「振り切ることが愛情表現であり誠意」 ハルカトミユキが『溜息の断面図』に注ぎ込んだ怒りと希望とは

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インタビュー
2017.6.28
ハルカトミユキ 撮影=上山陽介

ハルカトミユキ 撮影=上山陽介

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2015年は毎月新曲を配信し2枚のミニアルバム『世界』と『LIFE』をリリース、続く2016年は47都道府県ツアーを行いフルアルバム『LOVELESS/ARTLESS』をリリースするという、超過密なスケジュールを乗り越えてきたハルカトミユキ。それから1年足らずにして早くもニューアルバム『溜息の断面図』を完成させた。
前作『LOVELESS/ARTLESS』は、それまでほぼ全てをハルカが担ってきた作詞作曲のうち、作曲の半分をミユキが手掛けるようになったことでサウンドや表現の幅が広がり、2人にしかできないポップミュージックの形を見せてくれた作品であった。そこで抱いた次なる作品への期待と想像を、見事に裏切る……といえば語弊があるのだが、今作にはこれまでとは別次元の圧倒的な強さがある。心にグサッと刺さるメロディーと言葉、ミユキの作品への介入度が高くなったことによる豊かな音楽性は流石ではあるが、もっと根本的な部分での熱量が全く違う。それは“時代”というレベルで何かをひっくり返すかもしれないポテンシャルに満ちていた。

――『溜息の断面図』はこれまでのアルバム『シアノタイプ』や『LOVELESS/ARTLESS』から地続きでありながら、全く別次元の作品にも思えました。簡単に言うと、段違いに“エモい”。候補曲の中からそういった曲を選んだのか、それともどの曲も一つのコンセプトに向かって作っていったんでしょうか。

ハルカ(Vo/Gt):走り出した時は、何も考えずに作っていたんですけど、途中で吹っ切れて「もうバキバキに攻めちゃおう」って。スイッチが入ってから作る曲が変わってきたんです。最初は「明るい曲も優しい曲も書かなきゃいけないなぁ」みたいに思ってたんですけど、そこはもうどうでも良くなりました。不気味だろうが何だろうが「やっちゃえ」って。だからエモさが出ているんだと思います。

ミユキ(Key/Cho):2017年でデビュー5周年だし、攻めの姿勢は見せたいと思っていて。ハルカと2人でじっくり話して「そもそもハルカトミユキの原点は怒りとかフラストレーションだよね」って改めて確認して、迷わず作った中から選んだ12曲という感じです。

――『LOVELESS/ARTLESS』では持てる音楽的背景を惜しみなく出しつつも、思っていることがちゃんと伝わるように、どこかでバランスは考えられていましたよね。

ハルカ:はい。それは考えていました。

――今作ではそういうバランス感覚とはまた違った印象を受けました。それは今年に入ってからのライブにおいてもそうで、2013年のアルバム『シアノタイプ』から2015年までは内燃するエネルギーが土台にあって、2015年以降はそこに共有型のエッセンスが加わってきたと思うんです。しかし、今年の2月に行ったワンマンツアーは、場数を踏んだ成長を感じさせながらも、そこを更地にしたようなサディスティックでエモーショナルな初期衝動を強く感じました。

ハルカ:振り返ると、私はどこかで自分に逆ギレしたような気がします。それまで無意識に気にしていたこととか、制御していた言葉やサウンドに対して、どこかで吹っ切れて「やってられっか」っていう瞬間がありました。

ハルカ 撮影=上山陽介

ハルカ 撮影=上山陽介

――過去の作品も気に食わなくなったということですか?

ハルカ:そうではないです。むしろ”自分で自分の過去を否定していたことにキレた”という感じです。自然に大人になるに連れて……たくさん曲を書いてそれが認められたり期待されたりするに連れて、人付き合いなんかも含めて、一言で言えば”丸くなった”自分にムカついていたことにムカついて、全部が吹っ切れたという感じです。

――複雑なプロセスですが腑に落ちる話です。ミユキさんのマインドはどうだったんでしょう?

ミユキ:『LOVELESS/ARTLESS』での私の曲作りは、メロディーやハラハラドキドキするような展開に気持ちがいってたんで、ハルカがどういう感情を歌うのかということをあまり意識していなかったから、そのぶんハルカを歌詞の面で苦しませちゃいました。

――それは前回のインタビュー時のトピックでもありましたね。

ミユキ:でも今回は、攻めの姿勢で突っ切ったことをやるなら言葉を強く出さなきゃいけないし、私も怒りやフラストレーションを曲で表現しようと思いました。2月の5周年ツアーは、私達が出会った池袋からスタートしたんですけど、そこで初めて2人でライブをした時のことを思い出したんです。誰にも遠慮なんてしてなかったし、みんな敵だと思ってた。2人じゃなくてバンドに憧れてたけど不器用だからできなくて、そこにも敵対心を持ってましたし、当時はその気持ちを音の歪みで表現してたんです。でもそれは単なるディストーションでしかなくて、音楽にはなってなかった。でも今だったらそこに言葉と表情のあるメロディを乗せて強いものが生めるんじゃないかと思ったんです。

――確かに。お互いが全く違う人間であることを認め合っているからこその化学反応が魅力的だった『LOVELESS/ARTLESS』に対して、今回は根本的な気持ちから2人で同じ方向を向いている。

ハルカ:今回はミユキが“ハルカトミユキの音楽”であることを考えて作ってくれたことが、本当に大きかったです。

――「Fairy Trash Tale」はまさにそうですよね。今回はまずクレジットを見ずに聴いてみたんですが、この曲は完全にハルカさんが書いた曲だと思いました。

ミユキ:アルバムとしての方向性はハッキリしつつも、ハルカの歌詞が振り切っていたから、それぞれの曲が濃すぎて際どさだけが目立っているようにも思ったんです。だからそこはバランスを少し意識して、ハルカトミユキらしさの真ん中にあるものを書いてみようと思いました。それってハルカが作ってきたイメージだから、過去にも遡ってハルカのメロディーを研究したりもしたんです。そしたらマスタリングの時に、ハルカがあたかも自分の曲のようにカウントしてて、「やったね」って思いました。

ハルカ:そうそう(笑)。私も騙された。

ミユキ 撮影=上山陽介

ミユキ 撮影=上山陽介

――でもよくよく聴いてみるとミユキさんらしさもあって。

ミユキ:自分らしさが出ていると思ったのは、ハルカがタイトルに“Fairy Tale”という言葉を使ったとき。私はどこかドリーミーなところがあるから。

ハルカ:そうかも。曲を聴いて歌詞を書き始める時にパッと“Fairy Tale”という言葉が浮かんだんですけど、それはミユキが書くメロディーや仮歌のドリーミーさとか、そこから呼ばれたのかもしれない。

――そして間に“Trash”という言葉を挟んで“Fairy Tale”をひっくり返しちゃうところが実にハルカさんらしい。

ハルカ:確かに(笑)。

――「インスタントラブ」は、ミユキさんがお好きな80年代ポップスの世界観ですけど、コード・カッテングとかはいつもより洒落ていて、言ってしまえば今日本でも流行っている感じで。でも国内のそういう音楽って、あえて歌詞には意味を持たせなかったり、ライトでキャッチーな語感を重視したり、ある意味ハルカさんとは対極的な美学もありますよね? そこに思うことがあって、わざと強めの歌詞を乗せたんでしょうか。

ハルカ:私は意味のないものが大っ嫌いで。存在を否定はしないんですけど、そういうことがかっこ良いみたいな風潮は本当にあるなって思っていて、だから「私はやりません」って気持ちが強いです。

――ハルカさんはそれらしく分かりやすい言葉を器用に書いた方がウケるということを受け止めた上で、やらない/やれない人だと思っていて。

ハルカ:だから書いているうちにどんどん怒ってきてどんどんイラついてきたら、より書くことが溢れてきちゃいました。

――「Stand Up Baby」もそれに近い強さがあります。

ハルカ:その曲もまさに。無意味なものが良いとか、無意味なものに「意味あります」って顔してる奴が凄く嫌なんですよ。「お前が書いたわけじゃないだろ」って。でもそれが求められているし、そこに乗っかっていれば楽なのもわかる。けれどもそこに対する反抗心は常にあるんで。

――「近眼のゾンビ」はタイトルや内容からSNSに対する思いが感じられたんですけど、どうですか?

ハルカ:みんな正論を言うんです。それが回りまわってどんどん生き苦しくなっていく連鎖に「何なの?」って。みんな限界にきていて歪みが出てきてるから、どっかではけ口とか探してやってるんだろうけど、その感じが気持ち悪いんです。そういうある側から見たら正論、局地的な正論って怖い。人間として壊れていってるというか。

――そういった精神とサウンドの絡み合いが凄まじいんですが、ちょっと音の背景を探ってみると、例えば「これはレディオヘッドを彷彿とさせるな」って感じたり、ただ踊っていて楽しい感覚もあったり、多面的な楽しみ方が存在しています。

ハルカ:音楽的な背景に関しては、私としてはあまり考えずに感じるままに作ったんですけど、もちろん誰がどう解釈したって全然OKですよね。

ミユキ:今までハルカが私に「壊してくれ」ってなってたんですけど、そこはまだ音楽的に成立させられなかったものが、「わらべうた」や「近眼のゾンビ」でできた。どこにも属さないハルカトミユキの音楽になったと思います。

ハルカ 撮影=上山陽介

ハルカ 撮影=上山陽介

――「わらべうた」はエレクトロなのかバンド然としたロックなのか、そこがちょっと歪というか。MVも合わせて不気味でスリリングかつ、難しいことを抜きにした楽しさもあって、まさに”どこにも属さないハルカトミユキの音楽”を感じました。

ハルカ:精神については今回常に考えながら曲や詞を書いていたんです。“人間の不気味さ”みたいなもの。でもそれってみんな普段表に出さないだけで普通のことだと思っていて、だからそのことを言った感じですね。

――だからこそ自由を感じるんです。ストレスが溜まって帰ってきた部屋で一人音楽を聴きながら、“表”から見れば変な動きってやりません? あの感じに近いかも。ライブ会場がそれぞれの個性で溢れる景色が見えるような曲で、それは異常なことじゃない。

ハルカ:そうなったら最高ですね。

――「わらべうた」は「はないちもんめ」、「終わりの始まり」は「かくれんぼ」の歌を引用されていますが、連動させる意図はあったんですか?

ハルカ:そこは、実は意識してなかったんです。「Fairy Trash Tale」もそうなんですけど、子供の頃の無邪気な残酷さみたいなのがところどころ出てて。

――「終わりの始まり」を初披露したのは今年2月の5周年ツアーでしたが、ハルカさんがTwitterで“新兵器”と呟かれていたグレッチを持って演奏されていたこともあって、ヴィンテージなブルーズやロックンロールを感じていたので、これもミユキさんが書かれた曲とは思いませんでした。

ミユキ:例えば、私が憧れているカート・コバーンみたいに、命を削って歌っているような姿がかっこ良かったり、立ってるだけで様になったり、ハルカにはそういうロックスター……的なものがあると思っていて。だからAメロに入った瞬間それを感じさせる曲を作りたかった。ブルーズという意識は全然なかったというか、そもそもブルーズをちゃんと聴いたことがないんです。

ハルカ:私の歌詞とか歌い方とサウンドのミスマッチみたいなもので、ブルージーになっているんだと思います。

――ベースラインが動かないミニマルなサウンドにハルカさんの生々しい歌が響く。そこに鬼気迫るようなブルーズを感じたんです。そして後半のダイナミックかつ不穏な展開。『Icky Thump』期のホワイト・ストライプスからニルヴァーナ『In Utero』へと流れていくような。

ミユキ:言われてみれば確かに。そこで実際に参考になったのは何だろう? ロードの、音や言葉数が少ないなかで緊張感を持って進んでいく感じが好きで、彼女が好きな音楽について調べたらフリートウッド・マックが出てきたんです。あの、何て言えばいいのかな……メロディーの停滞しない譜割りとかは何も考えなかったら出てこないんで、そういう曲は意識的に聴いてました。

――「嵐の舟」は「終わりの始まり」に近い迫力があります。山口百恵さんや中森明菜さんのような、昭和にあったダークサイドからのポップソング的イメージで、どこか懐かしい、今のヒット曲にはない感じ。

ハルカ:その辺のイメージでやってみたかったんですよね。

――「宝物」も懐かしさを伴いながら天国に導かれるような気持ち良さ。7曲目、あそこで景色が開けますよね?

ハルカ:そういう曲だからどこに入れるかは意識しましたね。去年で27歳になって、昔みたいに怒りのままには歌えないんだけど本当は凄く苦しいし、かといって甘えてもいられない年齢。この辛さって10代とも違うし20歳になった時とも違うし、独特の苦しさが今だけあるんだなって思っていて。

――そこに“生命”を感じて感動したんです。ハルカさんの歌とミユキさんの鍵盤を合わせて、ハルカトミユキに初めて母性を感じたんですよね。

ハルカ:30~40代の男の人が感動するっていうのは、ひとつの大きな目標だったんです。27歳の女が書いたんですけど、戦ってる男の人とか、街に揉まれている人が涙を流すような、そういう言葉って何だろうとも思っていたから嬉しいですね。

――考え過ぎちゃう人っているじゃないですか。「楽しかったらいいじゃない」では済ませられない人。でも効率が重要視される社会でそこを出しちゃうと「考え過ぎは良くないよ」って言われたり、面倒臭がられたりすることもある。でもそういう人って少数派じゃない。見えない何かに抑えられ潜伏しているマジョリティーで。

ハルカ:まさに私がそういう人間。だから昔から大勢の中にいると何も喋れないんです。4、5人が限界で「私空気だな」って思う。そういうときは決まってどっかで自分のことを見ている自分がいるんです。それは小学生の頃から。そこにあきらめがついて、一人で帰っている時についた溜息、そこが私の歌の出発点だって思って。だから言いたいことや言えなかったことを書こうって思ったんです。

ミユキ 撮影=上山陽介

ミユキ 撮影=上山陽介

――ミユキさんがハルカさんの怒りや世の中に対して思うこととは?

ミユキ:今は閉じている世の中だと思ってるんですけど、その中に籠るんじゃなくて、それを爆発させる作品を作りたいってハルカに話したら、「なんだ。そう思ってるんだ」って言ってくれました。でも私はもうそれ以上は言葉にはできないから、音で表現してハルカには言葉を乗せてもらってるんです。そこで改めて、自分の隣に言葉にならないことを言葉にしてくれる人がいて良かったなって。……なんだろう、こうしていつも話が詰まるんですけど、ハルカに「ありがとう」って思う。だから私は音楽ができるんです。

――そういうミユキさんの素直な気持ちも込められているからか、これまでの2枚以上に毒も強いけど、ハルカトミユキが常に示したいとおっしゃっている“希望”も強い。

ハルカ:振り切ったぶん「嫌いだ」という人も出てくると思います。「そんなに怒らなくてもいいんじゃないの」って思う人もいるだろうし、でも私はもう寄り添うことは止めました。振り切ることが愛情表現であり誠意だと思ったから。考え過ぎちゃう人、何も言わないで済ませて溜息をついた人――おっしゃったような見えていないマジョリティーに向けて、届けばいいなと思いますね。

――ライブでの表現も今までとは変わってくるんじゃないでしょうか。6月28日からのレコ発3デイズ、9月2日には3年連続となる日比谷野外音楽堂でのワンマン、その間には大型フェスにも出られますが。

ハルカ:結成した当初のライブは常に「お前らに分かってたまるか」って睨みつけながらやってたんです。でもさっきも言ったように求められたり認められたりしてくるに連れて、良くも悪くも丸くなっていって。でも今はそこが吹っ切れた。初期の感覚に近いんです。だから媚びないことでお客さんに伝えられるライブがしたいです。

ミユキ:自分が心を開けばお客さんも着いてきてくれると思うから、まずは自分が楽しんで「こういう音楽をやっているんです」っていう部分がちゃんと見えるようなライブをして掴みたいです。


取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=上山陽介

ハルカトミユキ 撮影=上山陽介

ハルカトミユキ 撮影=上山陽介

リリース情報
3rd ALBUM『溜息の断面図』
2017.06.28 release
『溜息の断面図』

『溜息の断面図』

初回盤 AICL-3354/3355  \3,990(税込) *CD2枚組
通常盤 AICL-3356  \2,800(税込)
Disc-1(初回・通常共通)
1.わらべうた
2.Stand Up, Baby
3.Sunny, Cloudy
4.終わりの始まり
5.Fairy Trash Tale
6.WILL(Ending Note)
7.宝物
8.近眼のゾンビ
9.インスタントラブ
10.僕は街を出てゆく
11.嵐の舟
12.種を蒔く人
 
Disc-2(初回盤のみ) *待望の初音源化「LIFE 2」収録
LIVE at 日比谷野外大音楽堂 [2016/9/24]
1.世界  2.バッドエンドの続きを  3.Hate you  4.Pain  5.奇跡を祈ることはもうしない 6.夜明けの月  7.Are you ready?   8.見る前に踊れ 9.DRAG&HUG 10.振り出しに戻る 11.ニュートンの林檎   12.光れ   13.LIFE 2   14.ドライアイス

 

ライブ情報
アルバム レコ発 3days
06.28(wed) SHIBUYA WWW X with tacica
open 18:30/start 19:00
LIVE:tacica、ハルカトミユキ
06.29(thu) SHIBUYA WWW with peridots
open 18:30/start 19:00
LIVE:peridots with 河野圭・横山竜一、ハルカトミユキ
06.30(fri) SHIBUYA CLUB QUATTRO  with きのこ帝国
open 18:15/start 19:00
LIVE:きのこ帝国、ハルカトミユキ
★チケット発売中
チケット前売:全自由 ¥3,900/当日券:全自由 ¥4,500 ※D代別
 
インストアライブ&サイン会
07.03(mon)19:00~
タワーレコード梅田NU茶屋町店
 
+5th Anniversary SPECIAL
09.02(土) 日比谷野外大音楽堂
open 17:15 / start 18:00
info:DISK GARAGE 050-5533-0888
■メモリアルチケット限定指定席(特典付) 3,500円(税込)
*特典:ケース入オリジナルチケット/当日引換
*限定指定席は規定枚数に達し次第販売終了いたします。
■自由席 3,000円(税込)
*小学生以下入場無料。ただし、指定席でお席が必要な場合はチケットが必要となります。
 
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