中尾ミエにインタビュー「ライフワークにしたい。等身大のミュージカルです」『ザ・デイサービス・ショウ ~It's Only Rock'n Roll~』

2017.6.22
インタビュー
舞台

中尾ミエ


2015年、2016年と上演され、好評を博してきたオリジナルミュージカル『ザ・デイサービス・ショウ ~It's Only Rock'n Roll~』が、今年、再々演を迎えることとなった。

かつてのスター・矢沢マリ子と、デイサービスに集まって来る多彩な高齢者たちが繰り広げる、おおいに笑って、ちょっと泣いて、最後は歌って踊れる!?コメディー・ミュージカル。本作のプロデューサーであり、マリ子役を演じる中尾ミエ。中尾が71歳となる誕生日の前日に話を聞いた。


――2015年が初演の『ザ・デイサービス・ショウ』が、ついに2017年、明治座で公演されることになりました。プロデューサーとして今、どのようなお気持ちですか?

明治座は私が初めて芝居に出た劇場なんです。でも『ザ・デイサービス・ショウ』は、もともと小さい劇場サイズで考えていた作品でしたから、まさか、こんな大きな劇場でできる日がくるとはね。そして、作ったものは再演しないともったいないですので(笑)。自分で言うのもなんですが、これは自信作なので、ライフワークにしたいと思っています。

――そもそもこの作品が生まれた発端は?

この作品の前身となる『ヘルパーズ』――高齢者や障がいのある方をケアする物語があったんですが、それをやっているうちに「あれ、自分も十分高齢者じゃないの。それならば次の段階に行かないと!」って思ったんです。そこで思いついたのが『デイサービス・ショウ』なんです。私も実生活でこんなデイサービスを利用したい、こんなデイサービスがあるといいなあと思っていて。理想のデイサービスですね。この作品は「芝居」というだけではなく、デイサービスそのものだと思ってやってます。出演者も高齢者ですし、毎日稽古に通ってきてくださってる訳でしょ? お客様も電車で1時間かけて観に来てくださったり。実際のデイサービスでもそういうものがあったらなと思うんです。行政の人にも観に来ていただきたいですね。高齢者の人にも、ヘルパーの人にも観ていただきたいと思っています。

――そもそも劇中で「ロックンロール」をやることにしたのはなぜですか?

それこそ私はビートルズやエルヴィス・プレスリーで育った世代ですから。そのあたりが自分の中でピッタリくるし、そういう音楽を聴くと青春時代に戻れますからね。

――言われてみれば、「シニアには、民謡・演歌・童謡を」のような思い込みが介護する側にあるように思います。

そう。周りが気を使って「高齢者はコレでしょ?」って勧めますけど、こればっかりは当事者でないとわからない事なので、自分たちから発信していかないとね。歳をとっても遠慮することなく、受け身になることなく、「私はこれがやりたいんだ!」ってことを自分たちで作っていかないとね。

――そんな「やりたい事」を形にした中尾さんですが、本作が出来上がるまでの舞台裏をお聞かせください。昨年のお稽古の模様はいかがでしたか?

皆さんプロなので、各自の自主性に任せてますね。正司(花江)さんなんて「あれ?正司さん、どこに行った?」と思ったら稽古場の隅のほうでずーっとギターの練習していましたし。放っておいてもみんな自主的に練習しています。私自身、今までの仕事の中では逆に一番楽ですよ。健康面は気を付けないといけませんが。公演が始まったら「来年もスケジュール空けておいてくださいね」ってみんなに話すんです。

――それで、1年後の目標がまたできるんですね。

「誰かがいなくなるまでは続けますよ」って言ってます(笑)。でも現実ですからね。ステージでバッタリ逝ってくれてもいい。それこそ「ピンピンコロリ」ですから。私も含めてそれがいちばん幸せだと思うんです。楽屋でバッタリでもいいの(笑)。

初演の時はバンド演奏も最小限のところからスタートしましたが、回を重ねるごとにどんどん難しくしていって、バンド演奏に慣れてきたら、今度はフリを付けて。毎回レベルアップしてます。

初風(諄)さんも、最初は片手でしかピアノを弾けなかったんですが、「もう慣れてきたんですから、今回は両手でやりましょう!」って新たな目標に取り組んでます。

光枝(明彦)さんもこの舞台で初めてベースを弾くことになって。マイベースを買って練習していましたね。最初のときは弦から目を離せなくて大変でしたが、今は余裕が出てきて正面を向けるようになりましたよ。

皆さんも楽しんでやってますからね。また努力したら自分たちも進歩するんだって自覚してますから。年寄りは甘やかしちゃいけない、と思って無理難題を言ってます(笑)。

逆に(モト)冬樹さんなんてこの中じゃ若手のほう。疲れたとか愚痴を言えないんです(笑)この中じゃ私も若手のほう。私、どんな仕事も常に自分より年上の方とお仕事しようと思ってるんです。目標にしたいのもあるけど、「若輩者ですが……」といつまでも若い気持ちでいたいから(笑)。

――前回も、そして今回も地方公演があるそうですね。地方公演での思い出をお聞かせください。

地方公演に行くと、その土地の高齢者施設を訪問したりするんです。正司さん初め役者さんたちと一緒にいって、デイサービスの歌をみんなで歌って踊って……正司さんのほうが私より年上なんですけど、そんな正司さんが歌って踊ったらみんなつられて踊りだすんですよ。まさに原動力ですね。

また、地方公演ではその地方のコーラスグループの方に出演していただくこともあって。明治座でもいろいろなコーラスグループが出ますから楽しみにしてくださいね。

――地方公演の楽しみの一つに「夜の部」(笑)があると思いますが、さすがにこの座組みでは皆さんおとなしくホテルに戻られるのでしょうか?

まあ、夜はさすがにね。でも朝はみんな早いですよ!(笑) 近くの神社とか朝のお散歩に。特に正司さんはスニーカーを履いて一人で出かけていっちゃう。

――元気ですね! その元気、健康の秘訣を伺いたいのですが。

働く事。そのために皆さん健康管理もするでしょうし、常に自分が必要とされていると自覚する事でしょうね。

世界的に高齢者のグループ……ヒップホップだったりコーラスだったり、たくさんあるでしょう? 我々はバンドですけど、例えばダンスが好きな人たちと一緒に回れば意外とそれが「仕事」になる。趣味ではなく、本格的に一生懸命やってそれが「仕事」になればヘルパーさんの仕事も減るし、両方が元気になると思うの。

個性的なデイサービスがもっと増えたらなあ、と思いますね。「1から10までお世話しますよ」ではなく「やりたいこと、やりましょうよ!」なスタンスのデイサービスがね。

――多くのミュージカルが海外から上陸する中、本作は、貴重な国産ミュージカルだと思います。

借り物じゃなくて、自分たちの等身大のミュージカル。それゆえ自信を持ってやれますし説得力もあると思っています。だからこそいつまでも続けられると思うんです。

――本作をライフワークにしたい、とおっしゃっていた事にもつながりますよね。本作以外にもやりたいことはありますか?

もちろん!モノにこだわらず、常に現役でいたいですね。いくつになっても新しい経験をしたい。何でもやりますよ!(スタッフにチラリと目線を送る)「The レビュー『カーテンコールをもう一度!』」もあと何年できるかわからないけれど、できるかぎりやりたいですね。他の二人(金井克子 前田美波里)も「やるなら早くやりたい!1年でも早くやってくれないと!」って言ってます(笑)

取材・文=こむらさき  写真撮影=早川達也

公演情報
オリジナルミュージカル『ザ・デイサービス・ショウ ~It's Only Rock'n Roll~』2017
 
■出演
中尾ミエ 尾藤イサオ 光枝明彦
モト冬樹 正司花江 初風諄
田中利花 土屋シオン tohko

作・音楽: 山口健一郎
演出・振付本間憲一
プロデュース中尾ミエ
主催明治座 シーエイティプロデュース TBSラジオ BS-TBS
企画・製作アスレティック・ミエ・カンパニー  釣見幸平

 
■日程・会場
<東京公演>2017年8月24日(木)~29日(火)明治座
<一関公演>2017年9月2日(土)14:00 一関文化センター 大ホール
<金沢公演>2017年9月5日(火)14:00 北國新聞 赤羽ホール
<兵庫公演>2017年9月8日(金)13:00 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール
<藤沢公演>2017年9月18日(月・祝)15:00 湘南台文化センター 市民シアター

■公式サイト:http://www.the-dayservice-show.jp/
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