「ルグリ・ガラ」 透明な魅力!ボリショイ・バレエのスミルノワ&チュージンが踊る「4つの世界」に注目
左から セミョーン・チュージン、オルガ・スミルノワ(撮影:荒川潤)
2017年8月19日から大阪で幕を開ける『ルグリ・ガラ ~運命のバレエダンサー~』。これに出演するオルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンのペアが、ボリショイ・バレエで来日した際に、公演の合間を縫ってインタビューに応じてくれた。ルグリ自身が「理想的な、優れたバレエダンサー」と評する透明感あふれる2人は、5月にウィーン国立バレエの公演でヌレエフ版『白鳥の湖』を踊り、ボリショイ・バレエ公演でもグリゴローヴィッチ版の『白鳥の湖』を披露。透明感あふれる繊細な世界で観客を魅了した。今回は『ルグリ・ガラ』の演目や、出演への意気込み、ルグリの印象などについて話を聞いた。
オルガ・スミルノワ(撮影:荒川潤)
セミョーン・チュージン(撮影:荒川潤)
■熱心でポジティブ。ルグリと共に作り上げたヌレエフ版『白鳥の湖』
――まず『ルグリ・ガラ』に出演することになったきっかけを教えてください。
チュージン 何かのガラがきっかけで初めてルグリに会いました。私はバレエ学校で学んでいた頃から、彼の踊りを見て感動していたので、ウィーン国立バレエの『ドン・キホーテ』の話を頂いたときは感動しました(※筆者注:2016年。この時のキトリは同じくルグリ・ガラに出演するマリアネラ・ヌニェス)。
スミルノワ ルグリと知り合うのはチュージンがきっかけでした。彼がウィーンでヌレエフ版の『白鳥の湖』を踊ることになったので私に声をかけてくれたのです。それで「ぜひお願いします」と。
――ヌレエフ版の「白鳥」と、普段ボリショイで踊っている「白鳥」は随分違うと思いますが、踊ってみていかがでしたか。
スミルノワ ヌレエフ版の「白鳥」は、彼が自分で踊るために作ったものでもあるので、王子のパートがかなり違います。だから王子役は覚えなければならないところがとても多い。女性は黒鳥の部分が違うのですが、練習期間が短かったこともあり、その部分はインターナショナルな、つまり一般的によく踊られている振付でいいとルグリが言ってくれて、そのようにしました。でも最後のアダージョは、ヌレエフ版の振付で踊りました。ヌレエフ版ではオデットは人間にはなれないが王子を許し、最後は愛が勝つ、という筋書きで、そこがとても印象的でした。振付も納得できるものだったので、ぜひ踊りたかったし、また楽しんで踊ることができました。
チュージン ヌレエフ版の「白鳥」は本当に踊りたいと思っていました。難しくてできないんじゃないかとも思いましたが、実際に踊って、リハーサルを重ねて行くうちにどんどん面白いと思うようになりました。普段自分が触れることのできない、別の世界に触れていくようでしたね。またその時、ルグリとスタジオで一緒にリハーサルをするという、そういう時間が持てたことも嬉しかったです。
セミョーン・チュージン(撮影:荒川潤)
スミルノワ ヌレエフ版の「白鳥」には、オデットが登場する前にモノローグがあり、セミョーンはそれを毎日ルグリと一生懸命練習していました。本当に全身全霊で練習していたのを、私も横で見ていました。
――ルグリさんにどのような印象を持ちましたか。
スミルノワ とても仕事熱心で、とてもポジティブ。仕事に対する彼の情熱に感動しました。彼は全ての時間をカンパニーと共に過ごし、スタジオで起こることなどの全てをコントロールしながら働いています。そして、彼のアドバイスは的確です。その通りにすれば正しい方向に向かって行けると思わせてくれます。
さらにルグリは周りにいる人にエネルギーを充電させる力があり、「もっと練習したい」という気持ちを伝染させるパワーがあるんです。不思議なことに、どんなにくたびれていても「もっと練習したい」という気持ちが、どこからか湧いてくるんです。私たちは2人ともそういう感じで練習していました。
オルガ・スミルノワ(撮影:荒川潤)
■『ルグリ・ガラ』では4つの作品を披露
――お2人ではボリショイでもペアをよく組まれていますが、お互いの印象は。
スミルノワ 長い間ペアを組んでいますが、特に古典作品を踊ることで一定の決まったパートナーがいるのはとてもプラスになります。というのもテクニック的に難しいところがあっても、互いによく知っているのでコンビネーションなど技術的な部分に神経を使わず、何を伝えていこうかという、感情表現に集中できますから。一緒に踊るのがセミョーンという、一流のダンサーであるのはうれしいことです。
チュージン 私も同じ意見です。
――今回『ルグリ・ガラ』では、「じゃじゃ馬馴らし」「グラン・パ・クラシック」「ファラオの娘」、そして「ジュエルズ」より“ダイヤモンド”の4作品を踊ります。この作品についてお話いただけますか。
スミルノワ いずれも全くカラーが違う作品です。ルグリと話し合って決めました。なかでも今回日本の皆様に披露できるのが特にうれしいのは、J.C.マイヨー振付の「じゃじゃ馬馴らし」のルーセンチオとビアンカのパ・ド・ドゥです。これはマイヨーが私たちのために振り付けてくれた踊りだからです。
「ファラオの娘」はラコット振付の作品ですが、ボリショイ・バレエではガラでパ・ド・ドゥを踊るのみで、全幕上演も近年ボリショイでは数回しかやっていません。今後も全幕で踊れればいいな、といろいろなところで言っているのですが、なかなか実現しません(笑)。
「ジュエルズ」より“ダイヤモンド”、これはバランシンお気に入りのダンサーであったマリー・アシュリーに習いました。ストーリーのない作品ですが、舞台上にペアがいるということは、それだけで人間関係が生まれる、ということです。お客様もそこを自由に想像して楽しんでいただきたいです。チャイコフスキーの音楽も素晴らしいし、バランシンの振付も面白いです。
オルガ・スミルノワ(撮影:荒川潤)
■世界の様々なバレエにふれることはダンサーを成長させる
――お2人の尊敬するダンサーや、こういうダンサーになりたい、と思う方がいれば教えてください。
スミルノワ バレエの世界のお手本はディアナ・ヴィシニョーワ(現マリインスキー・バレエ団)です。彼女は大好き。ワガノワ・バレエ学校にいたときに同じ先生に習っていたというのもありますし、彼女の表現方法、話し方、どう自分をプロデュースするか、仕事をしていくかという考えに共感でき、また素晴らしいと思います。
チュージン そうしたダンサーはたくさんいます。やはりヌレエフは今でも好きですし、ルグリも好きです。またロシアのすばらしい世代のダンサー、イレク・ムハメドフのVTRは繰り返し見ています。
セミョーン・チュージン(撮影:荒川潤)
――今後こうしていきたい、など、考えていることはありますか。
チュージン 今は考えていないです。若いうちはとにかく踊り続けたい。大学でバレエ教師の課程は取っていますがまだ終えていませんし、実際に教師になるかというと、それもわからない。ただ、自分が振付家になることは絶対にないとは断言できます(笑)。振付家は内面からほとばしり出る何かがないとできないものですからね。
スミルノワ 彼は素晴らしいパフォーマーだからそれでいいのよ(笑)。
――スミルノワさんはワガノワで学び、ボリショイに入りました。バレエ学校の先生はこうあるべきだ、など、思うことがあれば教えてください。
スミルノワ ワガノワ・バレエ学校ではリュドミラ・コワリョーワ先生に指導を受けましたが、それがとても役に立っています。というのも、彼女は劇場で通用する技術を教えてくれたからです。手や足の表現、動きやステップのひとつひとつに意味があるなど、普通なら劇場でないと覚えられないことを、在学中に教えてくれました。2011年にボリショイ・バレエに入団して大きな役に当たった時も、サンクト・ペテルブルクに戻り、コワリョーワ先生に教えてもらいました。またボリショイで『ジゼル』を踊ることになった時には、ジゼルの有名な踊り手でもあるマリーナ・コンドラチェワ先生に教わりましたが、彼女の教えを受けることができたことも、とても幸せでした。
――ボリショイ・バレエのレパートリーは近年クランコ、バランシン、マイヨーなど外国のものを積極的に取り入れていますね。また、お2人のように入団6年目の若いダンサーが『ルグリ・ガラ』といった国外のグループ公演に参加しています。このような国外との交流についてはどうお考えですか。
スミルノワ 劇場が海外から振付家やそのアシスタントを呼び、新しい作品に触れるという機会が得られるのは幸せなことですし、とてもためになります。世界からいろいろなものを吸収することは、ダンサーを着実に成長させることに繋がります。
チュージン (前監督の)フィーリンのおかげだと思います。
――では最後に『ルグリ・ガラ』について、読者の皆様にメッセージを。
スミルノワ 私たちの舞台はもちろん、『ルグリ・ガラ』には他にもいろいろな作品が登場します。様々な世界が楽しめるチャンスです。ぜひ、いろいろな世界のダンスを楽しみに、劇場にいらしてください。
取材・文=西原朋未 写真撮影=荒川潤
【会期】
8月22日(火)18:30 Aプログラム
8月23日(水)18:30 Bプログラム
8月24日(木)18:30 Bプログラム
8月25日(金)18:30 Aプログラム
【会場】東京文化会館 大ホール
【会期】 8月19日(土) 14:00 Aプログラム
【会場】フェスティバルホール
【会期】 8月20日(日) 17:00 Aプログラム
【会場】愛知県芸術劇場 大ホール