放送作家・鈴木おさむ&俳優・田中圭のコンビが6年ぶりに挑む舞台『僕だってヒーローになりたかった』開幕
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撮影:鈴木心 左から松下優也、田中圭、手塚とおる、真野恵里菜
2011年に『芸人交換日記~イエローハーツの物語~』という芝居があった。「Quick Japan」誌上で放送作家・鈴木おさむが連載していた小説を舞台化したものだ。結成から11年、鳴かず飛ばずのお笑いコンビ・イエローハーツの行く末を描いた物語で、コンビを組む二人、ボケの田中役をオードリーの若林正恭が、ツッコミの甲本役を田中圭が演じ話題を呼んだ。
所属事務所から回ってくる仕事はストリップ劇場やパチンコホールでの余興や前座ばかりのイエローハーツ。コンビの未来について真剣に話し合うようなことはなかった二人だったが、甲本の思いつきから「交換日記」を始めることになる。当初は気乗りせずにいた田中も甲本への不満をぶちまける場として、どんどん筆が進むようになっていく。お互いの本音をぶつけ合ったイエローハーツは、芸人人生を賭けたあるお笑いコンテストで快進撃を続けるが、決勝を目の前に最大のライバルである後輩コンビに敗北してしまう。それを機に彼らに大きな転機が訪れるーー。
『芸人交換日記~イエローハーツの物語~』の制作発表で、鈴木は田中圭について「甲本がかなりのろくでもないやつなのでピッタリ(笑)。この破天荒な感じができる役者さんが本当になかなかいなくて、田中君はすごくうまいし、流れてる血が合っている」と絶賛(!)していたっけ。
ちなみに物語の結末は、解散し、二度と行き来するはずのなかった交換日記によって、天国にまで召されてようやく互いの絆を確認し合う男たちの姿が心温まる涙を誘った。
「ある意味のドキュメンタリー」が持つパワー
鈴木いわく「あれから6年がたちました。“圭君と『芸人交換日記』以来の舞台を…”とお声がけいただき、今回、オリジナルで『僕だってヒーローになりたかった』を作ります。出演してくださる手塚とおるさんは、物語のプロットを読んだ感想を“これ、ある意味ドキュメンタリーですよね”と鋭く言ってくれました。そうなんです。『芸人交換日記』はあの時に出演した二人のある意味、ドキュメンタリーが重なっていたからあれほどの爆発がありました。だから、今度も…。ある意味のドキュメンタリーが大きく重なります。僕だってヒーローになりたかった。世の中で、ヒーローになれた人はほんのひと握り。ほとんどがなれなかった人。だけど、みんな絶対誰かのヒーローなんだ。そう思って、この物語を作ります」
『僕だってヒーローになりたかった』は、こんな物語になるそう。
小中正義はサッカーチームで活躍していた高校時代、自分よりはるかに優れた後輩・大山英雄が現れ、挫折を味わう。正義は大学でベンチャー起業を興し、IT起業の社長として名を馳せていく。しかし、2021年東京オリンピックが終わった後、正義の会社は倒産し、同時に妻・真子が懐妊する。そして絶望の中で正義は防衛省の甲本長官から“悪”のリーダーに誘われ、軍団を結成していく。それを倒すヒーローに龍馬という男が現れ……。
果たして小中役の田中圭を今度はどんなふうに鈴木が料理してくれるだろう。ベビーフェイスからヒールターンしたプロレスラーのように、もしかしたら違った意味でカリスマになっていくのか? そして大山、龍馬として小中の前に立ちはだかる松下優也、なんだかNHKの朝ドラ「べっぴんさん」で見せた英輔さんのさわやかな風が脳裏をそよぐ。けれどね、悪がいなければヒーローは輝かないんだから、がんばれ小中! ほかに真子役を真野恵里菜、甲本役を手塚とおるが演じる。
いまの時代、ヒーローなんて存在にはうさんくささがあるかもしれない。ヒーローになりたいなんて恥ずかしくて言えないかもしれない。けれど、男なんて心の奥底では誰だってヒーローになりたいものだ。それは50代になっても変わらない(自分のこと)。きっと70代になろうとも、死の直前になろうとも、そのチャンスを狙っている。そう、誰かのために。『僕だってヒーローになりたかった』というタイトルは挫折も感じさせるけれど、鈴木おさむの世界には、そんなふうに多くの人が心にかぶせた覆いを涙と笑いで流し去って、本来の思いを露わに表現できるような時代に戻してほしいと期待してしまう。いやいや、せめて、このひと時だけでも。ヒーローはおじさんたちにも憧れだから。
ところで
文:いまいこういち