大空ゆうひ、伊達暁、南沢奈央のスリリングな実験的会話劇に息をのむ! 英国発×日本初演の『カントリー~THE COUNTRY~』

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『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

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会場は、青山通りから1歩入った先にあるDDD青山クロスシアター。7月12日に大空ゆうひ伊達暁南沢奈央が出演する『カントリー~THE COUNTRY~』が開幕した。タイトルだけを聞くと、のどかな農村のほっこりヒューマンドラマを想像される方もいるかもしれない。たしかに田舎を舞台にした物語ではあったが、実際は、3人の役者の息づかいさえ聞き逃せない、スリリングな会話劇だった。

あらすじ
「あの人、彼女、眠っているの? いつ目を覚ますのかしら。生きてる?」
真夜中、夫は眠る女を腕に抱えて帰ってきた、妻とこの待つ美しい家に―。交わされる、パズルのピースを散らすような夫婦の会話。夫が出かけた家で女は目を覚まし、妻に尋ねる。
「どうして気づかないふりをするの?」
夫と妻、妻と女、女と夫。それぞれの会話に縁どられ浮かびあがる真実とは―。

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

日本初演作品×日本初演出

「THE COUNTRY」は、形式、内容ともに実験的な作風で知られるイギリスの鬼才・マーティン・クリンプが、2000年に発表した戯曲だ。日本初演となる本作で、演出はイギリスの演劇界より実力派マーク・ローゼンブラットが務める。ローゼンブラットが日本で演出を手がけるのは本作が初めてとなる。

観劇当日、場内に足を踏み入れてまず驚いたのは、ステージと客席の近さだ。会場の中央には、腰の高さくらいのダークグレーのステージがある。それを「コ」の字型で観客席が囲う。一番後ろのせきでも、息づかいをしっかり聞き取れるだろう。ステージの上には、テーブルランプやグラス、片隅にまとまる子供のおもちゃなどが直に置かれている。ステージの上手と下手の縁には、木製の椅子が上下ひっくり返した状態で引っかけるように配置されている。コンパクトながら、美しいセットだ。夜が深まるように会場が暗転すると、それまで静かに流れていた「ジー、ジー……」「リリリリ……」といった虫の声が、フェードインしてきた不穏な効果音と重なり大きくなって、物語がはじまった。

以下、ネタバレを含みます。

傍観者でいられない、息のつまる会話劇

ステージ上には先述の小道具があるだけだが、観客の我々は、ここがイギリスの田舎町であり、穀物の貯蔵庫をリノベーションした家屋であることがすぐにわかる。なぜなら、ステージ正面の壁(「コ」の字の空いている側)に、シーンの場所や時間を説明する文字が表示されるからだ。全編を通し、シーンが変わるたびにこの表示が出る。シナリオの柱を読まされているような気分になり、親切な演出だと思うと同時に、舞台の傍観者から参加者に引き上げられたような気持ちになった。

この家で暮らすのは、都会から生活の変化を求めて移り住んできた医師リチャード(伊達暁)と、妻のコリン(大空ゆうひ)と、その子供たち。あらすじにある意識のない女(レベッカ、南沢奈央)は2階で横になっているらしい。コリンはステージの奥(ステージ上ではなく、向こう側の通路)に立ち、ステージをテーブルに見立てて紙をハサミで切っている。壁に飾るのだと作業を続ける手や口調から、コリンの心のざわつきを窺い知る。リチャードはコリンに「何を作っているの?」と声をかけたり、手元を明るくしてやろうとライトをつけてやったり、グラスの水をすすめたりする。

この時点では、コリンがヒステリー神経症の妻に見えるかもしれない。リチャードが差し出した水を突き返し、「味見して。何かの味がするでしょ? 真水の味。安全だと思う? いらない」と言ってのけたり、リチャードを質問攻めにしたりするからだ。しかし、2人の会話が進むにつれて、思いもよらない事情が見えてくる。

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

詩的な不協和音、生々しいヒステリー

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

本作の見どころのひとつは、3人の役者による膨大なセリフの応酬だ。相手の言葉を反復しながらもニュアンスをずらし、次の言葉につなぐ独特のテンポ。ステージには2人ずつが登場し、上演時間約100分をひりひりするような掛け合い、ののしり合い、長台詞が埋め尽くす。

大空が演じるコリンは、家庭を守ることに強い思いをもつ。家庭が揺らぎ彼女自身も不安定になるが、その不安定さのせいか、怒鳴る姿さえ美しかった。伊達の演じるリチャードには、思い起こせば冒頭から胸をざわつかされていた。無意識レベルに訴える嘘っぽさ、笑顔で爽やかでユーモアもあるのに生理的に不快。これを演技で表現できるなんて恐ろしい。南沢が演じるレベッカは、コリンに対しては知性を、リチャードに対しては自堕落さを武器に、翻弄するアメリカ人の少女だ。コリンから「あなたが欲しいものを教えて」と懇願されたレベッカが本当に欲しかったものは、正直さだったのではないだろうか。そう思わせるセリフが印象的だった。

「言葉に限界なんてない、どれだけ正直にいられるかに限界があるの」

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真  撮影=杉能信介

『カントリー~THE COUNTRY~』舞台写真 撮影=杉能信介

拾いきれない会話もあった。あれはどう解釈したらよかったのだろうという謎も残る。劇場を出てからも、その世界から抜けられない魅力のある舞台だった。『カントリー~THE COUNTRY~』は、DDD青山クロスシアターにて7月19日(月・祝)まで上演。


レポート・文=塚田史香  撮影=杉能信介

公演情報
ゴーチ・ブラザーズ プロデュース『カントリー~THE COUNTRY~』
 
脚本:マーティン・クリンプ
演出:マーク・ローゼンブラット
翻訳:高田曜子
■出演:大空ゆうひ、伊達暁、南沢奈央
 
日時:2017年7月12日(水)~7月17日(月・祝)
会場:DDD AOYAMA CROSS THEATER(DDD青山クロスシアター)
■公式サイト:http://country-stage.com/

 
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