ボリショイ・バレエ日本公演2017/ロシアの誇り、名作『白鳥の湖』『ジゼル』と『パリの炎』を上演
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左から キヤネンコ副総裁、コワリョーワ、ワジーエフ監督、オブラスツォーワ、ツヴィルコ (撮影:西原朋未)
世界最高峰のバレエ団の一つ、ボリショイ・バレエがこのほど来日。1957年の日本初来日から60周年目となる記念公演を、6月2日の広島公演を皮切りにスタートさせた。この公演はロシアが国際プロジェクトとして2017年6月から1年間、芸術や文化を通して国の魅力を広くアピールする文化キャンペーン「セゾン・リュス(ロシアの季節)」のオープニングを飾る公演ともなる。
6月1日にロシア大使館で行われた記者会見にはロシア大使館ドミトリー・ビリチェフスキー駐日公使をはじめ、ボリショイ劇場ドミトリー・キヤネンコ副総裁、ボリショイ・バレエのマハール・ワジーエフ監督、ダンサーはプリンシパルのエフゲーニヤ・オブラスツォーワ、リーディング・ソリストのイーゴリ・ツヴィルコ、コール・ド・バレエで期待の新人アリョーナ・コワリョーワが出席。広島、東京、びわ湖(大津)、仙台、大阪の5都市で行われる日本ツアーへの意欲を語った。
ロシア大使館ドミトリー・ビリチェフスキー駐日公使
■総勢約230人、8つのコンテナで来日。60年から先の新しい歴史を刻む公演
会見でビリチェフスキー駐日公使は「ボリショイ・バレエは日本で愛され、尊敬されている。ロシアのバレエは問題なく世界ナンバーワン。日本の観客の方々はバレエをよく知っているし、ダンサー達もそのことをよく知っている。今回の公演は、日本の方々に素晴らしい芸術をプレゼントしてくれることになるだろう」と語り、キヤネンコ副総裁は「この公演が節目の年の、またロシアの国際プロジェクトのスタートを切るものであることに、非常に大きな責任を感じている」と挨拶。
ボリショイ劇場ドミトリー・キヤネンコ副総裁
ワジーエフ監督は「60年間来日を続けてこられたのは、それだけボリショイ・バレエが日本の皆様に認められているということ。60年は歴史であり、過程でもある。新しいボリショイ・バレエと日本の歴史がこれから刻まれるだろう」と語った。
来日メンバーはアーティストやオーケストラ団員にテクニカルスタッフなど、総勢230人。舞台セットなどを詰め込んだコンテナは8つだとか。まさに本場ボリショイ劇場で行われる公演が、日本の観客の目の前で展開されることになる。
■古典の名作『白鳥の湖』『ジゼル』に日本初演の『パリの炎』
今回の演目はバレエの代名詞ともいえる『白鳥の湖』、古典の名作『ジゼル』、そして日本初公演となる『パリの炎』だ。
この3演目の選択はボリショイ・バレエと招聘元(ジャパンアーツ)の協議で決定され、『白鳥の湖』『ジゼル』のように日本人によく知られた演目に加え、「あまりなじみのない新しい作品の紹介を」という考えによる。
そのうえでワジーエフ監督はとくに『パリの炎』について、「ボリショイ・バレエが誇りとする作品で、ラトマンスキーがつくりあげた素晴らしい演目。ラトマンスキーはボリショイのために数多くの仕事をしており、私が最も好きな振付家の一人だ。『パリの炎』は振付も面白く、男女のパ・ド・ドゥも多い。また物語は構造的にもわかりやすく、パワフルでエネルギッシュであり目が離せない。きっと皆さんに気に入ってもらえるだろう」と自信をのぞかせた。
マハール・ワジーエフ監督 撮影:西原朋未
■来日メンバーは人気アーティストから期待の新人まで
来日メンバーはザハロワ、スミルノワ、オブラスツォーワやチュージン、ラントラートフ、ロヂキンといった日本でも人気の世界的スターをはじめ、監督いわく「ボリショイの将来を担う希望の星」である若いアーティスト達も参加している。
そのメンバーを代表しオブラスツォーワ、彼女とペアを組むツヴィルコ、まだ1年目ながら監督が期待を寄せるコワリョーワが登壇した。
オブラスツォーワはかつてマリインスキー・バレエのメンバーとして、また様々なグループ公演などで来日しているが、ボリショイのメンバーとしては初来日。さらにびわ湖公演(6月10日)の『パリの炎』の主演を初めて踊るほか、東京公演の皮切りとなる『ジゼル』の主演も任されている。「非常に責任を感じているが、ツヴィルコと踊ることは楽しみ。ボリショイ・バレエの仲間たちはみな、日本公演を楽しみにしている。気分も高揚して、素晴らしい公演になるのでは」と語った。
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ (撮影:西原朋未)
ツヴィルコは2度目の来日となるが、初来日時はコール・ド・バレエ、今回はリーディング・ソリストだ。「日本に来ることはとても好き。東京の最初の公演という大切な舞台を任せてくれた監督にお礼を言いたい。日本のお客様は60年の間、ボリショイ・バレエの素晴らしいアーティストを見てきている。私たちはその先輩に引けを取らないように、誇りをもって踊りたい」と意欲をにじませた。
イーゴリ・ツヴィルコ (撮影:西原朋未)
さらに新人ながら、6月5日の東京公演『ジゼル』のミルタ役に抜擢されたコワリョーワは初来日。「来日できてとてもうれしいと同時に、責任も感じている。緊張はするが気持ちをこめて踊り、皆様に楽しんでもらえるような舞台にしたい」と挨拶した。
アリョーナ・コワリョーワ (撮影:西原朋未)
このコワリョーワはワガノワバレエ学校出身で、オーディションでワジーエフ監督が入団を許可したダンサーだ。彼女について問われると、監督は「まだ褒めるのは早いし、皆さんが踊りを見てから判断してほしい。まだ褒めるのは早い!(若いうちから)話しをさせる癖をつけてはダメだ!」と強く何度も前置きしながらも、「バランシンの『ジュエルズ』のダイヤモンドを3週間で仕上げたことには驚かされた。(抜擢は)早かったのではと思ったが、吸収する力が素晴らしい。だから連れてきた」というエピソードを披露。コワリョーワはすでに9月、モスクワでの『白鳥の湖』公演の主演も決まっているという。
■キャリアを積んだダンサーに「旅」は必要
ワジーエフ監督はマリインスキー・バレエでプリンシパル、芸術監督を経てミラノ・スカラ座バレエ団で7年間芸術監督を務め、2016年3月からボリショイ・バレエの芸術監督に就任。「マリインスキー、ミラノ・スカラ座には心から感謝している。そして今の自分に一番尊いものはボリショイ・バレエだ」と現在の心境を語った。
またオブラスツォーワもマリインスキー・バレエからスタニスラフスキー&ネミローヴィチ=ダンチェンコ記念国立モスクワ音楽劇場バレエを経て、2012年からボリショイ・バレエに在籍。オブラスツォーワにとってワジーエフ監督はマリインスキー時代の監督でもあり、17歳の時に『ロミオとジュリエット』のジュリエットに抜擢し、彼女のキャリアの大きなきっかけを作った人物でもあるという。「ボリショイに移籍後、ワジーエフが監督として戻ってきた。ダンサーにとって監督やスタッフと意思疎通を図るのは重要なこと。ワジーエフとなら問題なく上手くやれる」と嬉しそうに語る。
またオブラスツォーワは移籍について「マリインスキーを離れることは大きな決断だったが悔いたことはない。同じバレエ団に留まり同じ作品を踊り続けるだけでなく、世界を広げることに大きな意義があった」と話す。ワジーエフ監督も「ダンサーはあるレベルになると海外で踊ったり、カンパニーを離れ独立する、いわば“旅”をする。これは大事なことだし、彼女はそうして素晴らしいキャリアを積んできた」とも。
時折和やかに冗談を言い合いながら語る2人の姿は実に微笑ましく、強い信頼関係がうかがえた。
左からオブラスツォーワ、ツヴィルコ、コワリョーワ (撮影:西原朋未)
■伝統を支えるロシアバレエの育成システム
世界のバレエを観てきた監督が再びロシアに戻り、ロシアのバレエで最も優れていると感じた点は「バレエ学校やそこで教えるプログラム、ダンサーのステップアップなどの育成システム。これはほかの国にはなく、ロシアが長い歴史のなかで積み上げてきたものだ」という。学校はつまりはロシアの伝統芸術であるバレエを支え続ける人材育成の場であり、それがあるからこその伝統が脈々と継承されるのだと、改めて感じされられる。
今回の公演はそうして積み上げられたロシアバレエの伝統、ボリショイ・バレエならではの感情豊かなバレエを目にすることができる絶好の機会だ。ベテランから期待の新人まで揃う、ボリショイ・バレエの公演は2日の広島を皮切りに、東京、びわ湖、仙台、大阪と5地域で15公演が行われる。
会場にはボリショイ・バレエ来日60周年の記念パネルも
6月2日(金)18:30「白鳥の湖」
6月4日(日)13:00「ジゼル」オブラスツォーワ/ツヴィルコ
6月4日(日)19:00「ジゼル」ザハーロワ/ロヂキン
6月5日(月)19:00「ジゼル」クリサノワ/ラントラートフ
6月7日(水)18:30「白鳥の湖」スミルノワ/チュージン
6月8日(木)13:00「白鳥の湖」ステパノワ/オフチャレンコ
6月8日(木)19:00「白鳥の湖」ザハーロワ/ロヂキン
6月11日(日)18:00「白鳥の湖」ステパノワ/オフチャレンコ
6月12日(月)18:30「白鳥の湖」スミルノワ/チュージン
6月14日(水)19:00「パリの炎」クリサノワ/ラントラートフ
6月15日(木)19:00「パリの炎」クレトワ/ワシーリエフ
6月10日(土)14:00「パリの炎」オブラスツォーワ/ツヴィルコ
6月16日(金)19:00「白鳥の湖」クリサノワ/ラントラートフ
6月17日(金)17:30「ジゼル」ヴィノグラードワ/ワシーリエフ
6月18日(土)16:00「白鳥の湖」スミルノワ/チュージン