映像と音楽に感動!クラシカ・ジャパンPresents〈二期会プレ・ソワレ〉オペラ『ばらの騎士』とウィーンの魅力
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7月26日から東京文化会館で開幕する二期会『ばらの騎士』。マリア・テレジア治世下のウィーンを舞台に元帥夫人とその恋人オクタヴィアン、オクタヴィアンと恋に落ちるゾフィー、好色なオックス男爵らが織りなすリヒャルト・シュトラウスの名作オペラだ。
この上演に先駆け、ドイツ文化会館で「クラシカ・ジャパンPresents〈二期会プレ・ソワレ〉」が開催された。
この日は音楽評論家の広瀬大介の作品解説に、今回の公演でゾフィー役で出演予定の幸田浩子、二期会2003年、2008年公演で元帥夫人を演じた佐々木典子を招いてのトーク、お宝映像の上映や、出演歌手による演奏が披露された。
■時代を反映した、「恋のワクワク」が終わった後から始まる世界
1911年、ドレスデン宮廷歌劇場で初演された『ばらの騎士』は、リヒャルト・シュトラウスの最高傑作とされるオペラ。華麗な貴族の世界を喜歌劇(オペラ・ブッファ)で、さらにワルツも取り入れながら「老い」「時の移ろい」を明るく描いた作品は瞬く間に人気となり、ベルリン、プラハ、ミラノなど各地で上演され、今なお人気のオペラ作品となっている。
リヒャルト・シュトラウスが『ばらの騎士』の前に発表した『サロメ』『エレクトラ』は前衛的な作風であったが、『ばらの騎士』はモーツァルトへのオマージュやワーグナーの音楽的技法、さらにウィーンで流行したワルツを取り入れており、「前衛から古い時代の方へと後ずさったという人もいるが、シュトラウスがこの作品を発表したのは1911年という、第一次世界大戦前の不穏な時期で、世界を席巻していたオーストリア帝国にも翳りが感じられていた。そうした時代に“老い”や“あきらめ”をテーマに据え、なおかつ“人生はそんなものさ”というウィーンっ子らしい気質と町の息吹を取り入れている」と広瀬はこの作品が誕生した時代背景を説明。さらに元帥夫人が本当の恋を見つけた若い恋人オクタヴィアンのために身を引くというこの作品の構成について「一般的にオペラは恋の成就までのワクワク感を描くが、この作品はそのワクワクはもう終わっている、というところから始まるところで新しい。“老い”のあきらめにも似た眼差しとともに、“移ろいゆく時”という色あせないメッセージが込められ、むしろさらに前衛的な魅力を醸している」と解説。
さらに1994年にウィーン国立歌劇場に登場したカルロス・クライバーの伝説の名演の一部が上映されると、会場の人々の視線と耳が、一斉にスクリーンに引き付けられた。
■元帥夫人とゾフィーが語る作品の魅力
続いて歌手のゾフィー役幸田浩子と元帥夫人役佐々木典子が登場。
幸田浩子の持って来た、白い陶器製のばらは2003年の二期会公演で共演した際に佐々木からもらったという、思い出の品だとか。作品の雰囲気を盛り上げるようなアイテムも加わり、和やかな雰囲気でトークは進んだ。
2003年公演はこの2人が初めて共演したもので、また2人にとってはそれぞれが初役でもあったという。幸田が「物語や作品の雰囲気など、全てが佐々木さんから発せられ、それを中心に和やかに、みんながファミリーとなって舞台を作っていた」と思い出を語れば、佐々木も「元帥夫人はぜひやりたかった役。とにかく一生懸命だった」と振り返る。
さらに2008年の上演は「人間的な魅力をより深めるようにした」と佐々木。幸田は「ゾフィーという登場人物により入り込むと同時に、作品や人物を俯瞰できるようになった。5年経つとはこういうことか、と実感したし、作品と共に旅をするような感覚だった」と話す。
またオクタヴィアンについて、幸田は「ゾフィーにとっては同世代の人で、彼は自分に対してとてもシンプルに生きている。修道院から出てきたゾフィーはすぐ魔法にかかってしまうようなところがあり、またいつも不安。そういう2人の温度差が面白いなと思った」という。
一方元帥夫人の佐々木は「オクタヴィアンは恋をしていた瞬間は大事な人だったけれど、人生を俯瞰してみたら、実はそんな大事な人じゃなかったんじゃないかしら」と、さすが!という答えが。会場からも思わず笑いがこぼれるとともに、「なるほど」と頷く人も多々いたに違いない、そんな空気が漂った。
■出演者による名曲を披露。「自分と同じ人を探しに来て」
トークの後は出演者が『ばらの騎士』の名場面を披露した。
まずは「銀のばらの贈呈」でオクタヴィアン役に和田朝妃(オクタヴィアン役カヴァー歌手及び三人の孤児役出演予定)、ゾフィー役には斉藤園子(ゾフィー役カヴァー歌手及び帽子屋役出演予定)が登場。
銀のばらを手にしたオクタヴィアンとゾフィーの初々しい戸惑いが伝わってくる。
そして2曲目は北村さおり(元帥夫人役カヴァー歌手)も加わって、『ばらの騎士』屈指の名場面の三重唱が歌われた。リヒャルト・シュトラウスが「葬儀の時に演奏してほしい」と言っていたほどにお気に入りの傑作中の傑作で、客席からも「待っていました!」というオーラが湧き立つ。
美しい旋律とともに歌われる三重唱は、うっとりと美しく切ない旋律とともに、ゆるゆると過ぎていく時が思い出と変えた「過去」を、愛おしいと思わせてくれるような力を与えてくれる。何度聴いても目頭が熱くなるような名曲だ。
この名曲の感動と共にイベントは終了。最後に公演に向けて幸田は「様々な魅力のある作品。あまり上演される機会はないので、ぜひお越しください」と挨拶し、佐々木もまた「登場するキャストのなかに必ず、自分と同じ人がいる作品です。ぜひ探してみてください」と語った。
二期会『ばらの騎士』は夏の東京公演後、名古屋、大分でも行われる。
(文書中敬称略)
取材・文=西原朋未
〔愛知公演〕2017年10月28日(土)/29日(日) 両日14:00
愛知県芸術劇場 大ホール
〔大分公演〕2017年11月5日(日) 14:00
iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
指揮:ラルフ・ワイケルト 管弦楽:名古屋フィルハーモニー交響楽団