子 (C)Kiyonori Hasegawa
柄本はフレデリを演じるにあたって「内面の出し方」に留意しているという。「いない相手(幻影)を求めつつ、いる相手(ヴィヴェット)に対して嫌いじゃないんだけれど『僕は君の相手ができないんだ』という距離感が難しい」。体力的にも大変な役柄だ。「ハードな作品だと聞いていましたが、通してやってみると、終わってから20分くらい立てませんでした。体力をつけて、最終的には内側からしっかりとストーリーを語れるようにできれば」と語る。
柄本弾 (C)Kiyonori Hasegawa
20世紀の巨匠たちの傑作の魅力を満喫できる好プログラム
記者懇親会は終始リラックスした雰囲気のなかで行われ、ボニーノは東京バレエ団と今後も仕事していきたいと話す。昨年亡くなった東京バレエ団創設者の佐々木忠次氏は、ベジャール、ジョン・ノイマイヤー、キリアンらに作品を委嘱するといった偉業を成し遂げ、物語バレエの最高峰『オネーギン』の上演も果たしているが、近年の東京バレエ団は、マッツ・エック、ウィリアム・フォーサイス、ロビンズそして今回のプティと20世紀を代表する世界の巨匠による名作群を続々とレパートリーに加えている。世界をフィールドに最高の水準の舞台を追い求めてきた東京バレエ団が、創立者亡きあとも着々と発展を遂げていることをリハーサル&記者懇親会からも実感できた。きたる9月、プティ、ベジャール、キリアンの傑作を味わい尽くしたい。
取材・文=高橋森彦
写真=Kiyonori Hasegawa
【日時】
9月8日(金)19:00
9月9日(土)14:00
9月10日(日)14:00
【会場】
東京文化会館(上野)
【出演者】
「アルルの女」
9月8日(金)、9月10日(日)ロベルト・ボッレ(フレデリ)、上野水香(ヴィヴェット)
9月9日(土)柄本弾(フレデリ)、川島麻実子(ヴィヴェット)
「春の祭典」
9月8日(金)奈良春夏(生贄の女)、岸本秀雄(生贄の男)
9月9日(土)伝田陽美(生贄の女)、入戸野伊織(生贄の男)
9月10日(日)渡辺理恵(生贄の女)、岸本秀雄(生贄の男)
※「小さな死」の配役は後日、振付指導者によるリハーサルが始まってから決定されます。決まり次第、ホームページ等で発表いたします。
【公式サイト】
http://www.nbs.or.jp/stages/2017/20ballet/index.html