『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』記者発表会レポート 「最後のコレクション展」となる理由とは
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『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』記者発表会レポート
『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』が、2018年2月14日より国立新美術館で開催される。世界有数の個人コレクションより約60点が来日し、その半数は日本初公開の作品になるという。“西洋絵画史上もっとも有名な少女“と言われるルノワール《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》や、セザンヌ《赤いチョッキの少年》、ファン・ゴッホ《種まく人》などの傑作が一挙に来日する。2017年7月12日に開催された記者発表会より、『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』の見どころを紹介する。
『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』記者発表会
ビュールレ・コレクションとは
ビュールレ・コレクションは、第二次世界大戦前後に機械工業などで財を成したスイス人実業家のエミール=ゲオルク・ビュールレが、1937年から1956年に収集した美術コレクションだ。
ビュールレは、1890年にドイツに生まれ、学生時代は文学、哲学、美術史を学んだ。1937年にエリコン・ビュールレ社のオーナーとなり、同年、スイス国籍を得ると一家でチューリヒに移り住んだ。ビュールレが美術品を購入し始めたのは、チューリヒの邸宅の壁を飾るためだったと言われている。
エミール=ゲオルク・ビュールレ 1950年頃 Photo: Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland)
時には、レンブラントやファン・ゴッホの自画像の贋作を購入してしまう等の失敗も重ねながら、1956年11月に他界するまでの約20年をかけ、ビュールレは情熱をもってコレクションを充実させていった。16世紀から18世紀のオランダ派やヴェネツィア派に始まり、ルノワール、モネなどフランス印象派、セザンヌ、ファン・ゴッホなどポスト印象派、1900年以降のフランス前衛絵画までを揃えたビュールレ・コレクションは、世界屈指の個人コレクションとなった。
ビュールレ・コレクションのプライベート美術館 Photo: Hans Humm, Zurich
「二度目で最後」と言われる理由
会見では、まず国立新美術館長の青木保氏が登壇した。
「ビュールレさんのプライベートコレクションが、ヨーロッパ以外にまとめて貸し出されることはほとんどありませんでした。日本で初めて紹介されたのが1990年から開催された生誕100周年記念の世界巡回展(ワシントン~モントリオール~横浜~ロンドン)の時です。それ以来2度目、おそらくこれが最後のコレクション展です。印象派の至上といえる素晴らしい作品が揃い、皆様にご満足いただける展覧会になると思います」
国立新美術館長 青木保氏
ビュールレ・コレクションの全貌をみられるのは、これが最後――。そのように語られる理由は、2020年開館予定のチューリヒ美術館新館と関係がある。E.G.ビュールレ・コレクション財団について、財団の館長であるルーカス・グルーア氏の言葉より紹介する。
「生前ビュールレは、邸宅の壁が絵画でいっぱいになったため、隣接する別棟を美術品の保管庫にしていました。時がたち、56年にビュールレは亡ったとき、死後にコレクションをどうするかが決まっていませんでした。そこで1960年、妻と2人の子供たちは、E.G. ビュールレ財団を設立します。保管庫としていた別棟を美術館にして、チューリヒ市民のためにこれを公開、保管することにしました」
個人コレクションの1/3にあたる、絵画167点、彫刻31点を財団に移管すると、財団は2015年まで作品を公開してきた。
「ビュールレ財団の美術館は、2015年に閉館しました。財団の美術品は、2020年からチューリヒ美術館に管理が移り、新館で展示されることが決まっています。そのためビュールレ・コレクションがまとめて来日できるのは、これが最後になります」
E.G. ビュールレ・コレクション財団館長 ルーカス・グルーア氏
『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』は、チューリヒ美術館の新館が完成するまでの期間を使った、最後の展覧会となる。これが「二度目にして最後」と言われる理由だ。
モネの代表作《睡蓮》も初来日
展覧会は全9章で構成され、さらに、モネの《睡蓮の池、緑の反映》を紹介する部屋で締めくくられる。
第1章 肖像画
第2章 ヨーロッパの都市
第3章 19世紀のフランス絵画
第4章 印象派の風景‐マネ、モネ、ピサロ、シスレー
第5章 印象派の人物‐ドガとルノワール
第6章 ポール・セザンヌ
第7章 フィンセント・ファン・ゴッホ
第8章 20世紀初頭のフランス絵画
第9章 モダン・アート
特別出品 クロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》
ここでは、注目の作品を3点紹介する。1点目は、モネの後半生の代表作《睡蓮》だ。「みたことある!」という方も多いかもしれないが、この《睡蓮》がスイス国外に出るのは初めてのことで、日本では初公開。ビュールレは、モネの遺族より3点の《睡蓮》を購入し、2点をチューリヒ美術館に寄贈した。手元に残した1点が、この『睡蓮』だ。
クロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》1920/26年頃 油彩、カンヴァス 200×425cm ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)
次に紹介するのは、ルノワールの《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》だ。8歳のイレーヌの無垢な美しさは、教科書やテレビでさえ、一度見たら忘れられない魅力がある。この機会にぜひ会っておきたい美少女だ。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》1880年 油彩、カンヴァス 65×54cm ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)
3点目は、2008年の盗難事件でも記憶に新しいセザンヌの《赤いチョッキの少年》だ。グルーア氏は会見の中で、ビュールレの収集のスタイルを「非常にシステマティック」と形容した。アーティストにとって重要なトピック(例えば静物画、風景、肖像画など)を初期・中期・成熟期と、歴史的なアプローチで収集したとコメント。第6章のセザンヌのコレクションは、美術史を学んだビュールレの芸術への造詣の深さを感じられる展示になるという。
ポール・セザンヌ 《赤いチョッキの少年》1888/90年頃 油彩、カンヴァス 79.5×64cm ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)
他にもファン・ゴッホ、マネ、モネ、ピサロ、ゴーギャン、ボナール、ブラックやピカソなど名だたる画家の作品約60点を堪能できる『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』は、2018年2月14日に東京・国立新美術館で開幕。その後、福岡・九州国立博物館、名古屋・名古屋市美術館を巡回の予定。個人が集めた圧巻の印象派コレクションまとめて日本で見られる最後のチャンス、ビュールレと視線を重ねて楽しんでほしい。
フィンセント・ファン・ゴッホ 《種まく人》1888年 油彩、カンヴァス 73×92cm ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)
エドゥアール・マネ 《ベルビュの庭の隅》 1880年 油彩、カンヴァス 91×70cm ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)
ポール・ゴーギャン《贈りもの》1902年 油彩、カンヴァス 68.5×78.5cm ©Foundation E.G. Bührle Collection, Zurich (Switzerland) Photo: SIK-ISEA, Zurich (J.-P. Kuhn)
展覧会ホームページ:http://www.buehrle2018.jp/
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