イングリッシュ・ナショナル・バレエ 2017年日本公演/世界で最も活気あるバレエ団の公演が開幕~記者会見レポート

2017.7.11
レポート
クラシック
舞台

左よりサマースケールズ、ドロニナ、エルナンデス、ロホ芸術監督、高橋絵里奈、コラレス (撮影:西原朋未)


7月8日からタマラ・ロホ芸術監督が率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の公演が幕を開けた。ロホ監督は英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルを経て2012年にENB芸術監督に就任。以来、英国のバレエ団としては初めての『海賊』全幕上演や、古典とともにコンテンポラリー作品を取り入れたプログラム、若手の育成を行う一方、自らもダンサーとして踊りながら、アクティブに活動を続けている。とくにアクラム・カーンの『ジゼル』は、その斬新な作品解釈で大絶賛され、一躍世界が注目するカンパニーとなった。2017年には優れた演劇やオペラに与えられるローレンス・オリヴィエ賞でバレエ団として業績賞を受賞したことは、「世界で最も活気のあるバレエ団」と言われる証明ともいえる。今回の来日公演はその“噂のバレエ団”の姿を目にすることのできる、またとない機会だ。

公演に先駆けて行われた会見にはロホ監督をはじめ今回の来日公演で『コッペリア』『海賊』の主演を踊るダンサー達が登場。日本公演に対する意気込みを語った。

■期待膨らむ日本公演。「目の肥えた日本のファンに、ぜひ見てもらいたい」

まずはENB監督としては初来日のタマラ・ロホ監督が「日本はとても大切な場所で、来ることができて光栄。芸術監督就任以来、カンパニーは様々な方面で変化し、ダンサーも成長している。だからこそバレエをよく知る日本の皆さんに、我々の舞台を見てほしい。質の高いものを持ってきているので、楽しんでもらえる」と自信をのぞかせた。

タマラ・ロホ芸術監督 (撮影:西原朋未)

会見に登壇したダンサーはセザール・コラレス、ローレッタ・サマースケールズ、高橋絵里奈、ユルギータ・ドロニナ、イサック・エルナンデスの5名。

コラレスは2016年『海賊』のアリ役で英国ナショナル・ダンス・アワードの最優秀男性クラシックバレエダンサーに選出された期待の若手、サマースケールズは英国でも人気のバレエダンサーで、両名とも初来日だ。高橋は1996年にENBに入団して以来、数々の主役を踊ってきた。。

ローレッタ・サマースケールズ (撮影:西原朋未)

今回の来日についてダンサーたちは口々に「この公演が今後のENB来日公演の第1回目となることを願っている」と語り、すでに今後への意欲をにじませる。高橋は「ENBではバレエスクールを卒業してからずっと踊ってきた。大家族のようなカンパニーで、そのメンバーと共に、いつか日本で踊りたいという夢を抱いていた。今回ついに実現して、うれしいという言葉では表せないほどうれしい」と感無量。高橋のほかにも猿橋賢、金原里奈、加瀬栞、康千里、鈴木エミリといった日本人ダンサーがともに来日しており「日本公演が決まって以来、日本人同士だけでなく、カンパニー全員が日本で踊れることを楽しみにしていた」と話した。

高橋絵里奈 (撮影:西原朋未)

■登場人物が生き生きと踊るENB『コッペリア』『海賊』

今回の公演演目は『コッペリア』『海賊』。ENBの人気作品として踊り込まれている自信作だ。

『コッペリア』は村の青年フランツとスワニルダのカップル、そしてスワニルダにそっくりの機械仕掛けの人形とそれを作ったコッペリウス博士が織りなすユーモアいっぱいのコメディ。

ユルギータ・ドロニナ (撮影:西原朋未)


見どころについて「登場人物が会話をするような軽やかな踊りとストーリーを楽しんでほしい」とドロニナ。高橋は「大人から子供まで楽しめる作品で、ダンサーも踊っていてとても楽しい。登場人物の思いを踊りで伝えたい」と話す。日本公演がフランツ役デビューとなるセザールは「東京で作品デビューを飾れてうれしい」とにこやかに語った。

セザール・コラレス (撮影:西原朋未)

もう一つの作品『海賊』は先にもふれたように、ロホ監督就任で実現した、英国のカンパニーとしては初めての全幕上演作品だ。衣裳に映画『バットマン』のデザイナーであるボブ・リングウッドを起用したことでも話題を呼び、2016年のENBのパリ・オペラ座公演では大喝采を浴びた。

ストーリーは海賊の首領コンラッドとその忠実な僕アリ、コンラッドの恋人メドーラを中心に繰り広げられる冒険活劇で、「誰が主役?と聞きたくなるほど登場人物の個性が非常に濃い」とエルナンデス。パワフルな男性群舞、華麗なコール・ドと、見応えたっぷりで、サマースケールズも「私たちの『海賊』はとても楽しい。現実を忘れるくらい舞台に没頭してほしい」。どのような冒険世界が繰り広げられるのか、実に楽しみだ。

イサック・エルナンデス (撮影:西原朋未)

■「ENBとはロホ自身」。躍進するバレエ団の舞台を見逃すな

ENBが創設されたのは1950年。約70年近い歴史を持つが、日本ではまだなじみが薄く、その名が知られるようになったのは元英国ロイヤル・バレエ団のスター、ロホが芸術監督に就任したことが大きい。ロホ監督は「私の芸術監督就任依頼の理由のひとつには、ENBの認知度向上もあった。私が踊ることでバレエ団が注目を浴び、また自分が踊って自ら体現することで、若手に技術を継承していきたい」と話す。

「ENBとどんなバレエ団か、と聞かれれば、それはタマラ自身といえる。彼女は自身のバレエ芸術に対する理想を形にするため活動し、また私たちにも型通りではなく自由に表現することを、身をもって示してくれた。彼女がチャレンジする姿を通して私たちはダンサーとして、人間としても成長している。これからも彼女がやろうとしていることについていく」とサマースケールズ。ロホ監督自身の行動する姿が、バレエ団のメンバーとの信頼関係をより深いものにしている。

タマラ・ロホ芸術監督 (撮影:西原朋未)

団員から大きな信頼を寄せられているロホ監督は「私はスペインという、バレエの伝統や歴史の浅い国の出身。これは日本も同様だと思う。だからこそ、パリ・オペラ座やマリインスキー・バレエといったバレエの伝統を持つ国出身のダンサーとは違い、伝統からコンテンポラリーなど、様々な体系の踊りを客観的に見る機会に恵まれた。これからもそうした視点から得た世界中のバレエ、踊りのいいところをどんどん吸収し、自由に、新たな芸術にチャレンジしたい」と話す。2018年秋にはバレエ団とENBの学校が1カ所に集約され、学校との連携も考えているという。ENBはさらにまた進化していきそうだ。

ロホ監督は話題となったアクラム・カーンの『ジゼル』についても「これからもっと踊り込み、日本の皆様にもぜひ見てもらいたい」と話していた。まずは7月8日(土)『コッペリア』で幕を開けるENBの公演に期待したい。

取材・文・撮影=西原朋未

公演情報

イングリッシュ・ナショナル・バレエ 2017年日本公演

会場:東京文化会館

■『コッペリア』全3幕

7月8日(土)13:00
スワニルダ:ユルギータ・ドロニナ、フランツ:セザール・コラレス
7月8日(土)18:00
スワニルダ:タマラ・ロホ、フランツ:イサック・エルナンデス
7月9日(日)14:00
スワニルダ:高橋絵里奈、フランツ:ヨナ・アコスタ

■『海賊』プロローグ付全3幕

7月14日(金)18:30
メドーラ:タマラ・ロホ、コンラッド:イサック・エルナンデス、アリ:セザール・コラレス、ギュルナーラ:ローレッタ・サマースケールズ
7月15日(土)14:00
メドーラ:ローレッタ・サマースケールズ、フコンラッド:ブルックリン・マック、アリ:オシエル・グネオ、ギュルナーラ:金原 里奈
7月16日(日)14:00
メドーラ:タマラ・ロホ、コンラッド:イサック・エルナンデス、アリ:セザール・コラレス、ギュルナーラ:カーチャ・カニューコワ
7月17日(月・祝)14:00
メドーラ:マリア・コチェトコワ、コンラッド:オシエル・グネオ、アリ:セザール・コラレス、ギュルナーラ:
加瀬栞

■公式サイト:http://www.nbs.or.jp/stages/2017/enb/

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