「あなたはいったい誰…?」。小劇場で本水1トンを使い描く衝撃作『アジアン・エイリアン』に客演する池永英介と山中雄輔が対談
(左から)池永英介、山中雄輔
6月22日(木)から7月2日(日)まで、赤坂RED/THEATERで上演されるワンツーワーク公演『アジアン・エイリアン』に、『人狼ザ・ライブプレイングシアター(TLPT)』などで活躍する池永英介と劇団スパイスガーデンのリーダー、山中雄輔が客演する。ワンツーワークスの前身「劇団一跡二跳」時代の代表作を17年ぶりにキャストを一新しての上演だ。社会問題へ切り込んだ内容、小劇場で1トンもの本水の使用、身体表現を取り入れた演出など、大きな話題となった衝撃作だ。社会派と呼ばれる独自の劇世界を築く作・演出家の古城十忍とどう向き合うのか。フリーと劇団のリーダーという異なるフィールドから参加する池永と山中に『アジアン・エイリアン』の手応えについて対談してもらった。
-- 池永さんは『人狼TLPT』などへ出演されていますが、こういった台詞が用意された作品への客演は久しぶりですか?
池永 そうなんです。普段はアドリブ要素の強い舞台に多く関わってるので、台本に台詞がきっちりある舞台に出るのは2年ぶりぐらいですね。もともとは劇団に所属してたので、劇団の空気ってこういう感じだったなぁというのも久しぶりに感じています。
池永英介
-- 山中さんは劇団からの参加です。
山中 客演は1年ぶりぐらいですね。自分の劇団だけで芝居をしていると、役者としての振り幅、多様性が失われる可能性があるなということを感じています。ワンツーワークスは古城さんを中心に、世界観がはっきりしている。そこに近づく作業を最初の稽古でやったときは戸惑から始まったのですが、その戸惑いも新鮮でしたし、今は自分の視野が広がっている感覚があって、すごく楽しいですね。
山中雄輔
-- 事故で亡くなった男の謎を通して、意外な現実が浮き彫りになっていく台本ですね。古城さんは台詞の一文字一句にとても細かい方だと聞きますが……。
池永 これだけのこだわりで作り上げていくものの正体は何だろうっていうことを探りながら、自分の役の正体も探っていくみたいな稽古が楽しいですね。なんだか稽古が、物語のテーマにリンクしているなと感じながら日々過ごしています。(笑)
山中 一方で基本的には自由にやらせてくれるなと感じます。自分はこういうふうに考えてるんですっていうことを聞いてくれる。ディベートを稽古中にしてくれるので、役者に対してすごく真摯。ただ、古城さんの求めるところに到達できていない苦しさも抱えていて、でもそれはきつい苦しさではなく、「やってやる!」って気持ちにさせてくれるものですね。
池永 台本を読んでいてもそうですけど、演出家としても古城さんは語彙がすごく豊富。稽古のチェックの時にいろんな言葉を使ってくれるんです。ちょっと語彙が豊富すぎてわかんない時もあるんだけど。(笑)
山中 俺は「露悪的」っていうのがすぐわかんなくて(笑)。言葉の説明から入ったもんね。
池永 言葉が伝わってないと思ったら、すぐに言い換えてくれるし。役に対するオーダーは一貫してるんですよね。ゴール地点は古城さんには見えてて、それが僕にも伝わってて、そこにたどり着くまでの道筋をいろんなルートで示してくれるっていう感覚で、じゃあどれが行きやすいだろうって選びながら稽古をやれるのは楽しいです。
-- ほかの客演である多田直人さん、山田悠介さんはじめ共演者は皆さん初顔合わせだそうですね。まずは劇団の顔である奥村洋治さんはいかがですか?
山中 奥村さんは……、好きです。(笑)
池永 とてもお茶目な方だけど、積み重ねてきたものがものすごくしっかりしてるのが伝わってくるから、おちゃらけたり、場を和ませたりってことをガンガンやっても、芝居のシーンは全然ブレなくて。引っ張ってくれる頼れる座長って感じですね。
池永英介
山中 奥村さん、自分の親父とほぼ同い年なんですけど、稽古中に奥村さん可愛いなぁって思って見てしまう(笑)。社会派の劇団にいて、あのお茶目さって素敵ですよね。
池永 体の使い方とか体幹が本当にすごいです。60歳には感じない、訓練の賜物ですよね。お茶目だから、重たいテーマを嫌味なくやれたり、逆にきちんとボケられたりするんじゃないかなって思います。古城さんと奥村さんのコミュニケーションに自分がどうやって追いつこうかをすごく考えるし、見て学ぼうとしています。
-- では、お互いの印象は?
山中 僕、池永さんすっごく大好き(笑)。もう、こうなると全員大好きになっちゃうんですけど、稽古場で古城さんとマンツーマンで芝居つくっているときに役に囚われすぎて全体像が見えてないんじゃないかって不安に思う時があって、そんなとき池永さんは「僕はこういうふうに見えてるよ」っていうのをすごくわかりやすく言ってくれる。あと、俺の本当にどうでもいい雑談にニコニコしてずっと付き合ってくれる。
山中雄輔
池永 僕はすごい人見知りなんですよ。だから知らない人と打ち解けるのに時間かかるんですけど、その時に一番早く繋ぎに入ってくれたのが山中くんで感謝してる。いろいろ話しやすい相手ですね。稽古始まってしばらくたってもまだ、結構人見知りのままだけど、山中くんと山田くんはあんまり勇気を必要とせずに話せています。(笑)
-- 何をお話いただいてもネタバレになってしまいそうな内容ですが、可能な範囲で役柄と作品について教えてください。
池永 僕はあんまりやったことないタイプの役で、これまで避けてきたタイプの役だと思うんです。だから、苦しんでるし、めちゃめちゃ頑張りがいがある。僕の芝居を今まで観てくれた人には、「あっ、こんな芝居もやるのね」って思ってもらえると思います。初めて僕を見る人には「普段はこういう人じゃないよ」って思ってもらいたいかな。(笑)
山中 僕の役もどう説明してもネタバレになるからなぁ……。抽象的に言うと、ある種の、人生をドロップアウトした人。この役を自分に落としこめたら、演技の幅がまた広がるんじゃないかなって感じています。このお芝居って苦虫を噛んだような後味の悪さっていうか、誰しもが持ってる後ろめたさが出ていると思うし、人と人が接したとき誰もが持つ感覚が作品の中に散りばめられてる。どこか自分に似ていて、そしてあまり自分が認めたくないところを感じてしまうのかなって思います。誰とも平等に接するのが正しいと思われがちだけど、そんなことをやれてる人っていなくて、別にそれでもいいんだけど、それを踏まえた上で人と接するってことについて考えさせてくれるような作品なんじゃないかと思っています。
池永 上手く言葉にできるかわからないんですけど、ワンツーワークスの舞台を観てよく思うことがあるんです。お客さまってフィクションだと思ってまず観に来るじゃないですか。でも舞台上で行われていた物語がいつの間にか自分の隣にあるみたいな、そんな感覚になるんです。『アジアン・エイリアン』は特にそういう作品じゃないかな。今まで他人事だと、ブラウン管の向こうの話だと、あるいは何かの作品の中の物語だと思っていたことが、すっと目の前にあるかのような感覚。「あれ今、もうこんな目の前に迫ってるの」ってふと感じる作品だと思っています。
(左から)池永英介、山中雄輔
-- では、舞台を見終わってお客さんに持って帰ってほしいものは何でしょうか?
池永 その人の正体って何なのかってことだとは思います。僕が今自分の役の正体を掴もうとしたり、ワンツーワークスっていう劇団の正体を掴もうとしながら稽古場にいるのと同じように、お客さまが自分の生活においての自分の隣人の正体とか、自分自身の正体とは何なのか、何をもってそれを正体というのかっていうところにちょっと思考がいってくれるといいなあと思います。
山中 難しいなぁ……。自分が人と接する時の価値観っていうものが、もしかしたら間違ってるんじゃないかって、もう一回見直すものになれば、僕はいいんじゃないかなぁって思います。作品に考えさせられる余白があるんですよ。多分、受け取り方、刺さり方が人によって違うものになるじゃないかなぁと。だからすごく観てほしいし、自分と同世代の人がどう感じるのかっていうのをすごく聞きたいですね。今、自分がそうで、改めて考えていることでもあるので、同じように考えていただければいいですね。
(左から)池永英介、山中雄輔
ワンツーワークス前身である劇団一跡二跳の旗揚げは1986年。客演の山中雄輔、山田悠介はその翌年に産まれたという。『アジアン・エイリアン』が描くものは、人と人との関わりから生まれる「意識」と、そこから見つめる「自己探求」だろう。この「私が私であることの証明とは何か」という問いは、時代が変わっても、世代が異なっても永遠に抱える問いだと思う。そしてそれは劇団が、そして役者自身が自らの正体を問いかけ舞台をつくりあげていく作業にも重なってくるように感じた。
(左から)池永英介、山中雄輔
取材・文・撮影=田窪桜子
■日時:2017年6月22日(木)~7月2日(日)
■会場:赤坂RED/THEATER
■作・演出:古城十忍
■出演:奥村洋治、関谷美香子/多田直人、山田悠介、池永英介、山中雄輔、ほか
■料金:前売4,500円 当日4800円 学生3,000円 (税込)
■公式サイト:http://www.onetwo-works.jp/works/asian-alien/