『名刀礼賛 もののふ達の美学』展をレポート 国宝を含む名刀30振が都内に勢ぞろい
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太刀 銘 国宗 鎌倉時代 黒川古文化研究所(部分)
泉屋博古館分館にて『名刀礼賛 もののふ達の美学』(会期2017年6月1日〜8月4日)が開幕した。本展覧会は、泉屋博古館と黒川古文化研究所による連携企画として開催されるもの。黒川古文化研究所が所蔵する名刀約30点に加え、繊細な細工が施された鍔(つば)や目貫(めぬき)を含む刀装具を大々的に紹介。国宝2点、重要文化財10点の刀剣をはじめ、優れた古刀から新刀を一度に見られる貴重な機会となっている。
「刀剣女子」の心をくすぐるだけでなく、「刀剣に興味はあるけれど、実物は見たことがない」という人にもオススメの内容だ。初心者向けの刀鑑賞ガイドを含め、一般公開に先立ち開催された内覧会から、展示の見どころを紹介したい。
会場エントランス
地域・時代によって表情を変える刀の姿
展示室は主に刀剣のみの展示と、刀の外装部分にあたる拵(こしらえ)の2部屋に分かれている。また、ホール付近には、江戸時代以降に作られた新刀が4振展示されている。
刀剣の展示室には、薄暗い空間に鋭く光る刀がずらりと並び、外の気温よりも体感温度が下がるような緊張感が漂う。展示は刀を作った刀工の地域によって分けられており、備前国(現在の岡山県)で作られた備前刀と、中世京都で作られた刀がそれぞれ飾られている。
会場風景
刀 銘 井上真改「菊紋」寛文十三年八月日 江戸時代 黒川古文化研究所
刀 銘 「葵紋」以南蛮鉄於武州江戸越前康継 本多飛騨守所持「立葵紋」二ツ胴落末世剣是也 江戸時代 黒川古文化研究所
江戸時代の越前国・武蔵国の刀工、越前康継の作った刀の銘に記された「二ツ胴落(ふたつどうおとす)」とは、死刑囚の死体を試し斬りに使っていた江戸時代に、二人ぶん積み重ねた身体を真っ二つに斬ることが出来たことを意味するという。刀そのものの美しさだけでなく、こうした銘の意味を読み解く面白さが味わえるのも本展の特徴だ。
新刀 展示風景
太刀 銘 国友 鎌倉時代 黒川古文化研究所
かつて日本刀の一大産地であった備前では、刀の材料となる鉄や燃料に使う木材に恵まれ、多くの刀鍛冶が活躍した。黒川古文化研究所研究員の川見典久氏は「備前刀は華やかな刃文(熱した刀身を水に浸けた際に生じる模様)が特徴的で、見た目も派手で美しい。木目のような地肌(刀の地の部分)もよく見える」と話す。
太刀 銘 備前国長船住景光 □□元年□月日(重要文化財) 鎌倉時代 黒川古文化研究所
太刀 銘 備前国長船住景光 □□元年□月日(重要文化財) 鎌倉時代 黒川古文化研究所(部分)
知識は二の次!
刀の個性をみて、お気に入りの一振(ひとふり)に出会う
会場風景 中央のスクリーンでは、刀の各部位の名称が解説されている
刀の各部位の名称については、展示室内のスクリーンや解説パネルで確認することができる。しかし、はじめて刀を見る人にとっては一見どれも同じように見えてしまうかもしれない。刀剣に関する知識は、一朝一夕に覚えられるものではないだろう。「刀の鑑賞はハードルが高そうだな……」と感じてしまう方へ、川見氏から鑑賞アドバイスをいただいた。
「まず、知識は二の次にしましょう。本物の刀が30振も展示されているので、ざっと見ていただいて『気になるな、好きだな』と思った刀をみつけてください。次に、お気に入りの刀はどんな刀なのか、作者は誰なのか、刀剣の見た目(姿)はどんなものか、刃文はどういう形かを見てください。両隣には違う姿の刀が展示されています。そこで、それぞれの刀が違うと認識できると思います。ある程度の数の刀を見ていく中で、好きだなと思うものが見つかれば、そこから一歩踏み込んで、なぜ気に入ったのか、というところに興味を持ってもらうことが大事です」
それをふまえて刀を見てみると、刀の先端部(切っ先)が大きいものや小ぶりのもの、刀が大きく反っているもの、幅が狭く細身のもの、刃文が波模様のようにうねっていたり、まっすぐ直線状に見えたりしているものなど、様々な表情がみえてきた。名称に捉われず一振一振の刀の出来や傾向を見ながら、自分好みの刀を発見することで、より刀剣鑑賞の楽しみが増すだろう。
刀 無銘(伝 長谷部国重)(重要文化財) 南北朝時代 黒川古文化研究所
短刀 無銘(名物 伏見貞宗)(国宝) 鎌倉時代 黒川古文化研究所
刀 無銘(伝 行光)(重要文化財) 鎌倉時代 黒川古文化研究所
刀の価値を記した「折紙」と本阿弥家
武家同士の贈答品でもあった刀は、その価値を公的に定める必要があった。そこで、幕府から命じられて刀剣の鑑定を行った家柄が本阿弥家である。本阿弥家は、刀の価値を保証する「折紙(おりがみ)」の発行を許されていた。さらに大正時代になると、今度は「折紙」が本物であることを証明する「留帳(とめちょう)」も発行されるようになった。今回の展示では、『刀 無銘(伝長谷部国重)』の折紙と留帳が展示されている。
折紙(「刀 無銘 伝 長谷部国重」付属) 江戸時代 黒川古文化研究所
外装にあらわれる刀工や武士の美意識
江戸時代になり世の中が平和になると、幕府によって派手な刀と持ってはいけないという禁令が出される。刀工は、実用性を重視しながらも鍔(つば)や刀装具に細かな技巧を凝らし、制約のある中で構図やレイアウトに意を注いだ。
葵紋散金梨子地塗合口拵(「短刀 銘 来国俊」付属) 江戸時代 黒川古文化研究所
梅花皮鮫鞘脇指拵 明治時代 泉屋博古館
朱漆塗海老鞘合口拵 明治時代 泉屋博古館
刀の鐔の多くは、動植物や風景を写実的にあらわしたデザインをしている。これについて川見氏は「現代人がみても何だかわからないものもある。それは和歌や謡曲(能)を背景にしたもので、当時の武士が教養として知っていたもの。江戸の武士たちの美意識が発揮された部分です」と語る。
鐔(つば) 展示風景
瑞雲透鐔 銘 天保六末年長月応需作之 後藤法橋一乗(花押) 江戸時代 黒川古文化研究所
刀装具の細工は肉眼では確認できない細かな部分もある。会期中はそんな時に有用な、単眼鏡の無料貸し出しサービスも実施している(※台数限定)。刃文や地肌をじっくり見てみたい場合も重宝できるだろう。
『名刀礼賛 もののふ達の美学』は2017年8月4日まで開催。刀剣や刀装具と合わせて、武士の描いた絵画も展示されている。美しい刀に囲まれて、刀工や武士の美学を共有できる空間をぜひ体感してほしい。
会期:2017年6月1日(木)〜8月4日(金)
会場:泉屋博古館 分館
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(7月17日は開館、翌18日休館)
入館料:一般800円 大高生600円 中学生以下無料
https://www.sen-oku.or.jp/