後藤ひろひとと河原雅彦が初対談『人間風車』コメディ×ファンタスティックホラーの傑作が蘇る
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左から、河原雅彦、後藤ひろひと
“人間風車”という言葉から、何をイメージするだろうか。その語感に単純に好奇心を抱く人、往年のプロレスラーを思い出す人、イメージより先に「何だっけ?」と検索しはじめる人もいるだろう。そして中には、かつて劇場で経験した戦慄を思い出し、身震いをする人もいるのではないだろうか。
後藤ひろひとの戯曲『人間風車』が、劇団「遊気舎」により上演されたのは1997年。その後、2000年と2003年に再演されたパルコ劇場バージョンは、大爆笑からの衝撃的な展開が話題となり演劇界における伝説的作品となった。それから14年。今年2017年の9月28日より、河原雅彦による新演出で上演される。主要キャストには、成河、ミムラ、加藤諒らが抜擢された。インタビューでは、作家の後藤ひろひとと演出家の河原雅彦が『人間風車』に込めるそれぞれの思いと、2017年版の見どころを語った。
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物語の始まりは、売れない童話作家、平川(成河)の日常。一冊の本も出版出来ぬまま、新聞配達をしながら、せっせと童話を書く毎日。作品は童話らしからぬひねくれた作品ばかり。その童話を近所の公園で、子供たちに語って聞かせているのだった。
ある日、子供たちと一緒に童話を聞く青年が現れる。自らをサムと名乗る青年(加藤諒)は、平川の童話を聞くとすぐにその話を覚え、童話の登場人物になりきる不思議な青年だった。
平川は、ひょんなことから、テレビタレントのアキラ(ミムラ)と知り合い、恋心が芽生える。そして、平川は傑作童話を書き上げるも、そのことが発端で、親友には裏切られ、アキラには誤解を受けるなど理不尽な目に遭ってしまう。平川が渾身の力を込めて語る2つの童話。絶望の淵に立った彼が語る、世界で一番残酷な童話。そしてもう一つは、世にも悲しくそして美しい物語。「夢」が「悪夢」に変わる瞬間、恐怖の最高潮が訪れる。
生々しくヒリヒリした、大切なこと
――お二人は、もう長いお付き合いなのですか?
後藤ひろひと いや。付き合いなんてないですよ(笑)。
河原雅彦 ないですよ(笑)
――意外です。こうした対談も初めてですか? 河原さんがご出演された2003年版の時は?
後藤 あの時も僕は出演していなかったので。
河原 でも、僕がやっていたハイレグジーザス(パフォーマンス集団。2002年解散)のカウントダウンイベントに、ゲストで出ていただいたことはありました。2000年だったかな。
後藤 ああ! あったあった! 全裸で出ていたのに、通報されてどんどん服を着ていくことになって、割とふつうの終わりになっていくという……(笑)
河原 妙な緊張感がありましたよね(笑)。それも舞台ではなくイベントでしたから、接点があるようでないようでないようで……。
後藤 でもお互いのことは、ずっと知っているよね。
――今回の上演にあたり、後藤さんは脚本を見直されるそうですね。おふたりで何か相談もされているのですか?
河原 いろいろしています。後藤さんからは、今回の上演ではニュアンスを変えていきたいというお話がありました。それは僕も一緒の思いでした。
後藤 『人間風車』を最初に書いたのは1996年でした。一度その時の原点に戻ってみようと思って。
――1997年の遊気舎初演時に近づける、という意味でしょうか?
河原 僕は遊気舎のバージョンを観ていないのですが、オリジナルはもっと本当に無茶苦茶で、とがっていたと聞いています。ほら、僕はわりとあれですから。……あれですから(笑)。
後藤 インタビューなんだから、ちゃんと答えろよ!(笑)
河原 ……あれですから(笑)。ご存知の方も多いと思いますが、生々しかったりヒリヒリしてたり、そういう手触りのものが僕はすっごく好きなので“そっちの感じで”という話です。
後藤 もともと『人間風車』はそんなにきれいな物語ではなかったんです。今回、リーダー(河原雅彦)が演出をしてくれるということで、リーダーも僕もお互い演劇界のパンクなところが出どころなので、そのぶつかり合いがおもしろいのではないかと。だから、部分的なリライトではなく、最初の一文字目から書き直しています。
河原 そんなに直さんでも……と、いうくらい書き直されています(笑)。
後藤 「今やらないと一生後悔するぞ」と思ったんです。初演の頃と今とでは、犯罪のタチの悪さも変わりました。今の犯罪に対する刑罰が適当なのかとか、納得できないこととか、悩んでしまうようなこともある。それを考えると、もともと描かれていた問うべきこと、2017年版であらためて描かれるべきことが、あるんじゃないかと思いました。たとえばこの戯曲の主人公・平川は、決して報われるべきではない、罪は背負わなければならないとか。リーダーと電話で話しあった時のメモ書きが、今、ウィークリーマンションの壁全部に貼ってあります。この作品だとメモの言葉も言葉ですから、変なことをして警察に立ち入られたらもっと変なことになりますね(笑)。
――河原さん、演出のプランはいかがでしょうか?
河原 美術ひとつ、音楽ひとつとっても変わります。でも、どうなるんですかね。まだ分らないです。G2さんのバージョンがひとつの形として非常に良くできているので。僕なりに他にどんな切り口で世界観を作っていくかを考えてみたら、もうガラっとかえるしかないなと思いました。なので、どうやればガラっと変えられるかを考えています。
加藤諒、ミムラ、成河について
――キャスティングに、河原さんは関わられましたか?
河原 メインどころには関わりました。子ども役のところはオーディションもしましたので、選抜ですよ。なにせ芸達者な人たちでないと難しい脚本ですから。(フライヤーを手に加藤諒を指し)諒がいてくることは心強いですね。この芝居のキャッチコピー“ファンタスティックホラー”の「ファンタジー」と「ホラー」両方を一人で満たしてる(笑)。
後藤 3日前に加藤諒君に会ったんですよ。この子があの役をやるとなれば「愛おしくてしょうがない」と、第一印象で思いましたね。リーダーが前にやった役でしょ? こっち(河原)を抱きしめようとは思わないけれど、この子(加藤)は抱きしめたくなる。
河原 受け入れてくれると思います(笑)。サム役を演じた阿部君(阿部サダヲ、2000年版)と僕(2003年版)でもタイプは違いますが、諒は何か地球外生命体みたいな、もうジャンルが全然違いますから、どんな風になるんだろうという思いはあります。ただ、こいつ(加藤諒)のことはよく知っているんです。家に呼んだりしたこともあるんですが、誰も飲まないような炭酸ジュースをもってきて家に置いていったり、使った皿も片付けなかったり。すでに愛おしいという感覚はなくなりました。
後藤 ああー。長く会っているとなくなるんだ。
河原 なくなりますね。
一同 (笑)
――ミムラさんについてはいかがですか?
後藤 ミムラさんにはまだお会いできていないのですが、もう楽しみしかありません。
河原 僕は先日、インタビューの場でご一緒したんですが、いいですよ。昔から絵本が大好きなんだそうで、人としても、すごいおもしろいです。
――成河さんについては、いかがですか?
河原 劇団☆新感線で天魔王をやって、そのあとが『人間風車』で童話作家でしょ? 何がやりたいんだって思います。いくら役者だからって一気に振り幅大き過ぎだろって(笑)。でもいいのか。まだ(選択肢を)絞る年齢でもないしな……。
後藤 そんな言い方じゃ記事にできないだろ(笑)。
河原 まあ、成河のこともよく知っていますが、演劇界でも3、4に入る、恐ろしく体の利く俳優です。そんな男が童話作家をやるというギャップ。とはいえ、役を心でかみ砕いて丁寧に演じる人間ですし、いい声ももっていてとても威力があります。体のめちゃくちゃ切れる成河が、体を動かさない役にあえてトライするわけですから、どういうアプローチをしてくるのか楽しみです。じっとしてられるのかな? 稽古に飽きてきた時、時々「そこ、天魔王で」って言ってみよう(笑)。
ありったけの悪魔的な何かを引き出して
――「人間風車」は、前半はコメディ要素、後半は一転してホラーの要素で構成されています。後藤さんが最初に「遊気舎」に書き下ろした時、物語はどちらの要素から生まれたのでしょうか?
後藤 もう21年前ですからちょっと記憶はないんですが、童話もホラーもやりたかったのだと思います。『人間風車』の前に童話を扱う作品を書いていて「童話という入り込みやすいものを広げて、童話を“いけない部分”への入口にすることはできそうだ」とは考えました。当時、遊気舎という劇団にはお決まりのキャラクターがあり、お客さんがその操縦桿を握っている感じがあったんです。それを取り戻そう。パンっと誤作動させて、操縦桿を捨てさせようと思って書いたのが『人間風車』です。コメディから入っておきながら、すごい恐い世界にいき、最終的に悲しい世界に。わざといつもと違う方向に誘っていった。すると「いつもの遊気舎じゃない!」と、たくさんのお客さんが劇場に操縦桿をおいて帰っていったわけですが、そこからまた新しいお客さんも来てくれた。
――童話も凄惨なシーンも同時に必要だったのですね。
後藤 ふと思い出したのですが、うちのかみさん(楠見薫)が、スタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』を観たことがないというので、レンタルで借りて一緒に観たことがあったんです。劇中で、小説家を目指すジャック・ニコルソンが誰もいないホテルのロビーで、タイプライターに同じ文章だけを打ち続けていたシーンがありますよね。あそこでかみさんが、泣き出したんです。
――ぞっとするシーンではありますが……。
後藤 泣くところじゃないだろ?と。なんで泣いたのか聞いたら言われたんですよ。「『人間風車』の、おそらく平川のシーンを書いていた頃、『ご飯できたよ』って声をかけたら、あなたはあのジャック・ニコルソンと同じ目で私を見た」って。
河原 同じ目で見られて、怖くて泣いたってこと?
後藤 みたいね。あまりに恐くて自分の記憶から消そうとしていたのに、あのジャック・ニコルソンで、思い出したんだって。
河原 ……、やばいね。
一同 (はげしく頷く)
後藤 『人間風車』に出てくるバカな話も、辛い話も、恐い話も、全部私が考えたわけで、いっぱい気持ちを動かして書きましたし、最後のダニーの話は泣きながら書いたと思います。自分の中にあるありったけの悪魔的な何かを引き出して書いていたところで、“ご飯できたよ”って言われたんでしょうね。大変ですね、作家のかみさんはね。
河原 まあ……、(『シャイニング』みたいに)斧振り回して追いかけない分いいですよ(笑)。
――そうやって生まれた恐ろしいシーンと、ひたすら面白いシーン。河原さんは、今作の演出に難しさやプレッシャーを感じますか?
河原 僕には何のプレッシャーもないですよ。僕が面白いと思うように、僕なりのやりかたで立ち上げていくだけ。『人間風車』は、前半では、愉快な楽しいもの、ためになるものとして童話というものが描かれています。そして急転直下。長い前振りの後に、童話がもつ真逆の側面が襲いかかってくる。実によくできた脚本なのでその部分の心配もないし。あ、もちろん(キャストの写真に目を落とし)彼らがうまく演じてくれるといいな、面白くやってくれるかな、という不安はありますよ?(笑)
――後藤さんから、河原さんに期待することはありますか?
後藤 もとは演劇界のパンクの出だし、根っこのところは変わらないと思っています。なので、全部お任せしますよ。
河原 いやいやいや……。
後藤 もうないの?! パンクなところ。
河原 逆にこじーんまりと、まとめてみますか。「ゾッとするな」っていうくらい(笑)。
後藤 パンクじゃねえなあ!(笑)
――河原さんは、作品との向かい方に変化を自覚されますか?
河原 若い頃は良くも悪くも乱暴でしたね。思考も、表現云々も全てが。今は、自分が面白いと思うものと、それに対する観客というものが意識の中にあるんです。昔は(観客と)向きあう気なんてサラサラなかったですから。ひたすら初期衝動をぶつけまくってるって感じで。今は、観客を意識する中で外したり、その中で乱暴したり、その中でちょっと優しくなったり。実は、出来の良くない戯曲の方がパンクはやりやすいんです。隙間が多いヘボな本の方が「あれやっちゃえ、これもやっちゃえ」ってできる。その意味で『人間風車』の難しさのひとつは、「非常によくできている」ということなんです。
――後藤さんご自身が、作中のよくできていると感じるポイントはありますか?
後藤 平川がアキラを自宅に招待し、つつましい食事をしながら、アキラを喜ばせようと「近所に僕の話を聞きに来る馬鹿がいるんですよ」と笑い話をするシーン。ここでお客さんが笑えば成功なんですよ。お客さんもどんどんひきずり込んで、お客さんも共犯者になっていくんです。主人公だと思ってみていた人が悪い方に進んでいく。自分では、ここが好きですね。
――パルコ劇場で引きずり込まれた時の傷が、今も心に残っている気がします。
後藤 戯曲は、全部を語る必要はなくて、引っかかるところを残しておく。観終えた後に、いっぱい話をしてもらえるのがいい戯曲だと思うんですよ。観終わった後に、友だちと話がしたくなるような戯曲。ひょっとしたら今回のバージョンのことは、とても嫌いだという人もいるかもしれません。でも、その逆もいると思います。好きであれ嫌いであれ、心を大きく揺らすものになると思います。
安心して見ることは許されない!?
――2003年版から14年。舞台は好きでも、世代的に舞台『人間風車』をご存じない方も増えてきました。
後藤 驚くのは「人間風車」という言葉。我々の世代にはビル・ロビンソン(プロレスラー)のダブルアーム・スープレックス(ビル・ロビンソンの必殺技。別名:人間風車)のイメージしかないんですよ。かなりふざけたタイトルだったのに、今ではすごくきれいな言葉みたいなイメージになっていますよね。劇中の童話《黄金戦士オロ》も、ルチャリブレ(メキシコのプロレス)のレスラー、すごく期待していた大好きなレスラーだったんですが、彼のエピソードからとっていますし。
河原 そこも含めて、よくできていますね(笑)。
後藤 そういえば、ビル・ロビンソンが2000年(後藤も出演していた回)の『人間風車』を観にきたんですよ! ビル・ロビンソンが高円寺の道場で顧問をされていた時期でした。自分が出る舞台であんなに緊張したことはなかったです。だって『リア王』をやっている時に、リア王が観にくるようなものですからね!?
一同 リア王!(笑)
――9月28日からの公演が楽しみです。最後に、読者の方にメッセージをいただけますか?
河原 舞台『人間風車』を知らない方には、ぜひ勉強せずに来てほしいです。今の人たち、なんでもすぐに調べちゃうじゃないですか。それこそ海外の難しい戯曲や時代物なら調べた方がいいですけれど、『人間風車』は、勉強しないで観にきてほしいです。
――プロレスの知識は?
後藤 そんな勉強、全くしなくていです!!!
河原 それはしていいです。
後藤 いいの!?(笑)
河原 いいです。ただ、このチラシのキャッチコピー、「もう安心して見ることは、許されない!」ってどうなんだろう。そう思いながら序盤から観られてしまうと……(苦笑)。
後藤 7割はコメディですからね! チラシのどこにも書かれていないけれど、これ、コメディですからね。
河原 その通り!僕はいつもどおりいろんな意味で面白い演劇を作ります。なので、安心して
取材・文・撮影=塚田史香
「人間風車」
■作:後藤ひろひと
■演出:河原雅彦
■出演:
成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、
今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、
小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次
■公演日程:2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝)
■会場:東京芸術劇場プレイハウス
■入場料金(全席指定・税込) =S席8,900円、A席7,800円
※未就学児のご入場はお断りいたします。※営利目的の転売禁止。
※車イスでご来場予定のお客様は、ご購入席番号を公演前日までにパルコステージ宛にご連絡ください。
■前売開始:2017年7月15日(土)
■問い合わせ:
パルコステージ 03-3477-5858(月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
キューブ 03—5485-2252(平日12:00〜18:00)
■公演内イベント:
9/30(土)18:00の回終演後 矢崎広×松田凌×良知真次
10/5(木)14:00の回終演後 成河×ミムラ×加藤諒
※該当回の公演
◆10/4(水)公演の客席内に収録用のカメラが入ります。予めご了承ください。
<各地公演>
お問合せ:高知新聞企業 事業企画部 TEL 088-825-4328
お問合せ:ピクニック
お問合せ:キョードーインフォメーション TEL 0570-200-888
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 TEL 025-246-3939
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 TEL 025-246-3939
お問合せ:仙台放送 事業部 TEL 022-268-2174
パルコステージ 03-3477-5858(月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
http://www.parco-play.com/
キューブ 03—5485-2252(平日12:00〜18:00)
http://www.cubeinc.co.jp/
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/play/ningenfusha/
美術=石原 敬
音楽=和田俊輔
照明=大島祐夫
音響=大木裕介
衣裳=高木阿友子
ヘアメイク=河村陽子
殺陣指導=前田 悟
演出助手=元吉庸泰
舞台監督= 榎 太郎 広瀬泰久