HEY-SMITHが語る、新曲が原点たるメロディックパンクになったワケと主催イベント『ハジマザ』の魅力
HEY-SMITH 撮影=風間大洋
近作で表に出ていた“怒り”から一転、底抜けに明るいストレートなパンクチューンが並ぶ最新シングル「Let It Punk」を世に放ったHEY-SMITH。同作が生まれる過程のモードと、9月に控える主催イベント『HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2017』について、バッサリ髪の毛を切った猪狩秀平(Gt/Vo)と、満(Sax)、かなす(Tb)の3名に訊いていく。
――最初にお聞きしたいんですけど、最近のパンクシーンを取り巻く環境についてどういう風に感じてますか? 例えば、90年代から00年代中頃だと、これをやったらセルアウトだとか、あの雑誌に出てるからこのバンドはいい、みたいなことが多かったと思うんですよ。
猪狩:ああ、たしかにね。
――でも、最近はそういう音楽自体とは関係ない、くだらない判断基準みたいなものがなくなって、すごく自由に表現ができるようになってきたのかなと思っていて。
猪狩:個人的には逆に、大きな目標……例えば『HEY HEY HEY』に出たいとか、『ミュージックステーション』に出たいとか、そういうものがなくなって、逆にムズいんちゃうかって思う部分がありますね。みんなが紅白(歌合戦)とかを目指して、そこのステージに立てたら”仲間入り”っていう見え方も昔はしてたし、逆にセルアウトしたくない奴らはテレビに出ないっていうふうにはっきり別れてましたけど、今はそうではなくて、むしろ今一番真摯に自分たちのことを伝えられるのはテレビなのかもしれないなぁって思うぐらいで。逆に、ネットに転がってるものには信用ならないのも多いから、自由度は狭まってると思います。信用できるものがないです。
――それはステージに立つ側として感じることですか?
猪狩:そうです。YouTubeとかでも、テレビに出てるみたいに自分を表現できる部分ってちょっとあるじゃないですか。でも、クソ面白くないですもんね(笑)。マジでレベル低いことをやって楽しんで、それはそれでいいんですけど、それだったら昔のテレビのほうがだいぶレベルが高い。
HEY-SMITH・猪狩秀平 撮影=風間大洋
――自分たちが発信していることがしっかり届けられてないっていう感覚はありますか?
猪狩:常にあります。
――そこにもどかしさを感じたり。
猪狩:諦めてますね。ははは! ただ自分から発信するだけで他の人と距離が近くなるっていうことは難しいと思うんですけど、それでも正面から向き合っていけたらなと思います。
――音を届けるという意味ではどうですか?
猪狩:それはできると思います。でも、基本的にリスナーのためを思って曲を書いたことはないし、自分たちが表現したいものを自分たちのためにまず作る。それによって、他の人と感性や気持ちを共有できたらめっちゃうれしいっすね。
――そういう意味では最近はフェスや大型イベントが増えたことによって、一度で多くの人にライブを観てもらう機会も増えましたね。
猪狩:それは純粋にいいと思います。フェスって持ち時間30分とか40分やと思うんですけど、そこでライブを観て「あのバンドいいな」と思って、もっと長く観れるツアーに行く、みたいな。それはナチュラルな流れですよね。
満:ライブハウスで距離感が近くなったときにバンドの本性って分かるやん。あれはいい流れやと絶対思う。
かなす:フェスに出ること自体はバンドのことを新しく知ってもらう機会としてすごくよくて、そこから自分たちの単独ライブにどうやって連れてくるのかっていうのはいつも考えてるんですけど、何が一番いいのかはまだわからないですね。
満:毎回、葛藤はしてるよな。
かなす:でも、結局はいいライブをするのが一番なんじゃないかなって。ライブを生で感じてくれたお客さんがそのときの感想を友だちとかに教えてくれて、それで広がっていったらいいなとは思うんですけど、今はネットでばかり広がっちゃって、こっちの意図とは違うように伝わることもあるんで、それは「うーん」って感じですけどね。
HEY-SMITH・満 撮影=風間大洋
――HEY-SMITHとしては今の環境でどういう風に自分たちを確立していこうと考えてますか?
猪狩:え~、そんなん語るのダサいなぁ!(一同笑) ……まあ、ち○ちん出していこうと思ってます。ちん○ん出したら売れるかなぁって。
かなす:まぁ、その願望が新しいアー写に現れてますけどね(笑)。
――あのアー写は一体どういうことなんですか?
猪狩:俺の中では初心に返ったつもりなんですよ。俺らで言うと、「イェーイ!」って感じで酒飲んで騒いで、裸で街を走り回るみたいなのが音楽の初心なので、そこに返ったんですよ。「ロックといえばこんな感じでしょ」って。
――それが今回の音源にも反映されてると。
猪狩:そうっすね。自分の中にある一番オーソドックスなメロディックパンクの形ですかね。
――「Let It Punk」は曲も詞も清々しいまでにストレートなパンクチューンで、しかもそれ1曲だけじゃなく、作品を通してカラッとした空気が流れているという。なぜここまでストレートな作品にしようと思ったんですか?
猪狩:んー、まず「明るく楽しい曲でいこう」っていうのはあったんですよ。それで「Let It Punk」が最初にできて、それを基準にして1枚のシングルとして成り立つ曲を作っていったんで、他の曲も明るくてカラッとした感じになったんやと思います。
――「Let It Punk」みたいな明るい曲があるんなら、他の曲はシリアスなテイストにしてバランスを取るのが定石な気もするんですけど、そうじゃないと。
猪狩:そっちも書いたよな?
満:作ってみたんですけど、逆にバランスがよくなかったんですよ。
猪狩:逆にな。俺も「Let It Punk」ができたとき、もう一個はシリアスだったり、管楽器でガンガン押すような曲でって考えたんですけど、それがあまり合わなくて、カラッとポップな方向で統一したほうが気持ちよかったんですよね。
HEY-SMITH・かなす 撮影=風間大洋
――ライブテイクの「I'm In Dream」もハマりが良かったと。
猪狩:あれはただ単に好きなんですよね(笑)。普通のアルバムにライブバージョンが2曲ぐらい入ってたりするのが好きなんですよ。
――なるほど。それにしても、このタイミングで初心に返ろうと思ったのはなぜなんでしょう。
猪狩 うーん、なんでなんでしょうね?
満&かなす:(笑)。
――「STOP THE WAR」というシリアスな作品をリリースして、大規模なツアーを回り、そこで感じるものがあったとか。
猪狩:でも、「STOP THE WAR」を作って、ツアーが始まった頃にはこの曲は自分のなかでほぼできてたんですよ。
――あ、そうなんですね。
猪狩:シングルに向けて作ったわけじゃなくて、自然にポロっと出てきてて。この曲ができた瞬間には「次のシングルはこれやな」って思ってました。多分、アルバムを作りきった後だったし、「次は明るいの作りたいな」って思ってたんでしょうね。
――「STOP THE WAR」の次だったから余計に驚きました。「あれ? こんなバンドだったっけ?」って。
満:ははは!
――しかも、1枚の作品としてテイストが統一されていて、作り手の内面がポジティブに現れている作品って最近あまり聴いたことがなかったからうれしくて。
猪狩:ああ、それはうれしい! 「聴いたことない音」って言われると一番うれしいですね。音楽っていっぱいあるから、最近はもう文化として何周もしてるじゃないですか。だから最近は音階にしろ音にしろ、どこかで絶対聴いたことある感じになっちゃうと思うんですよね。だから、そう言われると「作ってよかったな」って思いますね。
――皆さんのことをよく知っているわけではないですけど、こんなふうに自分たちのやりたいことを素直に音に表せるHEY-SMITHの今はきっといいものなんだろうなって。
満:まさにそうだと思います。猪狩の味がすごく出てると思うので。
かなす:それはすごく思う。
猪狩:ほんま?
満:だって、曲作りするなかで“ポリスマンにファック”っていう発想はまず出てこないし、「Love Me More But Slowly」でも自分の恋愛感情をさらけ出したり……まあ、屈折してるけど(笑)、それをあれだけポップにできるのは、今回は猪狩の味が濃いめなんやと思う。だから、猪狩自身もだいぶすっきりしてると思うねん。
――これまではどうだったんですか?
満:これまでは怒りのほうが強かったんじゃない?
猪狩:ああ、それは間違いない。だけど、今回は自分の感覚で言うと、『FREE YOUR MIND』(2ndアルバム)の感じに似てて、世間に対して何かを訴えるっていうよりも、「こんなことあってんけど」っていう、自分の身の回りのことを歌ってるものが多い。
HEY-SMITH 撮影=風間大洋
――かなすさんが感じる今作は?
かなす:ひと言で言うと「イェーイ!」って感じなんですけど、今の猪狩くんの心境を歌ってる作品だと思うし、歌詞を読んでみても、自分が常々大事にしてることと共通していたから、この曲をやりたいって最初に言われたときに素直に賛成できました。
――ミュージックビデオも底抜けに明るくて。
猪狩:そうなんですよね。曲を作ってる段階から、ビデオはこういう色合いで、アメリカンなチアリーダーが出てきてっていうふうなイメージがあったので、「これはメタル小僧がロン毛でギターを掻き鳴らすって感じでもないなぁ」って思って、「髪を切ろう」ってその時から決めてました。
かなす:最初から曲とビデオのセットで説明してたもんね。
――最初からそんなに全体像が見えてることってよくあるんですか?
猪狩:たまにあります。そういうときはけっこう上手いこと進みます。イメージがズレないんで曲できるのも早いです。
満:前のアルバムにも1曲あったもんな。「Before We Leave」って曲でも「ミュージックビデオはこんな感じにしたいねんけど」っていうところから入ってて。
――じゃあ、今回も作業自体はスムーズに。
猪狩:すぐでしたね。何十分かぐらいでした。
満:マジで早かったですよ(笑)。
HEY-SMITH・猪狩秀平 撮影=風間大洋
――さて、シングルのリリース後、9月10日には主宰フェス『OSAKA HAZIKETEMAZARE FESTIVAL 2017』が地元・大阪で開催されます。ハジマザが面白いのはこれまで一度として同じような形で開催したことがないところなんですよね。会場が変わったり1ヶ所増えたり、東京でも開催してみたり。
猪狩:たしかにほんまっすね。今気づきました!(笑)
――意識してなかったんですね!
猪狩:その時のベストをやってただけで。
――自分がその時に思い描いていたことを実行していたらそうなったと。
猪狩:ほんまにそうです。今年は1日開催なんですけど、正直なことを話すと、2、3日やるほうが金銭的な面ではいいし、1日だとだいぶしんどいんですよね。けど、去年2日開催するにあたって、1日目にほんの少しだけ「明日につなげよう」「この2日間ですごくいい時間を作ろう」みたいに感じる瞬間があったんですよ。俺、それがめっちゃ嫌で、すごく気持ち悪かったんです。だから、2日やるには精神的にも力量的にもまだ足りないなと思って、今年は1日でやりきることにしました。
――毎年続けていくなかで、このイベントの立ち位置って自分たちのなかで変わったりしますか?
猪狩:別に変わってないですね。年に一回、「誰が一番格好良いか選手権」をやってる感じで、その一年どうやって過ごしてきたのか丸分かりになるだけだから。
――最初は周りのイベントを意識して始めた部分もあったと思うんですけど、今でもそこは意識してますか?
猪狩:してますしてます。ちゃんと色が出ないとあかんなと思ってます。ハジマザは毎年似たようなメンツだけど、俺はそのバンドが格好良くてこの世に存在している限りは、ずっと一緒にやっていきたいと思ってるんですね。出演してほしいバンドは、ライブが格好良いか人間が格好良いかのどっちかで選んでるので、これからもこのまま続けていきたいなと思います。
HEY-SMITH・満 撮影=風間大洋
――他のイベントとの差別化はどういうところで図ってるんですか?
猪狩:ハジマザは同じ大きさのステージが2つ並んでるんですよ。……バンド名は言えないですけど(笑)、ハジマザには本来そんなに大きいステージに立てないバンドも出てくるんで、他にそんなイベントはないんじゃないですかね? 「フェスはハジマザが初めて」ってバンドもいますし、そのへんで差別化は出来てると思います。
――他のイベントではどうかは分からないけど、ハジマザに出る以上はみんな同じラインに立ってるんだよと。
猪狩:そうですそうです。
――お2人はどうですか?
満:お客さんからしたら体の向きを変えるだけで観れるので、ステージ間の移動がないっていうのはほんまにデカいと思います。そういうフェスってあまりないですし。
かなす:過ごしやすいイベントだと思います。人がごった返してるっていうよりは、ちゃんと休めるスペースも取れてるし、暴れる場所もあるし。出演者側からするとバンド同士のバチバチもある。
満:出てる側からすると、戦ってる感と遊んでる感の狭間にずっとおる感じなんですよね。スナックを準備したり。
猪狩:あ、バックステージにスナックがあるんですよ。
――スナック!?
猪狩:で、そこにカラオケがあるんですよ。そこでもみんな戦ってるんです。
満:面白さやったり、「どんだけ酒飲むねん!」みたいな立ち居振る舞いも含めて。
猪狩:すごいなと思ったのは、自分のバンドの登場SEがステージでかかってるときに、自分の曲をカラオケに入れてる奴がいたんですね。それで、「俺、今から1万人の前でこの曲を1曲目に歌うから」みたいなことを女の子に言ってて、クズ過ぎて面白かった。
かなす それは熱いわ(笑)。
HEY-SMITH・かなす 撮影=風間大洋
――イベントと同時進行で打ち上げも進んでいるという。
猪狩:それはちょっとあるかもしれないですね。けど、ハジマザはバックヤードに人がいることはかなり少ないですね。みんなライブ観てるから、ダラダラ飲んでる人がいないんですよ。みんなステージ横とかで観てるんで、あれがいいなって。
――『AIR JAM』状態ですね。
猪狩:そうです! あれじゃないとバンドって感じがしないんですよね。でも、横に集まる人の数が少ないバンドもいるんですよ。それは、ちょっとメンバーと話をしたり、最近の動きを見てるだけで「こいつらのライブは見なくてもいいな」って思われてるからで。そういうところも含め、一年やってきたことが試されてる。
――すごく緊張感がありますね。
満:すごくありますよ。
猪狩:でも、それで真面目になったら終わりじゃないですか。「おす! 俺、やります!」みたいなこと言われても、「うわ、だっさぁ」って思うし。
――その空気感はお客さんからすると相当楽しいですね。
猪狩:何も着飾らずそのまま出てくるからリアルなバンド像が見られると思います。
満:去年なんか、スタートから3バンド連続でお尻出してましたからね(笑)。
取材・文=阿刀“DA”大志 撮影=風間大洋
HEY-SMITH 撮影=風間大洋
発売中
HEY-SMITH『Let It Punk』
品番:CBR-84
【収録楽曲】
1. Let It Punk
2. Love Me More But Slowly
3. Fucked Up Policeman
4. I'm In Dream(LIVE)
■『Let It Punk』特設サイト
http://www.hey-smith.com/let_it_punk/
泉大津フェニックス
■出演アーティスト■
『Let It Punk TOUR』
2017年7月12日(水) 大阪・なんばHatch w/THE SKIPPERS
2017年7月17日(月・祝) 高松・高松オリーブホール w/キュウソネコカミ
2017年7月27日(木) 宮城・仙台Rensa w/THE ORAL CIGARETTES
2017年8月5日(土) 大分・大分Bitts HALL w/dustbox
2017年8月13日(日) 愛知・Zepp名古屋 w/04 Limited Sazabys
2017年8月26日(土) 北海道・Zepp札幌 w/BLUE ENCOUNT
2017年9月3日(日) 東京・新木場Studio Coast w/MONGOL 800