ジジイたちの生き様がカッコ可愛い!『ジーサンズ はじめての強盗』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第二十九回
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(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
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盗みに入った家の家主に返り討ちにされるスリラー『ドント・ブリーズ』(16)の剛腕盲目ジジイに、『100歳の華麗なる冒険』(13)の超人マイペースジジイ。映画の世界には、愛すべき個性的なジジイたちがたくさん存在する。そんなジジイが活躍する映画が大好きな私が、元気をもらえるジジイ作品を紹介しよう。レジェンドジジイ俳優が勢揃いのクライム・コメディ、『ジーサンズ はじめての強盗』だ!
ウィリー、ジョー、アルのジーサン3人は、40年以上勤めた会社が合併することになり、年金の打ち切りを告げられてしまう。銀行からも見放され、残るは住宅ローンや体の不調と、問題ばかりの3人。愛する家族と幸せに暮らしたい。デザートには大好きなパイを我慢せず食べたい。ささやかな生活を取り戻すために、ジョーはウィリーとアルに「年金を取り戻そう」と銀行強盗を持ちかける。まじめに生きてきた3人は、すべてを賭け人生最大の大勝負に出るのだが!?
アカデミー賞受賞ジジイ、揃い踏み
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主演の3人はいずれも80歳オーバーの正真正銘ジジイ俳優たちだが、とても豪華なメンバーである。孫にメロメロ、実直だけど体の調子が良くないウィリー役にモーガン・フリーマン。冷静で頭が切れる、強盗を企画した張本人・ジョー役にはマイケル・ケイン。ちょっと頑固で、しかし女性にモテるアル役をアラン・アーキンが演じる。3人ともアカデミー賞受賞経験のある、実力派オスカー俳優たちだ。巷ではイケてるおじさんを“イケオジ”と呼ぶ風潮があるが、ならば彼らは“イケジジ”と呼ぼう。スラッとした長身で気品漂う3人の姿を見れば、自分にもこんなお爺ちゃんがいたら!と思うことだろう。
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そしてこの3人のほかにも私が推したいのが、クリストファー・ロイド。前回紹介した『アイム・ノット・シリアルキラー』では、老獪で恐ろしいシリアルキラーを演じていた俳優だ。ロイドが演じるミルトンは、ウィリーたちと同じ老人クラブに所属しているものの、彼らに「ああはなりたくない」と言われるようなボケ老人。クラブではゲームを仕切ったり、皆にルールを守らせたりする役目なのだが、耳は遠く、自分がやっていることもすぐ忘れてしまう。だが、目を見開き、口をヘの字にムーっと曲げたそのコミカルな表情は、とっても可愛いので注目してほしい。
ジジイたちの生き様がカッコ可愛い!
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本作は、年金、病気、老後の生活など、身近ながら重いテーマを扱っているものの、重苦しくなく軽快に進んでゆく。やっていることも強盗という犯罪行為ではあるのだが、「クライム・コメディ」と呼ぶには“クライム”な匂いは微塵も感じられず、むしろひたむきなジジイたちを応援したくなってしまう。
なぜかと言えば、自分の生活を守ろうとするジジイたちが必死に戦っている姿が、とてもキュートでカッコいいからだ! たとえば、ジョーとウィリーは、強盗を実行に移す前に、手始めにスーパーで万引きをやってみるのだが、そのやり方があまりにもお粗末なため大失敗。警官に追われることになる。
ジョーは駐車場にいたおばあさんのシニアカー(電動カー)を奪って逃げようとするのだが、あいにくそれが一人乗り。背に腹は代えられない、とウィリーをシニアカーのカゴに乗せて走りゆくその様は、まさに『E.T.』(82)。ウィリーもツッコミを入れていたが、こんなお茶目なモーガン・フリーマンはなかなか見られるものじゃない!
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しかし万引きでの失敗を経て、自分たちだけではダメさ加減を痛感した3人は、とあるコネを使い、プロの力を借りることになる。プロの下で特訓を積む中で、3人の日常生活は少しずつ変化してゆく。アルは愛する人を見つけ、ジョーは娘の別れた夫と和解し、そしてウィリーは……。そんなハートフルな一面と、強盗への準備を着々と進める様がテンポよく交互に描き出されるので、強盗を実行する前に、私はすでにジジイたちのことが大好きになっていた(もとからジジイ映画好きなのはさておき)。
だが本番はここから。まるで『ミッション:インポッシブル』(96)のように、颯爽と強盗を成功させた彼らに、FBIの追手が迫る。はたして、ジジイたちは捕まってしまうのか!? この先はネタバレになってしまうので語れないのがもどかしいが、「あー! ここでこれがー!」や「そういうことかー! 」となる伏線回収や、ウルっとくる展開に胸アツになること間違いなし! 粋な登場人物たちの粋な計らいが、ラストに押し寄せてくるぞ。
笑い、涙、人情、ハラハラ。たくさんの要素がてんこ盛りの本作だが、観終わって思うことは、「こんな親友たちが死ぬまでそばにいてくれたら幸せだろうな」ということだった。喧嘩しても一緒に悪いことをしても、それを分かち合えるジジイたちの友情に、乾杯!
映画 『ジーサンズ はじめての強盗』は 6月24日、 新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
(アメリカ/2017年/ 96分/英語/)
Going in Style(原題)/PG12/
監督:ザック・ブラフ(『終わりで始まりの4日間』『WISH I WAS HERE/僕らのいる場所』)
製作:ドナルド・デ・ラン『バーレスク』
脚本:セオドア・メルフィ『ヴィンセントが教えてくれたこと』(監督・脚本)
出演:モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキン、アン=マーグレット、ジョーイ・キング、マット・ディロン、クリストファー・ロイド 他
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:g3z.jp
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